A's18.球技大会@
「ねぇ俊くん、今日はバイトある?」
帰りのホームルーム間近に隣の席のなのはが椅子を近づけながらそう聞いた。 現在のなのははバリアジャケットのときとは違い、ツインテールではなくサイドテールだ。 ツインテ亜種みたいなものだな。
「あるよ。 ていうか、俺のバイトのシフト知ってるだろ。 俺のバイト先は翠屋なんだから」
「じゃあ今日は休もう! 店長の娘の命令です!」
「店長の娘は昨日、ケーキ運ぶときにすっころんだよな」
「あぅ……思い出させないでよバカ……」
なのはは昨日の出来事が頭によぎったのか、顔を真っ赤にして俯いた。 男の俺はスカートの中をもろに見えたし、顔に精液のようについたクリームに興奮を覚えていたのだが、本人はやっぱり恥ずかしかったようだ。
「あんな馬鹿でかい魔力砲撃ったり、魔法に関しては天才と言われてるけど……案外魔法に結びつかないところでは小学生のままだよなぁ、なのはって」
「だ、だってあんなところにナプキンがあったから──」
「何もないところで転んだぞ?」
「も、萌えを研究してて……」
「ナイス萌え!!」
うぅ……魔法ならあんな失敗しないのに……、そういいながら俺の机の上にでこをこつんと置くなのは。 男性局員が見たら萌え死んでるだろうな、今頃。
なんせいま目の前で俺のシャーシンをぽきぽき折ってるこの女の子、高町なのはは管理局(萌え)最強の魔導師として知らぬ者はいない存在なのだから。
「いまなんか不愉快な紹介のされ方をした気が……」
「まぁまぁそういうなよ(萌え)なのは」
「あれっ!? なんかいまわたしの名前の前に変な単語が付かなかった!?」
「まぁまぁそういうなよ、(おかず)なのは」
「 まって最初のほうがいい! もう最初のほうでいいから後者はやめて!」
シャーシンを折る手を止めてまで主張するなのはに、俺も渋々ながら言うのを止める。 なんてわがままな子なんだ。
再び俺のシャーシンをぽきぽき折り出したなのは、ちょっとキミいい加減にしなさい。 お前が俺のシャーシン界隈で何と呼ばれてるか教えてやろうか? 破壊の権化と呼ばれるんだぞ。 俺は罪のないシャーシンを破壊しすぎだ。 だが可愛いから許す。
「というか、なのはも仕事あんだろ」
「上司が変わってくれたよー。 学生だから無理しないようにって。 だから今日はオフだにゃー」
「オフなのかにゃー。 ──そいつ男?」
「ううん、もうすぐ三十路の女性教導官」
「…………」
「他の人の話だと、教導にかこつけていい男に手当たり次第アタックかけてるみたいだよ? え〜っと、なんだっけ? 逆なんとかってのもしてるっぽい」
大丈夫なのかその女性教導官
「ついたあだ名がまんじゅうとか」
「ぶッ!?」
「わたしは意味がわからなくて色んな人に聞いたんだけど、苦笑するだけで教えてくれないんだよね〜」
「なのは、まんじゅう大好きって言って?」
「へ? まんじゅう大好き。 これでいいの?」
「保存完了っと。 これでまたネタが──」
「まって俊くん!? いったいなんなの!? なんか決して越えてはいけないラインを越えてしまった感じがするんだけど!」
「まぁ人生色々さ。 大丈夫、なのはは可愛いから」
「いやなにそのごまかし。 ……納得いかないけどまあいいや」
帰ったらお母さん辺りにでも聞こうかなー、なんてことを言いながら俺の指に消しゴムをかけていくなのは。 キミ俺の存在を消したいの? そういう意思の表れとみていいのかな、この行為は?
