A's30.ようせいさん目視できる人多発警報



 桃子さんとリンディさんとシャマル先生とヴィヴィオとリィンが舌でキャンディーを転がしながら遊んでいると、家のインターホンが鳴った。既に飾りは終わっており、料理も運び終えている。後はなのは達の帰りを待つのみだったため、女の子組(熟女含み)は我先にと玄関へと向かっていった。

 俺も行きますか。

 女の子組(熟女含み)の後を追う形で俺も玄関へと向かう。丁度ヴィヴィオが玄関の鍵を開けるところだったようだ。

 ガチャリと開いた玄関から、ウサギのような目をしたなのはが顔を覗かせた。

「ただいまー!ヴィヴィオ!」

「なのはママだ!おかえりー!」

「わふー!」

 ひょこっと出てきたなのはを確認しジャンプで抱きつくヴィヴィオ。なのはもヴィヴィオをしっかりと受け止めながら頭を撫でる。

「おかえりなさいなのは」

「あっ!おかーさん!ただいまー。なのはね、今日はすごくがんばったよ?」

「ええ知ってるわよ。えらいわね」

 なのはがヴィヴィオにそうしたように、桃子さんがなのはの頭を撫でながら抱きしめた。猫のように嬉しそうに目を細めるなのは。後ろでは士郎さんが指をくわえて羨ましそうに見てる。

 ひとしきり桃子さんに愛でられたなのはは、後ろで指をくわえてみていた士郎さんに気づいたのか、

「あ、お父さんもきてたの?ただいまー!」

 とてとてと駆け寄ってきた。嬉しそうになのはの頭を撫でる士郎さん。士郎さん物凄く幸せそうだ。

 そんななのはを皮切りに続々と家の中へと遠征組が帰ってきた。

 ちょっと疲れたような表情のはやてやこちらは結構グロッキー気味なエリオとキャロ。……なんかほとんど疲れてるな。

「フェイト!ママの胸に飛び込んできてもいいのよ!?ほら、カモーン!!」

「あ、遠慮します」

 フェイトはそこまで疲れていないのか、出かけてきたまんまの顔色で華麗にリンディさんの誘いを断った。リンディさんあまりのショックに服脱ぎだしたぞ。

「ヴィヴィオ、ちょっとリンディさんに抱きついてきなさい。ほんとはパパが抱きつきたいけどそんなことしたら後でフェイトママに殺されかねないから」

「俊くん、そんなことしたらまずリンディさんに殺されるでしょ」

 そうともいう。

「うんわかった!ヴィヴィオがんばる!」

 なのはの胸に顔を置いてぬくもりを感じていたヴィヴィオは、俺の申し出を快く快諾し両の拳を握ってガッツポーズをした後リンディさんのほうに向かっていった。ガーくんも同行している。

 さて……ヴィヴィオはどうでるのか。

「よしよしリンディメッシュさん。げんきだしてね?」

 かわいい!めっちゃかわいい!

 隣にいたなのはと互いに握手を交わす。そしてそのままユニフォーム交換に入ろうとしたけどそこは真顔で首を横に振られたから諦めよう。

「ヴィヴィオちゃん……。……もう一度子育て始めようかしら。今度はママのことを愛しすぎておかしくなるくらいの女の子具合に……」

 リンディさんに抱きつくヴィヴィオを抱き寄せながら不穏なことを言うリンディさん。もうそろそろブラが露わになるな……。

「はいはい。もう十分すぎるほど子育てしたでしょ。もういい歳した大人なんだから止めてもみっともない。それにブラが見えるよ。俊に毒でしょ」

「目がぁーッ!?目がァーッ!?」

「大丈夫だよフェイトちゃん。俊くんの目はわたしが守ったから!」

「いやそれ逆に視力が……」

 痛い痛いよ目ん玉痛いよ!?なんでなのはは躊躇いなく俺の目ん玉突けるんだ!?

