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A's19.球技大会A



 太陽が何度か昇って落ちてを繰り返し、ようやく球技大会当日となった。 授業を一切休みにしてまで行われる球技大会だが、名目上は一応授業となっているため開会式や面倒な諸注意なんかが最初に行われる。 校長の挨拶に始まり、諸注意、体操、宣誓に、生徒指導部のゴリの言葉で終わる。

『──とまぁ球技大会はあくまで授業の一環ということを忘れないように。 みんな怪我をしないように楽しく参加してくれ。 今回は先生達も参加するからお手柔らかにな』

 不細工な癖に爽やかな笑顔を浮かべるゴリ。 さっさと引っ込め、ボインな生徒会長とボーイッシュな体育委員長をさっさと召喚しろ。

 檀上に上がってるゴリに呪怨を送っていると、ふいに視線が交差する。 殺意が芽生えた瞬間だった。 それはあちらも同じだったようで、俺のほうを見て眉を顰めた後──

『上矢、頭部死球には気を付けることだな』

「アリサ、教師チームに当たったらまずあいつを沈めるぞ。 大丈夫、頭部に30発ほど当てれば流石に男子駆逐殺戮専用マシーンであるあいつも死ぬだろう。 援護は俺らに任せろ。 一気に沈める」

「いやよ、あたしが怒られるんだから」

 なんて女だ。 可愛いからってわがままなんだから! これだから金髪お嬢様の処女キャラは困るんだよなー!

「おだまり暴君。 一大企業のお嬢様は色々と大変なのよ。 あたしに釣り合う男だっていないしね」

「海鳴のプリンスたる俺がいるだろ?」

「破壊のプリンスがなんですって?」

「それサイボーグクロちゃんね」

「あのマンガ面白かったわよね。 今度また借りるわ」

「一緒にアジャポンの交換しようぜ」

「ヒロスエと結婚でもしてなさい」

 こいつ……ッ! 俺に死ねというのか……!

 しょうがない、アリサとのアジャポンの交換は諦めよう。

 嘆息を吐きつつ、後ろでだるそうにしているはやてに話しかける。

「はやてー、アジャポンの交換しようぜ」

「ええよー」

「バカやってないでほらもう解散なんだからクラステントにもど──」

 キュポンっ(それぞれの鼻を取り外し付け替える)

「これでアジャポンの交換成立やな」

「アジャポンーッ!?」

 アリサがいきなりアジャポンを叫びだす。 流石一大企業のお嬢様、発声練習まで完璧だな。

「ちょちょちょちょッ! い、いまあんた達鼻が──」

「だってアジャポンの交換だしな?」

「なぁ? 別に普通のことやとおもうけど……」

「いやそうじゃなくて! いやアジャポンの交換はあってるけど、そうじゃなくて!」

 慌てふためくアリサを見ながらニヤニヤと笑うはやてと俺。 実際、俺もはやても人間なのでアジャポンの交換など出来るはずがない。 これはただ単に、はやての魔法でアリサにそう幻覚を魅せただけなのだ。 他の人から見れば、俺とはやてがただ鼻を摘まみあっただけにしか見えない。

 はやてと二人、アリサの見えない所でハイタッチ。 ツンデレお嬢様が慌てふためく姿を見るのは楽しいですなぁ。

「アジャポンが! 二人ともアジャポンが!」「アリサちゃん、ちょっと落ち着いて? 落ち着いてから保健室行こうね?」というアリサとすずかの二人の会話を見ながら、はやてとアイコンタクトを交わしていると、後ろからコツンと頭を叩かれた。 そして聞こえてくる幼馴染の声。

「こーら、魔法が認知されていない世界で魔法を使うことは許されてないでしょ? しかも私事で使って」

 腰に手を当てて怒る栗色ツインテールのなのは。 今日はスポーツということもあり、気合が入っている。 ちなみにブルマだ。 この学校、女子にはブルマしか認めていないらしい。 どう考えても学校の教育方針に一個人の強い感情が入っているような気がしないでもないが、触れるとめんどくさいことになりそうなのでいいや。

