56.朝の一コマ



 トイレから戻ってきた俺は朝食を作ることにした。 なんだか回想があったような気がするがきにしない。 そしてちゃんと手も念入りに洗ってきましたよ。 めちゃくちゃ念入りに洗ってきましたよ。

 キッチンに立って今日のメニューを考える。 冷奴に……わかめの味噌汁に熱々ご飯に焼き魚、あと明太子とかいいかもな。

 即興でメニューを決めたら、次はさっそく朝食作りを開始する。

 米を洗い、炊飯器に入れて炊きあがるのを待つ間に、おかずを作っていく。 それができる頃にはなのはとフェイトとヴィヴィオが二階から降りてきた。

「ふぁ〜……俊くんおはよー……」

「なんかえらく眠そうだな、珍しい」

「うん……昨日さ、ちょっと夜中まで起きててね……。 今日のわたしはねむねむなのです」

「まあ、とりあえず顔洗ってこいよ。 そのままだと味噌汁のお椀に顔面突っこむかもしれねえぞ」

「流石にそれは高校時代に卒業したよ〜」

 いや、高校時代に卒業したとかの問題じゃねえよ。 普通の人は入学すらしないから。 その学校、生徒お前一人だけだと思うから。

「ヴィヴィオー、お顔洗いに行こう〜」

「はーい!」

 なのはの隣にいたヴィヴィオは寝起きがよかったのか、元気に手をあげながらついていく。 その後ろをアヒルのガーくんもえっちらおっちらとついてくる。 ちょっとした勇者のパーティーじゃねえか。

 なのはさんなら素手で魔王ぶっ飛ばして自分が魔王の地位についちゃいそうだけど

「あ、え〜っと……フェイトもおはよう」

「へっ!? あ、う、うん、おはよう! きょ、きょうはじめて会うね!!」

「え? いや、朝方にも会ったと思うけど──」

「はじめて会うよね!!」

 必死にこちらに詰め寄ってくるフェイト。 どうやらフェイトの中では朝のアレはなかったことにしたいらしい。 ……そんなに俺に触ったの嫌なの? え? ひょっとこ菌がついた〜! みたいな感じで嫌なの?

「……ひっく……うっ……ごめんよ……フェイト……」

「えっ!? なんでいきなり泣き出すの!? だ、大丈夫!?」

「……ぐすっ……フェイトに内緒で盗んだパンツ返すから……俺のこと嫌いにならないで……!」

「現在進行形で嫌いになりそうなんだけど。 泣いたってユルサナイから。 とりあえずその下着もう使わないから捨てていいよ」

「うん……もうそのパンツ履けないほどに使ったから……」

「ちょっとおおおおおおおおおおおおおお!? なにしてるの!? なんで人の下着盗んでそんなことするのかなぁ!? わかってる! 俊のやった行動がどれだけキチガイな行動がわかってるの!?」

「うん、なんか甘いミルキセーキの味がした。 もしかして俺をおかずにしたの?」

「してないよ! そんなことするわけないでしょ! もともとそういう香りなの! というかそもそも聞いてないよ!? 誰もその情報は聞いてないし求めてないよ!?」

「でも次の日からお腹壊してさ。 なんかいまだに腹の中に異物が入ってる気がするんだよね」

「それ気のせいじゃないから!? 絶対異物入ってるから! レントゲン検査したら私の下着入ってるから!」

「まさか……俺とフェイトは下着食事プレイをしていたのか……!?」

「セルフ下着食事プレイをしてたんだよ! 私が入るこむスキマないから!」

「え? 混ざりたいの?」

「混ざりたくないよ!!」

 残念だ。 どうやら下着提供しかしてくれないらしい。 しょうがない、なのはに一緒にプレイしてもらうように頼もう。

 そう思っていると、ちょうどいいタイミングでなのはとヴィヴィオがやってきた。 朝食をテーブルに並べるついでにそれとなく聞いてみることに

「なのは、なのは。 二人で下着食事プレイしよ?」

「死体触手プレイ? 俊くん……その手の趣味はちょっと苦手なの……。 というか朝からそういった話題はちょっと……」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!? 言ってないから、死体触手プレイがしたいなんて一言もいってないから!? どういう聞き間違い!? それ役柄的にスカさんだから!」

「え? それじゃなんていったの?」

「えっと……下着食事プレイを……なのはとしたいな〜、なんてことを思ってたり」

「寝言は寝て言え、ゴミ野郎」

 なのはさんめっちゃ冷たいです。 凍てつく波動なんてもんじゃねえよ。 修造も凍るくらいの冷たさだよ。

 俺がなにしたの? 俺なにも悪いことしてないじゃん。 ただちょっと特殊なプレイしたいな〜、なんてことを思っただけじゃん?

「あ、そっか。 ごめんな〜なのは。 なのはは俺とSMプレイがしたいんだよな。 いま道具揃えてくるから待っててね」

「おっと、お箸が滑った」

 なのはが投げた箸がひょっとこの眼球に迫ってくる。 それをなんとか間一髪でかわすひょっとこ。

「……だ、大胆なお箸の滑らせかたですね……。 僕ちょっとだけ寿命が縮んじゃいました……」

「うん。 この頃、箸回しにはまっててね。 たまに失敗するんだ、えへ♪」

 あ、あぶねええええええええええええええ!? なにこの娘!? 普通、人に向かって全力で箸投げるの!? 綺麗なサイドスローで投げやがって!! SMプレイってレベルじゃねえよ!?

