A's3.500円のお買いもの
「あ〜、ロヴィータちゃんに踏まれた股間が痛いわー。 ちょっと俺の周りの女の子達は人の股間を弄りすぎじゃないですかね。 なんなんですか? 痴女なんですか? 誘ってるんですか? 下のデバイスでロストロギアを封印ですか? ……夜は痴女になっちゃう魔法少女っていいかもしれん……。 でもあいつら少女じゃないから……当てはまるのはロヴィータちゃんくらいか。 キャロは除外するとして」
しばしロヴィータちゃんの痴女について考える。 あのボディを一生懸命使って誘ってくると思うと、何故か涙があふれてくる。 でも需要はかなりあると思う。 俺だってチンコは勃つし汁も零れてくる。
「パパー! おかしは何円までですかー!」
「お菓子は100円までですよー。 ガーくんも100円だからなー」
「「ハーイ!」」
隣で歩いていたヴィヴィオとガーくんが手を上げながらお菓子売り場の方向に走っていく。 おーい、走ると転ぶから歩きなさい。
夕食を作るためにヴィヴィオとガーくんと六課からスーパーへ移動してきた。 なのはとフェイトはいまだ六課で仕事中。 あと20分くらいで帰ってくるとはメールがきたけど……ほんとうなのだろうか。
「あ〜、管理局ってやっぱ面倒だよな。 マジ社畜の最先端をいってるぜ。 六課はゆとりの最先端をいってるけど。 けどそもそも六課は士気上げのための美少女部隊だし……ある意味一番確実に仕事をしている気はするかも」
管理局もクリーンな感じだし、そもそも上層部は実質はやてが握ってるようなもんだしな。 それにしてもヴィヴィオ……俺の隣にずっといるんじゃなかったのか……。
「うーむ……流石にお菓子の魅力には勝てないのか」
お菓子売り場に走るヴィヴィオを目で追いながら、愛しさ半分寂しさ半分で目的の食材へと向かった。
☆
──駄菓子
それは小さな子どもを引き付けてやまない魅惑な代物である。
5円チョコや10円ガム、30円の棒付きキャンディーなど、子供が手に取りやすい価格設定であり、対象者を小さな子としているため、その舌になるべくあった基準に作られている。
お菓子売り場に入ったら最後、子供はそこからお目当てのものを手に入れるまでは一歩も外部に出ることはない。
親からすれば魔の領域なのである。
そんな場所にヴィヴィオも例に漏れず立っていた。 というより物色していた。 目の前には毎週日曜日の朝に放送される超人気魔法少女アニメの100円指人形の箱が置いてあり、ヴィヴィオはそれを真剣な様子でじっと見つめている。
「100円かー……。 どれにしようかなー」
一つ手にとっては箱を上下に動かし、側面に耳を当てて音を確かめる。 カラカラカラという音が聞こえてくると、ヴィヴィオは黙って頷き元の位置に戻す。 既にこの行動は二桁を超えている。
ヴィヴィオは一緒にお菓子コーナーに入ってきたガーくんのほうに振り返る。
「ガーくんはなににしたの?」
「ガークンハハトサブレ!」
「わ〜! ハトさぶれおいしいもんねー!」
「ウン! ガークンダイスキ!」
アヒルにとって、ハトなどという存在は仲間でもなんでもないようだ。 そもそも仲間意識があるかどうかさえわからないが。
「ヴィヴィオハキマッタノ?」
「ううん。 どれにするかまよってるさいちゅうだよー」
腕組みしつつ、頭を左右に揺らすヴィヴィオ。 ヴィヴィオにとってみれば、この選びは真剣そのもの。
ここでミスを犯してしまうと家に同じ指人形が立っている光景を見ることになるかもしれないからだ。
そんなヴィヴィオを見てか、ガーくんも一緒になって箱選びに加わった。 大好きなヴィヴィオの役に立つこと、それはガーくんの生き方そのものでもある。
いまだに何故ヴィヴィオにこんなにも懐くのか、フェイト達がペットショップで遊んでいる間にどんな出来事があったのか、真相は闇の中である。
『ウーノ姉、あそこにいるのヴィヴィオじゃない?』
『あらあら、ほんとうね。 パパの姿が見えないようだけど……どうしたのかしら?』
『そんなことより声かけようよ。 おーい、ヴィヴィオー!』
二人揃って箱を選んでいる最中、誰かが遠くのほうでヴィヴィオを発見し声をかけてきた。
その声に反応してそちらを振り返ったヴィヴィオは、自分の名前を呼ぶ二人を視界に入れた途端、駆けだし買い物カゴをもっている人物に抱きつく。
