50.五歳児vs十九歳児
6月も中旬と終盤の境目あたりになり、燦々と照りつける太陽が恨めしくなってくる季節になってきた。 わたしは小さい頃からの幼馴染、フェイトちゃんと一緒にそんな太陽のもとにさらされながら家への道のりを歩いていた。
「あっつ〜い……。 なんで夏ってくるんだろうね、夏とかなくなればいいのに」
「なのはこの頃俊みたいになってきてるよ?」
「夏って素晴らしいよね。 生命の息吹を肌で感じるし、夏は海水浴やバーベキューに花火とやりたいことや楽しいことが沢山あるよ! 夏さいこうー!」
「そんなに同列に扱われるのが嫌だったんだ……」
当たり前だよフェイトちゃん。 あんなバカと同列になるくらいならバカの衣装部屋に置いてあるナース服着て六課にいくほうがましだよ。
「そういえば俊からメールで『冷房いれてるからいつでも帰ってきていいぜ、マイハニー』ってきたよ」
「ああ、それわたしもきた。 その時は丁度ジ○リ鑑賞会だったから返信しなかったけど」
「やっぱりジジの可愛さは異常だよね」
「それアルフさんが聞いたら泣くと思うよ? というか、どう考えてもキキでしょ」
犬よりネコ派になったのフェイト!? とか言いながら。
てくてくてくてく、二人で足並みを揃えながら歩いていく。
「そういえばフェイトちゃん。 俊くんから聞いたんだけど、ヴィヴィオがペットを欲しがってるみたいだね」
ヴィヴィオがいない時間を見計らって、俊くんが私に相談してきた。
曰く『ヴィヴィオがペットを欲しがってるんだけど、二人的にはどう思う? 俺としては、なのはとフェイトが俺のペットみたいなもんだし、いらないと思うんだけどさ』
いや、キミがわたし達のペットみたいなもんですから。 なに勝手にペットから飼い主にランクアップさせてるんだ。 もちろん、その時は後半の部分を無視して三人で話し合ったのだが、まったくもって決まらなかった。
以下、回想
☆
「ペットを飼うのはいいとしても、それが一過性のものにならないか心配なんだよね。 飽きてしまったときが恐ろしい」
深夜とまではいかないけど、ヴィヴィオが寝静まったのを確認して、わたし達三人はリビングで緊急家族会議てきなものを開いていた。
「う〜ん、ヴィヴィオは良い子だからそんなことになるとは思えないけど」
「いや、甘いぞフェイト。 なのはの唯一の得意料理である桃子さん式キャラメル並みに甘い。 なのはとフェイトがSよりなんだからヴィヴィオだってペットを苛めることに快感を覚えてしまうかもしれないじゃないかぁ!? うちの天使が堕天使になるかもしれないんだぞ!?」
「キミの妄想はいつも飛躍しすぎてるよ」
そうはいっても……確かに彼の言う事には一理ある気がする。 ペットを飼うってことは命を預かると同一であり、きちんと責任を持てないのであればペットを飼おうとは思わない。
だけど──
「ヴィヴィオが喜ぶ顔はみたいかも……」
なんたってヴィヴィオはうちの笑顔担当。 ヴィヴィオの笑顔があれば仕事なんて苦にもならない。 ……まあ、仕事はしてないに等しいんだけど。
わたしの言葉に彼は頬を掻く。
「俺もヴィヴィオの喜ぶ顔はみたいけどさー」
彼も別にヴィヴィオが嫌いでこんなことを言っているわけではない。 むしろヴィヴィオと一緒にいる時間が一番長いからこそ、真剣に考えているんだと思う。
「俺は権力的にはこの家で一番弱いから、二人が許可出したらヴィヴィオ連れて四人で猫井さんの所に行こうと思うけど」
「「う〜ん」」
そういわれると困ってしまう。 許可は出したいんだけど、何分命を預かるわけだし。
「それにペットに何を飼うのかも重要になってくるよな。 もう面倒だからアルフ連れて来ればよくね?」
「俊がお義母さんの家に行って、アルフを説得してきたらいいけど」
「ごめんフェイト。 アルフはなしにしよう。 けどさ、これは真剣に悩むよな。 だってネコとイヌはなのはとフェイトで埋まってるわけだし」
「いやわたしたち人間だから。 俊くんと違って人間だから」
「ちょっとまってくれ、それじゃ俺はいったいなんなんだ? こんなイケメンでクールな俺は何なんだ?」
「グール……かな」
「ビックリだよ、10年以上グールがそばにいたのに平気な顔してるお前たちにビックリだよ」
普通腐敗臭で凄いことになるしね。
それはともかくとして、
「仮に飼うとしたら鳥さんとかだよね。 可愛いし、わたし好きなんだよね」
「あ、私も好きだよ」
「二人とも、前から俺は二人とも鳥のように美しいと思っていたんだよ」
「「わかったからこっちに詰め寄らないで」」
油断も隙もありゃしない。 どうして彼はムードというものがわからないかなぁ……。 まったく。 普通、二人っきりのときとかに……こう……ねぇ?
