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 夜、姫海棠はたてと青年は互いの専用布団に潜り込んだまま会話をする。

「妖怪って昔は人間食べてたんでしょ? はたてや文さんはどうだったの?」

「さぁ? どうしてそんなこと聞くのかしら?」

「今日さ、バイトで妖怪の話になってね? そのときに議題に上がったんだ。 『人間は本質的には妖怪の食糧ではないのだろうか』 という議題なんだけど」

「不毛な議題ねー。 人間が妖怪の食糧なのは今も昔も変わらないわよ。 幻想郷が出来てからも妖怪は人間を食べるわよ。 だからこそ、幻想郷の管理人と呼ばれる妖怪が外の世界から人間を運んでくるの」

「でもさ、はたてが人間を食べてる所なんて一度もみてないよ? もしかして……昔は食べてたとか?」

「うーん、どうだったかしら。 あまり記憶にないけど、食べてたかもしれないわねー」

「いつも通りの表情で凄いこといってくるねはたて」

 青年は天井に向けていた視線を横で同じく天井を見つめていたはたてに向ける。 はたては青年の視線には気付いているもののそれを無視する形で天井を見上げ続ける。

「外の世界かー。 たまに人里にもやってくるよね。 その後、人里の住民として生きていくか、それとも死に場所求めて危険な地帯を我が物顔で歩いていくかの二極化するけど。 後者はほとんど死んでるのかな?」

「昼はともかく、夜は人里から一歩出れば危険だからそりゃ死んでるんじゃない? よっぽどの幸運じゃない限り昼の間に匿われる場所が見つかることはないわ。 もし匿われたとしても……相手が相手だからねー。 博麗神社に守矢神社、人形遣いくらいかしらね。 安全な場所ってのは」

「そんなもんなのかー。 やっぱり人里が一番安全なのかね。 そういえば、外の世界の人間の選定ってどういう基準なんだろうか。 はたて知ってる?」

 青年の疑問にはたてはしばし考え込む。

「たしか……外の世界で不要と判断された人間だったかしら。 そこらへんはよくわからないわね。 ただ、幻想郷の管理人もバカじゃないんだし、そこらへんはうまく考えて幻想郷に連れてくるんじゃないかしら?」

「基本は食糧だもんね。 うーん……もし自分が食糧として此処に送られたらを考えると背筋が寒くなるね」

 ぶるると震え掛布団を顔まであげる青年。 それにはたてはクスクスと笑った。 見上げていた天井から青年のほうに視線を移すはたて。

「あら、いきなり怖くなったのかしら?」

「べ、べつに怖くなってはないよ。 ただ……食糧ってのはどうかなー、とかそんなことを考えていただけだよ」

 青年はにやりと笑うはたてに若干慌てながらそう返す。 そんな青年をみて、はたては今度は声を出して笑うこととなった。

「あっはっはっ! まったく……別に全て食糧ってわけじゃないでしょ? 私とあんたの生活とかどうなるのよ。 私は妖怪であんたは人間。 それでも普通に生活できてるでしょ。 そういうのは気にしなくていいの。 だからこそ、私は不毛な議題だといったのよ」

「……確かに、僕とはたての関係を考えれば不毛な議題だったかもしれないね。 はぁ……なんでこんな議題で一日過ごしたんだろうか」

「あんたのバイト先が平和な証拠じゃない」

「まぁ、そういう風に捉えるとしよっか」

 暗がりの中、青年は溜息を吐く。 夜が世界を支配するこの時間帯、日中とは違い世界は様々な様子をみせる。 例えば、人里を一歩出れば妖怪たちが人間の臓物を貪り、骨をしゃぶり、肉に喰らいつく。 そんな世界が人里の外では広がっている。

