A's40.シグナム先生のムフフな授業(後編)



 学生時代、常にストレッチ相手ははやてだったことを思い出しながら一人でストレッチを済ませる。

 シグナムを前に全員で整列する。ブルマ姿の可愛らしいヴィータ、生物学上女であるスバルとティアナ、ブルマをはいたキモい男と照れてるムキムキマッチョのやばいやつ。

「そ、それでは教導をはじめる」

「シグナム、教導じゃなくて授業だ」

「ん、あぁそうだったな。授業をはじめる。といっても……人数がいないのであまり大層な授業はできないか」

 考えるシグナム。隣にいたヴィータがひょっとこにきく。

「こういった少人数のときはなにをするのがいいんだ?」

「ん?まぁ全員で遊べるものだろうな。少人数での授業の場合、二手に分けるのは得策じゃないと思うぞ。教師の体は一つだし、へんな壁ができる」

「だってさシグナム」

「なるほど。ではボール遊びをしよう。ドッチボール……は無理だろうから中当てはどうだ?」

『さんせーい!』

 手を挙げるスバルとティアナ。シグナムはうんうんと頷いてボールを一つ手に取った。

「中当てっていうかあれか。……女を孕ませる遊びといわれる──」

「まてまてまて、お前はエロ本の読みすぎた。なんで受精させる遊びになってんだよ。普通にボールを当てるゲームだろ」

「しかしここにはロヴィータちゃんとシャマル先生以外に女がいない。これはいかほどなものかと思うぞよ」

「スバルとティアは理解できるが、シグナムとザフィーラもカウントしないのか」

「俺はナチュラルにザッフィーをカウントしたお前が恐ろしいよ。シグナムはアレだ。淫乱ピンクくっ殺騎士だから、肉便器的扱いなんだよな」

「ふーん、なるほどな」

 中当てのフィールドをザフィーラがつくり、その中にヴィータとひょっとこ、そしてザフィーラが入る。両側にはスバルとティアナ。審判役としてシグナム。

「ところでひょっとこ。一つだけ忠告しといてやる」

「ん?どうしたロヴィータちゃん。ちゃんと中に出してあげるから心配ないぞ」

 外側役のティアナにシグナムよりボールが渡される。

「いやべつにそんなことはどうでもいい。あたしたちは子どもなんか産めないしな。いま大事なのはそれじゃなくて──ティアとスバルが魔力で身体強化してるぞってことなんだが」

 全てを言い終わる前にティナが放ったボールがひょっとこの真横をかすめていく。

「まぁ死ななければいいか」

「先生ッ!?シグナム先生!?ちょっとまって、いま人を殺せるスピードでボールが飛んできたんだけど!?」

『まぁ人は能力差があるからな。それはいたしかたないことだ』

「お前どこに目ん玉つけてんだよ!?魔力強化は反則だろ!」

『しかし自身がもちうる武器を有効的に使う。どこに問題があるのだ?』

「おいどうにかしろよお前のリーダーだろ!?あぶ、おぼッ……ぐべッ!?」

 ティアナの投げたボールがひょっとこの腹に当たる。ボールが高速回転でうねりながらスバルの元と到達すると、スバルはひょっとこごとティアナにボールを投げつける。

 ボールとなったひょっとこをかわしながら、呑気な調子でヴィータとザフィーラは会話する。

「しっかし久しぶりだな。こうやって子どもみたいに遊ぶのは」

「さっきからブルマが食い込んで気持ち悪いがな。子どもの頃は主はやての遊び相手としてよくしていたものだ。リハビリと称して公園で遊んでいたのを覚えているか?」

「覚えてる覚えてる。一生懸命体を動かしながら、笑顔をむけるはやては可愛かったな」

 やがて避けるのも面倒になったのか、二人は座り込んで話し込む。

 スバルとティアナはうきうきるんるん気分でひょっとこを放り投げながら遊ぶ。その様子をみていたシグナムは隣で困ったように笑顔を張り付かせるシャマルにぼそりときく。

「……これはもしや噂にきく学級崩壊というやつか?」

 あ、この人教師に向いてないかも。そう思ってしまうシャマルであった。
               ☆
「シグナムせんせー、ひょっとこくんが家に帰りたいと嘆いています」

