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02.ちょっとこい



「しまった牛乳買うの忘れてた」

 夕食の買い物も終わり、さっさとカップ麺を食った俺はなのは達が帰るまでの間をゲームしながら過ごしていた。 画面内ではポニーテールの女の子が頬を赤らめながら俺の名前を愛おしそうに呼んでいるところであったのだが──

「牛乳がないとなのはが怒るもんなー。 どんなに頑張ったところでフェイトの胸には勝てないというのに。 あーでも行きたくないなー」

 その場でぐずぐずすること3分、とりあえずゲームをセーブしてしょうがなく牛乳を買ってくることにした。 落ち度は自分にあるんだししょうがないよな。

「あ、そうだ。 このひょっとこ仮面を装着していかないと」

 机の上に無造作に放り投げられていたひょっとこのお面をつける。 そういえば昔はこれで泣いているなのはに追い打ちかけたっけ。

 ひょっとこのお面をつけた俺は寝間着に黒のコートだけを羽織り家を出た。

 このとき、素直に牛乳なんか買ってこなければあんなことにはならなかったのに……



           ☆



「あ、あの! なのはさん!」

「ふぇ?」

 ポッキーを食べながら仕事をやっていると、新人であるスバルが声をかけてきた。 スバルは熱血という言葉がよく似合うボーイッシュな女の子だ。 いまはまだ経験も足りないけど磨けば光る素質をもっている。 ちなみに私の直属の部下にもあたる。

「どうしたの、スバル。 もしかして書類仕事でわからないことでもあったかな?」

「いえっ……その……あの……」

 やはり上司と喋るのは緊張するのかスバルはちょっと言いにくそうにしていた。 その気持ちは私の体験してるからよくわかるよ。 自分より立場が上の人や目上の人と話すときって緊張するもんね。

 なのははスバルが何か言うまで優しくほほ笑んで見守ることにした。 やがて意を決したようでスバルはその口で大きな声でとんでもない爆弾発言をなのはにかました。

「なのはさんとフェイトさんが男の人と同棲してるって本当ですかっ!?」

「ぶッ!?」

 思いもよらない発言になのはは唾を飛ばした、というか噴出した。 そして慌てたようにスバルの口を塞ぐか時既に遅し。 その場で残って仕事をしていた面々は面食らったような顔をしてなのはとフェイトのほうを交互にみていた。 みるとフェイトのほうも驚きのあまり書類にいちご牛乳をこぼしたようで慌てて拭いている最中であった。

「あのッ、本当なんですかなのはさんッ! もしそうだとしたら私はどうすればいいんですか!?」

 どうすればいいのかはこっちが教えてほしい。 なのははそう思った。 一応、なのはの身内ならば彼のことを知っているのだが……いかんせん此処はつい先日できたばかりの部隊であり、そんな周辺のことの話よりもまずは書類などを片付けることが優先だと思っていたのだが──

「って、ちょっとまって! どうしてスバルがそんなこと知ってるの!? 誰から聞いたの!?」

「そ、そうだよ! 私もなのはも喋ってないんだからこの中に犯人はいるはずだよ!」

 いちご牛乳まみれになった書類をドライヤーにかけながらフェイトはこの場で仕事をしていた知人たちを振り返った。

 ヴィータ・シグナム・シャマル・ザフィーラ・はやて・リインフォース の計6人に視線を走らせるフェイト。 そして一人の女性に目を止めた。

「は、はやてだね!」

「ちょっとまちいな!? なんでいきなりうちって決めつけるん!?」

「だってはやてはなのはのポッキー食べようとして回避されてたじゃん」

 その一言ではやての体が固まる。 どうやら図星のようだ。

「ちょ、ちょっとまちぃっ! いずれわかることなんやし、1年間ともに過ごす仲間なんやで? やっぱりあまり秘密にするものどうかと思って、私はスバルに言ったんや。 うちもスバルがあんな行動に出るとは思ってなかったんよ」

