A's41.健康診断、午前の部
『ねぇなのは、あのこと絶対に言ってないよね?』
『大丈夫。あのことだけは絶対に秘密にしてるから。バレたらものすごくめんどうなことになるもん』
『そうだよ、絶対に俊にあのこと漏らしちゃうと大変なことになる』
ヴィヴィオとぷよを落として連鎖するゲームをやっている後ろで、なのはとフェイトが耳打ち談義を開始している。二人とも声量をおさえているがかろうじて聞き取れているので問題ない。どうやらなのはとフェイトのどちらかが漏らしたらしい。この年になって漏らすのは恥ずかしいな。
「1デシリットルあたり10万……いや30万はするか」
『どうしようフェイトちゃん、俊くんがまたキモいこといってる』
『俊がキモいのは産まれたときからだからしょうがないよ』
会話してる振りして俺を貶すのやめーや。
部屋掃除のときにカルピスコンドーム床一面にばらまくぞ。
「ふんふん」
そしてヴィヴィオ、したり顔で俺のコントローラー奪って意図的にミスさせるのはやめなさい。
ヴィヴィオを膝の上にのせて適当な詰み方をしながら、耳だけはなのはとフェイトのほうに傾ける。
『まさかねー健康診断がこんな時期にあるなんて』
『うぅ……明日は朝食抜いていかないと』
『いまさら無駄だよなのは……』
ほうほう、朝からなのはは抜くわけか。朝っぱらから手淫船貿易とはやるな。
二人のため息で締めくくられた会談、なるほどなるほど。なんだかおもしろそうなことになってるな。これはさっそくはやてに連絡せねば……。
なのはとフェイトが両隣に腰を下ろす。なのはの魅惑のぷにぷに脇腹ボディーをつまむ。
「うるらぁああああああああああああああッ!」
目にもとまらぬ速さで腹パンがとんできた。
「ま、まって……!いま骨が砕けた音がした……!やばいところに刺さった!」
「コーホー、コーホー」
「なのはママがプレデターに!?」
人語を失ってしまったなのは、しかしいまの一件で確信した。
なのはは腹を摘ままれることを嫌がった。それはつまり──体重測定があるということ。
体重測定、しかもなのはとフェイトが二人で受ける。となると健康診断。ということはつまり──検尿検査ももちろんあるわけで。
一応、プロポーズを了承してくれたなのはとフェイトの尿=俺の尿という図式が成り立つわけで、自分の尿を飲んだところで罰則はなにもない。
「ぐへ、ぐへへへへへへ……明日はリアルゴールドだぁ……リアルゴールド祭りだぁ……!」
ヤバイやつをみる目のなのはとフェイト、そしてガーくんをよそに俺はさっさくはやてに連絡をとった。二言返事でokしてくれたはやて。
うふふ、明日は楽しみだな。リアルゴールド沢山飲んじゃうもんね!
☆
「前からいってあったとおり、検尿検査は実施しません。課でやることは胸部心電図や血圧、視力に聴力、慎重・体重、そして最後に問診やね」
「僕もう帰る」
「検尿ないとわかった途端帰ろうとすんな変態。誰がお前みたいなオナ猿帰すか」
「それはつまり、ロヴィータちゃんが俺の性処理用愛玩玩具になってくれるということ……?」
ブスッ
「ぎゃぁああああ!?目がぁああああああ!?」
「穢れきってるくせにつぶらな瞳がむかついた」
「ロヴィータちゃんなら基準を越えてるから許可したのに……」
「今度はアイゼンで頭砕くぞ」
ドスの利いた声に知らず知らずのうちに頭を床にこすりつけていた。そしてその勢いのままひっくり返ってロヴィータちゃんのパンツを──
「ドロワ……だと……!?」
「今日はお前がくるって話だったからな。嫌な予感がしてたんだよ」
容赦なく俺の顔面を踏みつぶしながらなんでもないことのようにいうロヴィータ。これ完璧に頭蓋骨にヒビはいってますありがとうございました。
「で、はやて。なんでこいつがいるんだよ」
「あぁ、まあ俊が検尿目的で連絡取ってきたのはわかってたし、どうせならそのままこっちに連れてこさせて機材の搬入なんかの力仕事をさせようかとおもってな」
ナース服姿のはやてが書類に目を通しながら答える。
「まんまと騙されてやんのバーカ」
「なんだとロヴィータ!お前なんか俺のチンコで──」
「ほう、ここにスライサーがあるのだが……お前の自慢のスティックとどちらが強いか勝負してみないか?」
「い、嫌だなぁシグシグミシルさん。僕の魔女スティックなんてレイジングハートの足元にも及びませんよ」
あっぶねー!?なにこのくっ殺女騎士!?いつの間に背後に現れてレバ剣俺の首元に置いてんの!?めっちゃ怖いよ、いますぐ俺が検尿するところだったよ!?
