×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。





 青年がはたてを釣りに行こう、そう誘ってから夜を跨いだ今日、姫海棠はたては大きな岩に腰を落ち着かせながら嘆息混じりに青年を遠くから眺めていた。

 場所は人里からさほど離れていない森に流れる綺麗な川。 流れる水は底を映し出すほど無色透明で、そこで優雅に泳ぐ魚もまた引き締まった身をもっていた。

 はたての視線の先には、必死に自分に言い訳しながら釣竿を持つ青年の姿。 はたてはもう一度ため息を吐くと、みかんを撫でながら此処に来るまでのことを思い出す。

 朝早くに起きた青年は、はたてとみかんを起こしてから朝食を作り、それと並行して朝食としておにぎりを作った。 具は梅干しとおかかに醤油を垂らし混ぜたもの、そして何も入っていない通常のおにぎりである。 漬物にはたくあんを数切れ置いて即興お弁当が完成した。 それを竹皮で丁寧に包み、はたてとみかんと青年の三人で外出したのが一時間前のことだ。

 行く途中、子供たちの授業の準備をしていた慧音に会った青年は、

「見ててください慧音さんっ! 慧音さんのために魚釣ってきます!」

「ははっ、期待しないで期待しとくよ。 外は危険がいっぱいだから、しっかりこいつを守ってやってくれ」

「はいはい。 まぁ、危なくなったらこいつを餌に逃げるわ」

「何故お前達は二人して私の話を聞かないのだ」

「慧音さんがくるっと回ってターンからのパンチラしてくれたら話は聞きます」

「お前が人里の女性から『微妙な子』呼ばわりされている意味が分かった気がする」

「人里でイジメがあっているという事実からは目を背けるんですか」

「うっさいわよ。 きもい子」

「微妙であってきもくはないよ!?」

 慧音からボディーをもらい、はたてからはストレートを受けノックダウンした青年は、はたてに引きずられながら人里を出る。

 シクシク、そうさめざめと泣きながらいじける青年をずるずる引きずりながら釣りポイントへ到着したはたては、ゴミを捨てるように青年を投げ捨てる。

「はたて……キミはお昼ご飯と僕、どちらが大事かわかってる?」

「お昼ご飯」

「そのお昼ご飯を作ったのは?」

「あんたでしょ? その年で痴呆かしら?」

「……ところではたて。 お昼ご飯と僕、どっちが大事?」

「お昼ご飯。 いい加減殴るわよ」

「これが理不尽な現実というものなんだね……」

 握りこぶしを作るはたてに、青年は遠くを見つめながらつぶやく。 二人の間に静寂が生まれ、やがて合図をしていないのにもかかわらず二人ともそれぞれの準備を始める。

 青年は釣竿に餌を、はたては自分が座れる石を探す。 青年が竿に餌をつけ、川へと投げ込むのと同時にはたてもまた自分が座るための石を見つけた。

 平べったい、大きな石……というよりも岩であるが、その岩ははたてが安定して座ることができ、なおかつ生い茂る大量の木よりほど近い場所に存在しているので日に照らされることもない、優良物件であった。

 みかんを抱きながら座ったはたては、家から持ってきた雑誌を広げつつ、お隣さんからもらったあられをつまむ。 まさにバカンス状態である。 みかんもみかんではたてにあられをもらいながら、涼しい風に身を預け、そよ風に毛をなびかせながら丸まり、青年のほうをじっと見つめる。

 後ろの視線もなんのその、青年は餌を竿に取り付けると勢いよく川へと投げ込む。 釣り糸は綺麗な弧を描いて水面に着水し、流れに逆らうようにその場を動こうとしない。 ときたま青年が竿を動かすだけである。

 青年は無言、はたても無言、みかんはお昼寝。 いつも通りの二人と一匹の光景がそこには広がっていた。

 そして一時間が過ぎ──ついに青年が独り言をつぶやきだし、はたてがその様子をため息混じりに見つける光景へとシフトチャンジしていったのだ。

 順々に記憶を辿って行ったはたては、青年に声をかける。

「ねー、釣れないなら私が代わりにしてあげようかー? あんたよりはうまい自信があるわよー」

「う、うるさいっ! 僕はまだ実力の半分の出していないんだ、これからなんだ!」

「まったく……。 本番で出せる力のことを実力っていうのよ。 実を結んでいないのはただの力不足。 ねー、みかん」

「にゃー」

 青年の焦る声に驚いて起きたみかんを、はたては頭を撫でながらあやす。

 なおも、あーでもないこーでもないと言いながら釣りをトライする青年を、はたては意地悪そうにニヤニヤ笑みを浮かべて見守る。 毎日毎日、謎の自信をもって生活している青年が困っている姿をみるのが楽しいようだ。

