03.おっさんと過ごす夜
「はーい、それじゃ椅子に座れー」
健闘むなしくおっさんに捕まった俺は交番へやってきた。 そこではおっさんと二人きり。 みなさん、ちょっとだけ考えてほしい。
深夜におっさんと二人きりだぞ? なにか間違いが起こるにちがいない。 ……そう、いつもは俺に冷たい態度をとるおっさんだって深夜の密室という魅惑増量世界によってその皮を脱いでしまうわけだ。
「あのな……いつもはお前に冷たい態度をとってるんだけどよ……」
「ちょ、まてよ。 俺ら男同士なんだぜ……?」
「そんなことわかってる……! だけど、俺のこの胸の高鳴りは抑えられないんだよ!」
「おっさん……!」
「……今日はまた随分と頭がおかしいな。 ついに蛆虫沸いたか? 相談くらいはのってあるぞ?」
おっさんが菩薩のようなほほ笑みでこちらをみていた。 なんか死にたくなってくる。
「いえ、持病が発症したんで。 もう大丈夫」
「そうか。 まぁ若いときは色々あるもんだからな。 恋しかり友情しかり」
「おっさんが言うとキモイですね。 そういえば、おっさんは結婚してたよね? 娘さんもいた気がするんだけど」
とりあえず話題をそらしてなのはたちが帰ってくるまでの間、退屈しのぎにおっさんと話しをすることに。
「まあな、これでも結婚してるぞ。 娘は二人いる。 長女が16歳で次女が7歳だ」
「離れてるな〜。 でも長女はいい年だし、恋人の一人や二人いるんじゃない?」
「やっぱお前もそう思うだろ!!」
いきなりおっさんが身を乗り出しながらこちらに近づいてきた。 近寄るなハゲ
「どうも最近おかしいんだ! 家に帰ってくるのだって19時だし、この頃は化粧もしてる。 それに服だってミニスカートやニーソとか萌え萌えで受けでいいのを買ってくるようになった! これは絶対男がいる! 毎日毎日学校でプレイしとるぞ、絶対そうだ! もしかしてお前か! お前がその男か!」
「落ち着けよおっさん、後半好きなシチュエーションが混じってるぞ」
まあ、確かに学校でのプレイは興奮するよね、うん。 しかしおっさんが娘さんをこんなに溺愛してるとは……、どことなく士郎さんを思い出す。
士郎さんもなのはのことになるとおかしかったからな。 授業参観のときや合唱コンクールのときだってはしゃいでたし。 父親というものはそういうものなんだろうか。
「だけど娘さんも17歳なんでしょ? だったら19時に帰ることや化粧なんて当たり前じゃないの。 ミニスカやニーソだって可愛いから履こうと思っただけかもしれないじゃん。 あんまり心配なら娘さんに聞けばいいだけの話だろ?」
「……この頃、口をきいてくれないんだ……」
「……ごめん」
項垂れながら絞り出すように呟いたおっさんはとても小さく見えて、たまらずそう返してしまう俺であった。
☆
「つまりや、その同棲まがいなことをしている男性はなのはちゃんとフェイトちゃんの奴隷みたいなもんなんや」
『なるほど〜』
フェイトちゃんと二人で説明すること30分、身振り手振りを加えながら話していたのだがどうやらちゃんと伝わらなかったらしい……
「やっぱりそうですよね! なのはさんは女の子が好きなんですから、好き好んで男と同棲するなんておかしいと思っていたんです。 やはり奴隷用として置いておいたんですね!」
嬉々として私の手を握りしめながら離さないように話すスバル。 この子の中で私がどういった位置に存在しているのかとても気になるのだが……聞いたら予想通りの答えが返ってきそうで聞けない。
「ち、違うってばスバル! わたしやフェイトちゃんが管理局の仕事で忙しいから家事をお願いするかわりに住まわせてるだけだって! ほんと奴隷みたいな扱いなんて断じてしてないから! ねえ、フェイトちゃん!?」
「そ、そうだよ! どちらかというと奴隷より主みたいだよ!」
確かにそれは間違ってないかも。 我が物顔で家を占領してるし。 いつも間にか家を改造してコスプレ部屋とか撮影スタジオ作ろうとしてたし。 あの奇行に慣れてきた自分もアレだけど。
「そんな……だったら私はなにを信じて1年間頑張ればいいんですか!」
むしろ何を信じていたのかこの娘に問い詰めたい。
「やめなさいよスバル。 なのはさんたちも困ってるでしょ。 それになのはさんたちは大人なのよ? 男性と同棲くらいするわよ」
「そんな、ティア!? ティアまでそんなこというの! ティアだってなのはさんたちのこと信じてたじゃない!」
「ええ、信じてるわよ。 けどね……だからってなのはさんたちに当たったら元も子もないでしょ?」
スバルの肩に手を置きながら優しく説得していくオレンジ髪をツインテールにした女の子、ティアナ・ランスター。 この娘もスバルと同様私の直属の部下にあたる。 魔力は低いが冷静な判断力と視野を広くみる目があり努力を怠らない娘である。
将来の夢はフェイトちゃんと同じ執務官らしいが、きっとこの娘なら立派な執務官になってくれるにちがいない。 げんに、暴走しているスバルを正気に戻そうとしているし。
「──だからその男性のほうをコロコロすれば私たちのなのはさんは戻ってくるのよ」
「その手があったか!」
訂正、この娘も暴走していた。 というかいい加減私の疑惑もどうにかしてほしい。
「あのね、二人とも。 一つだけいいかな?」
「はい、なんですかなのはさん」
「ちょっとまってください、こういうことは部屋に入った後にいうのがセオリーなんだと思うのですが……」
「うん、そんな不安そうでありながら羞恥に悶えている表情なんてしなくていいよティア。 絶対に思っていることと正反対のこという自信があるから。 あのね、私はべつに女の子だけを好きってわけじゃないんだ」
「な、なのはその言い方だと……」
「え?」
フェイトちゃんがオロオロした様子で話しかけてくる。 なにか間違ったこと言ったかな?