フェイトちゃんと二人、彼の顔面を手で押さえながら考える。
「あまり世話がかかるものだと厳しいかもね。 もし、ヴィヴィオが一人でお世話できないものならわたしは認めたくないかも」
「え? なんで?」
顔面を押さえられたまま、俊くんがクエッションマークを浮かべる。
「いや、だってさ、ヴィヴィオがペットを欲しがってるんでしょう? だったらそのペットはヴィヴィオがきちんとお世話できるレベルにしないとダメだよ。 手を余して俊くんに手伝いを求めちゃヴィヴィオのためにならないと思うの」
「そ、そんなもんなの?」
「当たり前でしょ。 まったく……やっぱり俊くんは甘いよ。 キミの言葉を借りるなら、『わたしのキャラメル並みに甘いよ。』 それじゃヴィヴィオのためにならないでしょ」
「……なのはが大人っぽいこと言ってる……」
「どういう意味よそれ!?」
わたしだって19歳だよ!? キミよりも精神的には大人だよ!
「ヒドイよ俊! 普段はアレななのはでも、ヴィヴィオのことなら本来以上の力を発揮するよ!」
「気付いてフェイトちゃん! フェイトちゃんが一番ヒドイこと言っている事実に気付いて!」
フェイトちゃんからみたわたしがどういった感じに映し出されているのかが疑問になってきた。 ……大丈夫だよね? わたし大丈夫だよね?
「というか、いま思ったんだけどなんかこのまま二人を押し倒して──18禁にイけそう気がする。 ついに俺の夢である、フェイトのおっぱい吸いながらなのはにアナルを弄ってもらえるかもしれない」
「フェイトちゃん、お薬の時間だよ」
「ちょっとまって、いますぐ持ってくるから」
俊くんをバインドで縛ったあと、30分会議を続けたのだが決まらなかった
☆
あの時のことを思い出し頭を抱えながらながら、家の玄関を開ける。
「「ただいまー!」」
『うわぁぁああああぁぁあん!! ヴィヴィオがかったのーーー!』
玄関を開けたと同時に、ヴィヴィオの泣き声が聞こえてきた。
「なのは!」
「うん!」
急いで声のした場所、リビングへと移動すると──
「甘いなヴィヴィオ! この俺にスマブラで勝とうなんぜ100年はええよ!」
「ヴィヴィオがかったのーーー! ヴィヴィオがかったもん!」
「はっは、何を言っているんだこのミステリーガールは。 画面には映し出されているだろ? 勝者と敗者がどちらなのかが」
「ちーがーうもん! テレビがおかしいだけだもん!」
「えぇ!? なにその子ども特有の主張!?」
リビングでは19歳児が5歳児相手に本気を出してスマブラをしていた。 いましがた決着がついたのか、画面上には勝者と敗者を現す順位が。 何をやっているんだ、この19歳児。 5歳児相手に本気をだすキミの思考回路のほうがミステリーだよ。
ヴィヴィオがわたし達に気付いたのか、泣きながらフェイトちゃんの胸に飛び込んできた。
「フェイトマーマーぁぁああぁ! ヴィヴィオかったのにーー!」
「うんうん、ヴィヴィオ勝ったもんねー? 俊に勝ったもんね〜?」
ヴィヴィオはフェイトちゃんに任せて、わたしは19歳児の相手をすることに。
「もう……ヴィヴィオ相手になに本気だしてんの!」
「いや、本気じゃねえし俺が本気だしたら1秒でkoできるし」
「子どもみたいなこと言わないの! まったく……なんでヴィヴィオに本気だしたの?」
「社会の怖さを教えてやろうと思ってだな」
「キミは社会にでてないでしょ!? 無職が言っても説得力皆無だよ!?」
「いや、無職の代行者的な立ち位置で……」
「いらないよ、そんな立ち位置!? それ社会の役に立たないでしょ!?」
「僕が無職でいることによって、僕以外の人が一人職に就くことができるんだ。 僕はそういったことに喜びを感じる」
「わたしは泣きたいよ!?」
「え? それじゃ俺が本当に職に就いたらどうする?」
「フェイトちゃん達といつクビにさせられるか賭けるかな」
わたしの予想だと一週間以内にはクビになると思う。
わたしの言葉を聞いて、彼はヴィヴィオをあやしているフェイトちゃんに駆け寄った。
「フェイトママー! トロール高町がいたいけな幼馴染を苛めるよーーー! 助けてーーー!」
パァーン!
