45.ホモ疑惑



 深夜庭に追い出された俺は、そのまま朝方まで延々と草むしりをしていたわけだが、これがなんともまあハマってしまい……いまは若干楽しんで草むしりをしているのが現状。 こんなことでもないと、なかなか草むしりをしようと思わないのでこれはラッキーととらえるべきか。

 いや──

「おはよう、どスケベ女たらし」

「お、おはようございます、なのはさん……フェイトさん」

 部屋の窓から俺を呼ぶふたりの声と顔をみたのなら、これはきっとおそらくラッキーとは思えないだろう。 俺は庭でしゃがみながら草むしり、対してあちら側は部屋から俺を見ているので、必然的に俺を見下す形になる。 見下すといっても、舐めてかかっているみたいなことは一切ない。 どちらかというと、完璧に殺しにきてる感じだ。 正直、怖すぎてチビりそう。

「あ、あのさ……なのはさん? 昨日のことなんだけど、ちょっと誤解があったかな〜、なんて個人的には思うんだよね……」

「へ〜……誤解? どんな?」

「いや、それは言えないけど……」

 言ったらバイトのことは知られてしまうし、バイトのことを知られるとプレゼントのことまで言わなくちゃならなくなる。 それは本当に勘弁願いたい。

「私達に言えないようなことをしてきたんでしょ? たらし」

「信じてたのに……」

「いやほんと誤解なんだってばっ!? フェイトもそんな悲しい顔をしてないで信じてよ!?」

 結局、俺は二人の誤解を解くことができないまま二人を見送り、ヴィヴィオと一緒にバイトにでかけた。 今日のバイト先はペットショップである。 あのネコもどきを預けたところだ。



           ☆



「やぁシュン。 やっとキミも魔法少女になる決意を固めてくれたんだね」

「そろそろ自分の世界に帰れよ。 ゲームもでるだろうが」

「そういうキミこそ劇場版とゲームがでてるじゃないか。 三期は尺の問題がありそうだけど」

「流石に三期の劇場版は厳しい気がするけどな。 というかそれ並行世界の話だろ。 熱血萌え燃えバトルアニメの話だろ。 この世界には関係ねえよ」

「それにしても並行世界の彼女たちは大変だね。 大きな傷を負ったり、上司にバインドで縛られたあげく魔力弾ぶつけられたりさ」

「残念ながら並行世界まで関与しようと思わないのでこの話題はここまでにしよう」

「キミはいつだってそうだ。 そうやって逃げてばっかり。 かみやが聞いて呆れるよ」

「かみやは父さんが捨てたから俺は関係ないの」

 ネコもどきはこの前と変わらないカゴにいれられて、客寄せパンダのような立ち位置にいた。 ヴィヴィオは熱心にふれあいコーナーで子犬や子猫・ハムスターなんかと戯れている。 めっちゃ可愛い、最高に可愛い。

「それにしても、キミは元いた世界に帰れといったけど、だったらこのカゴから出してくれないかな。 正直迷惑なんだよね、ボクのまわりにはいつも小さな子どもが集まって、触ろうとしてくるんだ。 正直迷惑だよ」

「エサ食いながら言われても説得力がないんだが」

 お前傍から見たら完全に可愛い小動物だもん。 性格は殺したくなるほどアレだけど。

「ボクはこの環境を認めたわけじゃないよ。 けど、ボクがこうしていると売り上げが伸びるみたいだからね」

「お前いいとこあるんだな」

「高級なエサをもらうためだよ」

「ふ〜ん……。 それでも、お前のおかげで売り上げが伸びて、猫井さんが喜んで、お前の愛らしさで子どもが楽しそうにしているわけだ。 私利私欲でここまで他人を笑顔にできるなんて、お前は最高かもしれないな。 まさに可愛いは正義だよ」

「それならボクと契約をしてくれないかな?」

「それは断る」

 ネコもどきと喋っていると、前のほうからピンク色の髪をしたツインテールの女の子がやってきた。 見た感じ中学2年生くらいだろうか?

