39.バイト一回目



『ふむふむ……ひょっとこ君がついにバイトか。 なんかさみしくなるね』

「アンタは俺の父親か」

『まぁ、同士であることにはかわりないがね。 それはともかく、ヴィヴィオ君はどうするのだい? 私は君が無職で暇人だとばかり思っていたので、バイトをされるとヴィヴィオ君の面倒をみてくれる者が……』

「ああ、そのことなんだけどさ。 バイト先の人がヴィヴィオも同伴していいよって許可くれたんだ。 ほんと、話がわかる人だよな〜」

 まぁ、これもどれもなにもかもはやえもんのお陰なんだけどな。 アイツにはいつかちゃんとお礼でもしようかな

 さてさて、現在の時刻は午前9時。

 愛する二人も仕事という名の遊びに行き、愛しのヴィヴィオは隣でアニメを鑑賞中。 アニメの中身は、頭にアンパンのっけたパンが自分の自己犠牲精神で自分の顔を引き千切りながらそれを他人食わせるという残酷な話だ。 訂正、正義の英雄アンパンマソが人間の敵であるバイキンの親玉を倒すアニメである。

 俺も小さい頃になのはと二人で見てたのを覚えている。 そしてなのはが俺に向かってアンパンチしたのも覚えている。 あいつは忘れているかもしれないが、俺はいつまでも覚えているからな。

 そして俺はというと、そんなアニメをヴィヴィオがみている横でスカさんと携帯でお喋り中。 友達っていいな。

『ほぅ……ヴィヴィオ君も同伴していいところか。 中々に緩い規制なところであるね。 ……面白い、私も同席しよう』

「いや……俺バイトしにいくんだってば。 マジで人生かけてるんだって。 遊びにいくわけじゃないんだよ?」

『無論、ひょっとこ君の邪魔はしないよ。 私はヴィヴィオ君と遊んでおくからね』

 ただ遊びたいだけじゃねえか。



           ☆



 性王教会改め聖王教会。 これが俺のバイト先である。 ミッドの北部に位置しており、昨日の説明によると次元世界でも最大規模の宗教らしい。 そして“聖王教会”とあるように、なんでも“聖王”と呼ばれていた人物が実在するらしい。 キリストみたいな感じだろうか? なにはともあれ、この聖王教会、何故そこまで次元世界最大規模の宗派にまで発展したかというと、ひとえに規制が緩い……というのが挙げられている。

 確かに宗教に属している身でありながら、規制が緩いってのはいいよな。 そしてこの聖王教会。 管理局とも良好な関係を築いているらしく、たびたび管理局の局員が教会へと足を運びにくるみたいだ。 ほとんどはやえもんの受け売りだけど。

「さて……準備はいいかヴィヴィオ。 バイト先、いわば俺の命を握っている人なんだから間違っても怒らせちゃダメだぞ?」

「うん!」

「スカさんも大丈夫?」

『ふむ……ここが聖王教会か……。 ちょうどシスター服を生で見ていたいと思っていたのだよ! あわよくば! 私は修道服を持ち帰るぞ!』

「まぁ、持ち帰るのは勝手だが、後でウーノさんと謝りこいよ」

 三回転半ひねりで教会へと逝くスカさんを見送って、俺はヴィヴィオと手をつなぎながら、店長ともいえる方。 カリムさんの所へ向かった。

『すいません、そこの方。 ちょっと、裏のほうでお話しを伺っても?』

 スカさんは兵士に連れられてその場を後にした。

 三回転半ひねりで教会へ向かうという奇行を見過ごすはずがねえよな。



           ☆



「あの……えっ……!? ちょっ……!? えっ……!? ひょっとこさんの仰っていた娘さんってこの娘なんですか……?」

「ええ、そうですよ。 フェイトとの間に出来た子どもなんです。 なー? ヴィヴィオ?」

「ちがうよー」

 この頃ヴィヴィオが俺の言うことを聞いてくれなくなってきた。 これが噂の反抗期というやつか……! なのはとフェイトもしっかりとヴィヴィオを教育しているようで安心である。