「っと、そういえばさ。 もうそろそろ夏休みも兼ねて高町家に一旦帰るじゃん? ヴィヴィオの件もあってなかなか帰ることができなかったから、今回は結構長居すると思うんだけど。 二人の予定はどうなの? 空いてる?」

 俺は無職で暇人だからいつでもOKではあるけど、管理局員の、というか公務員の二人はそういうわけにもいかないだろうし。 なんせ二人とも管理局の重要な戦力なんだから、管理局だっておいそれと手放すことは──

「あ、そういえば本部から夏休みもらったんだ。 なんか上層部の人が『いつも頑張ってるからね、思いっきり遊んできなさい!』 って、はやてちゃん経由で。 だからいつでもいいよ〜」

「いいのか管理局!? いいのか上層部!? お前ら完全に孫を溺愛してるジジイやババアじゃねえか!? こいつらの仕事なんてゲームしたりマンガ読んだりお菓子買いに行くだけだぞ!? しかもなんだよ夏休みって! どんだけこいつらに甘いんだよ!」

「あ、でもでも、ちゃんと私¥わたし達は職場に行くよ? ほら、わたし達ってキミと違って人間できてるし」

「とりあえず職場に行ってるだけだろ! お前ら引きこもり一歩手前の学生か!」

「でもわたし達が仕事しないと、俊くん生活できないよ?」

「いいか? 仕事なんて一切しなくていいから。 むしろ定時の2時間前くらいに帰ってきていいから。 フリだけは絶対してくれよな」

 もうこの生活以外考えられないんだ。 俺はこの生活がなきゃダメなんだよ。

「いやまあ……そりゃおいそれとキミとの生活を手放す気はないけどさ。 それは男としてどうなの? プライドとかないの?」

「まったくないな」

「相変わらず人として終わってるねぇ〜」

 文字通り人として終わってますし。

 三人よりも朝食を早く食べてキッチンへ。 二人のための弁当を詰めていく。 今日は肉巻きおにぎりというものを作ってみた。 う〜ん……ちょっと食べにくいから工夫が必要だよな。 かといって爪楊枝くらいでは肉巻きおにぎりを持ち上げられないし。

「どうしたの、俊?」

「んあ? あ、フェイトか。 いやさ、この肉巻きおにぎりをどうしようかな〜っと思ってさ」

 一歩横にずれてフェイトに弁当をみせる。 温野菜のサラダに肉じゃが、肉巻きおにぎりに魚の甘酢かけ、卵焼きに切り干し大根である。

 フェイトは俺が作った弁当を見て

「肉巻きおにぎりは無理にお弁当に詰めなくていいんじゃない?」

 そう首を傾けながら言った。

「あ〜、それじゃ別々にしよっか。 まあ、そこまでおにぎりも大きくないし、ネギマヨと普通のおにぎりにしとこう。 デザートにイチゴもいれとくよ」

「毎日ご苦労様です」

「こちらこそ食べてくれてありがとう」

 二人で向き合いながら笑い合う。

『ねぇねぇなのはママー? あさにねー、パパとフェイトママがだきあってたよー?』

『ほーう……』

「「まって!? それ誤解だから!?」」

 慌ててテーブルに二人で戻り、なのはとヴィヴィオに説明した。

 ヴィヴィオ……! 恐ろしい子……!?



           ☆



「い っ て き ま す ! ! 」

「え〜っと……いってらっしゃい」

 わたしの目の前で、彼が困った顔で手を振っている。 隣にはヴィヴィオが彼に抱きつきながらニコニコと手を振っている。

 ……なんだかんだいって、やっぱり一番長くいるせいか、ヴィヴィオは彼に懐いてるんだよね〜……。 ただ懐いてるだけならわたしも気にしないけど。

 それはそうと、こんな奴がフェイトちゃんと抱き合っていた? はっ、何かの間違いに決まってるよ。 万年モテない男なんだし。 自意識過剰のくるくるぱーなんだしさ。

「えっと……いかないの?」

「なに? そんなに私に早く行ってほしいの?」

「え? いや、できるならずっと傍にいてほしいけど」
 
 ……よくそんな恥ずかしいセリフを言えるよね、キミは。

「行ってきますの握手しよ。 ほら、早く」

 強引に彼の手を取り、握る。 さっきまで洗い物をしていたせいなのか、ちょっとだけ冷たい手にわたしの比較的暖かい手が重なる。

 ──3分後

「……仕事遅れるぞ?」

「……あ」

 わ、わすれてたああああああああああっ!? フェイトちゃんが車の中でずっと待ってるんだった!? わたしとしたことが……!

「そ、それじゃ行ってくるね!」

「「いってらっしゃーい!」」

 手を振るわたしに彼とヴィヴィオが振り返す。

 ……うん、今日もお仕事頑張れそう!



           ☆



 ──六課──

「あ、はやてさんってステータス極振りするタイプなんですね」

「うん、下手にバランスとろうとすると使いようのない雑魚に変わることが多々あるからな。 これは現実でも言えることやで。 な! なのはちゃん!」

「そうだね〜。 新人たちは皆それぞれいい武器をもっているから、それを伸ばすことは必要だね〜。 だからといって、短所を見ないふりをしちゃいけないよ。 それは弱い自分に逃げていることになるからね。 自分の“できること”と“できないこと”を自分自身が知ること。 それが強くなるために必要なことだよ?」

『はい! 勉強になります!!』

「いや、お前ら訓練は? ソファーに集まってゲームしてちゃ説得力なんて皆無だぞ?」

 なのは達が携帯ゲーム機片手に遊んでいるのに対して、一人だけ書類仕事しているヴィータがそう呟いた。




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