 いまはそんなことよりなのはだよなのは。 腰に手を当てて怒ってらっしゃる。 どうやら後ろにいるフェイトもそれには同じ考えなのか、首を縦にうんうんと振るばかりだ。

「いやいやなのは。 よく考えてみようぜ。 人間は魔法の生き物だ」

「はぁ?」

 バカにしたような目でこちらを見ている。 ちなみにはやても正気なんか?みたいな目でこっちを見てきた。

「いいか。 例えば、俺とお前が子どもを作るとするだろ? そうすると、俺の精液がなのはの子宮に支給されることにより新たな生命が誕生するわけだ。 あの白い液体から大きな子どもを作り出すんだぜ? それこそ魔法だと思わないか?」

 フェイトが後ろで「苦しい言い訳を……」はやてが隣で「流石に無理があるやろ……」と呆れている中、なのはは顎に手を当てて「う〜ん……」と一生懸命唸っている。 なのはから話題を逸らすことが出来ればいいだけだから、なのはがこうやって考えていることで半ば成功したようなもんだな。 あとはなのはが何か言ってきたときに違う話題を放ってやれば──

 そう考えていると、思案顔のなのはが首を縦にうんうんと振りながら答えた。

「たしかにそれはそうだけど、そんなことしなくてもコウノトリさんがはこんできてくれるんでしょ?」

『え?』

「あ、あれ? 違うの? おかあさんが前男女の行い以外の他に、コウノトリさんが運んでくる場合もあるって」

 フェイト・はやて・俺が驚きの声を上げると、自分が間違っていると思ったのか、なのはが慌てながら確認を取る意味で俺達を見回す。 そっかぁ……桃子さんは娘を萌え特化にする気なのかぁ。

 自然と柔らかい笑みを浮かべてしまう。 フェイトに至っては母性を刺激されたのか、なのはをぎゅっと抱きしめて頭をいい子いい子と撫でている。

「え!? ちがうの!? だっておかあさん言ってたよ!」

「そうだねなのは。 子どもはコウノトリさんが運んできてくれるよ。 大丈夫、コウノトリさんに任せようね」

「そうやな。 なのはちゃんとフェイトちゃんの子はコウノトリさんがきっと運んできてくるとおもうで」

「俺はフェイトの金色の髪を受け継いでいると思うな。 でも性格はなのは寄りの萌えっ娘で、中身はフェイトとなのはのハイブリットだな。 芯が強くて優しい子」

「あ〜、未来のエースオブエースやな」

 うんうんとはやてと二人、頷きあう。

「おかあさんダマしたね!? コウノトリさんが子どもを運んでくるってのは真っ赤なウソだったんだね!」

 顔を真っ赤にして携帯で桃子さんに文句をつけるなのは。 いや騙される方が悪いと思うけど。 ……でも、いまさらながらに思うけど……桃子さんの教育ってすげぇ。

 それから5分後、一回戦の試合のため俺達はクラステントへと戻った。 終始アジャポンをつぶやくアリサと顔を真っ赤にしてお嫁にいけないとつぶやくなのはが可愛かった。

                ☆

 初戦は同じ学年のクラス同士で戦うこと。 そう校長の御達しがあったので、俺達は2つ右隣のクラスが初戦の相手となった。 このクラス、なでしこ野球部がかなりの数おり、そいつらを中心に女子が強い権力を持っているクラスだ。 『アリサさんみたいな女帝なら歓迎なんだけどな……』とはクラス内ヒエラルキー最下位の男子の声。 アリサは女帝といってもちゃんとした女帝だからな。 ただギャーギャーと我を押し通すようなババコンガとはわけが違うのよ。

 一回戦が始まる少しの間、はやてとキャッチボールをしながら相手クラスの男子から聞いた愚痴の数々を思い出す。

 うん、初戦にしてはなかなかいいクラスに当たったかもしれん。 強すぎないけど弱すぎない。 いい緊張感を持つことができるな。

「なぁ俊! 俊はキャッチャーしかせえへんの?」

 キャッチボール相手のはやてがボールを投げながら聞いてくる。

「そのつもりだよ!」

「でも俊がピッチャーのほうがええとおもうで? ほら、決勝戦は教師チームなんやし! ピッチャーのゴ──ゴリは元高校球児で体育教師の夢がなかったら今頃プロで活躍してるほどの強さやろ? 流石にわたし抑えられる自信あらへんのやけど」

