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40.おっさん、事件です!



 バイトをはじめてから一週間が経った。 仕事にも慣れ(といっても掃除なので、慣れるもないのだが)聖王教会の人達ともコンタクトを取る機会が増えたりと、順風満帆とんとん拍子で仕事場との距離も詰めることとなった。

 中でもマッパさんとカリムさんはヴィヴィオの面倒をよくみてくれ、なおかつヴィヴィオもそれに嫌がることなく逆に嬉しそうに遊んだりしているので、俺としても仕事に集中できた。 二人には本当に感謝しっぱなしである。

 現在俺は聖王教会の図書室にいる。 いや、流石に図書室というと幼稚になるから……書庫とでも言い換えようか。 広さとしては学校の図書室と大差ないし、書庫と呼べるほどのものではないのだが。 しかしながら聖王教会だけあって扱っているものが違いすぎる。 ざっと見た感じ、古代ベルカのことについての古文書なんかが沢山あった。

 今日の俺の仕事はその古文書やらなんやらのホコリをとったり、渡された紙のとおりに本を並べていったり……と、あんがい簡単なことものである。 ちなみにヴィヴィオは小さなテーブルで家から持ってきたマンガ(俺のものである)を一生懸命読んでいる。 (その隣にはヴォルケンで一番まともかもしれない人がいるので安心だ) 読書をするのはいいことだ。 それがマンガであろうと、かわらない。 そう思いたいものだね。

 まぁ、それはいいとして──

「どうしてお前がいるんだよっ! 仕事はどうした、仕事はっ!?」

「大丈夫。 わたしの部下たちは優秀やからな。 そして六課の仕事もそこまでないし」

「それが異常なんだよっ! なんでお前ら仕事ないのっ!?」

「う〜ん……萌え担当やからかな?」

「……前から思ってたけど、お前ら異常だよな。 並行世界のおまえらブチキレるぞ」

「戦いとか面倒やで。 アンタもよく言ってたたろ? 『戦うこと自体が何かを失うことだからダメ』だって」

「……そんなこと言ったかな?」

「言ったで」

 最近物忘れが激しくて覚えていない。 う〜ん……言ったような気がしないでもない。 ……いや、やっぱいってねえよ。

 この会話からもわかるように、俺の前には、いや“前”というのは正しくないな。 俺の“横”には親友である八神はやてが一緒になって本の整理を行っていた。

「それでバイト開始から一週間やけど、どんな感じなん?」

「どんな感じっていわれてもなぁ……。 まぁ、好感触ではあると思うよ。 ミスもしてないし、ヘマもしてないし」

「変態行動は?」

「したいけどマッパさんがナイフでチラチラと脅してくるので行動できねえ」

「ダウト」

「正解」

 流石はやて。 あっさり俺の嘘を見抜いてくるな。

 はやてはやれやれ……と言わんばかりに肩をすくめ、

「アンタがナイフくらいでビビるわけないやろ。 大方、給料に響くから、なんてことを考えているとみたで」

「大正解。 とりあえず最初の一か月間はおとなしくしておくよ」

 バイトの場合、本当ははじめの一か月間は給料が出ないのだが……カリムさんの好意とはやえもんの尽力で、一か月間働けばすぐに給料がでることになった。 まぁ、あくまで一か月間続いた場合なんだけど……流石の俺でも一か月間くらいは余裕である。

「それにしてもがんばるな。 三日くらいで終わると思っていたんやけど……」

 はやては少しだけ意地悪そうな顔でこちらを見る。

 確かに普段の俺なら、そうなんだけど……

「はやえもんが俺のために折角セットしてくれたバイトだからな。 ここでクビなんてことになったら、俺はお前に顔向けできないし、お前もお前で立場が悪くなるだろ?」

 俺のせいではやての立場が悪くなるのはいただけない。 こいつは俺と違って管理局員なわけだし、下手したら管理局の信用も若干ながら落ちるかもしれない。 それだけはなんとしてでも避けたいしな。 あそこには、なのは・フェイト・はやて・ヴォルケン・嬢ちゃん・スバル・エリオ・キャロ・ユーノ・クロノetc・・・ 沢山の知り合いが働いているわけだ。 全員が俺と関係者なわけだし、トバッチリとかごめんだぜ。