「……なのはママ、フェイトママにビンタ打たれたから俺を癒して……」
「いまのはキミが悪いよね。 ヴィヴィオあやしてる最中なのにフェイトちゃんの所にいったキミが悪いよね」
それとトロール高町ってどういう意味かな? どう考えても化け物しか思い浮かばないんだけど。
「ほら、なんでヴィヴィオ相手に本気だしたのか知らないけど、ちゃんと謝っといで。 流石にフルボッコにしすぎだよ。 このダメージの残り見る限りほとんどノーダメじゃん。 こんなことやられたらわたしでも心折れるよ」
「不屈のエースの心ってポッキー並に折れやすいな」
「ポッキーをバカにするな」
「俺のポッキーも勃起しちゃうぜ」
「お願いだから会話のキャッチボールしよ?」
わたしは彼の背中を押して、ヴィヴィオのところに。
フェイトちゃんは泣いているヴィヴィオの涙をふいて、彼の正面に立たせる。
ヴィヴィオの目線まで膝を曲げ、両手を合わせて謝る彼。
「ごめんなーヴィヴィオ。 ヴィヴィオがあまりにも可愛いからつい苛めたくなっちゃった」
「ヴィヴィオ、おにいさんなんてキライ! ヴィヴィオいじめるもん!」
「いや、ほんとごめんってば。 もうあんなことしないから、絶対にしないから」
「ほんとうに……?」
「ほんとほんと! 嘘ついたら六課にパイ生地投げに行ってやるよ!」
「ん〜〜〜〜……。 でもダメー!」
顔の前で大きくバッテンを作るヴィヴィオ。 いや、パイ生地投げられても困るんですけど……。
彼はいかにも困った顔をさせながら──訂正、罠にかかった獲物をみるような顔をしながらヴィヴィオにこう切り出した。
「う〜ん……それじゃ、俺がヴィヴィオにペットを飼ってやることで許してくれないかな?」
「え!? ペット!?」
「うんうん、ペット。 あまり高い動物は買えないけど、俺のお小遣いで買える範囲だったらいいよ?」
え? ちょっ!? なに言ってるこの人!?
「やったーー! ヴィヴィオおにいさんだいすきー!」
彼に抱きつくヴィヴィオ。 彼もヴィヴィオに抱きついて二人でくるくると回り出した。
と、思ったらヴィヴィオをフェイトちゃんに預けてこちらに向かってくる。
「どういうつもり?」
「いやー……午前中、ずっと動物の特番見ててさ。 動物を見るたびにヴィヴィオが欲しそうな目で俺に訴えかけるんだよ。 挙句の果てに、俺のすそを掴んで離さないんだよね。 もう耐えきれなくて。 あ、これは俺の独断だから来月のお小遣いの分をペットに回してください」
……俊くん。 ヴィヴィオに甘すぎだよ……。
まあ、そういったところも彼の魅力の一つなのかもしれないけどさ。
「まったく……。 今度からこんなことしちゃダメだよ?」
「うむ。 よかろう」
「なんでキミが上から目線なの」
バカをほっといて、喜ぶヴィヴィオとフェイトちゃんのところに。
「フェイトちゃん、いまからペットショップ行くけど大丈夫?」
「うん、オッケーだよ!」
「わ〜い! ペットだぉ〜!」
「けどヴィヴィオ。 ちゃんとヴィヴィオがお世話できる動物じゃないとダメだからね?」
「はーい!」
う〜ん、ちゃんとわかってるのかな〜?
ヴィヴィオの喜ぶ姿を見ていると、どうしても不安を拭えないわたしであった。
「むっ!? あなたも私もポッキーって、どういう意味なんだろうか? もしかして、男をスティックとして、女をチョコに例えているとか。 となると──お菓子メーカーは淫らな性行為を望んでいるのか!?」
彼に関しては不安しかない。