 ヴィヴィオは俺の手を離れ、金髪にヘッドバンドをしているカリムさんの所までトコトコと歩いていくと、

「こんにちは! ヴィヴィオです! おにいさんがおせわになります!」

 と、丁寧なお辞儀とあいさつを述べた。 ……なんだろう。 年上として立つ立場がなくなってきたのだが……。 なのはとフェイトはちょっとヴィヴィオに真面目に教育をさせすぎているようで不安になってきた。 これでは俺の家での居場所がなくなってしまう。

 カリムさんは、頬をヒクつかせながら、だけれども大人の対応で歌のお姉さんを彷彿とさせる笑顔を浮かべて

「こんにちは、カリム・グラシアです。 こちらこそ、お兄さんをお世話しますね」

 なんだか会話がおかしいような気がする。 まるで俺がペットのようだ。 ところでカリムさんってガンダムにはのってないのかな? 教会の地下にガンダムがあったり。 でもイギリス代表候補生のようでもあるし……俺はいったいどうすればいいのか?

「そういえば、カリムさん」

「はい?」

「カリムさんって、ガンダムパイロットとかイギリス代表候補生とかにはならないないんですか?」

「……えっ」

 引かれた。 思いっきり引かれた。 具体的に言うならば、3歩後ずさりするほどの引かれっぷりである。 これが惹かれっぷりならば俺はハーレム主人公になれたのに。

「ところでカリムさん。 ヴィヴィオをみて驚いていましたが、どうしたんですか? もしかして生き別れの妹とか? それとも、誰かとの子ども──」

「ひょっとこさん。 そういった冗談は命を短くするので気を付けたほうがいいですよ?」

「すいません、マッパさん……。 全力を尽くします、セクハラの」

「いやいやいやっ!? 方向が間違ってますよっ!? それに私はシャッハです!」

 後ろから暗殺者よろしく俺の咽喉元にナイフを置いたマッパさんに、若干かすれた声で返事をする。 マッパさんはわかってくれたのか、ナイフを仕舞いながらも律儀に突っこみまでしてくれた。 なにこの職場。 面白い。

 マッパさんと遊んでいると、ヴィヴィオに目を向けていたカリムさんがこちらに目を向けていた。 それも真剣な表情で。

「……ひょっとこさん。 この娘は、大丈夫ですか?」

「えーっと……質問が質問になってないみたいなんですけど。 その、どういうことですか?」

 頭のほうなら大丈夫だと確信している。 俺の頭は既に終わっていると確信している。 なんとも嫌な確信であるが。

「ですから……とにかく! 大丈夫なんですか!」

 ……え? なんで俺が怒られるの? か、どうかはともかくとして、どうやらカリムさんはヴィヴィオのことが心配らしい。 確かにその心配はもっともだと思う。 なんせ連れてきたのが俺なんだから。

 これがなのはやフェイトが連れてきたんなら安心して任せることができると思うんだけどね。

「安心してください。 ヴィヴィオは大丈夫ですよ。 こいつの笑顔をみれば一発でわかると思います」

 俺がそういうと、カリムさんは一度ヴィヴィオをみた後に何か呟いた。 その声はまるで自分に言い聞かせるようで、まったくこちらまで声が届かなかったが、読唇術を心得ている俺にはわかる。 カリムさんはこういったはずだ。

『……トイレしたい』

 カリムさんはどれだけ我慢していたんだろう。 あまり溜め込むのもよくないのだが、これは女性のデリケートな問題だ。 深くは追及しないでおこう。 六課の面々の場合、話は変わってくるのだが。 とくにいつもツンツンしているロヴィータ辺りに、『も、もう……漏れそうなんだけど……』とか言わせて、それでもトイレに行かさないで置くとどんな表情を浮かべるのかとても見物である。

 閑話休題

「それでカリムさん。 俺の仕事ってなんですか? あまりできそうなことがあるとは思えないのですが……。 それこそ、修道服を直すとかシスターをミスターに変えるとか。 チップスターに変えるとかできないんですよね」

「女性を男性やお菓子に変えないでください。 というかそれできたら人間の域超えてますよね?」

「いつから俺が人間だと錯覚していた?」

「なん……ですって……!?」

「カリムさん。 死神バトルマンガ読んでるんですか」

「いやっ、これはその……!? えっと、私は教会から週3の割合でしか外へ出られなくて……」

「結構出てますよ、それ」

「その……ほとんど……マンガを買いにいくんですよ」

「照れられても困るんですが」

 いいのか、聖王教会。 トップが週3の割合でマンガ買いにいってるぞ! お前らそれでいいのかっ!?