「ほんとうに?」

「ほ、ほんとや!」

 立ち上がりながら必死に弁解するはやて。 なのはとフェイトはそんなはやてに疑惑の目を向けながらもひとまず落ち着くために座ることにした。

「まあ、いずれわかることだからいいのはいいんだけど……ねえ、フェイトちゃん」

「うん……それはいいんだけど……」

 二人して溜息を吐く。

 そのとき、フェイトの袖を誰かが引っ張る。 フェイトが引っ張られたほうに目を向けると自分の子どもたちであるエリオとキャロが立っていた。

「どうしたの二人とも?」

「あのフェイトさん。 もしかしてひょっとこさんのことですか?」

 キャロがそう聞いてくる。

「えーっと、うん。 ひょっとこさんだね」

 苦笑いしながら答えるフェイト。 確か自分が高校生のときに二人とも別々に彼に合わせたんだったっけ。

 彼は『宇宙一カッコイイ俺が会いにいったらその子たちが惚れてしまうではないかっ』とかなんとかいいながら、そばに置いてあったひょっとこのお面をかぶって会いにいったんだ。 それが二人にも受けたのを覚えている。 意外と彼って子どもには優しいところがあるんだよね。

 そうそうその他にも思い返せばいろんなことが──

「僕もひょっとこさんに女の子がいっぱいでるゲームをもらったことは覚えてますよ」

「わたしはメイド服をもらったこと覚えてます」

 ──いろんな悪夢よみがえってくる

 そう、確かに彼は渡していた。 もちろんメイド服は私が回収、ゲームのほうはその場でたたき折ったことを覚えている。

『おいおい……そんな男大丈夫なのか?』

 どこからかそんな声が聞こえてくる。 ……そして言い返せない自分が悲しい。 というかもっと言ってほしい、あわよくば誰かに説教をお願いしたい。

お兄ちゃんとはなんだかんだで仲がいいし、ユーノに至ってはしょっちゅうメールしてるみたいだし。 母さんはお買いものまで一緒にいく始末。 ほんと、誰かに止めてもらいたい。

 とりあえず、ざわざわしだしたみんなを落ち着かせるためになのはと二人で説得してみよう。

 フェイトは目配せでなのはに合図して、みんなに着席を促した。



           ☆



「お前、その手に持っているブラを渡せ」

「そうやってクンカクンカする気だろう。 貴様に嗅がせる匂いではない! 去れ」

 迂闊だった……。 あのとき、家を出るときに気付くべきであった。

 フェイトのブラを装着してたことを

 何かがおかしいと思っていた。 まず店内に入ってから他の客が俺のことを露骨に避けていた。 そして店員もどこかに連絡をしていたのだが……もちまえのポジティブさで地下アイドル(大嘘)の俺が来たことで騒いでるのかと思いきや……まさか管理局員のおっさんに通報していたとはな。 やることがえげつないぜ

「お前さぁ、いまの自分の状況わかってるか? 俺も捕まえたくないの。 今月でお前のこと何回捕まえたと思ってんだ? こうやって俺とお前が職務質問するの何回目か知ってる? 今月で10回目だぞ? なんで3日に1回はお前のふざけたひょっとこお面を見なきゃいけないんだよ。 顔面粉砕するぞ、ミンチにすんぞ」

「奇遇ですね、俺もなんで3日に1回の割合でおっさんと密室で過ごさなければいけないのかとずっと思っていたんですよ」

「それは俺だって同じだよ。 いまからお姉ちゃんたちと遊ぶんだからさっさとこい」

 おっさんは溜息をつきながら俺のほうににじり寄る。

 そもそもなぜ俺がこんな目に合わなければいけないのか? 俺はひょっとこのお面をつけて黒のコートを羽織って、間違えてフェイトのブラをつけて牛乳を買いにきただけなのに。

 おっさんの足に合わせてこちらも下がっていくと、電柱のところに不審者の張り紙が貼ってあった。

『不審者に注意!! 黒のコートを羽織り、奇天烈なお面をかぶった下着泥棒が多発しております! 住民の皆様はみつけたらこちらの番号までご連絡お願いします!』

「ほーう……なるほどね。 こんなところに同志がいるとはな。 もっとも下着泥棒はしないけど」

 そしてこいつのせいで俺はおっさんと密室で夜を過ごすことになるんだな。

 俺は名前もしらない、顔も知らない相手に向かって呪いをかけることにした。




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