「わーい! ウーノ! こんにちは〜!」
「ふふ、こんにちはヴィヴィオ。 今日は一人でお買い物?」
「ううん。 パパとガーくんといっしょ!」
とことことヴィヴィオの後ろをついてきたガーくんが、ウーノに向かって片手を上げる。
「オイッスー。 ミテミテー、ガークンコレニスルンダー」
そのまま子供が親にお菓子を見せびらかすように、ガーくんはウーノに自身が手に持っているハトさぶれを見せる。
「ヴィヴィオはねー、いまえらんでるの! ノーヴェはどっちがいいとおもう?」
「へ? あたし? う〜ん……こっち、かな」
ウーノの隣にいたノーヴェにヴィヴィオは自分が両手に持っていた箱を差し出す。 ノーヴェはそれを受けて、しばし迷った後に右のほうを指さしだ。
「そっかぁー……。 ヴィヴィオはこっちだとおもうんだけどな〜」
「じゃぁそっちでいいんじゃないか……?」
ノーヴェが指した方向とは反対側を振るヴィヴィオに、ノーヴェは困り顔でそう答えた。
「それより、ヴィヴィオ。 あいつはどこいるんだ? えーっと、ヴィヴィオのパパは」
「パパ? パパならここに──」
そこでようやくヴィヴィオは気づく。 自分の隣に大好きなパパがいないことに。
きょろきょろと周囲を見回すヴィヴィオだが、お菓子売り場にパパの姿はなく──
「パパ……まいごになっちゃったかもしれない……!」
はれて俊は迷子認定されたのであった。
必死そうな顔でノーヴェとウーノに伝えるヴィヴィオだが、二人ともそんなヴィヴィオに苦笑する。
二人にはどちらがどのような状態なのか検討がつくのだろう。
「それじゃ……迷子さんがヴィヴィオの元にくるまで私達は待っていましょうか」
「そうだねー。 あたしも丁度ヴィヴィオと話ししたかったし。 というか……それよりも何よりも、あたしはこのアヒルの生態がずっと気になってるんだけどさぁ……」
「ドクター曰く、『突然変異、もしくは誰かが憑依しているかだね。 まぁ生態ロストロギアと言われたほうがある種納得できるんだがね』 とのことよ。 あまり深く考えないほうがいいわね」
「やっぱこの家族化け物揃いだ」
「でもなのはちゃんは好きなのよね? それにフェイトちゃんも」
「うっ……! それは……まぁ。 あたし達に優しく接してくれたり、色々とお菓子のこととか教えてくれたし……。 それに……初めてだったよ。 戦闘機人の力にあんなリアクションを返されたの」
『えっ!? ノーヴェちゃんってそんな強い力もってるの!? へー! やったね! 力があると色々なことにチャレンジ出来るから、その力は大事にしないとダメだよー? 大事なのは、その力をもって自分が何を成したいのか、だよ』
初対面の時、ノーヴェは親しげにウーノと話しているなのはに軽いヤキモチを抱き、自分がいかに強い能力を持っているのかを誇示した。
それによるなのはの反応は、ノーヴェが思っているのと180°方向が違く、手を取り優しい笑みを向けるなのはに頬が朱に染まった出来事も記憶にまだ新しく残っている。
「オチとしてはなのはちゃんがノーヴェより凄まじい力を持っていたということかしら」
「あれは勝てない。 泣いて謝るレベル」
その後行われた軽い模擬戦でなのはの魔導師としての強さを垣間見たノーヴェ他、その場にいた戦闘機人たちに恐怖を植え付けたなのはであった。
ガーくんの背中に乗るヴィヴィオを見ながら、ノーヴェはもう一人の人物についてウーノに喋る。
「あのさぁ、なんでなのはさんはあいつの名前を呼ぶとき嬉しそうなのかな……?」
「あら? ヤキモチ?」
「そ、そんなんじゃないけどっ! ただ……あの俊とかいう奴、やっぱ好きになれないっていうかなんというか……」
既に『さん付け』のなのはと呼び捨てにされる俊。 これが人望の差なのだろうか。
俊に対してさほど嫌悪感を抱いていないウーノはノーヴェの言葉に首を傾げる。
「ウーノ姉は知らないかもしれないけど……空港火災のあの時──」
「ドクターの火の不注意で火災なり私達が全力をもって消火作業にあたり、自分たちが悪いからお金などを全額こちらが出して謝罪金を一人一人名簿調べて渡した結果、最高評議会に頭を下げて生活保護を受けることになったあの空港火災のとき?」