 困った顔で頬を掻くはやて。 そりゃ俺だって打てないかもしれないからなぁ。 流石に野球部以外は打つことが困難だろ。

「心配すんな! うちには秘密兵器があるから問題ない!」

 返したボールをグラブでしっかりとキャッチしたはやて。 ふと、手を止めてジト目を向けてくる。

「秘密兵器〜? なんかえらい心配なんやけど……」

「心配したらあかん。 あたちがなんとかするダッチャ」

「俊アヒル口はキモイからやめてくれへん?」

 まさかはやてからキモがられる日がこようとは。 結構キモがられてるけど。

 はやてと二人でキャッチボールしてる間に審判(試合をしていない野球部+空いている先生)から代表者集合の声がかかったので中断して審判の元へ駆け足で走っていく。

 予想通り、あっちの代表者はなでしこ野球部のエース。 いかにも気が強そうな女子である。

 先生から互いに握手するように言われ、イケメンスマイルでエースと握手しようとした直後にファブリーズを手でシュッシュとされたあげく抗菌ティッシュで拭かれ、自身は手袋を着用に俺と握手した。

「先生、これは僕に対して触んなカスという表れだと受け取れます。 言外のいじめではないでしょうか」

「上矢君はカスではありません。 クズです」

「待ってください先生、僕はカスからクズに言い直せと抗議したわけではありません!」

「それでは握手も済んだことですし先行後攻のジャンケンをしましょうか」

「決勝戦ではデットボールしか与えないので覚えておいてください」

 なんという教師だ。 これは致命傷を避けられない死球を与えるしか他ないな。

 いかにして自然な死球を与えるか考えながらジャンケンをしていると、相手がパーでこちらがグーの手で負けてしまった。 まぁどっちでもいいか。

「じゃあ私達は後攻でお願いします。 最後の裏でサヨナラホームランの予定ですので」

 にこりと笑った彼女はそう口にした。 目はまったく笑っていないけど。

 その表情に初めて感覚と思考の全てを目の前にいる対戦相手に向けることとなった。

 なでしこ野球部のエースである彼女、楯梨(たてなし)(だったと記憶している)は笑いながらもこめかみをひくひくさせていた。

「さっきから黙って聞いていたけど、あなた達珍獣の集まりが決勝戦の舞台に上がれるつもりなの? ここで負けるのに?」

 ハッと鼻で笑う彼女、どうやらはやてと俺のキャッチボールの会話を全て聞いていたみたいだ。

「全国レベルの実力派ピッチャーとして名が知れてる私の球を捉えることができるの?」

「そもそもの規模が小さいなでしこ野球で全国レベル? ってことは高校球児でいうと地方大会レベルかな?」

「なッ……! い、いってくれるじゃないの……ッ!」

「イキ狂いのサスペンサーとは俺のことさ」

「ふざけんじゃないわよ! さっきからバカにして! ただじゃおかないからね! 女子からの嫌われ者の癖に!」

「べつに嫌われたって痛くも痒くもないもんねーだ。 俺はなのは達がいればお前らなんて歩く性処理道具にしか見えねーよだ」

 舌を出しておちょくると、目に涙を溜めながら顔にビンタをかましてきた。 それを空中三回転半で華麗に避けると、楯梨はぷるぷると震えながら、

「実力の差を見せてやるんだからっ! あんたには頭部死球よ! 全部!」

 そう言って、即席ベンチへと帰っていった。 なんだ意外と打たれ弱い子だったのね。

「さーって整列整列」

 楯梨が帰ったのでなし崩し的に整列することになる。 女帝というからどんなものかと思って吹っかけたが、案外メンタル弱い子だったなーと思いながらなのは達が整列している所に戻る──