「……ふ〜ん。 一応、考えてはいるんやな」

「まあな。 お前の顔に泥を塗ったりはしないよ」

「それなら日常的に逮捕されるのもやめてくれへん? いつもなのはちゃんとフェイトちゃんが頭抱えてるで?」

「あいつらの困った顔大好きなんだ」

 怒った顔も笑った顔も大好きだ。 泣いている顔はちょっと──だけど。

 俺とはやては話しながらも、どんどんと本を整理していく。 要領のいいはやては俺より倍のスピードでどんどんどんどん片付けていく。 ……こいつやべえ。

「それにしても、こういった古文書とか昔の伝記物とか、どこまでが真実なんだろうな」

「う〜ん……6割嘘ってとこやない? きっと真実のところはしょーもないところやと思うで」

「例えば?」

「遊び人だった。 とか」

 確かにそれはしょーもない。 精子が枯れて死ね。 いや、既に死んでるか。

「まぁ、三次元なんて当てにならないしな」

「でたな、二次元大好きキモオタ野郎」

「三次元でも好きな奴らはいるからな?」

 確かにミクちゃん大好きだけど。 一人で一心不乱にギャルゲーとかするけれど。 なのはとフェイトに土下座してお金貰って好きな声優さんのライブとかいくけどさ。

 はやてはそんな俺を横目で疑わしそうに見る。 これが本場の捜査官の疑いの目か。 やってもいないことを喋りたくなってくるな。

「ふ〜ん……例えば?」

「は?」

「だから、例えば好きな人ってダレなん?」

 こいつは何をそんなに詰め寄っているんだ。 俺に詰め寄る前に本を棚に詰めこめ。 なんてことは言えるわけもなく、はやての要望通りに列挙することに。

「なのは・フェイト・ヴィヴィオ・両親・はやて・高町家・おっさん・スカさん・ウーノさん・ヴォルケン・リンディさん・クロノ・ユーノ・とかかな。 まぁ、結構知り合いはいるし、そいつらも全員好きだけどな。 ざっと上げた感じ、そんなとこだな」

「それ列挙は、どういう順番であげられたん?」

「……あん?」

「だから、いまの列挙順はどういった法則に基づいてあげられたのか、聞いてるんや」

 すまん、はやて。 お前の言いたいことがいまいちわからない。 いや、わかったところでわからないと思うけど。

「え〜っと、頭に浮かびあがってきた順かな」

 その言葉に満足してきれたのか、はやては一人でに頷いていた。 わたしの幼馴染たちはよく摩訶不思議な行動をとることが多い。 なのはしかりフェイトしかしはやてしかり。 一番まともな俺はそれを外野から楽しむわけだ。 嘘だけど。

 はやては自分の世界に入ったようで、無言で手だけを動かす。 と、思いきや、たまに拳をこちらに飛ばしてくるので何がしたいのかわからない。 無言だからって俺を殴っていいわけじゃないからな?

 そんなこんなで1時間後。

 だいたいの本の整理も終わり、ヴィヴィオがシャマル先生に抱かれながら寝ている様子を眺めながら俺は一冊の本を手に取った。 ちなみにはやてはシャドーボクシングをしている。 書庫でシャドーボクシングをするな。 それともう少しスカートをヒラヒラにしろ。 ピッチリタイトスカートとか似合わないから。

 なのはとフェイトのは俺が勝手に魔改造してフリルのついた可愛らしい感じのスカートにしたから。 『恥ずかしく履けない!』なんて言って仕事場には履いていかないけど。 あれ絶対、こういう意味だぜ。