「う、うんまぁ……死者がいなくてよかったよね。 じゃなくて! その時だよ、その時! あたし達見たんだよ。 あいつが……ゴミを見るような目で大人を眺めていたんだよ。 一瞬だったけど、確かにあの目はそんな目だった……。 それでいて、なのはさん達やドクターの前ではニコニコした笑顔を浮かべていたりしてさ、なんというか……気持ち悪い」
必死に言葉を選び自分に話すノーヴェに、ウーノは困った顔をし、
「私の妹はそういった認識、そして見解を示しているのですが……ひょっとこさんはどう思いますか?」
「そうですねぇ……ノーヴェちゃんが処女かどうかで俺の態度も変わりますね」
「あなたがノーヴェから嫌われる理由が分かってしまいました」
「……え?」
下を向きながら必死に言葉を選んでいたノーヴェは、第三者の声に驚き顔を上げる。
そこには、買い物カゴを持った俊が立っていた。
自分がいま話題に出した人物で、自分がいま気持ち悪いといった人物。
「どうもー噂の気持ち悪い人物です。 お久しぶりですウーノさん。 スカさんはあれから忙しいですか?」
「そうですねぇ……泣き目で管理局に奉仕しているみたいです。 収入も安定してますし、私としては嬉しい限りなのですが……ちょっと体のほうが心配ではありますね」
「あー、それはご愁傷様です」
頬に手を当ててため息を吐くウーノに、俊は苦笑いを浮かべるだけに止める。
「もしよろしければ、近いうちに会っていただけませんか? あまりにも真っ当な人間に囲まれているせいでドクターが発狂しそうで……」
「……あの……それは俺が真っ当じゃないということですか……?」
「……」
「せめて何か言ってください!?」
視線を泳がせたまま、黙るウーノに俊は悲痛な叫びをあげる。 嘘をつけないウーノさんである。
「はぁ……」そうため息をつく俊はノーヴェのほうに振り返る。
「あー、君とは2度目くらいかな? 一応君がさっき言っていたことは間違いだからな」
指をさし断言する。
「俺はあの時、風に揺られて捲り上げられているなのは達のスカートをガン見していただけだから。 薄目でスカートをガン見していただけだから。 ほんとやましいことなんて一切ないから」
「ひょっとこさんの中ではどこからがやましい行動なのか気になるところですね」
間髪入れずにはいるウーノの突っ込みに、俊は照れ笑いを浮かべる。 べつに褒めているわけでもないのに。
「それにほら、あの時は俺って救出された子供の面倒みてたし。 あの子、親御さんとお姉ちゃんがくるまで俺の手を離さなくってさ。 まぁそれもちょっとの間だから記憶にないと思うけど。 それよりも、その後のなのはと話した場面のほうが印象深いと思う」
「ふふっ、色々と損な役回りですね」
「いやいや、助けたのはなのはだし。 俺のことなんて忘れてくれて構わないですよ」
ウーノと話す俊をみて、ノーヴェは唖然としていた。
自分が抱いていた人物とは程遠い真実、そしてポケットから飛び出ている小学生美少女ゲームに本能が警鐘を上げる。
『こいつは真性だ……!』
なのはとは違う意味でノーヴェに恐怖を抱かせる俊。
ガタガタと体を震わせ、ウーノの後ろに隠れてしまうノーヴェ。
それを見た俊は、何事かと思い優しい笑みでノーヴェに近づくが──
「く、くるなぁっ!」
「えっ!? まだ何もしてないんですけど!?」
「そのポケットから飛び出ているゲームが原因ではないかと思います」
ポケットを指さすウーノ。 俊はさりげない動作でゲームを奥底に隠し
「大丈夫。 ノーヴェちゃんはじっくりことこと煮込むから」
「ぎゃぁあああああああああ!? ウーノ姉! やっぱこいつ気持ち悪い!?」
ウーノに抱きつき泣くノーヴェに、俊は舌なめずりをしながら笑う。
完全に性犯罪者の顔である。
と、ここで俊の足を叩く人物が現れた。 下をみて確認する俊。
そこには怒っているのか、頬を膨らませたヴィヴィオが立っていた。
「パパ! まいごになっちゃダメでしょ!」
「あー、ごめんなーヴィヴィオ。 パパが迷子になっちゃったもんなー」
「そう! パパがまいごになったの! でもごめんなさいしたからゆるしてあげるー。 ヴィヴィオえらい?」
「えらいぞー。 それに可愛い!」
「えへへ〜」
しゃがんで頭を撫でる俊にヴィヴィオが抱きつく。