 ドゴッ(なのはに腹パンされ)

 バチンッ(フェイトにビンタされ)

 ゴキッ(はやてに肩を外され)

 バシッ(すずかに足払いされ)

 ゴシャッ!(顔面にアリサの右ストレートがクリティカルヒットした音)

『代表者が試合する前に戦闘不能に陥ったけど心配ないわ。 自業自得よ。 さ、正々堂々と学生であることを忘れずにお互い頑張りましょう。 それと審判、それによる打順を交代したので再提出します』

『はい確かに受け取りました』

 遠くのほうでアリサが相手チームと審判に向かってそう説明しているのが聞こえてくる。 よかった、まだ鼓膜は生きている……。

            ☆

「1番バッターの上矢が致命傷のため代打で韋駄天がいきます」

「はいわかりました。 上矢君は高町さんが介抱していますので守備変更も後でお願いしますね」

 代打の韋駄天が球審の後ろにいる先生に交代を告げる。 先生は韋駄天の話に頷き、事前に両代表者から渡された紙に何やらメモを書き込んだ。

「ふんッ、野球部以外では唯一の危険打者の彼はあれだけ大口叩いていた割には無様なものね。 私が怖くて逃げ出すなんて」

 マウンド上の楯梨は、ボールを指で遊ばせながら鼻をならしバカにする。

 そんな折、楯梨とは逆方向のベンチから、地獄から這いずる異形の蟲が背筋を辿るような感覚が楯梨を襲った。 小さい頃から野球を経験している楯梨をもってしても感じたことのないこの感覚に、楯梨はたまらず大きくマウンドを飛びのいた。 慌てて相手ベンチをみる楯梨。 そこには──両手両足を拘束され亀甲縛りで横たわっている上矢俊の姿があった。 その横にはSMプレイでしかお目にかかれないようなムチを持った高町なのはがベンチに座りながら時折動こうとする俊にムチを放つ姿が見て取れた。

「ひぃッ!? な、なんなのあれ!?」

「調教かな」

「……流石動物園組ね。 頭がぶっ飛んでるわ。 ──でもまぁ、あの悪名高い彼が出てこないなら安心ね。 素人相手で悪いけど、こっちも没収品は返してほしいの。 本気で行くわ」

「ふっ──あんなゴミいてもいなくても負けはない」

『あいつ後で潰す』

『こーら、発言許可を与えていないのに勝手に発言しない。 フェイトちゃん、ボールギャグをお願い』

『オッケー』

『それは俺がいつかなのはとフェイトに使うかもしれないと思って買って隠していたボールギャグじゃないかッ!? 何故フェイトがもって──』

『わたし達相手に隠し通せるとでも思ってたのかな?』

『んッーー!? んッーーー!?』

 一画において繰り広げられるおそよ高校生というカテゴリー内では決してあってはならない風景がそこには広がっていた。 初戦ということで見物していた生徒の大半はドン引き、相手チームからは高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンに畏怖の視線が注がれ、ひょっとこのクラスの男子だけは爆笑しながら写メを撮っていた。 ちなみに女子は総スルー。

 そんな異様な光景を目の当たりにした楯梨が思わず手元を狂わせてしまうのは仕方がないことであった。

 楯梨は投げる直前手元を大きく狂わせた。 ストライクゾーンから大きく外れたボールはそのまま韋駄天に一直線に飛んでいく。 韋駄天はそれを華麗に避けようと、大きく飛びのいた。 ここで彼は一つだけミスを犯した。 それは飛びのく際に、体を楯梨が放ったボールと正面に迎え合わせたことだ。 ただ単に体を横にずらすだけでよかったのに、モテなさすぎて童貞をこじらせた韋駄天は楯梨が放ったボールを股間で受け止めたのだ。 何度もいうようだが楯梨は全国レベルの投手。 例え女だろうがその事実に変わりはなく、そんなレベルのストレートを股間に受けた韋駄天は──担架で保健室に運びこまれることとなった。