消しゴムで俺の指を消しつつ、なのはがちょっとトーンダウンして話しかけてくる。
「けどさー……なんか身近にそういう人がいるとわたしも心配になっちゃう。 その人、仕事ばっかりやってたからいま慌てて結婚相手探してるんだよね。 まぁ独り身は嫌だからってのが理由みたいなんだけど。 なんかその人、男性局員を獲物というかそういう物としか見てなくて──なんかそれってとっても悲しいことだとおもうの。 わたしはまだ彼氏とかいないけど気になる人はいるし、いま胸に抱いてる恋心を大切にしたいって思うけど──もしわたしがあの人の立場になったらわたしもあんな風になっちゃうのかな? 結婚に焦って、心をなくしちゃうのかな?」
なのは小学生の頃からちょっと抜けてる気があるけど、人一倍大人な精神面を見せるときがある。 フェイトのときだって、はやての時だって、俺のときだって。 そしていまだって。 現役高校生の俺らには普通関係ない話であり、笑い話にしかならないようなものなのにな。
いつの間にかなのはは消しゴムをかけることを止めていた。 なのはは手を俺の手の甲の上に置いていた。 この手の位置が俺にとって丁度よかった。 置かれた手をそっと両手で包み優しく笑いかける。
「心配すんな。 俺がいる限り、愛も恋も忘れさせないさ」
俺はいつだってそばにいるぞ。 なんせ俺にとっての初恋の女の子なんだ。 釣り合わないと分かっていても絶対に俺は離れないぞ。
自分の中でそう誓う。 例え住む世界が違っても必ず俺はキミの隣に立ち続ける。 そう誓う。
「って、なんだよなのは。 そっぽ向かないでくれよー、折角カッコよく決めたのにー」
折角決めたというのに、当のなのははそっぽを向いてこっちを見てくれない。
「こ、こっちみるの禁止! み、みちゃダメっ!」
「えー、なのは可愛いから目の保養にしたいのに」
「はぅ……」
手は放してないから嫌がられてはいないはず。 ……いないはず。 うん、きっと嫌がられてない。 大丈夫、きっと大丈夫!
互いに手を離さない俺らの前に、ぬぅと誰かの影が作られた。 その影に反応して顔を向けると、ツーサイドアップにしたアリサが一枚の紙を目の前に差し出しながら──口から砂糖をおもむろに吐き出した。
「きゃぁーっ!? アリサちゃん大丈夫!?」
俺の机に大量に吐き出された砂糖に驚きなのはが心配の声を上げる。
「大丈夫じゃないわよ、あんたらのおかげでいつまでもホームルームが始まらないのよ。 はやてなんて瞳にハイライトがないわよ」
「あぅ、ご、ごめんなさい」
「まったくもう。 ほら、今日は球技大会のチーム決めるためのホームルームなんだから─
「アリサが吐いた砂糖、1グラム500円!」
『10グラム頼む!』
『こっちは7グラム!』
『俺は15!』
「はいはい待て待て! 10グラムに制限させてもらう! じゃないとすぐなくなる!」
『じゃあ俺も10グラム!』
『俺も!』
『私達も!』
「どうするアリサ! 砂糖がもうない! 早く口から吐いて痛い痛いッ!? ごめんなさいごめんなさい、謝りますから頭部は、頭部は勘弁してください!!」
「なのは、こいつのどこがいいのかさっぱりわからないんだけど」
「ごめん、わたしもわかんない」
「ふーん、まぁいいわ。 ほら、さっさとホームルーム始めるわよー! 今日は先生出張なんだからぱっと決めて帰るわよ!」
『はーい!』
☆
「球技大会かぁ。 わたしは苦手なんだけどなぁ」
「なのはは運動苦手だもんね」
「あ、フェイトちゃん」
俊くんとアリサちゃんが教壇に立って話を進めていく様子を見ながら呟いた独り言にフェイトちゃんが応える。 フェイトちゃんはわたしの親友で小っちゃい頃に色々あったけど今は一番の仲良しさんです。 子どもの頃からスタイルはよかったけど、中学に入ってからスタイルもぐんぐんよくなってきて、今では学年No.1のスタイルの持ち主さんです。 羨ましい……。 フェイトちゃんは綺麗だし、家事も炊事も出来るし、気立てがいいし……。 うぅ……かないっこないよぉ。 わたしはいまだに童顔って言われること多いのに……。
「それにしてもなのは、さっきはとってもかわいかったよ。 ほら、この場面とか──」
「にゃぁーっ!?」
フェイトちゃんが見せてきた携帯画面には先ほどの、その……俊くんとの出来事の場面がしっかりと録画されていた。 い、いったいいつの間に録画してたの?
