49.ひょっとこの命をかけた一発ギャグ
ヴィヴィオと二人で六課の昼食にお邪魔した。 今回はヴィヴィオも同伴な上にはやてからゲストカードみたいなの貰ったからすんなりと入ることができました。
そして食堂でなのは達と合流し──
「なのはママ、あ〜ん!」
「あ〜ん!」
「おいしい?」
「うん! おいしいよ! はい、お返しに、あ〜ん!」
「あ〜ん!」
「おいしい?」
「うん!」
現在なのはとヴィヴィオの食べさせ合戦を眺めていた。
なにこの天使たち。 まじヤベエ。 さっきから勃起が止まらない。
「フェイトママもあ〜ん!」
「あ〜ん。 うん! おいしいよ! このおにぎりヴィヴィオが作ったの?」
「うん! おにいさんといっしょにニギニギしたの!」
「えらいよ、ヴィヴィオ! 今日はなんでも買ってあげる! ね、なのは!」
「うん!」
「わーい! なのはママ、フェイトママだいすきー!」
ヴィヴィオはなのはだけでは飽き足らずフェイトまでその笑顔とおにぎりをもって虜にし、配下においた。 俺ら家族でのヒエラルキーの頂点に意図せずとも君臨しているヴィヴィオ様は流石である。 かくいう俺もヴィヴィオに骨抜きにされていてね。
「なんや、一緒に作ったん?」
「うん。 今日は出来立てをもっていく約束してたから10時頃に作り始めたんだけどさ。 そしたらヴィヴィオが『ヴィヴィオもなのはママとフェイトママにつくる!』って言い出して聞かなくて。 まあなし崩し的にヴィヴィオにはおにぎりを頼んだわけだわ。 結果をみるになのはみたいに塩と砂糖を間違わなかったおかげでおいしい料理が完成したわけだが」
今日のお弁当は、ヴィヴィオお手製おにぎりに、わかめとじゃこときゅうりの酢のもの。 卵焼きに白魚の甘酢かけにチビグラタンである。 我ながら甘酢かけはかなりの出来だと自負している。
「いいなぁ〜、俺もあの輪の中に入りたいな〜」
「諦めることやな。 なのはちゃんとフェイトちゃんがアンタに邪魔されないようにバインドで縛っていったんやから」
「いや、そもそもそれがおかしいだろ。 なんで俺がバインドで椅子に固定されてんの? 俺たちって云わば家族じゃん? イケメンな旦那と可愛すぎる若妻じゃん? 普通さ、こういうときってモブキャラ抜かして四人で卓を囲みながら仲良く談笑してるところじゃん? なんで主役の俺がこういう不遇な扱いを受けているわけ?」
「それはまあ……家族じゃないからじゃない?」
「俺だけ家族という認識じゃなかったの!?」
だとしたらヴィヴィオが一向に俺のことをパパと呼ばないのも頷ける。 これでもずっと気にしていたんです。
「そういえば、はやていつの間に弁当になったの?」
「今日は時間があったから作ってみた。 といってもサンドウィッチなんやけど」
「一つもらっていい?」
「どうぞ」
足と椅子を固定されているだけであり、上半身は問題なく動かすことのできる俺は、隣にいるはやての可愛らしい弁当箱からサンドウィッチは一つもらう。 すんげえうまそう。
「ヴィヴィオちゃんみたいにやってあげよっか?」
「気色悪い。 あいたっ!? 脛蹴らないで!?」
ちょっとした冗談だったのに。 はやえもん、この頃短気じゃないか? もしかして生理? 生理のときは性欲が増すと聞くけど……これはもしかして、そのサイン? 生理のサイン? ついにインサートしちゃうの?