「む?どうしたひょっとこ。お腹でも痛いのか?」

「全身が痛いです。魔導師にボールにされて全身が痛いです。家に帰ってフェイトに癒されたいです」

「家に帰っても口をきいてもらえないだろうからこのまま続行するように」

 無慈悲な宣告が教師より生徒に告げられる。

「いやー、ひょっとこさんがボールになってくれたおかげで楽しかったです。いつもは私達がなのはたんのボールかサンドバックになってますから」

「なのはたんからは俺が言っておくからストレス発散に俺を虐めるのはやめなさい」

「でも美少女に苛められるなんてうらやましいことだと思いますよ?」

「美少女?池沼の間違いだろ」

「シグナムせんせー、ティアちゃんのパンチがひょっとこくんの顔面にめり込んでひょっとこくんが原型をとどめていません」

「よしそれでは次の授業をはじめる」

 律儀に手を挙げて発言するヴィータ。しかしその内容により先生にスルーされる。

 補佐となったシャマルが大縄をもってくる。麻でできた大縄を両手にもち、笑顔でシグナムは次の授業を行う。

「よし、次は八の字の練習だ!教師である私が回すのは当然として……すまないがザフィーラ。一緒に大縄を回す役を頼めるか?」

「問題ない。……跳ぶ役にならなくてよかった」

 ぼそりと呟いたザフィーラの言葉をヴィータは見逃すことはなかった。ヴィータはこの場で一番頭がキレる。だからこそ、この後にどんなことが巻き起こるのか、予想できないわけがない。

「いやまてよザフィーラ。あたしが回そう。お前は跳んだほうがいい」

「いや身長的に無理だろう。諦めて跳べ。……跳べればだが」

 嫌そうな顔を浮かべてシャマルに抱きつくヴィータ。対岸の火事だと思っているシャマルはよしよしとヴィータの頭を撫でる。そこにまたもやシグナム先生より無慈悲な言葉が告げられる。

「人数の関係上、シャマルにも参加してもらう」

 脱兎のごとくこの場から逃れようとするシャマル。しかし抱きついていたヴィータがそれを許さない。

「逃げるなよシャマル……」

「お願い……逃がして……!」

 シャマルもこの後どうなるか理解できているのだろう。首を横に振っていやいやと答える。
一方、分かっていない組であるひょっとこ・ティアナ・スバルの面々は首を傾げている。

「ただたんに八の字するだけだろ?別にそこまで恐ろしくないだろう」

「たしかに。いくらシグナムさんでも大縄で危ないことはできないのでは?」

 うんうんと隣でスバルが頷く。

「お前らは幸せそうでいいな。んじゃお前らが前な」

 べつにいいけど。声を合わせる三人はひょっとこ・ティアナ・スバルの順に並ぶ。

「うむ。ようやく並んだ」

 腕組みして待っていたシグナムは片方をザフィーラに渡して、大縄を回しはじめる。はじめはゆっくりと、跳ぼうとするひょっとこを手で制止、勢いよく回していく。

 次第にその速さは目で追えるものではなくなっていき──

 フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン

 けっして大縄では聞こえてはいけないだろう音が聞こえてくる。風を切る音、ではなく人体を切断しそうな音が訓練室という名の校庭に響く。

「ざ、残像が……!大縄ではけっしてあってはならない上下に残像がみえている……!」

 一歩後ずさるひょっとこ。しかし後ろにいたティアナはぐいぐいとひょっとこを前に押し出す。

「まてまて嬢ちゃん!?俺を殺す気か!?」

「こういうときのためのひょっとこさんじゃないですか!もしかしたら思ったほど速くないかもしれませんよ!」

「上下に同時に残像がでてるのに!?」

「それは……ひょっとこさんの目が狂ってるから」

 真面目な顔を作るティアナの両目を指で突く。

「さあひょっとこ!まずはお前から跳んで見せろ!」

 うきうきるんるんわくわくらんらん気分の熱血教師シグナムの声がひょっとこにかけられる。

「いや、でも先生……こういうのはやっぱり小学生としての比較対象が必要だからロヴィータちゃんを……」

 くいくいとひょっとこの指を引っ張るヴィータ。それに気づきひょっとこが振り返ると、ヴィータは上目使いで頬を赤らめながらもじもじと指を絡ませ、

「おにいちゃんががんばってくれたらね?ヴィータもおにいちゃんのためにがんばりたいなぁ……。その……ね?」

「ひょっとこ、イきますッ!」

『(ちょろい……)』

 この場の全員がそう思った。

 勃たせながらうきうきで気分で大縄の中にはいったひょっとこは、一発目で足を縄に取られ、浮いたところに縄がムチのように首を刈り取る。縄と首はそのままの状態で一回転。否、一回転では飽き足らず、そのまま水車に磔にされて死ぬまで回される拷問のような行為がヴィータ達の目の前で繰り広げられた。