「まぁクラスメイト全員とも録画してたけどね」
「ほ、ほんと?」
「うん、もうバッチリ」
「うぐぅ……、ま、またわたしと俊くんの間に変な噂が──」
「立ったら大変だから俊は私に任せて?」
「いやフェイトちゃん、それは間に合ってるよ」
にこりと笑顔でなのはの言葉を遮ったフェイトに、なのはが笑顔で応えた。
「いやいや大丈夫だよなのは。 ちゃんとなのはも貰うから」
「いやいやフェイトちゃん、わたしがフェイトちゃんを貰うから」
お互い論点がずれてることには気づいてない。
「でもフェイトちゃんはいいよねぇー、運動神経いいからガチ勢の野球のほうにいくんでしょ? 俊くんはそっちが内定してるし、はやてちゃんもアリサちゃんもすずかちゃんも運動神経いいから、わたしだけバレーのほうに行く未来が……」
「え? なのは聞いてなかった? なのはも今回は野球のほうだよ? というか、今回はちょっと特別だからどの学年のクラスもバレーを捨てて野球に全戦力を注いでるよ」
「ほぇ? なんで?」
よよよとフェイトちゃんに泣きついていたわたしは顔を上げる。 おかしいなぁ、去年はそんなことなかったのに。
そう疑問を持ったわたしにフェイトちゃんは優しく教えてくれた。
「今回は特別に優勝したチーム、まぁ優勝したクラスには過去に没収した代物を全て返すって校長サインが書かれた紙が全クラス委員に配られたの。 それに、MVPに輝いた者は夢の国への招待券があるとかないとか」
「へー、なんか太っ腹だね。 いったいなんでだろう?」
「どこぞのひょっとこが男衆を集めて校長先生の自宅に夜襲をかけて取り付けたった噂もあったりするんだけどね……」
「あぁ……どこぞのひょっとこね」
二人して教壇でレギュラーを決めているどこぞのひょっとこを見つめる。 退学にされていないことが学校の七不思議とされている人物だから……本当にやったのかしれない。 でもでも、いつ夜襲なんてかけたんだろう? 俊くんが夜中にベッドから移動したら分かるのに。
でもそんなことより──
「じゃあ今年は最初から最後までずっと一緒!?」
「まぁ元々なのはは去年もずっと私達と一緒に行動してたでしょ? ──チアガール要員と殺伐とした空気をリフレッシュさせる存在として」
「この学校はわたしのことをなんだと思ってるの?」
そろそろこの学校について疑問を持ち始めたよ。 それにしても、そっかぁ、チアガールかぁ。 今年も着ることになるんだなぁ。
……お腹周り大丈夫だよね?
誰にも悟られないように、そっとお腹周りを触る。 うん、問題ない。 見せても問題ないよ!