「どうしてうちのクラスの男共はああもバカなんだろう」

「それは違うよアリサちゃん。 バカだからこそうちのクラスにきたんだよ」

「まぁ女子に頭のいい子が固まってるから必然的に男はバカが多くなるわよね。 あ、ごめん佐和田韋駄天の代わりに代走お願い!」

 やれやれと頭を振ってため息を吐くアリサに、調教師のなのはが答える。

「はぁ……足の速い韋駄天がいなくなったのは痛いけど、球技大会のルール上あいつはまだ使用可能だから大丈夫よね。 じゃぁちょっと行ってくるけど、私は普通に打っていいの?」

 金属バットを肩に担ぎながら、亀甲縛りでギャグボールを咥えさせられているひょっとこにアリサは話しかける。 そんなアリサにひょっとこは何か言いたそうに視線を向ける。 それに気づきハンカチでギャグボールを掴んで離してあげるアリサ。 なお、ハンカチはそのままポケットに入れることはなくゴミ袋の中に突っ込んだ。

「アリサタソひどい。 俺の唾液が染みついているのに」

「だからこそ捨てたのよ汚らわしい人畜の癖に」

「まって幼馴染に対してする発言とはあるまじき暴言を吐かないで」

「あんたが私の幼馴染なのは私の人生の汚点よ。 それで、命令は?」

「んー、とりあえずセーフティバントで。 内野がどれくらい動けるのか見たいし、次の打者がフェイトだから二塁に進塁させときたい」

「はいはい。 べつに私はわざわざアウトにある必要はないんでしょ?」

 ひとつ伸びをしてバッターボックスに向かうアリサ。 その後ろ姿を見送りながらなのはひょっとこに質問する。

「ねぇ俊くん? なんでフェイトちゃんの前に二塁に行かせたいの? 別にアリサちゃんもフェイトちゃんと同じくらいの運動能力もってるよ?」

 ベンチに座ってのんびりとするなのはに亀甲縛りのひょっとこが答える。

「おいおいお前らの世を忍び仮の姿を忘れたのか?」

「世を忍び仮の姿って……。 まぁ確かに高校生のうちは魔導師はバイトみたいなもんだけどさ──あっ、そういうことか」

 両手を合わせるなのは。 頭の上には電球が灯ったのが見て取れる。 そのなのはの動作にひょっとこは頷き補足する。

「そういうことだ。 おまえら魔導師は常日頃から素人たちの球速・球威とは比べ物にならないほどの魔力弾を目に焼き付けているんだぞ。 フェイトやはやてはこの大会、打って当然というわけだ」

「……あれわたしは?」

「なのははほら……運動と魔法が結びつかないからさ……」

「むーっ! すぐそうやってわたしのことバカにしてー!」

「ま、まぁまぁ落ち着け! なのはには次の試合でやってほしいことがあるんだからさ! なのはにしか出来ないことが!」

「ほぇ? わたしにしか出来ない仕事?」

「そ、そうそう! なのはだけが頼りなんだよ!」

 ひょっとこ必死の命乞いは、功を奏したのかなのはの顔から笑顔を再び取り戻す結果となった。 なんだかニヤニヤしながらえへへともじもじするなのは。

「もうしょうがないなー。 ほんとわたしがいないとダメダメなんだからー」

 亀甲縛り中のひょっとこにムチを浴びせながら、顔を赤くするなのは。 横では悶絶してヘブン状態のひょっとこが存在している。

「あんた達……わたしのセーフティバント見たのかしら……ッ!」

「「うわぁっ!?」」

 ザっと土を踏みしめながらこめかみを引くつかせ二人を見下ろすアリサ。 先ほど同様に金属バットを肩に担いでいるのだが、いまにもひょっとこに向かって振り下ろしそうな気分である。