「というかシグシグミシルもきてんのか。いかにも役立たなそうなのに」
「役に立つ、立たないの問題ではない。主はやてが朝早くに機材搬入や設置のために出勤してきたのだ。騎士として当然だろう。それに私はお前と違って力持ちだからな。機材の設置を頼まれている。そういうお前は朝早くに何しにきた?」
「検尿を飲尿しようかと」
「なに!?検尿は個人で病院にて行うことになったのではないのか!?」
「それは違うな。この弁当箱でおなじみの醤油さしにいれて俺に提出することになっている。お前の大好きな主はやてからの命令だ。いますぐいってこい」
「くっ……!」
歯ぎしりするシグシグ。しかしお前の大好きなはやての名前を出されちゃ断れまい。
「か、紙コップは……用意しているだろうな……!」
「残念だが、それは新人用だ。お前はその醤油さしに直接注ぎ込まなければならない」
「な、なに!?し、しかしこれも主はやてのため……!」
苦渋の決断をするシグシグ。俺はシグシグの肩に手を置き、優しく諭す。
「がんばれ、お前はヴォルゲンリッターの最強の剣だ。これくらいどうってことないさ」
「……あぁ、そうだな」
「いつまで続けるんだその茶番」
呆れたようにロヴィータちゃんが突っ込んでくる。
「なに!?いまのは茶番だったのか!?」
「え!?本気で信じてたのか!?お前昨日説明されたばっかりだろ!?」
シグシグの反応もしょうがない。こいつは剣に極振りしてる脳筋だからな。
「さーて俺も手伝うか」
『おいまてひょっとこ!お前の首を置いていけ!』
『どうどうどう』
嘶く馬をロヴィータが静める。大変そうなポジションだなロヴィータ。
はやてのほうに近寄り、俺も書類を覗き込む。
「なぁはやて。二・三質問したいことがあるんだが」
「ええよ。ちなみにこのナース服、水をかけると溶ける素材でできてるからきをつけてな」
「男衆なにをしている!早く水もってこい!」
『動いたら死ぬと思え』
『動いてもいいけどな。──アイゼンの餌食になりたいやつだけ』
くそ、俺達じゃこいつらには勝てない……!
このもんもんをどこで晴らせばいいんだ!
ピタリと硬直した男衆たちの目には一筋の川が流れていた。
「ほらほら、はよ搬入と設置終わらせてここに皆は先に健康診断終わらせるで。しっかり働いてくれた人は特別にハグしてやるで」
『うぉおおおおおおおおおッ!!』
「ザフィーラが」
『うごがぁああああああああッ!』
歓喜が絶叫に変わる瞬間をみるのは面白い。
「俺のハグはダメなのか……」
犬状態でショックを受けてるザフィーラの背中を撫でてやる。うちもこんな犬欲しい。ルドルフがきてくれたら嬉しいんだけどなぁ。あいついまクロノのところのこどもたちの相手してるからな。
「はいはいそれじゃさっさと終わらせるでー!」
はやてに続く形で声をあげる。そこに白衣姿の本日の主役というか一番頼りになる人がやってきた。
「ヴィヴィオちゃんの着替え終わりましたよー。ヴィヴィオちゃんどうぞー」
『はーい!』
ここについてからすぐにヴィヴィオははやてのナース服をみて着たいとせがんだのでシャマル先生にお願いしていたところだ。はてさて、どうなったかな?
