58.リンディメッシュ
おいぃぃいいいいいいぃぃいいいいッ!? なにやってんだよこのアヒル!? お前リンディ大魔王になにやってんだよ!?
目の前で倒れているリンディさんとヴィヴィオと戯れてるガーくんを交互に見ながら思わず心の中で叫ぶ。
くそっ! ガーくんに命令したのは俺だから、ガーくんを責めようものなら俺の責任になってしまうし……。 いや、もう既に俺の責任のようなものなんだけど。
「やっべ、まじどうしよう……。 とりあえず落ち着け、落ち着くんだ、上矢俊。 大丈夫、大丈夫。 俺ならこれしきの試練なんてどうってことないさ。 そう、アレだ。 大嘘憑きで虚構にしよう。 よーし、そうと決まれば」
息を大きく吸い込み、吐き出す。 それを何度も繰り返し、両手でやれやれ……の体勢をとりながら括弧つけてリンディさんに向かって言った。
「『リンディ・ハラオウンの存在を虚構ことにした』」
──3分後
「なんでこんなときに限っておっさん並のチート能力がないんだよおおおおおおおおおお!? ふざけんな、神様死ね!!」
「パパがこわれたっ!?」
3分経ってもリンディさんの存在が消えることはなかった。 とんだミステイク。 こんなときに転生チートは羨ましいぜ。
しかしいったいどうする……? よーく考えるんだ、リンディさんになんと説明しよう。 いや、ここはシラを通して『あれ? リンディさん。 玄関の前で寝てると風邪を引きますよ?』 っと紳士的な態度で接したほうがいいような……。 あ、でもリンディさんに嫌われてるし、それは逆効果かもしれないな。
しょうがない──かくなるうえは
「いいか、ヴィヴィオ。 これから起こる出来事はママ達には内緒だからな? 約束できるか?」
「うん! ヴィヴィオできる!」
「よーし、良い子だ。 それじゃ、パパはこの人を埋めるための穴を庭に掘ってくるからそれまでこの人のことを見張っておいてくれ。 なんならザオラルでも唱えておいてくれ。 あ、やっぱり起きたら面倒だからザラキ唱えておいて。 もう全力で唱えておいて」
「えっと……ザラキ〜?」
ヴィヴィオはリンディさんの頭を可愛らしくペチンペチンと叩きながら、とても間延びしたザラキを唱える。 可愛すぎ、食べたい。
「よーし、頼んだぞ。 パパ、マジで本気だすから」
土木関係者が使うようなスコップをもって庭に出る。
俺の出した結論とは──リンディ・ハラオウンを庭に埋葬することである。
☆
一心不乱に穴を掘り始めること10分、見た感じ、2mくらいの深さにはなっただろうと思う。 これくらいあればリンディさんを埋葬することなどたやすいだろう。
「しかしアレだね。 いつか俺も殺人犯すんじゃないかと思っていたけど、まさかリンディさん相手に殺人犯になるとは思わなかったよ」
思えば、リンディさんとは色々あったもんだな。
「リンディさんとの思い出といえば、あれが一番鮮明に覚えているな。 魔法熟女 ハイパーマジカル☆リンディちゃん。 俺がリンディさんとの関係を良好なものにしようと思って考えたキャッチフレーズなのに、フルボッコにされたんだよな」
「そういえばそんなこともあったわね。 クロノとなのはちゃんとフェイトが止めなかったら病院送りになってたわよね」
「そうそう、『輝く笑顔に魅惑な唇。 ショタをちょっぴり摘み食い♪ 9歳なんかに負けないわ、大人の魅力で悩殺しちゃう。 ハイパーマジカル☆リンディちゃんよ☆』と言った瞬間俺の意識飛んだしな」
「懐かしいわ。 本気で殴って壁が陥没したのよね。 ところであなた、こんな所でなにしてるのかしら?」
「何って? そりゃリンディさんを埋める穴を──ん?」
いったい俺はさっきから誰と会話しているのだろう?
今までごく自然な会話をしてきたから考えていなかっけど、これって……
壊れた機械のように振り向くと、
「パパー、ザラキしっぱいしちゃったよー」
と、困ったような顔で俺を見つめるヴィヴィオと
「あなたってほんと愉快な頭してるのね……!」
いまにも襲い掛かってきそうなリンディさんがいた。
「ベ……ベキラゴン……」
「残念、リンディには攻撃が外れたようだ」
ぼうけんのしょはきえてしまいました
☆
「リンディさん、そろそろ穴の中の土が半分を超えてしまいましたよ。 このままだと娘さんの旦那が死んでしまいますよ」
「いっそ死んでしまったら?」
「あっ ちょっ!? もう無理ですって、マジ無理ですって!? このままじゃ俺リアルに埋まりますから!?」
「一度実験したかったのよ。 人間の底力というものが、どれほどの強さを発揮するのか」
「ふざけんなババア! 熟女! いつまで若作りしてんだよ、引っ込め!」
「おっと、手が滑ってしまったわ」
「うそうそうそうそっ! リンディちゃん、超絶可愛いよ!」
リンディさんによって自分が掘った穴に埋められている俺です。 まさかリンディさんが生きているとは……。 それにしてもリンディさん、まじで俺を殺すことに躊躇いがないんだけど。
「あ、そういえばリンディさん。 桃子さんから聞きましたが今日はヴィヴィオと俺の生活を見に来たそうですね」
「正確には、フェイトの娘であるヴィヴィオちゃんを見に来たのよ。 ゴキブリであるあなたには興味ないわ」
この人は棘のある言葉をいれないと、満足に俺と会話すらしないのか。 ツンデレにもほどがある。
リンディさんが俺を埋葬する作業をやめて、ヴィヴィオに向き合う。