「んじゃ、いただきまーす」
はやての目が怖かったので冗談を言わずに一口いただくことに。
「あ、パンの表面にマーガリンを塗ってるから具もいいかんじだな」
「この具は八神家でも人気なんやで」
確かに、この具はお子様ロリっ娘のロヴィータちゃんあたりが好きそうだな。
辛子明太子にマヨネーズとじゃがいも。 レンジでじゃがいもを蒸してから、マヨと辛子明太子を合わせるんだよな。 今度うちでも作るか。 おやつにはピッタリかもしれない。
「サンキュ、やっぱお前料理うまいわ」
「女の子としては料理は基本やからね」
「だってよ、なのは」
「わたしに振らないでくれるかな!? まるで私が料理できないみたいじゃない! わたしだって翠屋の娘なんだよ? 高校時代は看板娘としてテレビにも出たんだよ? わたしだって料理くらいできるよ!」
「まじで? お前なにかできたっけ?」
「卵かけごはん」
「まってなのは。 確かにそれは料理だけど、その料理名をここで上げるのは反則だと思う。 ほら、シャマル先生が鼻から麦茶こぼしてるぞ」
「うひっ……うひうひうひひうひょぉっ」
シャマル先生大丈夫ですか? ちょっと笑い声が気持ち悪いことになってますよ?
「それと引き換えフェイトはよく俺の手伝いしてくれてたから料理できるよな。 手先も器用だから、タコさんウインナーとか手コキとか得意だよな」
「後半まったく身に覚えがないんだけど。 うん、確かにキミの手伝いはしてたね。 結構面白かったし、私も色々と作り方教えてもらったかな」
「……フェイトちゃん、それほんと? もしかして、わたしだけがアレと料理を一緒にしてない上にまともに料理を作れないの?」
「それは仕方ないよ。 なのはの前世は山犬だったから、山を見ると走りたくなるんだよ」
バリアジャケット姿でなのはが四足で山を走ってる光景を想像すると涙が出てくると同時にちょっと興奮してきた。
「勝手にわたしの前世決めないでくれる!? それにウェイトレスさんとしてちゃんと働いてました! 山なんか走ってませんー」
「バストアップ体操で谷間は作ってたのにな」
「なんで知ってるの!?」
「キミに憑き 後ろに控え 監視する」
「それただのストーカーだから!?」
愛情故、仕方なし。
このフレーズ便利だな。 おっさんにパイ生地投げるときにも使ってみよ。
「あ、なのはお茶頂戴。 ノドが詰まりそう」
「詰まって死ね」
そういいながらペットボトルのお茶を投げ渡してくれるなのは。 もうなんというか可愛すぎ。 けどわざわざペットボトルのお茶を買わないでいいんじゃない?
なのはから貰ったお茶をラッパ飲みする。 ……あれ? これって間接キスじゃね? 間接キスじゃね!? 間接キスだよね!!??
「ちょっ!? どうしたんやひょっとこ!? いきなり耳から紫色の汁なんかだして!?」
「はやて。 ペットボトルの飲み口が何故丸いか知ってるか……? それはな、飲み口にチ○コを突っ込んで疑似フェラを味わうことができるようにという企業側からの配慮で──」
「ねえよ! そんな理由で飲み口を丸くしてるわけねえよ!? それに全然気持ちよくないうえにどう考えても入らないから!?」
「企業側の配慮を否定するな!!」
「お前は企業側に謝れ!」
すいませんでした。
そんなやり取りをしていると、俺の位置から右斜め前に座っていたティアがなんとも微妙な顔というか、釈然としない顔というか、のどに魚の骨が刺さっていて、それが取れなくて悶々としているような顔をしていた。
「どした、嬢ちゃん。 アヘ顔ダブルピースにはまだ早いぞ」
「いえ、永遠にありえませんからお気遣い結構です。 まあ、なんというか……なんかおかしな関係だな〜、っと思ってみてたんです」
おかしな関係? お前となのは以上におかしな関係なんて存在しないと思うんだけど。
「いや、まぁ……お二人がその関係に疑問を抱いていないのであれば、私が指摘しても意味ないというか、むしろこじらせる恐れがありますので言わないですけども」
「おい、ティアがまともなこと言ってるぞ。 シャマル、救護室に運ぼう」
「いやヴィータさん私はいつだってまともですよ!?」
まあ、嬢ちゃんは真面目に不真面目だからな。 いや、盲信しているともいえるが。
横にいるはやてが退屈そうに俺の脇腹を突いてくる。
「ひょっとこ、なんか面白いことやって」
「えー、仕事しろよ」
「終わったもん」
「相変わらず仕事をしてる描写がないよなぁ。 まあ、面白いことね〜……一発芸とか?」
「お! いいね〜!」
俺の言葉にはやてが手を叩く。 その叩きに合わせて他の食堂にいる者たちも手を叩き、もう俺が一発芸しますよ、的な雰囲気になっていた。 ふと足をみると、椅子に縛り付けられていたバインドも外されて、外した犯人であろうなのは達をみるとニコニコ笑顔で手を叩いていた。 あの目、絶対に楽しんでる。 純粋に楽しんでるんじゃなく、俺が一発芸をして何か起こることを期待してる目だ。
簡単に言ってしまえばSの目。 しかしながら、なのはの膝に座りはしゃいでいるヴィヴィオは純粋に楽しそうな目で俺のことを見ていた。
逃げ場なし
まぁ──べつにいいか。
「よーし、それじゃ食堂にいる愚民共。 飲み物を含め」
魔力弾が飛んできた
「すいません、皆々様。 よろしければ僕の一発芸のために口にお飲物を含んではいただけないでしょうか?」
今度は成功し、食堂にいる全員が飲み物を口に含んでくれた。
ワクワク ドキドキ ウキウキ
そんな期待に満ちた目で見られても困るけど──やはりこういったことをするのは血が騒ぐ、というか、楽しい。
全員の前に立ち、宣言する。
「それじゃ、高町なのはのマネしまーす!」
ヘ(^o^)ヘ うけてみて! これがディ
|∧ バインバスターの
/ / バリエーション!