「さ、なのは。 私達も話し合いに参加しよ」
「うん!」
フェイトちゃんの言葉に頷いたわたしは、差し出されたフェイトちゃんの手をしっかりと握り、俊くん達がまつ教壇へと向かった。
☆
基本的にレギュラーと作戦は俺とアリサで決めることとなった。 勝手知ったるなんとやら、流石に俺もアリサも10年間も友人を続けていると相手が何をしたいのか、言いたいのかが手に取るようにわかってくる。 いまだに魔導師組はわからないときがあるけど。 魔導師って意外と何考えてるかわからんときがあるんだよな。
現在、教壇にはスタメンとベンチの枠と乱闘用の枠にヤジ用の枠、そしてハニートラップ枠が用意されている。 勿論、スタメンとベンチ枠以外は俺の手書きだ。
「俊くん、こんなことばっかりしてるからわたし達のクラスは動物園って呼ばれるんだよ? わたし達だけクラス替えなかったし」
「ババ様の不思議な力が働いたんだろ」
「それどこのグンマー?」
「違うわよなのは。 女子は楽園、男子は鬼畜が今のあたし達のクラスの呼称よ」
「勇者王のロヴィータちゃん連れてこないと」
「ヴィータちゃん昨日の夜まで仕事だったからいま寝てるんじゃない?」
「ふーん、寝込みを襲うならいまの時間帯か。 まぁそんなことより、レギュラーとベンチを決めてくぞお前ら──っていつになったらはやては降りるの?」
さっきからずっと俺の背中に負ぶさっているはやてに話しかける。 小柄な割に自己主張が激しすぎる胸ががんがん当たってるんですけど!
「もうちょいしたら」
まぁ俺も俺で嬉しいし、役得だからいっか。 うへへ……たっぷり堪能してやるぜ……。
はやてに気づかれないように舌なめずりをしていると、フェイトと一緒に隣にやってきたなのはが両手をこちらに広げていた。
「なにしてんの?」
「だっこ」
「前がふさがると書けないから、フェイトにだっこしてもらいなさい」
「わかった。 フェイトちゃんだっこして!」
「えぇっ!? 流石にそれは予想外なんだけど!?」
両手を広げていたなのははそのままくるりと回転し、フェイトに両手を差し出してきた。 驚き声を上げるフェイトだが、周りからの『ほら……もっと百合百合しろよ……!』という無言の圧力によって渋々半分、照れ半分でなのはを抱っこした。 なのはとフェイトの身長に差異はほとんどない。 それでもフェイトはなんとかなのはを抱っこしようとするもんだから、その体勢は図らずとも──
「なのはとフェイトがえきべ──」
「いい加減に決めるわよボケナス。 ほら、あんた達二人もこのバカの思い通りにならない! まったく……あたしだって没収品を取り返したいの。 だから──あんまり遊んでるとどうなるか分かってるわよね?」
「女帝がキレたぞ、これより本気モードに全員入るようにッ!!」
チョークが一瞬にして蒸発したんだぞ? 誰でも命は欲しいよな?
だっこされたなのはとだっこしたフェイトを隣に並ばせ、ようやく作戦会議を始める。 板書はすずかが役を買って出てくれた。
「うし、じゃあレギュラーだけどこれはまぁ女子が5人、男子が4人のレギュラーにベンチにパチンコの名手である佐和田と吹き矢の名人韋駄天御猿でいいよな」
「明らかにベンチ二人が何か仕出かしそうだけど……まぁ異論はないわ。 女子はあたしとすずかとフェイトとはやてとなのはでいいとして、男子は?」
「俺と野球部三人で問題ないだろう」
「オッケー。 それじゃ次はポジションだけど──」