とてとてと俺達の元にやってきたヴィヴィオは白いナース服にふちの部分はピンクの線がかけられている。頭にはナースキャップ。腰に手を当てドヤ顔ポーズを決めている。
「ふふん、これでヴィヴィオもナースさんになった。ヴィヴィオもうむてき(ドヤァ)」
「おお、これは可愛いな」
「ヴィータちゃんもきる?」
「いやあたしはいいよ」
ヴィヴィオの提案に苦笑しながら首をふるロヴィータ。そんなロヴィータにはやてはあっさりと、
「いってないんやけど、いまいる面々は午後からの健康診断のときはナース服に着替えてもらうで?もちろん男は白衣やけど」
愕然とした表情のロヴィータちゃん。
普段六課の美少女達と接しない男性スタッフは拳を強く握りしめ高らかに掲げている。あ、シグシグに蹴りが鳩尾にはいった。
「ほ、ほんとかよはやて!?正気か!?」
「当たり前やろー。ちゃんと水で溶けないナース服を用意しとるんやから」
あ、めっちゃ悩んでる。そもそもこいつ普段着がロリータファッション当たり前なんだから(バリアジャケットはいわずもがな)ナース服くらいで悩むなよ。
「まぁはやてと一緒ならいいか」
自分の中で納得できたのかうんうんと頷くロヴィータ。ちなみにヴィヴィオはナースキャップが邪魔なのか装備欄から外して隣にいるガーくんの頭に乗せている。
かくいうガーくんは不安そうに俺に、
「ガークンノハクイアル?」
「作ってやるよ、時間あるし」
「ワーイ!」
羽をばさばさと広げて喜ぶガーくん。お前の毛色が白衣なんだからいらねえだろ。そう突っ込み気分で顔をむけるロヴィータ。
俺はヴィヴィオを抱っこしつつはやてに確認を取る。
「これで全員か?それなら始めようぜ」
「あ、ちょいまち。あともう一人、無限書庫での健康診断のときにどうしても出られなかったからユーノがくるんやけど……まだきてへんのよ」
「へーあいつが遅れるって珍しいな。迎えにいってやろうか?」
「いやもうすぐそこまできてるみたいなんやけど」
携帯を取り出すはやて。と、ドアが大きな音をたてて開く。ドアを開けた人物は息を荒げながら、はぁはぁと呼吸を落ち着けると俺達のほうをみて謝った。
「ごめん、おくれちゃって──」
「よう久しぶり。元気だった?」
「う、うん!俊も元気そうでなによりだよ」
無限書庫の司書長であるユーノは今日も今日とて、女物も可愛らしい服を着ている。初対面ならまず女と間違えて惚れてしまうほどの顔立ちに、女が嫉妬してしまうほどの振る舞い。ほら男性スタッフなんてユーノの姿みて惚けてるぞ。
そっとユーノが俺の手を握り、指を絡ませてくる。
「僕ももう少しプライベートな時間が取れればいいんだけど、忙しくてなかなか会いにいけないから、こういうとき会えると嬉しいな」
「俺もだよ。ほらヴィヴィオ、ユーノお兄さんに挨拶しようなー」
「??こんにちは!」
「はいこんにちは」
ヴィヴィオの頭を撫でるユーノ。気持ちよさそうに目を細めるヴィヴィオ。
『そりゃ見た目かわいい女がお兄さんなら頭にハテナマークが浮かぶわな。おいはやて、男性スタッフがもう何も信じたくないとうわ言いいながら壁に頭打ちつけてるぞ』
「はいはいみんな現実にもどってきーな。俊もいつまで握ってるねん」
「あっ」
むっとするユーノと舌をだすはやて。なにがどうなってんだかわからない。
☆
搬入を終えたので、男衆で機材の設置を急ぐ。はやてはてきぱきと指示を出して俺達はそれに従って運んでいく。時間が経つにつれて一気に病院の様へと変化する。
ミニスカート姿のユーノが血圧に使用する機材を運ぶ。