「なるほど、男性も女性もどちらもいけるというわけですね。 流石なのはさん……これがエースというものなんですね……!」
「私勘違いしてました……! やはり女の子もいいですけど、それなりに男性の方ともお付き合いしないとダメなんですね!」
「とりあえずいまのでエースのなんたるかをわかってもらわれたら困るんだけどっ!? 二人とも私が言ったことちゃんと理解したの!?」
質問しようとした私だが二人ははしゃぎながら席に戻る。
「ねぇ、フェイトちゃん」
「うん、言いたいことはよくわかるよなのは」
顔を見合わせて、ひしっと抱き合いながら二人で呟く
「「なんでわたしたちが女の子好きになってるの……」」
こんなの絶対おかしいよ
(´・ω・`)・ω・`)
/ つ ⊂ \
☆
「ただいま〜って、なんだ二人ともまだ帰ってきてないのか」
おっさんを慰めた後、速攻で帰ったのだが二人ともどうやら帰宅していないらしい。 日付だって変ったというのにまだ帰ってきてないなんてお兄さん怒っちゃうぞ。
「と、いうわけで疲れているであろうあいつらを溺れさせるために風呂を沸かしました。 温度は38°で二人をバカにするためにアヒルの遊び道具もいれておきます」
小さい子どもの遊び道具であるアヒルくんが何故この家にあるのかはわからないが、おおかた世間でアヒル口というけったいなものが流行ったからだと推測する。
それはともかく、目の前には熱々の風呂。 何故、俺がこんなものを用意したかというと……
「まずあいつらを風呂に入れて溺れさせます。 すると二人のうちどちらかが悲鳴を上げるはずです。 そこで俺が颯爽と登場するわけですよ。 介抱という大義名分があるわけだから、世の野郎どもがうらやましくなるようなことだってできてしまうわけである。 流石だな、俺」
「ただいま〜、やっと帰れたよー」
「ほんと、大変だったよね〜……。 あれから職場の空気がへんな空気になるし」
「ほんとほんと」
「おー、おつかれさん」
丁度風呂が沸きあがったところで二人が帰ってきた。 二人とも、いかにもぐったりとした表情をしていていい具合に弱っている。
「いまから夜食作るから、その間に風呂でもはいってこいよ」
「うわー! お風呂沸かしておいてくれたの! ありがとう!」
「べ、べつにアンタたちのことが好きで沸かしたわけじゃないんだから! ただ、暇だったから沸かしただけなんだからっ!」
「フェイトちゃん、早く入ろう!」
「うん!」
見事にスルーされた。
さっさと風呂場にいく二人。 俺はそれを見送ったあと、夜食を作るべく冷蔵庫へと向かう
「まあ、胃もたれしない食べ物だから……うどんでいいか」
ふたり分のうどんとネギを冷蔵庫から取り出す。 ネギを刻んでうどんを茹でる。 とても簡単な作業のように思えるが茹でる時間で固さがかわってくるから意外に難しい。 いまだに完璧なゆで時間にあったことがないのである。
キャーーーーーーーーーー!
ミクちゃんへのポエムを考えながら茹でていると、風呂場から叫び声が聞こえてくる。
これを……まっていた!!
火をとめ急いで風呂場へと直行する。 あくまで人命救助である。 幼馴染が大変なことになっているんだ。 俺は悪くないはず。
「どうした二人とも、倒れたか倒れたのか! そうだといってくれ!」
ガラリと開けたその先には、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンがアヒルではしゃいでいた。 ……あれ?
「……なにしにきたの?」
「……知ってた? 俺って前世アヒルだったからさ、仲間を助けにきたんだ」
「へー……そうなんだ」
「うん。 あとさ……この状況でいうのもなんだけど、フェイトのブラ壊しちゃった。 ごめんね、フェイト」
アイドルばりのスマイルを出したつもりが、ひょっとこのお面をはがすの忘れていたため失敗に終わってしまった。 というか、フェイトが指鳴らしながらこっちをみてるんですけど。 だったらこっちも貴様も胸を凝視してやるよ。 そう思ったところで、なのはの顔がドアップで目に映し出された。
「なにか言い残すことある……?」
「うどん伸びるから、早めに食べてください……」
俺は目をつぶった。
直後訪れる鈍痛
叫ばれる罵声
そのすべてを受け入れながら、俺はアヒルさんを胸に抱く。 頭の中にはそんな俺を見ながらも優しくほほ笑んでくれるミクちゃんの姿。
あぁ……やっぱり俺にはミクちゃんが必要みたいだ。