 『私がこれを履くのは、君と二人だけのときだよ……?』 絶対こうに決まってるだろ! マジ可愛すぎ! すんごい幸せものだぜ! ……最近俺のことを、『ゴ……ねぇ、キミ』とか呼ぶようになったけど。 それ明らかに、“ゴミ”って言おうとしたよね? そう突っこみたいけど、肯定されたら二人の下着を甘辛煮にして食べてしまいそうになるので、聞くことができない。 無論、いつか甘辛煮はチャレンジしたいが。

 閑話休題

 俺は本を手に取って、パラパラとめくっていく。 本当に偶然発見したのだが、ありえないことなのだが、あってはならないことなのだが、不可能なことなのだが、世界の法則を無視したあげく、神に喧嘩でも売っているようなものなのだが──

「この人物だけ、他の文字と違って読めるんだよね。 しかもありない苗字が」

 その人物の名はKAMIYAと書かれていた。 父さん、明らかにこれアンタだろ。 過去とか未来とか笑いながら飛びこえていく奴なんてアンタくらいしかいねえぞ。

 なんとも微妙な気持ちである。 書いてあることはまったくもってわからないが、どうせロクでもないことが書かれているに違いない。 おかしい。 こういったものって、普通はめちゃくちゃ誇れることだと思うのに。

「KAMIYAって、あんたのことじゃないの? あんたの性も上矢やろ?」

 はやてが唐突に復活してきた。 シャドーボクシングはどうした。

「まぁ……そうなんだけど。 これはきっとおそらく確定的に不変の理をもって、父さんなんだろうけどな」

「けど、なんでローマ字で書いたんやろ。 漢字でもいいと思うのにな。 ほら、案外カッコイイで、上矢って。 なんか妖怪の山にある神社のパチモンみたいやけど」

「俺だって早苗ちゃん大好きだよ。 それとお前は褒めてんのかバカにしてんのかどっちなんだ」

「上矢は褒めるけど、ひょっとこはバカにしとるで」

「タチ悪いなおいっ!?」

「でも、陰口なんてマネ絶対せんで。 わたしは堂々と言う。 このゴミ虫が」

「堂々と言えば許されると思ってんのかお前っ!?」

 こいつも昔は可愛かったのに……。 いまも可愛いけど。 悔しいのであまり口に出したくない。 まぁ、俺もイケメンだけどな! 海鳴一のイケメンと呼ばれたくらいだぜ! そしてこいつとだけは付き合いたくないランキングNo.1に輝いた男でもあるんだぜ。 ………………涙が出てきた……。

 まあそんなことはどうでもいいとして(どうでもよくないが)、多分きっとおそらく、このKAMIYAは──

「昔のかみやなんだと思う」

 だから父さんは、わざわざKAMIYAと書いたのかもしれない。

 いつの日か、俺がこの本をみてもわからないように。 あの旧姓を俺に見せないように、きっとローマ字にしたんだと思う。

「昔のかみや? なんなん、それ」

「まぁ、俺も詳しくはしらないし、知ろうとも思わないけどさ。 上矢になる前に、別のかみやがあったらしいよ」

「……謎かけ?」

「さあ? 本当に俺も知らないんだって。 10年前に少しだけ教えてもらった程度だよ」

 理想を追い、醜く歪んだ世界で、力だけを求め、少女の手を拒み、独りで生き、絶対に勝てない存在達に立ち向かう、絶対的な敗北者にして、バットエンドを決められた最大の被害者──