「ユーノ俺が運ぼうか?」
「ほんとに?ごめん、お願いします」
ユーノから受け取った機材をはやてが指定した場所にもっていく。ユーノは隣でそっと俺に寄り添う。
「そういえばこんど無限書庫にいく予定なんだけど、ヴィヴィオ用の絵本を見繕ってほしいんだよ」
「うんいいよ。僕が探しておいてあげる」
笑顔で答えてくれたユーノに感謝しつつはやてが待つ場所へと機材をもっていく。
丁度それが最後だったらしく午前中に全ての作業が終わった。開始までは一時間もまだあるらしく、この一時間でいまいるスタッフは早めに健康診断を済ませてなのは達の診断の際は白衣姿でスタッフ側に回るらしい。
「それじゃ10分休憩してその後に二人一組で健康診断にしよか。あ、女性はナース姿、男性は白衣に着替えておいてな」
はやての号令で一旦休憩タイム。俺はヴィヴィオと一緒にジュースを買いに自販機にいった。ユーノやロヴィータはナース服に着替えるために更衣室にいっており、シャマル先生は今回の主役のためこまごまと準備のために席を外している。必然的にはやてとヴィヴィオの三人になった。
「はやてなにがいい?」
「うーん、ミルクセーキにしよかな」
「はいはい。ヴィヴィオは?」
「シュワシュワーってやつがいい!」
「ヴィヴィオは炭酸と。ガーくんは?」
「ツバサヲクダサイノヤツ!」
「赤牛ね」
翼を増やしてどうするつもりなのかこのアヒル。
休憩室にベンチに座りながら一息つく。ペットボトルのふたをあけてヴィヴィオに手渡す。ガーくんは当たり前のようにプルタブをあけてごくごく飲むが、お前いまどうやってプルタブあけた。
すとんと隣に腰をおろすはやて。ミルクセーキをあけながら、
「そういえば俊は健康診断って今年受けたことある?」
「仕事に就いてないから健康診断とかやったことないなぁ」
「じゃあ俊も受けてええよ。ヴィヴィオちゃんも。ガーくんも一応受ける?」
「うん!」
「ワーイ!」
「悪いなはやて。なんか迷惑かけて」
「ええよ、俊ならいつでも」
ほがらかに笑うはやて。ナース服と相まって白衣の天使にみえてしまう。
ごくごくとおいしそうに咽喉を鳴らすヴィヴィオの頭を撫でていると、すすっとはやてが近づいてくる。
「なー俊?午後の健康診断終わったあとって予定とかあるん?」
「いやとくにないけど」
「じゃぁちょっと付き合ってくれへん?10月の終わりにハロウィンあるやろ?六課でもハロウィンのイベントやらなあかんねん。六課を解放して装飾してお菓子用意してっていう感じで。それでちょっと意見を聞いておきたいことがあってな」
「ああいいよそんなことならいつでも。ヴィヴィオは一緒の方がいいのか?」
「いやできれば俊一人で」
「わかった。それじゃ隊長室にいけばいいんだな」
基本使われることがない隊長室。場所だけはなんとなくで覚えているが、なにがあったのかは思い出せない。はやて他のメンバーと一緒のところで仕事するもんなぁ。
着替えが終わった女子の姿が見え始めた。どうやら休憩時間も残り少ないようだ。
「そういえば六課って男衆結構いたんだな。会う機会がほとんどないからビックリしたわ」
「どうせ今回限りで消える予定だから覚えんでええよ」
え、なにそれこわい。
はやての言葉に恐怖を覚えていると、ナース服姿のロヴィータとシグシグととユーノ
がやってきた。
「おーロヴィータちゃんよく似合うな。シグシグはAV女優みたい。ユーノも中々……結構いけるな」
「まて貴様、何故私だけセクシー女優なんだ」
牙突してくるシグシグを避けながらじっくり見る。
「シグナム、ガーターはつけへんの?」
