04.無職の朝は早い
『おはよう、ひょっとこ。 起きて、朝だよ』
「……んあ? ……もうこんな時間か。 せっかくミクちゃんにす巻きにされる夢をみていたというのに……」
ミクちゃんの抱き枕をそばに置きながら可愛い声でなく我がエンジェルの目覚ましを止める。 おはようミクちゃん、今日も可愛いぜ。
「さて……きょうはジョギングにしとくか」
クローゼットからランニングシャツとハーフパンツを取り出して手早く着替えを済ませ、玄関でランニングシューツを履き外へ出る。 うん、今日もいい朝だな。
☆
突然だが無職の朝は早い。 というより俺の朝は早い。 まず起床時間からして頭がおかしいと思う。 なんといっても5時起きだ。 といってもこれにはちゃんとした理由があってだな……まず幼馴染の二人が6時には起きてくるのだ。 仕事だとぬかしながら。
お前ら高校のときは寝坊して遅刻ギリギリだっただろうと言いたいところだが、これは成長の証なんだと思う。 なのはの胸は成長してないけど。 毎朝牛乳飲んでるのにな。
まあそれはおいといて……二人が6時に起きるものだから俺は必然的に二人よりも早く起きて朝ごはんの準備や弁当の準備をしなければならない。 ならもう少しだけ遅くおきてもいいじゃないかと思うだろ? けどさ、体動かしておかないと太ったりするし、それが嫌なんだよね。 だからこうやって5時に起きてジョギングしたり散歩したりしているわけですよ。
「おうおう……ひょっとこくんじゃないかえ……。 おはようなー……」
「じいさんおはよう。 そろそろ天国へのカウントダウンがはじまりそうだけど犬の散歩して大丈夫なの?」
「えーえー、これはわしの唯一の楽しみじゃけんのう……」
ワンワン! ワンワン!
「……言ってるそばから犬逃げ出したぞ、じーさん。 じーさんが持ってるのリードじゃなくてTバックだからね」
「なんとっ!? わしとしたことがうっかりばーさんのテーバックを持ってきてしもうた!」
ばーさん無理しすぎだろ。 流石に若作りとかのレベルじゃねえよ。
「まあ、あんまり無理しないように気を付けてな」
あまり話し込んでいるのもなんなんで軽く手をあげて走り去ることにした。 じーさんはじーさんで楽しんでるようだし。
「さて、シャワー浴びて朝ごはん作るか」
適当に走って帰ってきた俺は、汗でべたべたしているシャツとハーパンを洗濯機にかけるとシャワーを浴びることにした。 べつにシャツもパンツもいま洗わなくても俺的にはいいのだけどなのはたちが嫌がるのでこうやって一人寂しく洗うことに。
あ、なのはとフェイトの下着発見。 とりあえず分泌液でもつけておくか……。 いや、さすがにそれはやめておこう。 本人たちが見ている前のほうが気持ちいいしな。
「それにしても弁当どうすっかな〜。 意表をついて逆日の丸弁当にでもするか」
シャンプーで髪を洗い、リンスをした後バスタオル一枚でそう決意した。 どんな反応をするか楽しみである。
☆
「というわけで台所につきました。 まずは弁当を作ります」
着替えたあと地底人と書かれているエプロンを着こなして台所に立つ俺。 気分はすっかり奥さんである。 新妻である。 裸エプロンでなのは達のベッドに飛び込みたい。
「さて……まずはなのはの弁当ですが、弁当箱いっぱいに梅干しを敷き詰め中央に白米をそっと置いた愛情たっぷりの逆日の丸弁当です」
作り始めて1分。 これは俺の中でも最速のタイムである
「お次にフェイトの弁当ですが、ミートボールとからあげとポテトサラダにミニスパゲッティ、そしてごはんを敷き詰めます。 とりあえずフェイトは太らせるために別の箱におにぎりを2つほどいれておくとしよう」
作り始めて20分。 なかなかの出来ではないだろうか。
結構ポテトサラダはうまく作れたと思う。 まあ、作り方は意外と簡単です。 まず材料はジャガイモときゅうりとハムと卵。 コツはしっかりと粉吹きのときに水分を飛ばすことと半熟卵のとろとろかんである。 これが意外と難しい。 それにジャガイモだって茹でるのに結構時間がかかるんだぞ? お兄さんの秘密の魔法でそこは短縮できるけど。
そんなこんなで弁当を作り終えてお次は朝ごはんである。 食パンをトーストへ、冷蔵庫からバターといちごジャムを取り出す。 お次はハムと目玉焼きを作って、ちぎったレタスやスライスしたにんじんなどをいれ自家製のドレッシングできれいに仕上げたサラダを3人分テーブルの上にのせる。 ふう……お次は二人を起こしにいかないとな
☆
「ウルフ11 目標地点へ到着した」
なのはとフェイトの二人部屋に足を踏み入れた俺は、ポケットにいれていた携帯を耳に押し当てながら届かない電波を発信する。
「というかアレだよな。 こんな姿してたらそりゃ世の人たちに女好きと誤解されるわ」
眼前で二人して抱き合って寝ている光景をみながらそう呟く。 なのはとフェイトの間で押しつぶされているウサギになりてえ。
だが、そうはいってられない時間帯になってきた。 そろそろ二人を起こさないと大変なことになる。
「ということで、官能小説を朗読しながら二人を起こしたいと思います」
一度部屋に戻り持ってきたのは妹系女の子がのっている官能小説。 これで爽やかなモーニングをお送りすることに。
「宗谷の腰がズンズンと真奈美を突いていく。『いやんっ! 宗谷、もっとハゲしくぅ!!』」
「……なにやってんの?」
「……朝の発声練習かな」
身振り手振りを加えて熱弁しようとしたところで、なのはから冷凍ビームが飛んできた。 あまりの冷たさに息子が縮み上がる。
「まあ、それはそれとして。 朝ごはんできてるからさっさと食べるざます。 そろそろ時間帯なんだし、隊長二人が遅刻なんて恰好悪いぞ」
「うん、そうするよ。 ほら、フェイトちゃん朝だよ〜」
「うぅん……もっとお願い……」
「任せろ! 『真奈美、僕も限界』」
「いや、そっちじゃないから」
フェイトからのアンコールに応えようとしただけなのにバタなのは本を取り上げてしまった。 まったく、これで参考書が一つ消えてしまった。
なのはは寝ぼけているフェイトを起こすと、その場で本を破り捨て部屋から出ていこうとする──ところで振り返った。
「おはよう、今日も一日よろしくね」
「はいはい」
さて……送り出したあとは遊びに行くか