レギュラーの枠に名前を書き、その横にポジションを書いていこうとした矢先、隣からなのはの慌てた声が割って入ってきた。
「ちょ、ちょっとまって!? わたしがレギュラーなの!? そ、そんなダメだよ、わたしよりもっと運動神経いい人がいるんだし──」
「違うんだよなのは。 このクラス全員がお前がわたわたしながら一生懸命プレーする姿をみて萌えたいんだ」
「鬼畜だ!? このクラスメイト達鬼畜だよ!?」
「だがなのはに怪我されると困るから、9番でライトにでも置いていて」
「いや、それだと長打打たれたときに困るわ。 ファールゾーンで遊んでおいてもらいましょう」
「言ってよ! それもう戦力通告だしてよ! そっちのほうがまだいいよ!」
わんわんと俺の制服に顔を押し付けるながら泣くなのは。 優しく頭を撫でつつ穏やかな口調を意識し喋る。
「冗談だよなのは。 なのはには三塁を守ってもらう。 んでショートにフェイトを置く。 重要な役割だからな? しっかり頑張るんだぞ?」
「ほんと? なのは戦力外にならない?」
「ならないならない。 なるわけない」
下から覗き込むように聞いてくるなのはに、首をぶんぶんと横に振りながら答える。 ぱぁとなのはの顔が明るくなる。 ほんと分かりやすい奴だよな。
「それじゃなのはは9番でサードに決定ね。 俊はどこにいく?」
「そうだなー、1番でキャッチャーにしようと思ってるんだけど」
「あら? 1番ってのは分かるけど、キャッチャーは意外ね。 てっきりピッチャーかと思ってたけど」
「ピッチャーは女子にやらせようと思ってな。 ほら他クラスも女子はいるだろうし、やっぱり女の子が投げるほうが華があるし、クロスプレー危ないだろ?」
「ふーん──本音は?」
「ヤジを飛ばしやすいから」
男衆が一斉に頷く。
「ま、まぁ……好きにしていいわよ。 どうせキャッチャーは男子に任せるつもりだったし。 なのはよかったわね、あんたの凡打は全部俊がカバーしてくれるわよ」
「まったくもう……俊くんは本当にわたし離れが出来ないんだからー」
「離れたくないんだもーん」
「あんたら今度は顔面にゲロ吐くわよ」
ごめんなさい。
「さて、フェイトをショートに置くとなるとピッチャーはあたしかしらね?」
胸を張って両手を腰に置くアリサ。 まぁ確かにアリサがピッチャーなら問題ないだろうな。
「一応、肩のことも考えてはやてと交互にしようと思うんだけどね。 それでいいはやて?」
いまだに俺の背中に負ぶさってるはやてに話しかける。 こいつは子泣き爺か?
「ええよー。 それじゃピッチャー以外のときはファースト守ろうかな」
「それがいいわね」
「というか男は元々外野だから、おまえらで内野決めていいぞ。 長打打たれたときにきちんと処理できる奴が外野にいないと負ける」
「あら俊? それはあたしとはやてが長打を打たれるってことかしら?」
アリサが俺の口を引っ張りながらそう聞いてくる。 後ろからははやてもアリサとは逆方向の頬を引っ張る。
「ひょ、ひょんなことひょまいません(そ、そんなことはございません)」
引っ張られているのでうまく口が回らずに変な言葉が飛び出す。 それを聞いて満足そうにパッと手を離すアリサ。
「まぁ頼れる外野がいるのはありがたいしね。 ただし──処理を誤ったらどうなるか分かってるわよね?」
クラスメイトの半数が覇気により消し飛んだ。
しかし、いまのポジションを見ると必然的にすずかがセカンドになるな。 すずか的には大丈夫なんだろうか?