「私母さんのこと大好きで愛してるつもりだったんだけどなぁ……」

 小さく呟くフェイト。しかし声量に反してその言葉はこの場にいる全員に聞こえていたらしく、一瞬場が静まりかけた。その瞬間、リンディさんの服が弾け飛び、涙を流しながらリンディさんはフェイトをきつくきつく抱きしめた。

「ごめんねフェイト!ほんとごめんね!ママそんなつもりじゃなかったの!ママもフェイトのこと愛してるわよ!ほんと結婚したいくらい!ほんとフェイトの全てを自分色に染めたいくらいにフェイトのこと愛してるの!ほんとよ!?」

「はいはい知ってるから。母さんの気持ちは重すぎて痛いくらいだから。ちょっと遊んだだけだよ」

 ふふふと笑うフェイト。

「あーもう!可愛い!結婚しましょうフェイト!」

「あ、遠慮します」

「ジーザスッ!!」

 テンション高いなリンディさん……。よっぽどフェイトと離れて辛かったんだろうな。

「うぅ……それにしてもいまだに目が見えん……」

 そんな俺の服を誰かがちょいちょいと引っ張る感覚。引っ張られる力の方向からしてこれは……小さい女の子だな。ということはヴィヴィオだろう。

 そう結論付けた俺はゆっくりと腰をおとし、目の前にいるであろうヴィヴィオをそっと抱きかかえた。頭を撫でながら耳をはむはむする。あぁ……パパって最高。

 そうしているとようやく視力が回復したのだろう。だんだんと霞む目がぼんやりからしっかりへと視力の変化を促す。ほら、これでくすぐったそうに笑うヴィヴィオの顔が見えるぞー。

 ロリータファッションに身を包み、殺意の波動に目覚めたロヴィータちゃんが俺に抱っこされていた。

「てめェ……あたしを抱っこするとはいい度胸してるじゃねぇか……!」

 俺は無言のままロヴィータちゃんをはやてに手渡し脱兎のごとく料理が並んでいる部屋へと引っ込んでいった。

『てめぇ逃げんなボケナスッ!』

『まぁまぁヴィータ。俊も悪気があってやったんやないし。許してやりーよ』

『だってあいつ耳をはむはむして──』

『はいはいそれじゃわたしがはむはむの上書きしたるから』

 舌でテイスティングした結果、ロヴィータちゃんの耳たぶはマシュマロ味でした。やっぱりロリって最高!

            ☆

 ロヴィータちゃんはロリはロリでも悪魔ロリっ娘だな。じゃないと俺をこんなにもぼこぼこにしないもん。それに今日はもう口をきいてくれないみたいだし。

 顔こそ傷物にしてないものの、腕や膝には痣が沢山できました。

 耳たぶをはむはむしただけなのに……。

「俊もごめんなー。ちょっとヴィータも驚いたんよ。いつになったら玄関から移動するのか俊に聞こうとしたら、俊がはむはむしだしたから」

「いやーヴィヴィオだと思ったからつい」

「ああいうのはいまのうちに沢山したほうがええもんな。……小学校高学年になるころには俊もどんな態度で対応されるかわからへんし……」

「こ、怖いこというなよ……」

 ちょっと想像しちまったじゃねえか。

 現在俺達は玄関から料理が待っているリビングへと場所を移動し、席順を決めている最中だ。

「はやてさーん、どういった席順にしますー?」

「んー?べつに好きな場所でええよー」

 はやての言葉で各々好きな場所に座っていく。

「なのはママとフェイトママはヴィヴィオのよこ!ガーくんも!」

「「いいよー」」

 テーブルの丁度中心線に真っ先に座ったヴィヴィオは、両手で自身の真横をばんばんと叩いてなのはとフェイトを呼ぶ。ガーくんは当たり前のようにヴィヴィオの隣に鎮座していた。

「じゃぁ俊くんはなのはママの横に──」

「なのはさんの横は私がいただきますねー!」

「ちょっ!?」

「なのはさんの処女は私がいただきますねー!」

「黙れ」

 俺がなのはに呼ばれて行動に出るよりも先に嬢ちゃんがなのはの横にピッタリとくっついていた。タコの吸盤かよという突っ込みを入れたくなるほどのピッタリ具合である。入り込む隙も余地もありゃしない。……しゃうがない、今日ばかりは許してやるか。平日だったら殴り飛ばしているところだったがな。しょうがないだろう?今日の主役はあいつらなんだから。

 まぁ俺はフェイトの横で──

「フェイトの隣は私のものよ〜」

「母さん……腕絡ませてくるのやめて……」

 フェイトの横には修羅がいた。恐ろしいほどの修羅がいた。

 ため息を吐きながらこっちにごめんと謝るポーズを見せるフェイト。いやまぁ親へのサービスってのは大事だからな。こういうのはしっかりとしといたほうがいいさ。

 フェイトかなのはの横に座る予定だったので他の場所なんて考えてもいなかった。そのせいもあってか俺がなのはとフェイトの横を確認している間に全員とも座り終えていたようで、どうやら俺待ちになっていた。立ったまま全員の視線を浴びる。……どこに座ったものやら。