「いらっしゃいませ、なにをお探しでしょうか?」

「あっ えっと……Qべぇをみにきたのですが……」

「お嬢ちゃん、命を粗末にしちゃいけないよ」

 ピンク髪のツインテールは困った顔をしながらも、若干俺を避けつつネコもどきのほうに顔を向けた。 確かにネコもどきは性格を抜けばマスコット的な可愛さがあるからな〜。 ちょっとだけ気持ちはわかるかもしれない。

「キミはまたきたのかい? ほんと飽きないね」

 おい、勝手にしゃべるなよ!?

 そう思ったが、女の子のほうも気にしてない様子でネコもどきと喋りだしたので、俺はそっとその場を後にしてヴィヴィオのほうに足を向けた。 人間関係って面倒だもんな。



           ☆



 30分後

「よおネコもどき。 相談はお済かい?」

「相談ってほどのことじゃないよ。 ただ──人間という生き物はやはり理解できないよ。 自分が嫌な思いをするのであれば関わらなければいいだけの話じゃないか。 友情とか愛とか友達とか、ボクにはまったくわからない感情であり、わかりたくもない感情だね」

「当たり前であり、お前の言うとおりだよ。 恋愛とか友情とか友達とか愛とか、所詮いらないものなのさ。 結局のところ、どんなに頑張っても世界は“自分”と“自分以外”でしか成り立たない」

「……キミがそんなことをいうとはね。 ボクはキミのことを誤解していたかもしれないよ。 キミは意外と冷めている人間なんだね」

「まさか。 俺ほど萌えている男はいないさ。 けど、不思議に思わないか、Qべぇ。 そんないらないガラクタを人は必至に集めるし、笑顔で決して離そうとしない」

「だからボクからいわせればキミたちは理解できないんだ。 何故そうまでしてガラクタを欲しがるんだい?」

「決まってるだろ。 人が欠陥品のガラクタであり不完全だからだよ。 だからこそ人は自分にはない部分を補う」

「なんとも情けない話だね」

「情けない? 俺は誇らしく思うよ。 完全なんて無価値に等しい」

 遠くのほうで、猫井さんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 俺はそれに返事をして走る。 その際に、ネコもどきを小さく呟いた。

『あの子……仲直りできたかな?』

 お前も見事に不完全の仲間入りだな、ネコもどき。



           ☆



 ひょっとこがペットショップでバイトしている間、彼女達もまた六課で仕事をしていた。

「最っ低! 家にヴィヴィオがいるのにもかかわらず、変なお店行くなんて最低だよ!」

「まあなのはちゃん……ちょっと落ち着いたほうがいいんちゃう……? ほら、フェイトちゃんはこんなにも落ち着いているわけやし」

「おいはやて。 フェイトが一心不乱にナイフを研いでいるんだけど」

「落ち着くんやフェイトちゃん!? 流石に殺人はあかんで!?」

 まあ、仕事とは名ばかりな愚痴大会ではあるのだが。

「大丈夫だよ、はやて。 足の神経を切るだけだから」

「それ家から出られへんで!?」

 目が結構本気なフェイトにはやては本気で恐怖する。

 ちなみにいまの仕事場には、なのは・フェイト・はやて・ヴィータ・シャマル・スバル・ティアがいるわけなのだが、そんなことなどお構いなくなのははたまりにたまった鬱憤を吐き出す。

「飼い犬に手を噛まれた気分だよ」

「で、でもアレちゃう? アイツが本当にそんなお店に行ったとは……。 そ、そもそもアイツはなのはちゃんフェイトちゃんloveなんやし」

「いいや、アレの口から吐かれる言葉は嘘が多いし、すぐ調子乗るからね。 行ったとしても不思議じゃないよ」

「……まあ、確かに嘘をよくつくな。 あいつの存在自体が嘘みたいなもんやし」

 ちょっと納得するはやて。

 しかしながら、はやては何故そんな店にひょっとこが行ったのか、大凡の検討がついてるので、今回ばかりはひょっとこのフォローに回ることにした。 恩を売っとくと、後々いいことが起こりそうな気もするし。

