48.英霊になったとしても誰にも呼ばれないと思う



「いまなら英霊を呼び出せる気がする」

「は? 英霊って、あの英霊?」

「そうそう、あの英霊」

 リビングで向かい合いながらPSPで英雄の霊を召喚して戦う格闘ゲームをしていると、彼が唐突に言い出した。 そろそろお薬の時間だっけ?

「いや、そもそも英霊呼び出してどうするの?」

「ドッキリのプラカードを掲げてそのまま帰らせる」
 
「最悪にもほどがある!? それ絶対怒られるよね!?」

「ランサー、自害せよ」

 「ちょっぴりうまい!?」

 流石暇人。

「でも呼び出すには媒体が必要だよ? それはどうやって調達してくるの?」

「俺のパンツでどうにかならないかな?」

「ならないよ! なにをどう間違ったらキミのパンツが宝具になるの!?」

「でも特A級ロストロギアだろ?」

「……そういえばそうだった」

 はやてちゃん以上に動くロストロギアだった。

「あれ? でも、キミの下着を媒体にするなら、未来のキミがくるんじゃない?」

「ふっ……士郎VSアーチャーの完全再現か」

「パンツ片手に大人が本気で戦ってる姿とかシュールすぎて泣きたくなってくるんだけど」

「何度も見てきた…… 香水の臭いがきつい45歳独身女性渡辺さんの裸も 加齢臭のする50歳独身女性青山さんの裸も 自称18歳実年齢40歳の板垣さんの裸も 俺自身が拒んでも見せられた……! 俺が望んだものはそんなことではなかった……! 俺はそんなものの為に……! 守護者になどなったのではない……!!」

「アーチャー お前、後悔してるのか。 ──お前には負けない! 誰かに負けるのはいい……、けど、自分には負けられない!!」

「もうやめて!! わたしの好きなシーンをこれ以上汚さないで!!」

 いいよ! どっちが勝ってもむなしい勝利しか残らないよ! この戦い!

「こういう設定にすると、これがとても悲しくなってくるよな」

 それは本当に小さな願いで

 それさえも世界は叶えることはなくて

 それでもキミは理想を夢見て

 馬鹿みたいに夢を語って

 最後は裏切り続ける世界に絶望したのでした

「それただ単にモテなかっただけだから!? 世界のせいしちゃダメだから!?」

「先代たちから託されたユメがある。 童貞卒業というユメだ。 それを目指して続けていれば、いつか世界の全てを救う事が出来るだろう、と思い込んでいた」

「自意識過剰も甚だしいよ!! それで救える世界なんてキミの世界だけでしょ!? 管理局バカにしてんの!?」

「そんな愚かな自分が、酷く滑稽に思えて…… その愚かな自分の人生を消そうと思ったんだ」

「そのまま死んでよ!」

「全てを救うことができれば自分の童貞も救われると思ったんだ──」

「なに恰好つけてんの!? 全然恰好よくないからね!?」

「こんな世界を夢見たんじゃない……」

「もうやめて!?」

「結局誰一人、会うことがなかった……」

「会う人全員に避けられたんだね」

「童貞の末路がこれか―― どこで間違ったのだろう」

「たぶん小学校に上がるくらいじゃないかな」

「どこで想ってしまったのだろう」

「いや……想うのはいいと思うけど……」

「過ちが生まれた場所 始まりの思いが――あの時の誓いこそが、全ての過ち──それは、叶うはずのない望みなのに──また願ってしまった。 30歳にして、願ってしまった」

「もうやめてよぉ……。 心が折れそうだよ……」

「奇跡があるとするならば、童貞を否定することは可能なのだろうか。 傾く下腹部、ゴムか生かの選択肢……。 年を経るごとに遠ざかる理想郷。 世界はそれほど残酷で、いつも嘲笑しながら見ていた。 自分はそれほど愚かだった。 貫くことはなく、ただただ股間と右手を擦り切れるほどコスっていた。 嘆き、苦しみ、モニターをじっと見つめ、やがて精子は枯れていった」

「もうゲームの続きしよ。 ね? 今度は私がアーチャー使おうかな〜? なんて言ってみたり」

 股間にはオナホが装着されている

 オナ禁はせずに 一日3回は当たり前

 幾たびの戦場を妄想して16年

 ただの一度の前進はなく

 ただ一度のピストンでラブドールは無残にも破裂する

 彼の者は常に独り USB連動オナホを片手に勝利に酔う。

 故にソープに意味はなく、その股間は──きっとインポになっていた。

 固有結界──“不能な股間と無限のオナホ”

「………………言うべきことは?」

「答えは得たよ、なのは。 オレ、謝ってくる」

「いってらっしゃい」

 彼の頭が本気で心配になってきた。




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