「アイツに教えられたくらいだよ」

「ふ〜ん……。 その人とはそれ以来会ってないの?」

「うん。 なんせ俺と違って忙しい奴だからな」

 変な方向に忙しい奴だよ。 アイツの考え方も理解できなくはないけどな。

「まあ、アレだな。 古文書なんて信用するに値しないし、べつにどうでもいいけどな。 10割嘘なんてこともあるわけだしさ」

「たしかになー。 アンタならどうするん? こういった本を書くとき。 10割嘘の二次元大好き人間なら」

「2割真実で2割嘘。 残りの6割は真偽不明かな。 それと、三次元だって大好きだからな、俺は」

 なんで俺が二次元しか興味ないみたいになってんだよ。 いらぬ誤解を与えるんじゃない。

「なのはちゃんとフェイトちゃんが大好きの間違いちゃうんか?」

「あとお前とヴィヴィオな」

 本を棚に戻し、伸びをする。 そろそろバイトを終わるとするか。

 ……それにしてもあの金髪、ヴィヴィオに似ていたな。



           ☆



 カリムさん達とはやて・シャマル先生と別れを告げ、スヤスヤ寝ているヴィヴィオをおぶったまま家路につく。 流石にバイクを使うわけにもいかず、タクシーを使用することに。 バイクは明日にでも回収すればいいや。

 タクシーの運ちゃんに料金を渡し、見慣れた場所に降り立つ。

「う〜ん……夕食の買い物をしようか、それともヴィヴィオを家に運ぶのか先か……。 いったい、どうしたもんか」

 ヴィヴィオを背中におぶったまま、俺が大通りで佇んでいると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「ん? ひょっとこじゃないか、どうしたんだこんなところで?」

「おお、指でメダロット破壊した化け物ことおっさんじゃねえか。 見回りか?」

「まあな。 お前を先頭に奇人変人がここら辺は多いからな。 お前が死んでくれれば俺の仕事も減るんだけどな」

「俺の死に場所は決まってるんで、それは勘弁願いたいところだ」

「ところで、お前なにしてる? またよからぬことを企んでいないだろうな?」

「なんで、俺=よからぬこと。 になってんだよ。 ただ、バイトの帰りだよ」

『ひょっとこがバイトだってっ!?』

「市民が全員振り返るほどのことなのかっ!?」

 近くの人たちが一斉にこちらをみてきた。 ある者は入歯を落としながら、ある者は骨を折りながら、ある者は吐血しながら、ある者は涙を流していたりもした。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、冗談を言うな。 あやうく言語能力を失うところだったじゃねか」

「しばくぞてめえ!? 俺だってバイトくらいやるわ!」

「まあ、まて。 落ち着け、な? お前はいま幻を視ているんだ。 じゃないと、お前がそんなこと言うはずがないだろ?」

「いうよ! 幻視なくてもそれくらいいうよ!」

 おっさんとのやり取りの最中、俺の前に小さな女の子が不安そうに立っていた。 そして、不安そうなまま、俺にこんなことを言ってきた。

「大丈夫……? 脅されてるの?」

「だいじょうぶだよー。 お兄さん、脅されてないからねー。 自発的に動いてるだけだけだからねー?」

 なんで俺は小さい女の子にこんなに心配されないといけないんだ。

「ふーむ……しかし、本当にお前がバイトとはな……。 いったい、なにがあったんだ? 場合によっては、市民皆が動く事態になるかもしれないぞ」

「気持ちは嬉しいが、管理局が慌てるからやめてくれ。 まあ、何があったというよりは、何かをあげたい。 からバイトをしてるわけだよ」

「ほー」

 おっさんが頷いて、市民も頷く。 なにこの連帯感。

「それで? できそうなのか?」

「なんとか一か月はもたせないと。 そうしないと、給料もらえないんだよな。 そのあとのことは決めかねてる」

「まあ、お前の場合一か月が関の山だと思うけどな!」

『たしかにな!』

 おっさんに皆が同意するように叫ぶ。 うるさいな、と思う反面、嬉しいと思った。

 だから俺は自然に笑顔を浮かべた。 いつの間にか、笑顔を浮かべることとなっていた。

 素直にありがとう、なんて、おっさんや皆に対して言いづらいから、いつもの冗談めかしてみんなに言う。

「まったく……覚悟しとけよ! 俺のバイトが終わったら、全員の家に宅配テロしてやるからな!」

 そしてその三日後、俺はバイトを辞めることになった。




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