 そんな中、なのはの話を聞いていたティアが疑問の?マークを浮かべながらなのはに聞いた。

「でも、なのはさんってひょっとこさんのこと興味ないんですよね? いつも軽くあしらってますし。 それでもこんなに怒るってことは、ちょっとは気があるんですか……?」

 そういった途端、ティアはバインドで縛られていた。

 目の前にはなのはの身も竦むような冷たい視線が、

「……ティア、そういう問題じゃないんだよ? 恋愛感情とかじゃないの。 ただ──ペットの躾はきちんとしないといけないでしょ?」

「そうだよ、ティア。 ペットの躾ができないで執務官なんて勤まらないよ。 これは恋愛感情とかじゃないよ」

 なのはとフェイトに至近距離から、凍てつくような視線をもろに喰らい、コクコクと頷くティア。 その頷きに満足したのか、バインドを解く。 ティアにとって、憧れであり大好きななのはにこんなことをされては、少々堪えるどころか恐怖の種が植えつけられたことだろう。

「はぁはぁ……なんてゾクゾクするいい目つきなの……! やばっ、イきそう。 すいません、ちょっとトイレでイってきます」

 そんなことはなかった。

 トイレに行くために席を立ったティアを微妙な表情で見送ったヴィータは、改めてフェイトとなのはに向き直る。

「まあ、アイツには何か考え事でもあるんじゃないか? なのはが言ったように、アイツは二人の犬みたいなもんだから、真っ先に二人にいうはずだぜ? それを言わないってことは、アイツにも考えがあるのかもしれない」

「うっ……、そ、そうかな?」

「うんうん、そうかもしれへんで! だからフェイトちゃんもなのはちゃんもあまり気に留めない方がいいかもしれんで!」

 はやての力強い声で、二人もしぶしぶながら納得する。 フェイトも研いでいたナイフを机の中にしまう。

 なのはとフェイトは、『少し怒りすぎたかもね……』と、反省し、帰ったらしっかりと事情を聞こうと誓う。

 はやてはその二人の結論に、心の中でひょっとこに謝りながらも張りつかせた笑顔でその場を取り繕う。 ヴィータとシャマルは二人でおかしを食べ、ティアはトイレから帰ってこない。

 そして、スバルは──

「でもひょっとこさんが行った所って、オカマバーなんですよね?」

 とんでもない爆弾を投げ込んだ。

 上矢俊にホモ疑惑が発生した瞬間であった。



           ☆



 夕方──

「ねぇねぇ、おにいさんネコさんほしいよぉ〜!」

「う〜ん……そうはいってもペットの世話って難しいから、ヴィヴィオじゃちょっと……」

「え〜! ヴィヴィオできるもん!」

「それじゃ、なのはにネコミミつけてもらうから、それで我慢ってのは?」

「なのはママはモフモフしてないもん!」

 なのはがモフモフしてたら怖いけどな。 毛深いなんてレベルじゃねえよ。 あ、でも下の毛は……まあ処理してるか。 今度それとなく聞いてみよう。 『そういえば、なのはって下の毛の具合はどうなんだい?』 みたいな感じで。

「まあペットのことにかんしては、二人の意見を聞かないとなんともいえないなぁ〜」

「それじゃママたちがいいっていったらネコさんいいの?」

「う〜ん……ok出すとは考えにくいけどなー……」

 ヴィヴィオと二人、台所で夕食を作りながら話す。 ペットショップのふれあいコーナーでネコのかわいさに目覚めたヴィヴィオは、珍しく強く俺にネコを飼いたいとせがんでくる。 うんうん、こんなに自己主張してくれるとは嬉しいぞ。 俺もヴィヴィオを応援したいけど……ペットは難しいからな〜。 やっぱりここはなのはにネコミミをみつけもらうしか──

『ただいまー』

 玄関から二人の声が聞こえてきた。 なんだかちょっとだけ気持ちが沈んでるのか、声が暗いけど……どうしたんだ?