抱きついたヴィヴィオは頬をすりすり、ウーノとノーヴェの前でちょっとだけ甘えん坊な部分が露出してしまう。
ついでにガーくんも俊の肩に乗っかり、何故かタップダンスをしはじめる。
無言でガーくんを頭から振り下ろす俊。 何故かはしゃぐガーくん。 その光景は既に人類の理解の範疇を超えていた。
「で、ヴィヴィオ。 お菓子は何にした?」
「これ!」
思いっきり差し出すヴィヴィオの手には、俊自身も見ている朝アニメの魔法少女指人形がのっている。 俊はそれを受け取り、カゴの中へ入れる。
「おー、いいなこの指人形。 じゃあガーくんはどれにした?」
「コレ!」
「ハトさぶれ……。 アヒルじゃないからセーフということか? むしろ敵対関係にあるのかもしれない」
1人納得しカゴの中にハトさぶれを入れる俊。 そのカゴの中にはいくらやマグロ、イカにタコ、えびが揃っていた。
「今夜は海鮮丼ですか?」
「海鮮丼ですね。 にぎり寿司にしてもよかったんですが、それは仕入れた時にでもしようかな〜、と」
「ヴィヴィオぷちぷちすき!」
「いくらおいしいもんなー」
万歳して、自分の意見を述べるヴィヴィオの頭を撫でる俊。 撫でられて嬉しそうなヴィヴィオ。
「んじゃそろそろ俺らは帰るか。 マグロはヅケにしたいし、いくらも手を加えたいしなー。 ほら、ウーノさんとノーヴェちゃんにばいばいしていこっか」
「うん! ばいばい!」
「ジャーナー!」
一生懸命手を振るヴィヴィオに、軽く手を振るガーくん、そして頭を下げる俊に、ウーノは流麗な動作で手を振り返しノーヴェは俊を警戒しながらもヴィヴィオに手を振り返したのだった。
☆
夕食も済んだ高町家。 後は風呂入って各々自由時間を過ごすだけなのだが──
家のリビングでなのはが俺のことを見つめながら、指でテーブルに一定のリズムを刻んでいく。 なお額には怒りマークが具現化している模様。 コメカミもひくひく動いている状態だ。
「俊く〜ん……? 3人で決めたよね〜? ヴィヴィオのお菓子は100円までだって」
「仰る通りです……。 だけどさなのは──」
「『だけど?』」
指の動きが止まった瞬間、俺は言葉を呑み込んだ。
だって、どんな言い訳をしようとも──
『みてみてフェイトママ! ゴメットちゃんでた!』
『わー! よかったねーヴィヴィオー。 ところで、100円のお菓子をなんで5個も買ったの?』
『なのはママとフェイトママとガーくんとヴィヴィオとパパのぶん! みんなのもかってきた!』
『あ〜……そういうことか』
ヴィヴィオが100円のあのお菓子を5個買ったことには変わらないのだから。
しかしヴィヴィオよ。 いつの間に買い物カゴに入れたんだ。 会計の時にマジで唖然としたんですけど。
ヴィヴィオとフェイトの会話を聞いてなのはが頭を抱える。 ママって大変だな。
「あー、そのー、なのは? 娘が俺達を思って行動してくれたんだし、怒っちゃダメだぞ?」
「うぅ……そんなこと俊くんに言われなくてもわかってるよぉ……。 でも、やっぱ今後のことを思うともうちょっとヴィヴィオの教育も考えなきゃダメかなー、なんて思うし……。 最近甘やかしてる気がするもん……。 ヴィヴィオは可愛いし、可愛いし、可愛いし、わたしの自慢の娘だけど、抱っことかずっとしていたいけど、やっぱ俊くんとフェイトちゃんが甘い分、わたしがしっかりしないと……!」
「うーん、それはそうだけどな。 でもまだ5歳だし大丈夫なんじゃないの?」
「そうかなー? 大丈夫かなー? ママとして心配だよー……」
さっきまでの威勢はどこへやら、急に子犬のようになったなのはをあやしながら俺も今後のことを考える。
「(六課解散まで残り半年か)」
風呂遊びの道具をもって、俺の所へダッシュで駆け寄ってくるヴィヴィオ。
「パパー! おふろはいろー!」
「おー、いいぞー!」
『フェイトー、サブレガメニハイルー……』
『いや……普通に食べてたらそんなこと起こらないんだけど……』
「あ、お母さん? ちょっと子育てのことで……。 はっ!? いや、まだそういうことはしてないから! べ、べつにわたしに魅力がないわけじゃないもん!」
六課解散までには、俺個人の問題のほうも解決しよう。
俺だってもう家族をもっているんだから。