 そう考え込んでいると、真っ先に席に着いたヴィヴィオが俺の顔をはっとした表情を浮かべる。

「ヴィヴィオ……ごはんのことにむちゅうでパパのことわすれてた……。ほんとはパパのせきもあるはずだったのに……」

「あー。それは残念だったねー」

「どんまいヴィヴィオ。次は忘れないようにね」

 しょぼーんとした顔を浮かべるヴィヴィオを両横からなのはとフェイトが頭を撫でたり、自分のほうに引き寄せてデコにキスをしたりして慰める。それにしても完璧なまでに忘れてたな。でもそのパパの席のことを完璧に忘れるほど夢中にさせた料理自体俺が作ったものだから、なんかちょっと嬉しいというか誇らしい。

「まぁ気にしてないよヴィヴィオ。どうせ後で席なんてバラバラになるんだし」

「そうそう。俊くんが隣に来るしねー」

「ねー」

 お前らの両横はテコでも動かないと思うけどな。リンディさんと嬢ちゃんを見ながらそう思う。

「ほな俊はわたしの横で」

「シャーッ!」

「いやですぅ!リィンはぺろぺろさんの近くにいると蕁麻疹が出てきちゃいます!」

「物凄く嫌われてるんだけど……」

「まぁまぁ」

 はやてが座る隣にロヴィータちゃんとリィンがいるのだが、俺がはやての横に座る(ロヴィータちゃんとは逆方向)ということでロヴィータちゃんは牙を見せながら警戒してくる。そこまで警戒することないだろ。リィンに至っては物凄い嫌われっぷりだ。

 まぁしかしそこははやての仁徳のおかげだろうか、はやてが笑みを浮かべて二人を撫でるとしょうがない……といったふうに二人も引き下がっていった。

「それじゃ早く食べちゃいましょうか。それじゃ……はやてちゃんが音頭でいいのかしら?」

「へ?わたしですか?えぇまぁそれでもええけど……ここは直属の上司であるなのはちゃんで」

 場を仕切る桃子さんがはやてに振ると、はやては両手でどうぞの形を取りながらなのはにバトンパスする。

「わたしでいいの?ティアとかは──」

「なのはさん一カメのほうに笑顔お願いしまーす!」

「バカはほっといて皆で食べよっか。それじゃ手を合わせてください。今日は皆さんお疲れ様でした」

『お疲れ様でしたー!』

「いただきます!」

『いただきまーす!』

 全員とも行儀よく手を合わせてから、それぞれ自分の小皿に好きな料理をとっていく。

「ヴィヴィオはなのはママが取ってあげるからねー。なにが食べたい?」

「んーっとねー……ヴィヴィオこれ!」

 ヴィヴィオが指さしたのは生春巻き。春雨とニラを中心に豚肉と大葉を少々、そんでもって生春巻き用の皮で包んでいる。ヴィヴィオは喜んでくれるかな?

 なのはがヴィヴィオが指さした生春巻きをとってやる。フェイトが生春巻きのたれをかけてあげる。ヴィヴィオはまだちょっと慣れていない箸使いでしっかりと生春巻きを掴み、口元へと運んでいった。

 その小さな小さな口をめいっぱい開けて頬張るヴィヴィオに、知らず知らずのうちに固唾をのんだ。ヴィヴィオはもぐもぐと咀嚼し勢いをつけてごっくんと嚥下した。ど、どうだ……?

「ヴィヴィオおいしい?」

 そう聞くなのはにヴィヴィオは笑顔で答えた。

「うん!ヴィヴィオこれすき!」

 生春巻きを指差しながら答えるヴィヴィオにほっと俺は息をついた。よかった……。いくら料理が出来ようと、娘の口に合わなかったら意味がないからな。

「つぎこれ!」

「はいはい。色んなものをちょっとずつ食べようねー」

 ヴィヴィオの小皿で料理を取りながらなのはも笑顔をみせる。……意外とこうしてみるとなのはって人妻っぽいんだな。いや、人妻っぽくなってきた?なんかそんな感じがするな。まぁ何言ってるか自分でも若干意味不明なんだけどな。