「こんにちは、ヴィヴィオちゃん。 私はフェイトママのママのリンディ・ハラオウンよ」
「ママのママ?」
「そう、ママのママよ」
「う〜?」
ヴィヴィオは混乱したらしく頭を抱え、隣にいるガーくんに助けを求める。 ガーくんもこれには困惑しているらしく、頭にクエッションマークを浮かばせていた。 しょうがない、パパが助け舟をだしてやろう。
「ようするに、ママの中のママ。 ママで一番権力があって強い人だよ」
「ギルガメッシュ?」
「そうギルガメッシュ。 いや、リンデメッシュだな」
「なるほど〜」
ヴィヴィオは納得したらしくしきりに頷いて、リンディさんに抜群のスマイルでいった
「リンディメッシュさん、こんにちは! ヴィヴィオです!」
「ぶはぁっ!」
何故か噴出した俺だけ怒られた。
☆
ヴィヴィオの説得もあり、なんとか死なずに済んだ俺はリンディさんを家に招きいそいそと紅茶を用意する。
「リンディメッシュさん! このえほんよんで!」
「ええ、いいわよ。 ところでヴィヴィオちゃん? リンディメッシュはやめてくれないかしら? できればもっと短くまとめてほしいな〜、なんてことを思ったり」
「え〜っと……ディッシュ?」
「何故そこを選んだのか小一時間ほど問い詰めたい」
あのリンディさんをここまで困らせるとは……我が家最強のアイドルは恐ろしいぜ。
現在の俺は汚れた腋だし巫女衣装を洗濯機にかけ、Tシャツと七分のズボンを穿いている。 こうしてみると、やっぱり巫女衣装って涼しかったな〜、と思ってしまう。 やべえ……あんまりこんなことを思っていると、キャサリンにハントされそうで怖い。
「それにしても、どんな教育を施せばあんな単語が出てくるのかしら。 なのはちゃんとフェイトがいるから大丈夫だと思っていたけど……ちょっぴり不安になってきたわ」
まあ……ヴィヴィオ巻き込んでゲーム大会とかしょっちゅうやってますし。 休日は八神ファミリーとかきますし。
「たぶんヴィヴィオの将来は有名なコスプレイヤーですよ。 勿論俺が専属カメラマンで」
「なのはちゃんとフェイトが全力で逮捕してきそうね」
その場面が容易に想像できてしまう。
「ところでリンディさん。 来週に高町家に帰省するのですが、ハラオウン家は予定あいてますか?」
「そうねぇ……クロノは仕事で空いてないかもしれないわ」
「仕事熱心ですね」
「六課が異常なのよ」
あ、やっぱり?
「それじゃ、今回の帰省は大所帯になりますな〜。 まあ、人が多いほうが楽しいので個人的には嬉しいですけど」
「さすがお祭り大好き男ね。 ところで、あちらの家には帰るのかしら?」
「今回の帰省では帰りませんね。 もう少し経ってから俺一人で行きますよ」
「はぁ……。 毎度毎度、どうしてこうも変なこだわりを持っているのか。 そんな所が心配なのよ」
「ははっ、すいません。 けど、ありがとうございます。 感激ですよ、リンディさんに心配してもらえるなんて」
「勘違いしないことね。 べつにあなたを心配してるわけじゃないわ。 あなたのことで多少は悲しむかもしれないヴィヴィオちゃんとフェイトのことを心配してるの」
いつものリンディさんの物言いに、思わず顔がほころぶ。
「それにしても……いったいどこで何をやっているのかしら。 あの人は」
「また迷惑でもかけてるんじゃないですか? なんとなくそんな気がします」
「もしかしたら、管理局に追われてたりして?」
その答えに互いにおかしくなって笑い合う。 あの人ならありそうだ。
「まぁ……いつか会えますよ」
なんせ、常識の外側にいる人だしな。
ふと見ると、ヴィヴィオがお腹をさすっていた。 それと同時に訪れる軽い空腹感。
「そろそろお昼ですね。 ヴィヴィオもお腹すいてるみたいですし……リンディさんもどうですか?」
「そうねぇ……それじゃご相伴に預かろうかしら」
「パパー、ヴィヴィオもおてつだいするー!」
「ガークンモ!!」
全速力で駆けてくるヴィヴィオとガーくんをだっこしながら、俺はリンディさんに満足していただくための料理を頭の中で考えるのであった。
☆
まさか……あの子がヴィヴィオちゃんの空腹に気付くとは……。 ちょっとだけ見直したかも。
キッチンでヴィヴィオちゃんと料理しているあの子を目で追いながら、先程の光景を思い出す。
「意外と頑張ってるようで安心したわ」
若干ではあるものの、本当に微量ではあるものの、彼とヴィヴィオちゃんがちゃんと生活できているのか心配だった身としては、彼とヴィヴィオちゃんがこうやって仲良くしている光景をみることができて安心した。
「それにしても……あのアヒルって本当にただの動物なのかしら……?」
玄関を開けた先に待っていたあのアヒル。 私がしゃがんで抱っこしようとした瞬間にありえない速度でアッパーを決めてきたあのアヒル。
「……ちょっと体がなまってるのかしら。 う〜ん……はやてちゃんに頼んで、六課の訓練場を借りたりしよ」
流石にアヒルに負けたとあっては、フェイトにどんな顔をしていいのかわからないし。
そう決意をしたところに、件のアヒルがお皿にドリアをもって登場してきた。
「……負けないわよ」
「カカッテコイ!」
今度こそ……負けないわ!
『パパー、リンディメッシュさんとガーくんがカバディしてるよー?』
『リンディさんの名誉のためにも、フェイトママには内緒にしとくんだぞー』
『はーい』
……しまった!?