 この二人には関係ないことではあるが。

 はたてが青年に話しかける。

「そういえばあんたはバイト先でどんな仕事してるの?」

「えーっと、配達やレジ打ちに接客だね」

「あら? ケーキは作らないの?」

「それは店長がほとんど一人でやってる感じ。 他数名が間に合わなそうなときに手伝うくらい。 だから僕はケーキを作る腕があるわけじゃないね」

「なーんだ。 それじゃ私は一生ケーキを食べられないじゃない」

「働いて稼ぐってのはどうだろう?」

「それは絶対に嫌。 アンタ馬鹿? なんのためにあんたの家にきてるか分からなくなるじゃない」

「なんで僕が怒られるんだ……。 そうはいってもだね、接客や配達もかなり大事な仕事なんだよ?」

 青年が少し誇らしげにはたてに言うと、はたてはさして興味なさそうな顔をしながらも一応話しを聞く体勢に入る。

「まず接客だよね。 これはお客様をいかにストレスを感じさせないかが重要になってくる。 丁寧な言葉使いと営業用スマイルを張りつかせながら頑張るわけだよ。 人里の人達はみんないい人ばかりだから自然に笑顔が零れちゃうんだけどね。 そして配達。 正直これが一番楽しいけど、一番危険なことかな。 僕の店ではあらかじめ電話で注文しておき、それを届ける形なんだけどさ。 人里の外は危険がいっぱいじゃん?」

「まぁ……そうなるわね」

「だから店では霊夢さんが籠めてくれたお守りを首から下げていくんだよ。 それをぶら下げていくと妖怪は手を出すことができなくなるんだよね」

「あー、成程。 籠められた霊力で防ぐって訳ね。 けどそれっていつまでもつのかしら?」

「大体一か月くらいかな。 だから『そろそろ霊力が切れそうだな』 と思ったら霊夢さんに電話して霊力を籠めてもらうんだ。 そのお礼としてケーキをあげるわけだけど」

「ギブ&テイクの関係というわけね。 そのお守りってどのくらいの妖怪に効くの?」

 少しだけ興味を示したはたてが青年のほうに若干移動しながら質問する。

「うーん……少なくとも文さんとはたてには効かなかったかな。 僕が狙われるのは配達のときが多いし、はたても配達のときに襲撃してきたし」

「人聞きの悪いことをいうな。 ……記憶を辿ってみれば、確かにあんた何か首にぶら下げていたような気がしたわ……」

 はたてがうんうんと頷きながらそう主張する。

「あと永遠亭の人達と紅魔館の美鈴さんとかも効かなかったなー……。 どうも下級妖怪にしか効かないように霊夢さんが調整してるみたい」

「ある程度力がつくと人間を食べようとは思わないことが多いし、巫女もそこらへん分かってるのかしら」

 そこまで言って、はたてはふと頭にある光景が浮かんだ。 それは博麗神社の巫女、博麗霊夢がすこし面倒臭がって籠める霊力を弱くしたという光景であった。

「(いや……流石にそれはないわよね。 ……ありえそうで怖いけど……)」

 『するわけがない!』 そう断定できない所が恐ろしい限りである。

「あとやっぱり配達は色んな人と触れ合うことができるのがいいよね。 はたてはひきこもりだから知らないだろうけど、これでも僕は妖精と仲がいいんだよ?」

「え? それは意外ね……」

「でしょ? 氷精のチルノちゃんとか、大妖精の大ちゃんとか、かなり仲がいいんだ。 チルノちゃんなんて僕の姿をみかけると嬉しいのか、すぐ氷のつぶてで挨拶してくるんだ」

「あんた完全に襲われてるわよ、それ」

「まぁ、当たったら僕も怒るんだけどね。 こう……チルノちゃんの頭をコツンと叩いてさ」

「そんなことだから色んな人に舐められるんでしょうね」

「でも大ちゃんは礼儀正しくて可愛いよ?」

「大妖精も心の中ではあんたのことバカにしてんじゃないの?」

「……え?」

 はたての言葉を受けて固まる青年。 はたては固まる青年をよそに呆れた顔をする。 先程まで興味深く聞いていたのだが、その興味もどこかに消え失せ青年に接近していた体もいまは定位置に戻っている。 青年ははたての言葉を受けて必死に自分の都合のいいように記憶を改竄していく。

「大ちゃんは僕のことが好きなんだよ、きっとそうに違いない。 ということはチルノちゃんも僕のことが好きで……、成程、好きで好きでたまらないから僕に氷のつぶてを飛ばしてくるわけなんだ」

「そこのロリコン、うっさいわよ。 眠れないじゃない」

 ぶつぶつと呪詛のように呟く青年の腹をはたては軽めに蹴る。 ごふっ と肺から空気が漏れ青年は腹を押さえながら悶絶することとなった。 その様子をみて、はたては満足そうな顔をして

「あんたも明日バイトなんだから早く寝なさいよ? おやすみー」

 と、就寝の挨拶をした。

「う、うん……おやすみ……」

 なんとかそう返す青年。

 青年が就寝の挨拶を返す頃には、既にはたての口からは寝息が聞こえていた。

 こうして、二人の夜は過ぎていった。




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