 あ、そういえばビーフシチュー出すの忘れてた。

「誰かビーフシチュー食べるか?」

「私食べます!」

「私も!」

「あ、わたしも俊のビーフシチュー食べようかな」

 嬢ちゃんとスバルが真っ先に手を挙げて、その後にはやてが手を挙げる。それからは雪崩の如く手を挙げられたので、とりあえず全員にビーフシチューを配ることにした。朝からじっくり煮込んだものだからうまくないわけがないんだけど……。

 隣にいるはやてを見る。スプーンに掬いビーフシチューを食べるはやて。ゆっくりと味わうようにはやての咽喉元が動く。

「ど、どうだはやて……?」

「うん、ええよ。朝から煮込んだだけあってとってもおいしい」

「よかった。はやてにそう言ってもらえるならまず大丈夫だな」

 それを裏付けるように、料理が得意な桃子さんとリンディさんもおいしいという意思表示をしてくれた。うん、朝から時間をかけて作った甲斐があった。

「ひょっとこさんおいしいんですけど、なんかむかつくのでクレームを出したいと思います」

「黙って食えバカ舌」

 おいしいならクレームを出す必要はないだろ。

 テーブルに肘をつきバカ舌に話しかける。

「そういえばお前昇進試験ギリギリでの合格だったらしいな。なのはという最高の教導官がいるってのに」

「だってー……緊張しちゃって」

「緊張を楽しめないようじゃ実力は出せんぞ。お前やスバルの実力ならAランクなんてそこまで難しくないだろうに」

「ひょっとこさんそれは私を褒めてるんですか?」

「情けないって話だよ。まぁでもお疲れさん。よく頑張ったな」

「えへへ」

 そんな表情見せられたら、今日くらいはなのはを譲ってあげたくなるから止めろ。

「ひょっとこさんは今日一日ずっと家で料理作ってたんですか?」

「まぁな。後は飾り付けとか。でも桃子さんやリンディさん、士郎さんがいなかったら結構ギリギリの作業になってたかもしれん。シャマル先生は逆に局地的爆心地でひやひやした。今日はあんまりヴィヴィオと遊んでやれなかったし、明日は一日ヴィヴィオのために使いたいなーって感じ」

 チラリとヴィヴィオを横目でみる。相変わらずなのはとフェイトを巻き込みながら楽しそうにお喋りしながら料理を楽しんでる。

「来年からは小学生だからただでさえ接する時間が少なくなるのになぁ……」

 思わずため息が零れる。そんな俺を唖然とした表情で見つめる嬢ちゃん。お前テーブルにから揚げ落とすな。髪の毛刈り上げっぞ。

「ひょっとこさんが……パパっぽい」

「いやこれでもパパだよ」

「でも立ち位置的にはメイドみたいなもんですよね。あ、男の場合は執事でしたっけ?」

「性奴隷メイドだったら喜んでやるんだけどな」

 どっちもwin-winの関係だし。

「でもメイドさんも可哀想ですよね。朝から夜までご奉仕しなきゃいけないなんて」

「というかもろエロ漫画のせいだよなそういう考え方って。一説にはそういう夜のご奉仕専用のメイドがいたのはいたらしいけど」

「へ〜。あ、ちらし寿司食べたいです。取ってください」

「はいはい」

 俺の近くにあるちらし寿司を小皿によそって嬢ちゃんに渡す。いま嬢ちゃんはなのはの横ではなくスバルの横だ。なんでも二人でローテーションを組んだとか。

「ところでひょっとこさん」

 ちらし寿司を食べながら嬢ちゃんが聞いてくる。

「んー?」

「リインさんいつまでひょっとこさんの周りをぐるぐる回ってるんですか?衛星じゃあるまいし」

 それは俺が一番聞きたいよ。なんでリィンは怖い顔(可愛い顔)して俺の周りをぐるぐる回ってるんだ?

