25.デッドorデッド



 現在俺たちは夕食のすき焼きを食べていた。 俺の顔はアソパソマン並みに腫れあがっており手なんて肩から上にあがらない状態になっている。

 おかしい。 絶対におかしい。

 幼馴染というものは素敵でエロエロな展開になると相場が決まっているはずなのにこの二人はデレというものが一切ない。 これは俺がエロエロなことをするゲームの世界ではなかったのか?

 だがそんなことを言ってもはじまらない。 いまにこのテクニックでこの二人が乱れる姿が目に浮かぶ。 そう……俺に懇願する姿がな!

「白菜の追加はまだかな?」

「あ、いますぐにもってきます」

 ……もう少しだけ、もう少しだけの辛抱だ……!

 冷蔵庫から白菜を取り出して食べやすい大きさにカットし、食卓へと戻ってくる。

「白菜もってきました」

「ねぇ、たまごもないんだけど」

「あ、少々おまちください」

 向かい側のなのはがテーブルでコンコンと卵を割る仕草をしながら、低い声で言ってくる。 俺はその声に反応してすぐさま冷蔵庫に向かい卵をとってくる。

「どうぞ、なのは大明神さま」

「……はぁ。 ちゃんと反省してるの?」

「それはもう、猛反省してます。 フェイトの砂丘よりも高く谷間よりも深く」

「……君の中の反省が何なのか知りたい」

 卵を受け取ったなのはは頬杖をつきながら上目使いで俺を見てきたのに対して、俺も誠心誠意答えたのに溜息が返ってきた。 あんまり溜息ばっかり吐くと幸せが逃げるぞ?

「はいヴィヴィオ。 熱いから気をつけてね?」

「うん! ヴィヴィオ、きをつける!」

 なのはの隣にいるパツキン二人が仲良しそうにする光景が視界にはいる。 パツキン(大)がパツキン(小)のお椀をとって鍋の中から肉と野菜を均等によそって渡す。 パツキン(小)はそれを両手で受け取りながらニコニコ笑顔で復唱する。 なんとも微笑ましい光景である。

「完全にハブられてるな」

「は、ハブられてないもん! ちょっと君の相手をしていただけであって……本当はわたしにもこれくらい懐いてるもん」

「ほ〜。 さっきは溶けるとまで思われていたのに?」

「そ。それは誤解だから大丈夫なの! みててよね! ヴィヴィオ〜、わたしが卵割ってあげるよ〜?」

「あぅ……あ、ありがとう……」

 ニコニコ笑顔でヴィヴィオのお椀に俺からもらった卵を割ろうとするなのにはヴィヴィオはお礼を言いながら、少しだけお椀を自分のほうに引き寄せた。 これが意味すること、それはヴィヴィオがなのはから卵を受け取りたくないということだ。

 ヴィヴィオの態度を見て、笑顔を張りつかせたままなのははゆっくりと体を引いた。 まあ、あんな態度みせられたらしょうがないよな。

「……いまの光景は見てなかったことにしといたらいいの?」

「……うん」

 消沈したまま首を縦に動かすなのは。 ちなみにフェイトはそんな二人のやりとりをみてオロオロするばかりである。

 そもそも席順からして避けられてるということに気付かないのか?

 いまの席順はこのようになっている。



           ☆



 ヴィヴィオ・フェイト・なのは

 どう考えてもヴィヴィオはなのはを避けているだろ。 俺? 俺は安定の一人だよ。 みんなどう思う? 家という空間で考えるなら両手に華だよ。 でも横という空間で考えるならスッカラカンだよ。

 まあ、そんなことは置いといて。

「エースオブエース破れたり、だな」

「こんな負け方嫌なんだけど……」

 具が何も入っていない空のお椀をカツカツと刺しながら、なのはは一人で愚痴り始めた。

 とりあえずそっとしておくことにして、冷蔵庫からうどんを取り出してくる。

「そもそも、俊くんがヴィヴィオにへんなことを吹き込まなければこんなことにはなってないんだよね。 そう考えるとわたしの不幸はいつも俊くんが絡んでるような気がするんだ。 ううん、べつに俊くんを責めるつもりなんて全くないんだよ? でもさ、たまに思うよね。 俊くんはなんでなのはをイジメるんだろうって。 毎日毎日、意地悪ばっかりしてさ。 頭おかしいよね。 ううん、でも俊くんが頭がおかしいのは知ってるよ? 子どもの頃からの付き合いだからね。 一番長い付き合いだもんね。 でもさ、たまに納得いかないことってあるんだよ。 こっちにも意地ってものがあるしね。 これでもね、大変なんだよ? あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、怒ってもヘラヘラしちゃってさ。 どれだけわたしがディバイン・バスター撃とうと思ったことか。 けど、俊くんはそんなことおかまいなし。 そもそもデリカシーがないんだよね。 いまどきデリカシーのない男なんてモテないんだよ?」

 台所から戻ってきたところで、ちょうどなのはの愚痴が一段落したみたいなので声をかけることに。

「なのは、うどん食う?」

「たべる!」

 さっきとは打って変わった表情で目をキラキラさせながら肯定するなのは。 うんうん、わかるぞその気持ち。 すき焼きのうどんって美味いよな。 ところで愚痴ってどんな愚痴なんだろうか? どうせ俺に対する嫌味なんだろうけどさ。