(^o^)/
/( ) これがわたしの──
(^o^) 三 / / >
\ (\\ 三
(/o^) < \ 三 全力全開!!
( /
/ く スターライト──
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\ 丶 i. | / ./ /
\ ヽ i. .| / / /
\ ヽ i | / / /
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__ ブレイカー!!! --
二 / ̄\ = 二
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『ブーーーー!?』
六課の食堂に色とりどりの虹のアーチが架かった。
美少女たちが飲み物を噴出するさまは見ていてちょっと興奮するけど、絵的にはなかなか凄い光景である。
「どうだった? 俺の一発芸」
「い、いや、全然おもろくなかっ、なかっ、ぶはっ」
「そ、そうですね……くくっ、だ、ダメよティアナ、ここで笑っちゃ……くくっ……」
全員が全員とも口元に手を置いて必死に笑いをこらえている。 まったく意味がないことだけど。
当の本人に訊いてみることにする。
「ねえねえ、なのは。 どうだった? うまく表現したつもりなんだけど」
「キミわたしのこと本当は嫌いでしょ!? あの時わたしがどんな想いだったか知ってるよね!? このときの戦いは魔導師人生においてもトップ3に入る戦いなんだよ!? どうしてこういったことするかなぁ!!」
「なのは、笑った拍子に出たと思うんだけど、わかめが口から飛び出してるよ」
「先にいってよバカ!? こっち見ないで!」
もう色々と恥ずかしかったのか、わかめを取ったあとヴィヴィオをぎゅっとして離さなくなった。
満足したのでもう一人の当人にも聞いてみる。
「フェイトフェイト、どうだった?」
「ちょっとだけトラウマだったんだけど、もうアレを思い出すたびに笑いがこみ上げてきて、ふふっ」
「そりゃよかった」
思い出し笑いはしそうだけど。
腹を押さえながらティアが俺に訊いてくる。
「あ、あの……もしかして、なのはさんとフェイトさんの戦いって本当にそんな感じだったんですか?」
「いや違うから!? 全然違うから!? ちょっとまって、いまレイジングハートで見せるから!」
嬢ちゃんの発言に俺が答えるより早く、なのはが否定する。 そしてそのまま、首にかけているレイジングハートの記憶映像を食堂に映し出した。
若干9歳にして魔導師ランクAAAの天才二人の激闘──
それは新人達、いや、この場にいる全員を釘づけにするには十分なものだった。 ある者は感嘆の声をあげ、ある者は尊敬の視線を浴びせる。 ある者は少しの畏怖を感じ、俺は性的な目でみていた。
空を舞い、風を切り、大量の魔力弾をかわし、追撃する。
一進一退の攻防。 全力全開の本気の戦い
一人は母のために
一人は目の前の女の子のために
互いが譲らないものを抱えたまま、死闘を演じた。
そして──
『受けてみて! これがディバインバスターのバリエーション! 全力全開! スターライトブレイカー!!』
ここで全員の腹筋が崩壊したのは言うまでもない。
この日、高町なのはの代名詞ともいえる技
スターライトブレイカーは、六課でのみネタ技と化した。