「ぺろぺろさんを監視するためです。はやてちゃんにいつ襲い掛かるかわかりませんからね」

「襲わないよべつに」

「え……。俊は襲ってくれへんの……?わたしはいつでもええのに……」

 俺が言った直後に上目づかいで俺にしなだれかかってくるはやて。指で俺の胸を弄りながら頬を赤らめるはやてに俺の理性は限界寸前だ。

「は、はやて……この場ではやばいって……」

「そうやな……。じゃぁいまから2階に──」

 ミニスカートを少しだけ上にあげながら、俺の耳元で囁くはやてはそのまま俺がロヴィータちゃんにやったように耳たぶを甘噛みする。

 こ、こいつ少し酔ってないか……?さっきからずっと黙ったままだったけど……。

「は、はやて……?お前酔ってないか?」

「酔ってへんよ?だってまだ未成年やからのまへんし」

 ということは素面でこんなことしてるのか……?そ、そりゃはやては可愛いし、料理も出来るし家事も出来る。正直俺もはやてのことは大好きだし。でも──

「たぁっ!」

「あいて!?」

 後頭部に小さな痛みが走る。可愛らしい声と共に俺の頭にリィンが頭突きをかましたようだ。その証拠に俺の目の前にやってきたリィンは頭を撫でながら涙目で俺のことを睨みつけている。

「やっぱりぺろぺろさんははやてちゃんにとっての悪ですね!はやてちゃんをこんなにしたぺろぺろさんをリインは許しませんよ!」

「なにもしてないっつーの……」

「うー!やっぱりぺろぺろさんは八神家の敵です!」

 ぷんぷんと怒るリインを俺にしなだれかかりながら食事を摘まんでいたはやてが制す。

「リイン?俊を困らせたらいかんよ?」

「うー。でもでも──」

「でもやない」

 はやてはリインを胸に抱きしめながら、頬にキスする。キスをされたリインは一瞬俺のほうを睨みつけるが、やがてやれやれといった感じで頭を振ってはやてに体を委ねた。

「あの……ひょっとこさん。ぺろぺろさんってのはひょっとこさんのことですよね?それってつまり……」

「そうです!リインが生まれたばっかりのとき、この人ははやてちゃんの部屋で寝ていたリインの全身をぺろぺろと舐めまわしたんですよ!」

「うわぁ……」

 ゴミをみるような目で俺をみる嬢ちゃん。リインの声が大きかったのか、ふと気が付けば部屋にいる全員が俺に注目していた。まてフェイト、なんでそんなに悲しそうな目で俺を見るんだ。フェイトの後ろにだっていま現在進行形でフェイトの指を舐めまわしてる熟女がいるじゃないか。いや別に俺はあの人と同類といっているわけじゃなくて──

「それにぺろぺろさんその後リインに変な白くてどろどろしてる液をかけたんですよ!もう最低です!」

「それぺろぺろさん通り越してぶっかけさんじゃないですか!?」

 あぁ!いまこの場にいる全員の視界から俺の姿が消えた気がする!?

「まてまてまて。当時の俺はユニゾンデバイスとかよく説明されてなかったから、リィンを最初みたときはほんとに妖精が見えたと思ったんだよ。そんでこすりつけてたら発射した」

「まってください。終盤の文脈が明らかに異常です」

「お前だってフィギュアに発射することあるだろ?俺だっていまだにたま姉にはお世話になってるよ。たま姉たまんねえよ?」

「いやいやいや。私をひょっとこさんみたいな度し難い変態にするのは止めてくださいよ」

「じゃぁお前はなのはのフュギュアでしないのかな?」

「あれはフィギュアという名の専用ディルドですから」

「二人ともストップ!?ちょっと二人とも離れて!濃いよ、二人だけ空間の空気が濃すぎるよ!?」

 俺と嬢ちゃんの会話に見かねたなのはが声をかけてきた。なのはは頭を振りながら、俺に釘を刺す。

「あのね二人とも?色々と突っ込みたいことはあるけども、とりあえず──黙れ」

「「……はい」」

 殺気を帯びたなのはの鋭き眼光に俺も嬢ちゃんもただただ頷くばかりであった。やっぱりなのはって怖い。

        ☆

 ほんっとに俊くんは救いようがないほどのバカなんだから!何がたま姉たまんねえよ!たまるわアホ!まったく、わたしとフェイトちゃんが魔法でヴィヴィオや子ども達には聞こえないようにしてたからよかったけどさ。

 さっきからずっと見てたらはやてちゃんに鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって、年下の女の子と遊んで、ここは合コンなの?キミは合コンだっていいたいの?