なんてことを考えながらすずかの方をチラリとみると、笑顔で指を輪っかの形にした。 よし、本人の承諾を得たし問題ないな。
後は打線か。 俺となのははトップとケツで決まったけど、他はどうするかな。 ……ここは経験者に聞くか。
「野球部的にはどういう打線にするよ?」
肌が浅黒くガッチリとした体型の野球部Aに話を振る。
「そうだな、萌えが9番でお前が1番なら7と8に野球部を置くな。 お前に必ず回すような打線にする。 後はお前が打ってくれるだろ? んで、前にも強打者を置く意味で俺が4番で打つ。 後はそうだなぁ、2番にフェイトさんで3番に女帝で5番6番をはやて閣下にすずか良識人で固めるってのはどうだろう?」
さらさらとレギュラーの枠に名前とポジションを書きながら埋めていく。 ふむふむ、確かにいい塩梅だな。
「うし、じゃあそれでいくか。 ってことでいいかな、女帝」
「今度言ったら泣かせるわよ。 あたしとしては異論なしだけど他の皆は──」
アリサがクラスを見渡す。 全員ともOKの意思表示をしているのを確認して決定の文字を書く。
「じゃあこれで決まりね。 あたしはこれを職員室に出してくるけど、あんたはどうする?」
「男衆と乱闘の相談を」
「あたしが先生に怒られるんだからほどほどにしてよね」
はーい善処しまーす。
すずかを連れてげんなりしながら職員室へと向かうアリサ。 ツーサイドアップにしている髪がぴょこぴょこと揺れる。 がらりと音をたてて閉じられた扉を眺めながら、おんぶしているはやてに話を振る。
「アリサの髪型って可愛いよな。 俺あの髪型大好き」
「本人は中学生時代にショートにしたけど誰かさんに爆笑されたあげく、小学生時代の髪型が一番かわいいと言われてしもたからなぁ」
「いや……爆笑したのは悪かったけどさ……」
だってしょうがないだろ。 ショート似合わなかったんだし、シャマル先生と被ってたし。
「……わたしも髪型かえよかなー」
「いや、はやてはその髪型で可愛いと思うぞ?」
「そ、そやろか?」
「せやせや」
うんうんと首を縦に振る。 はやてはそれが一番可愛いよ。 ふいに背中に感じる重みが消えたかと思うと、はやてが回り込んでジっとこちらを見つめてくる。 小柄なはやてに見つめられると、必然的に上目使いの体勢になって──なおかつ制服も少し緩めてるから位置次第では胸も見える。 ほら、ここの角度から目を細めにすると……ッ!
「俊くん?」
「俊?」
普通にバレてたみたいです。
……はやても気づいてるなら言ってくれればいいのになぁ。
☆
翠屋のテーブル席に5人の女子高生と1人の男子高生が座っている。 男子高生の両隣には男子高生の手を握っている金髪の美人女子高生と腕組みしつつケーキを食べさせている女子高生が、向かい側には頬を膨らませ、メロンソーダをぶくぶくと泡立てている栗色髪の女子高生とそれを宥める紫髪の女子高生、それらを見ながら呆れ果てるツーサイドアップ女子高生の姿があった。
呆れ果てている女子高生、アリサがこの形容しがたい空間をぶち壊す。
「そういえば、今回のMVP賞金は夢の国の招待券だけどあんたは誰と行く気なの?」
勿論、この場においてアリサが『あんた』呼ばわりする人物はただ一人しかいない。 この場において唯一の男子高生のことである。 あんたと呼ばれた人物は、はやてに餌付けをされながら答える。
「なんで俺がとること前提なんだよ。 もしかして取ってほしいの? おまたきゅんきゅんさせたいの?」
「去年のMVPだったからよ。 で、誰と行くつもりなの?」
「そりゃまぁ──」
そこまで言いかけて彼を言葉に詰まった。 別に彼の周りからいきなり酸素が消えたわけではない。 彼が失語症になったわけではない。 彼はただ、周りにいる三人の女の子の気迫に圧倒されたのだ。
手を握っていた金髪美女ことフェイトはニコニコ笑顔で手を締め上げ、餌付けをしていたはやては『わたしやろ?』とそれがさも当たり前かのように話し、なのははジト目でこちらを黙って見ていた。
「ひ、秘密ってことで……」
ひよるのも無理はない。 それほどまでにこの空間からは重い雰囲気が一瞬にして出来上がってしまったのだから。
「ま、まぁ俺がまだなるって決まってないし、そんなことより──」
「ねぇ俊?」
「なぁ俊?」
「俊くん?」
「「「わたし(私)と行くよね?」」」
黙って首を振る以外に生き残る術は残されていなかった。
「ほんと仲良いわねー」
「ねー」
そしてその様子を見ている二人もまた、そそくさとテーブル席から離れていくのであった。
結局、魔導師三人組による詰問は彼が泣きだすまで続行されたのであった。