 閑話休題

「それで、仕事のお話に戻りますが。 ひょっとこさんには聖王教会の清掃をやってもらおうとおもいます」

「あ、俺でもできそうな簡単なお仕事ですね」

「終わったらシャッハが順々に見ていく予定となっております」

 まぁ、軽い検査くらいならどうということは──

「なお、シャッハの確認方法は顕微鏡を使っての検査となります」

「なにその検査っ!? どう足掻いても絶望じゃねえかっ!?」

 鬼姑もビックリだよ。

「ええ冗談です。 姑のように血眼になってホコリを探すだけですから」

「はっはっは、カリムさんも冗談がうまいですね〜!」

「…………」

「か、カリム……さん?」

「……え、えぇ。 もちろん、冗談ですよ……」

「だったらなんで顔を背けるんですかっ!?」



           ☆



 さて、ここからが俺のバイト一回目である。 ヴィヴィオが来てからひょっとこのお面は極力つけないようにしていたのだが、いざつけてみるとやはり落ち着く。 さかなクンがさかなを乗せているのが正装であるように、俺の正装はひょっとこのお面のようだ。 なんとなく安心する。

「それではひょっとこさん。 今日は廊下の掃除をしてもらいます」

「まぁそれはいいんですけど……。 ヴィヴィオー? カリムさんと一緒にまってるんじゃなかったのかな〜?」

「いや〜! ヴィヴィオもあそびたいー!」

 遊びじゃないんだけどな……。

「ヴィヴィオ? お兄さんはこれからお仕事しないといけないんだよ。 スカさんみたいに三回転半ひねりとかして遊んでる場合じゃないの」

 ……そういえば三回転半ひねりして華麗な退場を決めたスカさんは今頃何をしているんだろうか。 ウーノさんが溜息を吐いている光景が目に浮かぶ。

「おしごとぉ? どんなおしごとするのー?」

「お掃除だよ、お掃除」

「おそうじするの? ヴィヴィオもする!」

「だめ」

「あぅ……」

 両手を上げて、“掃除するアピール”をするヴィヴィオ。 俺はそんなヴィヴィオのなんとも健気で可愛らしい要望を却下することに。 却下されたヴィヴィオは、上げていた両手をゆっくりとおろし、目に涙をためながら俺の方を見つめる。 目が物語っている。

『だめ?』

 と。 小さい女の子の、それもなのはとフェイトと同じくらい可愛いヴィヴィオの頼みは俺だって頷きたいところであるが……それはいくらなんでも都合が良すぎる。 これがミッドの知り合いの店ならどうとでもなるのだが。

 ヴィヴィオの同じ目線まで膝を折り、ゆっくりと喋ることに。 なのはやフェイトのようにゆっくりと優しく話しかけることを心掛けて。

「あのな、ヴィヴィオ。 お兄さんはいまからバイトをすんだよ。 此処を一生懸命お掃除して、それの報酬をしてお金をもらうんだ。 ここまではわかるか?」

「うん……」

「よっし。 それで、お兄さんはいまから一生懸命バイトすることになったんだ。 だから、ヴィヴィオがいると──」

「……ヴィヴィオ……じゃまなの……?」

「──ヴィヴィオも一緒にお掃除するか?」

「うん! ヴィヴィオもする!」

 たまにはヴィヴィオと一緒に掃除するのもいいよな。 うん、べつにヴィヴィオが泣きそうだからとかの理由じゃないから。 ただ、ちょ〜っとだけヴィヴィオと掃除したくなったんだ。