「な!?主はやてまで……!」
「ええやんか。シグナムはそっちのほうが似合うと思うで。わたしも一緒につけるから、ガーターつけてみなへん?」
はやての言葉に心底悩むシグナム。ここは俺からいっておくか。
「はやて、ガーターはやめたほうがいい」
「え?なんでなん?」
「男がお前のガーターつきナースコスをみて前屈みにならないと思うか?長座体前屈をしにきてるわけじゃないんだぞ?」
こいつはたまに天然なところがあるから恐ろしい。もう少し俺達男のことを考えてくれ。身長を測るわけであってチン長を測るわけではないからな。
「俊も?」
「当たり前だ」
「……そうなんか。それならやめてあげようかな」
にやにやとした含み笑いを浮かべるはやてから顔を逸らす。ユーノが俺の手を取る。
「俊、今日は一緒に回ろうね」
「いいけどヴィヴィオとガーくんも一緒だぞ?」
「うんそれがいい!……予行練習にもなるし」
「いいや俊はわたしと回る予定なんよ。ごめんなユーノ君。ユーノ君はほら他の人と回ってきて色んな人とお喋りしたほうがええんちゃう?いつもは無限書庫でお仕事しとるわけなんやから」
「「むむっ……!」」
一発触発の雰囲気が醸し出される。周りの面々はおろおろとするばかり。シグシグははやてが俺と回ろうとしていたことにショックを受けてレバ剣を振り回してくる。ロヴィータちゃんは、
『ヴィータちゃんいっしょにしよー』
『ん?あぁいいぜ』
なんてロリ特有の可愛らしい会話をしている。ん?
「あれ、ってことは俺と回るのロヴィータちゃん?」
「げっ!?マジかよ……。お前ヴィヴィオの付属品だろ。いらないからどっかいけよ」
「いやいや後でなのはとフェイトに怒られるって」
「……まぁたしかにそれはありそうだな」
思案するロヴィータはしょうがないとばかりにため息をつく。ヴィヴィオと一緒に回らないという選択肢はなかったらしい。
「「え?」」
対するはやてとユーノは信じられないとばかりに俺達をみる。にこやかな笑みを浮かべてロヴィータを抱き上げるはやて。
「ヴィータ、もしかしてやけど健康診断にかこつけて変なことしようなんて思ってないやろね。例えば睡眠薬を飲ませてそのまま救護室につれていくとか。胸部診断と称してどこかに隔離するとか」
「ないないないない断じてない!?というかそんなことしようと思ってのか!?」
「い、いまのは一例や一例。……まぁ予想はしてたし保険はかけてるしええか」
しょうがない譲るわ。そういってロヴィータをおろすはやて。俺は涙目のユーノに詰め寄られていた。
「俊は僕と回るより小さい女の子のほうがいいの!?僕じゃダメなの!?」
「いやダメじゃなくてだな。ヴィヴィオと一緒に回りたい相手だからな?俺はべつに誰でも──」
「ぐす……」
「な、泣くなよユーノ!ほ、ほら埋め合わせはするから!な!?いつか二人で遊びにいこう!そうしよう!」
「僕のいきたいところでいい?」
「あぁもちろん!」
「うん、それならいいよ!……どこのホテルがいいかな」
怪しく笑っていたような気がするけど見なかったことにしよう。どうにかこうにか二人とも収まってくれたようなのであらためてロヴィータちゃんと一緒に健康診断をすることにした。
☆
午後の本番の健康診断のスタッフとなる俺達の場合、自分達の健康診断はセルフで行う。まぁ当たり前だ。そもそもスタッフになるためにいまやっているのだから。例外的にシャマル先生だけ本局で終わらせているらしいのだが、シャマル先生には問診と胸部検査という重要な役目があるので身長や体重といったところにはいない。