「言われた通りに進塁させたあげたわよ〜、これで満足かしら。 それと──」

 先程とは打って変わって笑顔を見せるアリサ、笑顔で二人に近づき強引に二人の間に腕を捻じ込み引き剥がしひょっとこをすずかに、なのはをはやての方に向けて放り投げた。

「いつまで二人でいんのよ! イライラするわね! 本気で顔面にゲロ吐くわよ!」

『そうだそうだ汚物ひょっとこの癖に! わたし達のなのはちゃんを独り占めにするなんて!』

『帰れひょっとこ! なのはちゃんは俺達に任せろ!』

 はやてに抱きしめられたなのはを囲むようにバリケードを作る女子たち。

『あぅ……しゅんく〜ん』

「なのはー……」

「ほら、嘆いてないで試合に集中しなさい。 目指すは優勝でしょ。 こんなところでつまずいてちゃ話になんないわ。 ──それに、私がこうでもしなかったらフェイトとはやてがどんな行動に出るか分からなかったわよ」

 こっそりとそう耳打ちしてくれるアリサ。 その瞬間、ひょっとこは冷や汗ダラダラの状態へと変わっていった。

「す、すまんアリサ……。 確かになのはを独り占めするのはよくないわな……」

「(まぁそっちじゃないんだけど、わざわざ私が全部教えるのも癪だし黙っておこうかな)まぁ今後は気を付けなさいよ。 あんたの場合、小中高で引き下がれないところまで来たんだから。 一人でも爆弾を爆発させると不幸な未来が待ってるわよ」

「ちょっとまって、なにその恐ろしい設定」

「ほら、次はフェイトなんだから応援しなさいよ」

「いやその前に……まぁいいや。 なんかあったら魔法少女3人組がどうにかしてくれるだろ。 フェイトー! がんばれー!」

 なるようになる。 そう結論付けたひょっとこは思考を球技大会に切り替えて、バッターボックスでバットを構えているフェイトの応援に集中する。 ひょっとこの声が聞こえてきたフェイトは、体全体ごとひょっとこ、ベンチのほうに向き笑顔で腕を大きく振ってその声援に応えた。

「フェイトちゃんバッターだから! いまは声援に手を振るんじゃなくて打つことに集中して!?」

 陽気なフェイトに驚き、なのはが突っ込む。 なのはだけじゃない、アリサやすずか、他のクラスメイトも驚く中、ひょっとことはやてだけは冷静だった。

「まぁフェイトくらいにはあれくらいで丁度いいだろう。 ──雷光の異名は伊達じゃないさ」

 フェイトがベンチに手を振る中で放たれた楯梨の渾身のストレートは──キャッチャーミットにおさまることなくライトの頭を大きく越えた。 後ろに目でもあるかのごとく、振り向きざまに振ったフェイトのバットがとらえたのだ。

「まわれまわれーー!」

 ひょっとこの大声で茫然としていた相手チームがようやく我を取り戻したかのように動き出す。 ライトが捕球している間に一塁にいた佐和田はホームへと生還、そしてフェイトは二塁を蹴って三塁へ。 セカンドが中継をしている際には既に楽々三塁へ進んでいた。

『流石フェイトさんだぁあああああああああッ!!』

 フェイトのヒットにベンチが沸き立ち、ひょっとこ達の見学をしていた他のクラスもこぞって沸いた。 そして盛大な握手が送られる。 これに慌てたのはフェイト本人であった。 嬉しそうな表情から一転、恥ずかしそうに顔を手で覆い、「やめてやめて!」といやいやと頭を振っている。 その姿が非常に可愛らしく、見ている男共はデレた表情でフェイトをずっと見ていた。

「うし、次は俺か!」

 番の野球部Aが打席に向かう。

「あーちょっとまってくれ」

 ひょっとこはAを呼び止める。 ちょいちょいと手でこっちへ来いの合図をし、アリサに聞こえないように耳打ちする。 Aはひょっとこよりも早く、笑顔で応えた。

「心配すんな。 ヒットは打たねえよ。 流石にプライドはあるだろうからな。 ここで野球部レギュラーの俺を打ち取れば楯梨も少しは報われる。 同じ野球部のよしみだ、少しは譲歩しないとな。 お前もそう思って俺を呼びつけたんだろ?」