「大縄って怖いっすね……」

「あぁ。人類が生み出した現代の拷問方法だな……」

「香典はいくらにします?」

「5円でいいだろう」

「いやいや助けましょうよ!?なんで皆さん見殺しにする方法で話を進めていくんですか!?」

 誰も八の字を跳ばずに(跳べずに)のんびりひょっとこの死ぬ様子を眺める横で、天使シャマルだけがひょっとこを助けようと必死だった。
           ☆
 シャマルの手を握り、ヴィータを膝に抱っこしたままひょっとこはぼそぼそと呟く。

「世界が逆に回転した……日常を飛び越えていった……」

「うんうんそうだな。はいはいよかったな」

 どうでもよさそうにスポーツドリンクを飲むヴィータ。ヴィータの隣では対して動いてもないのにティアナとスバルがもちゃもちゃとハチミチ漬けレモンを食べている。

 目の前には腕を組んで考え込んでいるシグナムがザフィーラに相談ごとをしていた。

 『やはり……私は教師には向いていないのではないか?これでは主はやての期待に添えないような気がする』

『いまのままでは小学生を殺しかねんことは理解できた。ゆっくり頑張っていくよりほかはない』

『……やはりそうか。ゆっくりと頑張っていくしかないか』

 思案するシグナムをよそに他の生徒は纏めに入る。

「どうだった二人とも。シグナムの授業」

「うーん……いまのままでは死人がでるかと」

「私もティアに同意です。ここに犠牲者がいますし」

「……どうしたもんかなぁ」

 はやてに相談するしかないのかね。スポーツドリンクをひょっとこに渡しながらヴィータは一人考える。シグナムが今回のことで悪い方向に考えなければいいんだが……。

 そう思った矢先、シグナムは両手をぽんと叩いて晴れやかな笑顔を向けた。

「うむ!やはり一回だけの模擬授業ではあまり練習にならないな!やはり定期的にこの模擬授業をやっていくとする!主はやてのために完璧に仕上げるのだ!そのために協力してもらう!」

 全員の瞳から光が消えた瞬間だった。
     ☆

 ブルマから私服に着替えた面々は絶望の表情で訓練室を後にする。

「週に2日もシグナムさんの模擬授業に付き合うなんて……」

「それはいいけど、毎回死ぬ可能性があるってのが……」

「いやーまさかひょっとこが土下座しながら勘弁してくださいって泣いたのは意外だったな」

「シグナムさんの泣き落としであっさり陥落しましたけどね」

 まぁシグナムの泣き落としなんてレア中のレアだしな。幼女の真似事をしたヴィータがそう思う。

「ん?これなんだ?」

 訓練室から帰ってきた面々は、いつもの部屋に向かっていた。扉を開けると、ヴィータのデスクの上には見慣れぬ重箱が置かれていた。その横にはうさぎ印の可愛らしい弁当箱。重箱と弁当にはそれぞれ手紙が一枚添えられていた。

『おつかれさん。お腹減ってるとおもっていろいろ作ってきたで。ゆっくり食べて』

『ばーか』

 一枚目は重箱、二枚目はうさぎ弁当箱。

 それぞれ誰が作ってきたのか一発でわかる仕様だった。

「おいひょっとこ。これお前用だからお前が食べろよ」

「ん?ああ、べつにいいけど。そっちの重箱も食べていい?」

「それをちゃんと処理できたらな」

 後からやってきたシグナムも加わり、全員で夜食となった。熱いお茶を全員分に配り、それぞれが好きなおかずを取る。おにぎりをほおばり、からあげを噛み千切り、プチトマトで遊んで怒られる。ちょっとした女子会+犬参加の体裁になってきた矢先にシャマルがひょっとこに話を振ろうと目を向けると──ひょっとこはおだやかな笑みのまま息を引き取っていた。

「きゃあぁあああッ!?ひょっとこさんが穏やかに死んで……!」

「ああ、なのはの弁当だからな。死んでもおかしくはねえんじゃねえの?流石にあそこまでされたら殺されてもなぁ」

「いやいやいや、もっと騒ぎましょうよ!?一大事ですよ!?」

「死んだままなのはに返しとけば蘇生術使って生き返らせるさ。それより玉子焼きたべりゅ?」

「たべりゅうううううううううううううッ!」

 10年間の幼馴染よりも主作った玉子焼きのほうが大事だったシャマル。

 ひょっとこは女子会が終わるまで、天国の遊園地で遊んでいたという(蘇生術を行ったなのはの証言より)。




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