「検尿があったらロヴィータちゃんの持ち帰って保存して、残りを飲尿するのになぁ」
「本人目の前にキモいこというなよ。ほら血圧みるみる下がってるぞ。最高血圧で40
とかもう死ぬレベルじゃねえか」
ぼそりと呟いた言葉が聞き取れたのか、ロヴィータちゃんは嫌そうな顔をする。
いまは血圧を測っている最中。既に終わった俺がロヴィータちゃんを。隣でヴィヴィオがガーくんを。
「パパー、ガーくんはねがおっきくてはいらないって」
「じゃあ羽を一枚千切ってそれを血圧機にいれて検査しよう」
「まてまてまてどうしてお前はそう健康診断の概念を壊そうとするんだ」
千切った羽を測定しても無意味だろ。もっともらしい言葉をもらう。
結局、ガーくんはトランフォームしてなんとか測定を可能にした。
やっぱアヒルってすげえ。
☆
「おー、ヴィヴィオ背が伸びたぞ!やったな!」
「ふふん!ヴィヴィオむてき!」
「そうだな無敵だな」
ヴィヴィオの身長を測ると若干ながら前に測ったときより伸びている。よく寝ているからだろうか、寝る子は育つというもんな。
「あ、こら爪先立ちは禁止だっていっただろ!」
隣ではガーくんの身長を測っているロヴィータからそんな言葉が飛んでくる。
「ネェノビタ?ノビタ?」
「え?うーん、ひょっとここれ伸びてるのか?」
「どれどれ。おーやったなガーくん。伸びてるぞ!」
「ワーイ!」
嬉しさのあまり竜巻を起こすガーくん。職員が恐怖に怯えているからやめなさい。
今度は俺がロヴィータちゃんの身長を測ろうとする。しかしロヴィータちゃんはそれを頑なに拒否。
「いやだって身長変わらないし。体重も変わらないだろ」
「どれどれ、ふむふむ。たしかに胸は変わり映えしてないようだが──」
「どこ触ってんだお前!」
アイゼンでボッコにされる。なんだよおっぱい触っていっていったじゃん。
「いついった!?いまの会話からどうやってその心情を読み取った!?」
「天才ですから」
「変態なんだよ。だからいーっつーの。あたしは身長と体重は前のかいときゃいいんだよ。ほらそれよりさっさと測るぞ。台座がいるな。あ、おいアヒル。ちょっと飛んで測ってくれ」
「イイヨー」
『え?アヒルって飛べるの?』
『そもそもアヒルって喋れるのか?』
『ミッド産のアヒルなんじゃね』
当たり前すぎて感覚マヒしてたが、傍から見たらその反応が正しいよな。ヴィヴィオが気にしてない限りどうでもいいけど。
身長を測るために測定器の上に立つ。ガーくんがぱたぱたと飛んで準備をする。
「イクヨー」
「おお、ゆっくり頼む」
「てんちゅうーッ!」
「あでッ!?」
返事をした次の瞬間、ものすごい勢いでバーが降りてきた。思いもよらない出来事と舌を噛んだ痛みから一瞬何が起こったのか理解できない。測定器から離れてガーくんのほうを見上げると、俺の近くの虚空をじっと見つめていた。
ガーくんの視線の先を辿る。
ガーくんの視線が動く。俺もそれに合わせて動く。
ガーくんの視線がまたもや動く。俺はその視線に大きく口をあけて突進する。
何かを口の中にゲットした。
「お、おいひょっとこ、大丈夫か?」
「パパーいたいいたい?」
心配そうなヴィヴィオとロヴィータ。ガーくんが触ってもいないのにものすごい勢いでバーが降りたのを見たもんな。
「ふぁいじょうぶ。あふぉはいまふぉろひた」
「悪は滅びた?」
ロヴィータに頷く。あとは舌でこいつの至る所を犯しつくせば──
「ぶはッ!いってぇー、いま咽喉チンコ蹴りやがったなエロフィギュア」