 喜ぶヴィヴィオの頭を撫で、マッパさんと向き合う。

「え〜っと……その……ヴィヴィオもよろしいですか?」

「ええ、かまいませんよ」

 マッパさんはとても慈愛に満ちた、まるで自分の子どもの成長を喜ぶ母親のような笑顔でこちらをみていた。

「ははっ……。 すいません」

「ふふっ、よく懐いているようですね」

「そりゃ家族ですから」

 家族。 改めて口に出すと、なんともこっぱずかしく思えてきて頬が若干赤くなる。

「おにいさん、おかおまっかだよ? どうしたの?」

「なんでもないよ〜。 ほら、ヴィヴィオもお掃除するんならこのメイド服に着替えておいで」

「はーい!」

 トタトタとメイド服をもって手近な部屋へ入るヴィヴィオ。

「……あの、どうしてメイド服が懐から出てきたんですか……?」

「それは聞かないお約束ですよ」



           ☆



 さてさて、ヴィヴィオも私服からメイド服へとメタモルフォーゼして、ついに俺らは本当に清掃をはじめた。 といっても、仕事自体はなかなかシンプルでありモップで床を往復したり、箒でゴミを掃くくらいなものである。 ヴィヴィオもこの作業にすぐに慣れ──そして飽きた。

「おにいさん、あそぼー!」

「だーめ。 ここを終わらすのが先だ」

「うー!」

 俺の足をぽかぽかと叩くヴィヴィオ。 はっはっは、かわゆいやつめ。

 それにしても、ヴィヴィオはあっさりと飽きてしまった。 個人的にはもうちょっとだけもつと思っていたのだが……やっぱり子どもだな〜、なんて実感させられる。

 そういう俺もこう単調な作業ばかりだと飽きがくる。 掃除も6割ほど終わったのでここらでヴィヴィオで遊ぶことにしよう。

「まぁ、確かにこう単調作業だと飽きがくるな」

「えっ!? それじゃあそぶの!」

「でも、何して遊ぶ? 二人だからしりとりとかしかできないぞ?」

「うん! いいよー!」

「それじゃぁ……リンゴ」

「え〜っと、え〜っと……ゴミむし!」

「……し、しまうま」

「え〜っと、マダオ!」

「……お酢」

「スチールかんのようにかるいおとこ!」

「……こ、コアラ」

「らくしてせいかつしているヒモおとこ!」

「ちょっとまってヴィヴィオ。 そんな言葉の数々をどこで覚えてきたの?」

 おかしい。 色々とおかしい。 具体的に言うと、ヴィヴィオがこんな言葉を覚えているのがおかしい。 誰だ、愛しいヴィヴィオにこんな言葉を教えたのは。

 そんな俺の胸の内を知ってか知らずか、ヴィヴィオは笑顔でこう答えた。

「えっとね! なのはママとフェイトママ! ぜんぶおにいさんなんだって!」

「へー……そうなのか〜……。 なのはとフェイトがねー……」

 あの二人が普段俺のことをどう思っているのかがわかる有効な時間であった。



           ☆



 バイト始まりから3時間。 指定された場所の掃除が終わったわけだが……やはりここは好感度upをはかって他の場所もしたほうがいいかな?

 なんてことを思いながら、ヴィヴィオと二人床に座って頭をひねりながら考えていると、コツンコツンと床を鳴らしながらマッパさんがやってきた。

「ども、マッパさん。 とりあえず指定された場所は終わりましたよ」

「シャッハです。 今度間違えたら首折りますよ。 それにしても、結構お早いのですね。 普通はもう少しかかるはずなんですけど……」

「俺は普通じゃないですしね。 それに掃除なら毎日家でやってますし。 そこそこ自信はありますよ」

「ふむ……どれどれ」

 俺の話を聞いたマッパさんは、床に正座で座りハチミチを壺から取るように指で床をなぞる。 ちょっとだけエロスを感じる。

 指でなぞったマッパさんは、その指をじっくりと見て

「うん! これならこれから掃除を頼んでも大丈夫そうですね!」

 と、許しをくれた。 よかった、顕微鏡で見られなくて。

「ヴィヴィオもがんばったよー! えへへ〜、えらい〜?」

「えぇ、とってもえらいですよ! よく頑張りました! あ、お礼にアメあげます」

「わ〜い! みてみて、おにいさん! アメもらったよ!」

「よかったな〜。 ちゃんとお礼いうんだぞ」

 俺の言葉に頷いて、ヴィヴィオはマッパさんに頭を下げる。 マッパさんはそんなヴィヴィオの行動が可愛くてしょうがないのか、執拗に頭を撫でる。 ……俺も息子も執拗過多で撫でてほしいものだ。