「いやセーフティバントで1点入れようと思ったから呼びつけたんだ」

「お前は鬼か!?」

「俺が鬼ならマウンド上で茫然としている楯梨は既に死んでいる。 いいか? 俺らは遊びで球技大会をしてるわけじゃねえんだよ。 ──卑怯な教師の手によって囚われている友を助けるためにしてるんだ。 いいか? 俺達に敗北は許されない。 卑怯だクズだと罵られ、蔑まれても──友人のためなら汚名を被るのが漢ってもんだろ?」

 きゅんっ、野球部Aの胸に矢が刺さる。

「ふっ、忘れてたようだな、自分の性別を。 すまねえひょっとこ。 俺という存在を思い出させてくれてありがとよ」

「へへっ、いいってことよ」

 その後ろ姿は、先程の野球部Aとは違っていた。 もう高校生だから。 そう達観しようと考えているAはいまやどこにもいない。 全ては──友のために。 その一心でAは戦場へと赴き楯梨と対峙する。

「ふん、誰かと思えば野球部のレギュラーさんではないですか。 あなたを抑えれば私の面子もまだ保てますね」

「甘いな楯梨。 今日の俺は一味違うぞ。 今日の俺は──悪鬼羅刹だ!」

「流石バカクラスの男子……何言ってるのかサッパリだわ」

「しゃこーい! フェイトさんは俺が還す!」

 クマのような咆哮にうんざりしながら楯梨はボールを投げる。 Aは横目でフェイトがホームに走りこんだのを確認し、バントの構えを取った。 しっかりとボールを見るAからは必ず当てるという信念が感じられた──が、ここでボールは大きく変化した。 先ほどと同じ球威、同じ速度、そこから下へと急降下したのだ。 慌ててバントの位置を見定めるAだが時すでに遅し、ボールはバットに当たることなくキャッチャーミットへとおさまった。 ひょっとこよりセーフティバントのサインを出されそれを実行したフェイトは、自身の足を活かしてベース直前まで来ていたため、そこから三塁に帰れるわけもなくタッチアウトとなった。 しょんぼりしながら帰るフェイトに、ベンチの皆は温かい言葉をかける。

「うぅ……ごめんね」

「まぁまぁいまのはしょうがない。 レギュラーのくせにあいつがセーフティ失敗するのが悪いんだから。 おーい男子諸君、あいつが帰ってきたら魔女裁判式磔の刑な」

 ストライックー!

『イエッサー!』

「俊、顔が怖いよ顔が」

 修羅のごとく恐ろしい顔でAを見る俊。 後ろには観音菩薩がチェーンソーを持って待機している。

 ストライックー!

 バッターアウト! チェンジ!

「チッ、使えねえな。 いいかお前ら、この球技大会終わったらあいつは処分だ」

「俊、それもうクラスメイトにかける言葉じゃないから。 私が1点取ったから大丈夫だよ」

 修羅を宥めるフェイトの元に、肩を落としたAが帰ってきた。

「うぅ、すまねえひょっとこ」

「明日に殺処分が決定したぞ。 んで、どんな感じだった? お前が打てないってことは大抵が打てなくなるけど」

「ありゃ多分SFF、スプリットフィンガー・ファストボールだな。 あんな変化するSFF見たのは初だが。 俺達野球部となでしこ野球部は球技大会で本気出すなと監督に言われてるから、変化球なんて考えてなかった」

「ふむ……SFFか」

「どうするの俊?」

「問題ない。 アリサかはやてが楯梨の頭部に死球食らわせて強制退場の運びにしよう」

「いや問題しかないんだけど!? それは流石に怒られるよ!」

「まぁ怒られたから反省文書けばいい。 友のためだ。 よっしゃ! 全員守備につけ! 気張っていくぞ!」

『おー!』

「(たまになんで俊のことが好きなのかわからなくなってくる……)」

 フェイトはベンチに戻った楯梨に、死なないで!と手振りで合図を送り自分の守備へついた。

「えへへーフェイトちゃん。 わたし頑張って守備するよ! しゅっとしてばばーって!」

 ゴロを取って一塁に投げる振り(効果音付き)の幼馴染を見て、より一層の不安を覚えるフェイトであった。

 物園クラス1-0楯梨クラス




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