「リィンをぺろぺろさんの口にいれた罰です!不潔です!汚らわしいです!あんなこの世の最果てのゴミ処理場にリィンをおくるとはとんだ罰当たりです!」
「俺の口内をゴミ処理場呼ばわりするエロフィギュアなんて犯して当然だろ」
「リィンはエロフィギュアなんかじゃないです!ぺろぺろさんの目をほんとうに腐ってますね!」
「リィン、お前いままでどこにいたんだよ?」
「ふふんヴィータちゃん。リィンはずっといましたよ。ぺろぺろさんが到着したときからです。ただしリィンはだれにもバレずにずっといましたから。あのアヒルさんにみつかっちゃいましたけど」
「どうやって?」
ロヴィータがそう聞くと、リィンはない胸をそらして自慢げにいった。
「ぺろぺろさんの目から逃れたい一心で、リィンは自身を透明化させる魔法を編み出したのです。そしてヴィヴィオちゃんをぺろぺろさんの魔の手から逃すために今日いちいちチャンスをうかがっていたのです」
「よし血圧器にこいついれてくるわ」
「ぎゃー!?助けてくださいヴィータちゃん!」
「まてまてひょっとこ。グロ映像になること間違いなしだからやめとけ」
指に噛みついてくるエロフィギュアをどうしようかと迷っていると、ヴィヴィオが嬉しそうにリィンを指差した。
「パパ!ようせいさんがいる!ヴィヴィオがいいこにしてたからようせいさんがきたよ!」
「ん?あぁそうだな。ヴィヴィオがいい子にしてたから妖精さんがヴィヴィオに会いにきたぞー」
ヴィヴィオにエロフィギュアを手渡すとヴィヴィオは嬉しそうにエロフィギュアを内緒のこそこそ話しを始めた。ガーくんもそれに加わってエロフィギュアが身構えているのがなんか面白い。
「ヴィヴィオは人気者だな」
「うちのアイドルだからな」
楽しそうにおしゃべりしているヴィヴィオたちを連れだって残りをさっさと終わらせることにした。昼飯でも食いながらこいつらにはゆっくりおしゃべりさせてあげたいしな。
☆
聴力でロヴィータちゃんを遊んだり胸部検査でロヴィータちゃんのおっぱいを眺めることに失敗したり、なんやかんやがあったもののなんとか問診までたどり着いた。ロヴィータとガーくんと手を繋ぎながら頭にエロフィギュアをのせているヴィヴィオ。そんなヴィヴィオがかわいいです。
「はいでは問診しますね」
(´・ω・`)
/ `ヽ. お薬処方しますねー
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(´・ω・) チラッ
/ `ヽ.
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(´・ω・`)
/ `ヽ. 今度カウンセリングも受けましょうねー
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「はい問診終わりましたよ、ひょっとこさん。それじゃヴィヴィオちゃんも問診しましょう。おいでーヴィヴィオちゃん」
「いやいやいや!?ちょっとまってよシャマル先生。問いかけは?いま問いかけなしでしたよね。俺の目すら見ずに終わらせましたよね?」
「はい?なんのことでしょうか?」
「おらさっさとどけよひょっとこ。後がつかえてるだろ。シャマルだって一人でこの量さばくのは大変なんだぞ」
「おいまて、いまの正当化されるのか!?」
俺の声なぞ聞く耳もたないヴォルケンの面々など飛び越して、間違いを犯す男衆がいるかもしれないから、という理由でユーノとシグシグと三人で行動していたはやてに直訴した。
しかしそっと目を逸らされた。
俺が夜天の書の主なら全員性奴隷していたぞ。