「まぁ、お腹すいたしそろそろお昼食べたいわねー」

 声量上げて、嫌でも青年の耳に届くように喋るはたて。

「あ、あと10分!? あと10分あればお昼分は捕れるから!」

 そういって竿に精神を集中される青年。 はたても青年弄りが飽きたのかみかんとあられ食べにシフトチェンジする。

 その時、はたての後方から可愛らしい女の子の声が二人分聞こえてきた。 がさがさと茂みを掻き分ける音、はたてはその方向に顔を向けながら声の主達を頭に浮かべた。

「みて大ちゃん! やっぱりここの川はキレイだったでしょ! あたいすごい!」

「わー、ほんとだねチルノちゃん。 ここなら安心できるよぉ……」

 ひんやり冷たい空気を纏いながら現れた、小さな体躯に元気の塊、氷精ことチルノと、そのチルノの友達でありストッパーでもある大妖精が顔を出した。

 ストッパーが機能しているのかは甚だ疑問であるが。 チルノは目の前の川を見て嬉しそうな顔をして、大妖精はほっと一安心したような顔をしていた。 二人とも対照的な表情から察するに、おそらく大妖精はチルノの行動に巻き込まれたのだろう。

 勢いよく川へと向かうチルノをはたては後ろからだっこする。

「うっ!? あんた誰!? ちょっと離しなさいよ!」

「烏天狗の姫海棠はたてよ。 何度か会ったことがあるんだけど、流石にあんたの頭じゃ覚えられないか」

 チルノをだっこしたはたては、そのまま岩に座り込む。 膝の上にちょこんと乗せられたチルノ。

「こらー! 離しなさいよ! あたいは川で遊ぶの!」

「まぁまぁ、それよりあられ食べない? 繊細な人間の食べ物だから、意外とおいしいわよ?」

 あられを一個取出し、チルノの口にもっていく。 チルノは大人しく口を開け、あられを噛み咀嚼する。 もぐもぐ、もぐもぐ、可愛らしい口で一生懸命あられを食べるチルノは、ごくんと飲み込むと華やかな笑顔ではたてのほうを振り向く。

「おいしい! これもっとちょうだい!」

「どーぞ。 あんたもこっちに来て食べない?」

 チルノとはたてのやり取りをあたふたと見守っていた大妖精に手招きする。 チルノの嬉しそうな顔を見て、はたての笑顔を見て、やがて大妖精はとことこと歩きはたての横に座った。 それを見守っていたはたては、大妖精の口にあられを運ぶ。 幼子のようにはたてにあられを食べさせてもらう大妖精。

 「おいしい?」 そうはたてが聞くと、「はい!」 そう大妖精が嬉しい声をあげる。 それを見たチルノが、自分にも頂戴とはたてにせがむ姿は母親と子供のようでとても微笑ましく、釣りをしていた青年が大きな石を持ち上げ川に鎮座している大きな岩に叩きつけようとしている光景などさしておかしくないように思えてくる。