 心の奥底でふつふつと感情がマグマのように煮えたぎる。

「なのはママ……かおがこわいよ?」

 ヴィヴィオの怯えた表情をみてふと我に返る。

「え?あ、ごめんねヴィヴィオ!なのはママは怖くないよー。ほら、こんなに元気で笑顔だよー?なのなのー!」

「ううん、なのはママこわいよ?」

 そこは否定するところじゃないと思うんだけど。

「へ?そ、そうかなー?なのはママ怖いかなー?」

「ちょっぴり」

 物凄くショックなんだけど。愛娘にママ怖いよって言われると物凄くショックなんだけど。

 笑顔を顔に張り付かせたままのわたしに、ヴィヴィオはでもでもと続ける。

「でもね?なのはママはとーってもやさしいよ!ヴィヴィオなのはママのことだいすき!」

「ほんと?なのはママもヴィヴィオのことだーいすきだよ!」

 あぁ……やっぱりヴィヴィオって可愛い……。もうフェイトちゃんに続きわたしの癒しスポットになってるよヴィヴィオ。

「そうだなのはママ!ちょっとみみかして!」

「んー?どうしたのー?」

 ガーくんにから揚げをあげているとヴィヴィオが何か思いついたようにわたしの服を引っ張る。わたしはヴィヴィオの顔に耳を近づけながら、ちょっと会場からは背中を向けていかにもな演出をしてみる。

「これないしょだよ?ぜったいにいっちゃだめだよ?」

「うんうん。大丈夫だよ。どうしたの?」

 ヴィヴィオはすっと俊くんを指差した。

「あそこにようせいさんがいるの」

「パパはあれでも一応人間なんだけど」

「お?」

「お?」

 ……あれ?わたし何か間違ったこと言ったかな?

「なのはママ……ちがうよ?」

「あ、あれ?パパじゃないの?」

「うん。パパじゃないよ。……Σ(・ω・)!?」

 ふと何かを思い出したかのような表情を浮かべるヴィヴィオ。うんうんと唸りながら思案するヴィヴィオはとってもかわいくて、何時間見ても飽きないだろう。

 ヴィヴィオはちょっと可哀想な表情でわたしを見てくる。

「ごめんねなのはママ……。ヴィヴィオはいいこだけど、なのはママはわるいこだからようせいさんがみえないみたい……」

 ……妖精さん?もしかして俊くんの頭の上でカルボナーラ食べてるリィンのことかな?

「あのようせいさんとね、ヴィヴィオおともだちになったの!」

 うん間違いなくリインのことみたいだね。はっはーん、それにしても妖精さんか。どこぞの俊くんみたいなことをヴィヴィオも言いだすね。といっても俊くんもヴィヴィオも一般人だからユニゾンデバイスを知らないのは無理ないよね。ここは合わせておこうかな。ヴィヴィオ自身が気づくまで。

 嬉しそうに妖精さんと友達になったことを語るヴィヴィオに、わたしはちょっと得意げにリインを指差す。

「もしかしてヴィヴィオもあの妖精さんがみえるの?」

「( ゚д゚ )」

 驚きすぎて声も出ないようだ。

「な、なのはママもようせいさんがみえるの……?」

 驚き体を震わせながらわたしに聞いてくるヴィヴィオに、わたしは首を縦にゆっくりと動かすことが答える。

「なのはママもいいこだったんだ……」

 あれー?なんでそこが驚きの対象になるのかなー?

「なのはママは生まれたときからずっといい子なんだよ」

「そうなの?」

「そうそう。けどそうかぁ……ヴィヴィオも妖精さんが視えるんだね。あのねヴィヴィオ、よく聞いてね?妖精さんが視えるってことは、ヴィヴィオは選ばれた人間なんだよ」

「えらばれたにんげん?」

「そう。ヴィヴィオは魔王を討伐する聖なる勇者に選ばれたの」

「ヴぃ、ヴィヴィオそんなにすごいものにえらばれてしまったんだ……!」

「そうだよ。時期にヴィヴィオはあの妖精さんを従えて魔王討伐のために冒険しないといけないの」

「……ヴィヴィオなのはママやフェイトママやパパとはなれるのはやだ」

「じゃぁやっぱり魔王討伐の話はなかったことにしよう!」

「えぇっ!?それでいいの!?」

 だってヴィヴィオの離れたくないよ光線が凄いんだもん!もうこれは箱入り娘で育てるより他ないじゃん!