 うどんを三玉いれて蓋をすることに。

 その間に俺は二人に話しをすることにした。 もちろんこれからヴィヴィオをどうするかについての話だ。

「さて、二人とも。 まずはヴィヴィオがここにいる理由を話す。 そのうえでこれから俺たちのする行動を決めていくことにしたいんだけど、異論はないよな?」

「「うん」」

 二人が肯定する。 ヴィヴィオだけは器に残った食べ物に一生懸命で話に参加していない。 けど、それが一番いいいのかもしれない。

「それじゃ、まずなんでヴィヴィオがいるのかだが──」

 かいつまんで、要約してわかりやすく話していく。 スカさんから預かったこと。 ビスコの魔力でここについてきた。 案の定、なのはもフェイトもビスコ辺りでとっても微妙な顔をしていたのだが。

「まぁ、俺が話せることはこれくらいかな。 俺自身もスカさんからそこまで聞いてない、っていうか聞こうとしてもダメだったよ」

「もしかしてスカさんって多忙な人なのかな? てっきり俊くんと同じ無職だと思ってたけど」

「というか、スカさんってスカリエッティに似てるよね」

「フェイトの気のせいじゃない? それって次元犯罪者なんだろ? スカさんにそこまでできるとは思わないけど」

「……それもそうだね」

「とにかく、ヴィヴィオは此処で預かるってことで異論はないんだよな?」

 俺の問いに二人とも頷く。 わかってはいたけど……ほんと二人とも優しいよね。

 だがここで大きな問題が一つでてくる。

 その問題とは──

「士郎さんやリンディさんになんて説明すればいいんだろうか……」

「「あっ……」」

 預かっているだけとはいえ、ヴィヴィオはここで生活していくことになるんだ。 スカさんは期限については何も述べなかった。 ということは、最悪の場合、一生なんてことにもなりかねない。 だとしたら様々な問題が出てくる。

 やはり早めに話しておくべきだろうか……。

「やっぱり、話しておかないとまずいよね。 最悪でもリンディさんには話しておかないと」

「いやいや、リンディさんだけじゃダメだろ。 士郎さん達だって俺たちのこと心配してるんだから。 だからこそ、俺たちはしょっちゅう海鳴にも帰って無事であることを伝えてるんだし。 それに子供の頃からどれだけ背中を押されたことか。 あんな人が出来た人たちいないぜ?」

「でも……お母さんになんて説明すればいいの?」

 フェイトの言葉で軽くシュミレートしてみることに。



           ☆



「あら、なのはちゃんとフェイト、久しぶりね。 ついでに無職の君も」

「いつも思うのですが、俺にはリンディさん厳しいですよね」

「あなたが死んでくれたら優しくするわよ」

 まったく意味ないですよ、それ。

 玄関の前で軽くはない世間話をする。 なのはとフェイトのおかげで若干リンディさんの顔にも優しさがある。 俺単体のときは般若のような顔してるのにな。

「それで? なにか困ったことでもあったのかしら? 三人で訪ねてくるなんて」

「あ、そのことなんだけどね、お母さん? ちょっと話しておきたいことがあって……」

 フェイトのよそよそしい態度にリンディさんもなにか違和感に気付いたようだが……フェイトが喋っているので口を挟まないようだ。

「えっと──子どもをね、紹介しようと思って」



           ☆



「死ぬな、俺が」

「うん、俊は死んじゃうね」

「フェイトちゃんの言い方も悪いとは思うけど」

 三者三様の言葉を述べながらも俺たちが到達した答えは一つ。 俺がリンディさんに殺されるという結末だ。 俺自身もそんな未来が容易に想像できるわけで、死ぬしかないわけで、なんとも困ったことになった。

「それじゃなのはのほうは?」

「うちもダメだと思うよ? ねぇ、俊くん」

 なのはが俺に振ってくる。 俺はそれに大きく頷いた。

「そもそも髪からして違うしな。 それにもしそんなこと言ったものなら、流石の俺も士郎さんと恭也さんに殺されるよ。 なのはのこと溺愛してるし。 ヴィヴィオの年齢はだいたい5歳くらいだろ? 逆算すると14歳だぞ? そんなこと士郎さんや桃子さんが許すはずない。 どこの14歳の母だよって話になってくる」

「……それじゃいっそのこと、話さないっていう選択は?」

「それはもっとダメだよ、フェイト。 俺たちはまだ19歳。 日本では未成年の部類に入ってしまうから、やっぱり士郎さんやリンディさんには話したほうがいいと思うんだ。 ヴィヴィオはペットとは違うんだ。 やはりそれなりに報告とかも必要になってくるよ」

「う〜〜〜ん……でも、報告した先に待ってるのは俊くんの死」

 そこが一番の悩みだよな〜……。 もっとこう……ギャルゲやエロゲみたいに簡単にいけばいいんだけど。

「「「う〜〜ん……」」」

 三人が悩む中で、当人であるヴィヴィオだけが

「うどんたべようよ〜!」

 元気に発言をしてるのであった。




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