「あの……あの人って、もしかしてケーキ屋さんの人ですか?」

「あー、そういえばあいつ洋菓子店でバイトしてるんだっけ。 知ってるのかしら?」

「は、はい! えっと、たまに遊んでくれたり、ケーキくれたりする優しい人です」

「気を付けなさい。 あいつ無害ではあるけど、どさくさに紛れてあんた達のパンチラ凝視しているかもしれないわよ」

「えっ!? そ、そんな風には見えませんけど」

「人間の醜さは妖怪の比じゃないわよ」

 自分もあられを食べながら大妖精と会話するはたて。 青年はどこまで危険視されれば気が済むのか。

 はたての膝に乗っていたチルノが飛び降り、青年の元へと近づく。

「あー! やっぱりケーキだー! あたいのこと覚えてる?」

 石を持ち上げていた青年は、下から聞こえてくる声に顔を向け、その存在がチルノだと気が付くと石を誰もいない方向に飛ばしてからチルノの頭を撫でた。

「チルノちゃんだー。 久しぶりー、元気にしてたー?」

「もちろん! あたいはいつもサイキョーよ!」

「うんうん、サイキョーだねー。 あ、大ちゃんもいるんだ。 大ちゃんも久しぶり」

「近寄らないでくださいっ! し、信じてたのに……」

「えっ!? 何がどうなってこんなことになったの!?」

 青年に怯えはたての服をぎゅっと握りしめる大妖精。 無害な青年は心底ショックを受けたのか、がっくりと膝をつきチルノに頭を撫でながらあやされる。

「で、あんたは魚釣れたの?」

「この川には魚がいなかった気がするんだよね」

「勘弁してよ。 永遠亭の診察代もバカにできないのよ?」

 バカを見るような目で、バカを見るはたて。 青年は隣にいたチルノをだっこしながら言い返す。

「そうはいっても、やっぱり魚にも自我があるわけだから、捕まえるわけにはいかないじゃん?」

「あんたなにしに此処に来たわけ?」

「……未来を切り開くため……かな」

「頭大丈夫?」

 バカを見る目から冷ややかな目にシフトチェンジする。 チルノは青年の額に手を当て熱を測り、大妖精は先ほどのことを謝りながら「わたしのせいでこんなことに……」と後悔し、みかんは青年を正常に戻そうと必死に猫パンチを繰り出す。 いつの間にか青年は頭が可哀想な子になっていた。

 額に手を当て、やれやれと嘆息するはたては青年を追い越し、置いてある釣竿を手にする。

「ほんと下手ねー。 釣りってのはこうやって──」

 浮きを投げ入れたはたては、数秒して竿を勢いよく引き上げる。 引き上げた先には思わず咽喉を鳴らすほど綺麗な魚が一匹釣りあげられていた。

「こうするのよ」

「ちょっとまってはたて。 いまのは八百長じゃない?」

「あんたはどんだけ私を蹴落とすことに全力なのよ」

 尊敬したような目ではたてを見るチルノと大妖精に気が付くはたて、はたての視線を辿りこれまた気が付く青年。

「ふっ、これが人望の差よ」

「うぐっ!? ヒッキーの癖に……」

 チルノに魚を上げながらも、またもや川へと浮きを投げ入れすぐさま釣っていくはたて。 今度の魚は今より二回りほど大きく、

「あっ! これおっきいわよ! ほらほら!」

「ここにこんなおっきな魚がいたんだ……」

「はたてさんすごーい!」

「あんたやるわね!」

 嬉しそうに見せびらかすはたて、自分の実力不足に絶望する青年、素直に尊敬するチルノと大妖精。 その後10分ほど、そんな光景が続いたのだった。



           ☆



 はたてがチルノと大妖精を含めた昼食分を釣り上げ、ようやくお昼ご飯を食べることになった。

 パチパチと迸る火の周りに、水でぬめりを取り、尻から口までナイフで捌き、中を綺麗に水で洗って塩を馴染ませた、竹串に刺さっている魚が焼かれていた。

「アユだから内臓は取り出さなかったけど、大ちゃんとチルノちゃんは平気?」

「だいじょうぶ!」

「わ、わたしも大丈夫です」

「大ちゃんはまだ僕のことを避けてるんだね」

 いまだはたての横にピッタリとくっ付いている大妖精を見ながら感想を漏らす青年。

「すぐパンチラ見ようとするあんたの近くにはいたくないわよ。 ほら、チルノもこっちにおいで」

「あっ!? チルノちゃんまでそっちに行っちゃダメだよ!?」

 はたてに手招きされたチルノは無垢な笑顔を浮かべ、はたての膝に座り込む。 はたての隣には大妖精が、膝にはチルノがいる状態だ

  片や青年は孤立無援の状態であった。 ──が、そこに救いの手を差し伸べる動物がいた。 ふわふわほふほふのみかんである。 みかんは青年の膝から肩に飛び移ると、ぺろりと頬を舐めた。

「うぅっ……、ありがとうみかん。 今日の夕食はみかんが食べたいものにするよ……」

 みかんを撫でながら心に決める青年であった。

 昼食はとても賑やかなものとなり、青年があらかじめ作っていたおにぎり四つも綺麗に食べ終わり、はたてが釣った魚も塩味が効いていたのと、この青空の下で食べることも相まってとてもおいしいものとなっていた。

 昼食が終わると、はたてとチルノと大妖精は川遊びを、青年は何が何でも慧音の分の魚を釣り上げようとしていた。

「あははは! はたてー、くらえ!」

「きゃっ!? やったわねー! ほーら!」

 チルノがはたてに向かって水をかけると、はたても負けじと水をかける。 その後ろから大妖精が近づいていき、はたてを後ろから羽交い絞めにして手を封じ、チルノが水をかけるというコンビネーションも披露する。

 きらりと眩しいはたての笑顔と、嬉しそうなはしゃぎ声を聞きながら、遠くでみかんと釣りをしていた青年は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「まったく……いまのうちに着替え取りに行ってこよ。 ほんと、しょーがないなー」

 三人のはしゃぎ声を聞きながら、青年はみかんを連れながら一時その場を後にするのであった。




まえへ もくじ
なた豆茶 ■物置 ■絵画 ■雑記 ■繋がり ■記録帳