「よいしょっと」

 ヴィヴィオを抱っこして膝の上にのせる。ヴィヴィオの隣にはずっと待機モードでわたしとヴィヴィオの話を聞いていたガーくんがとことことやってきた。すっとヴィヴィオの隣に足を折り、自家製のシューマイを小皿に取り分けるガーくん。タレと辛子をつけておいしそうに頬張る。ヴィヴィオはそんなガーくんをみて、自分も自分もと口を開ける。箸捌きマスターレベルのガーくんはヴィヴィオように辛子をどかして、タレだけが垂らしてあるシューマイを食べさせてあげる。おいしそうなヴィヴィオ。そんなヴィヴィオを見てるとなんだかこちらも嬉しくなり、ついついヴィヴィオの頭を撫でてしまう。もうヴィヴィオったら。ネコみたいな声だしてじゃれついちゃって。ほんと可愛いんだから。

「ごろごろごろごろごろ」

「……」

「ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ」

「……俊くん何してるの?」

「ネコです」

「うちはネコなんて飼っていません」

「じゃぁ飼ってください」

「……しょうがないにゃぁ」

 わたしの太ももを擦りながら隣でごろごろとうるさいバカをほっておくわけにもいかず、なし崩し的に相手してあげることに。

「かなーりはやてちゃんやティアといちゃいちゃしてたようだけど、もういいの?」

「別にいちゃいちゃしてたわけじゃないんだけど。まぁはやてはシグナムとリインに連れていかれたし、嬢ちゃんとは離されたし。ほらいまはエリオとキャロの相手をスバルと一緒にしてるだろ?」

 俊くんが指さす方向に首を動かすと、確かにティアとスバルがエリオとキャロと仲良く話していた。

「つまり俊くんはハブられてしまったということだね」

「まぁそうなるな。というわけで隣いい?」

「どうぞ」

 わたしの言葉を聞いて俊くんは自分の小皿を一回取りに戻り、また戻ってきた。わたしの隣に座った俊くんはヴィヴィオの頭を撫でながらポテトサラダをよそう。

『ヴィヴィオちゃーん。こっちでリインとトランプしませんかー?』

 ふと遠くからリインの声が聞こえてきた。もうお腹いっぱいになったのか。シャマル先生とトランプ片手にこちらにぶんぶんと手を振っている。

「あー!ヴィヴィオしたい!ガーくんいくよ!」

「ヨシキタ!」

「なのはママいってくる!」

「はい、いってらっしゃい」

わたしの膝の上からすくりと立ちあがったヴィヴィオはガーくんを連れてリイン達の元へと走り去っていった。残ったのはわたしと俊くんのみ。既にフェイトちゃんはリンディさんに付き合って隣の部屋でリンディさんのお酒に付き合ってる。未成年だから注ぐだけなんだけど。お母さんはお父さんと一目を憚らずにいちゃいちゃし続けている。夫婦仲がいいのはいいことだけど……。うぅ……ちょっと自重してほしいかも。はやてちゃんは相変わらずシグナムさんとヴィータちゃんの両方に挟まれながら楽しそうにご飯を食べている。……ほんとの姉妹みたいで思わず笑みが零れてくる。とくにヴィータちゃんが周囲を気にしながら、はやてちゃんにあーんしてもらってるなんて可愛い以外の何ものでもないよね。あ、視線が合わないように逸らしとこ。

「相変わらず料理は一瞬でなくなるなー。あんなに時間をかけて作ったのに」

 俊くんは独りでにそう呟く。そうだよね。俊くんは俊くんで朝からずっと頑張っててくれたんだよね。わたしがティアとスバルと一緒に試験を受けてるときも、はやてちゃんが手続をしに本局に行ってるときも、俊くんは何も言わずずっと料理をしてくれたんだよね。ううん、料理だけじゃない。深夜からずっと……飾り付け用の準備もしてたよね。隣の部屋からごそごそしてる声が聞こえちゃったよ?

 ほんと……なんでもかんでも一人でしようとするんだから。

 そのとき、わたしの体はごく自然に動いた。隣でサラダポテトを食べている俊くんの手をそっと包み込む。いきなりのことでびっくりしてわたしのほうに振り向く俊くんに、わたしはただただ笑みを浮かべる。

「お疲れ様、俊くん」

「……おう」

 人で笑いあう。今日一日疲れたけど、なんか俊くんの笑顔を見たらそれも吹き飛んじゃった。

 そうだよね俊くんも頑張ってくれたんだよね。

 だったら──ご褒美はあげないとダメだよね?




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