「あ、ひょっとこさん。 昨日の部屋にきてください。 そこでお話しがあるようですから」

 マッパさんに連れられてまたしてもカリムさんのところに行くことに。



           ☆



 コンコンとノックしてカリムさんの返事をまつ。

『あ、はい。 ひょっとこさんですね。 どうぞ入ってきてください』

「いつから俺がひょっとこだと錯覚していた」

「なん……ですって……!?」

 いつまでやるんだ、このくだり。

「そういえば、ひょっとこさん、ひょっとこのお面つけてますね。 似合ってますよ」

「お面に似合ってるもなにもあるんですか? でも──カリムさんのような綺麗な人に言われると、嬉しいですね。 カリムさんも似合ってますよ。 その金髪に綺麗なドレス。 まるで有象無象のゴミの山から出てきたまばゆい光を放つダイヤのようだ」

「そ、そんな……。 もう……照れちゃいます。 でも、そう言ってもらえたのははじめてで……。 あ、あれ? やだ、私ったら顔が熱く……」

「可愛い人だ」

「あっ……ダメ……!」

「楽しいですか? ひょっとこさん」

「それはもう」

「……辛くなったら、いつでも此処に来てくださいね。 私はあなたの味方ですから」

 幼子を抱くようにカリムさんに抱かれた。 味方を得たと同時に何かを失った気がしないでもない。 もとからそこまでもってないんですけどね。 それにしてもカリムさんはとてもいい匂いがする。 なのはやフェイトほどではないが、クラクラと脳を犯すような刺激をうける。 夜に会ったら暴走するかもしれない。

「ところで、俺に何の用ですか?」

 いつまでたってもカリムさんは俺を抱きしめてそうなので要件を聞くことに。

 カリムさんは、ハッと何かに気付いたように俺から離れた。 ……おしいことをした。 あと一秒ほど時間があれば完全に完璧にカリムさんの匂いとサイズをインプットできたのに。

「そうそう、ひょっとこさん。 あなたの給料のことでお呼びしたのです」

「あぁ、確かに給料のことは大切ですよね。 俺もこれはシビアにいかないと」

 まぁ、俺がシビアになったところで何も意味はないわけだけだが。

 カリムさんは頷いて、指を一本たてた。

「これでどうでしょう? 一応、はやてとは月一の契約なんですけど」

 はやては俺のマネージャーか何かなのか?

「一万ですか。 無理を承知でお願いしたいのですが、せめて五万に──」

「あ、いえ。 十万という意味ですよ?」

「結婚しよう、カリムさん」

「お断りします」

 カリムさんはビックリの早さで即答した。 もう少し具体的に言うのなら、“結婚”という単語が出てきた瞬間にカリムさんは“お断りします”と言い放った。 実質、俺が言い終わると一緒のタイミングでカリムさんも言い終わった形だ。 そこまでして俺と結婚したくないんですね。

 まあそれはおいといて、

「週何で働けばいいんですか? 基本的に午後からならあいてますけど」

 午前中に家事を終わらせて、午後からバイトなら問題ない。

「そうですねぇ……一応、週4〜5を予定してます。 全部平日で」

「まぁ、月10万ならそれくらいしないといけませんよね」

 勤務時間的にそれでも足りないくらいなんだけど。

「内容は今日やってもらったのと変わりません。 基本的に掃除で、あとは細々とした誰にでもできる雑用をやってもらいますね」

「わかりました」

 カリムさんの言葉に頷く。 掃除と雑務なら俺でもできるし、これで月10万ならそこそこの貴金属だって買える。 ヴィヴィオにだって何か買ってあげたいし、これから頑張るか。

 そのあとは、俺とカリムさんで取り留めもないアニメや漫画の話をしてヴィヴィオと二人で教会を後にした。

 その途中──

「あ、ウーノさん。 スカさんの引き取りですか?」

「ええ。 まったく……あの人は何がしたいんだが」

「発明のストレスでもたまってるんじゃないですか?」

「あー……確かにありそうですね」

 苦笑するウーノさんに一礼して、俺とヴィヴィオは今度こそ教会を後にしたのだった。




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