 朝の一件もあったので、正直怖くて足が向かないと思っていたのだが、男は単純な生き物らしく、二人の声のトーンを聞いた俺は無意識に玄関まで歩いていた。

「おかえりなのはママ、フェイトママ!」

 ヴィヴィオが二人に飛びつく。 二人はヴィヴィオを体全体をつかい、優しく受け止める。

「ただいまー、ヴィヴィオ!」

 なのはがヴィヴィオに抱きつく。 ああ、可愛いなぁ……!

 と、思っているとフェイトが俺の脇をチョンチョンとつつき、リビングに誘導する。

 何が何だかわからないが、取り合えずついていく。 ……もしや、リビングでプレイするんですか!? 近くになのはとヴィヴィオがいるってのに始めるんですか!? いや、むしろいるからこそ始めるんですか! 立ちバックでいいんですね!?

 もうどきどきわくわくアドベンチャーである。 フェイトのおっぱいはでっかい宝島である。 掴んじゃうぞ、そのドラゴンボール。

「ねえ、俊」

 ふいにフェイトが話しかけてきた。

「ふぇっ?」

 妄想爆走中の俺は、なんとも情けない声をあげたが、フェイトはかまわずに──俺の手を握りしめ、自分の胸に置きながら涙声で言った。

「男同士はやっぱりダメだよ!」

「わけがわからないよ」

 何を言ってるんだ、この娘。 手を握られたときの俺の羞恥とテレをいますぐ返せ。

「あの……え? え……? ちょっ、え?」

「俊の特殊すぎる性癖は私もなのはもわかってるし、許容することもできるよ? でも、流石に男同士はダメだと思うんだ。 ほら、やっぱり女の子同士ならなんか大丈夫だけど、男同士なら一気に世間の風当たりも強くなるっていうか。 確かに昨今では、そういうカップリングもおかしくはないけどやっぱりまだまだ辛いものがあると思うんだ」

「ごめん、本当にフェイトの言いたいことがわからないんですけど。 俺がいつホモになったの。 確かに男もいいけど、それは二次元の話であって三次元には全く興味なんてないんだけど」

「ううん、口ではそういっても、俊の体は正直だよ」

 こんなところで、そんなエロチックなセリフで聞けるとは思わなかった。 掲げているテーマが俺のホモ疑惑じゃなかったら、絶対にフェイトと性行為突入してるだろ、これ。 シチュ的にフェイトが俺の体をSっぽく責めてるところだろ。

「いや、体も何も現状として俺は三次元のむさい男共に興味なんてないわけで。 というかあったら問題だろ。 ミッド中に俺とおっさんの薄い本が出回るだろ。 明らかに俺が受けで出回るだろ」

 仮に出回っていたら俺は自殺してしまうかもしれない。 けど、そうしたら二人と一緒にいられないわけで──

 そう考え始めた俺に、フェイトは涙声で魅力的に感情的に扇情的に蠱惑的に俺に語る。

「──私じゃ、魅力不足かな……?」

 甘く悪魔のような囁き。

 女神が俺に問いかける。

 その瞬間──

「もう辛抱できん!!」

 俺はフェイトに襲い掛かり──バインドに捕まった。

 周りを見回すと、なのはがちょっと安心したような、それでいてちょっとムっとしたような顔でレイジングハートを構えていた。

 ……え? もしかして3P? ついにフェイトのおっぱい揉みながらなのはにベビーパウダーつきの手でアナル弄られるの?

 なのはとフェイトがコソコソとなにかを話しはじめ、こちらにくる。

 なんかいいシチュなので、俺もちょっとモジモジしながら瞳を潤ませながらいった。

「その……優しくしてね?」

 とても優しい動作で、当たる瞬間だけ速度が何十倍にも上がる魔力弾を撃ち込まれた。

 ……とりあえず、このホモ疑惑が払拭されたのと、昨日の件もうやむやにできたのでよかった……かな?




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