62.恋の病



 いまどこで何をしているかサッパリわからない父さん。 あなたは俺と一緒に風呂にはいるとき、よく『こうすれば絶対強くなるから!』 といって、年端もいかない俺を風呂で溺れさせようとしましたね。 そのたびに母さんに殺されかけているのをよく覚えています。 さて、そんな父さんに聞きたいことがあるのですが──娘と風呂にはいるときってどうすればいいの?

 現在の状況

 俺・・・かろうじてタオル一枚でマルフォイを隠している状態

 ヴィヴィオ・・・全裸

 ガーくん・・・タップダンス中

 おい、そこのアヒル。 ちょっと空気読め。 ぺちぺちうっせえぞ。

 少しだけ狼狽えながらも、ガーくんを無視して俺はヴィヴィオを見ることにした。 ぷっくりとした淡いピンク色の乳首に、いまだ毛が生えていない平地。 きっと初潮もきてないだろう。 その頬は、若干朱に染まっており、笑顔なのに、5歳なのに、なんだかもう少しだけ年をとった子どもと対面しているようである。

「と、とりあえずヴィヴィオ。 ほら、湯船に浸かりなさい。 そんな恰好でいたら寒いでしょ」

 極力ヴィヴィオの裸を見ないようにしながら抱く──するとヴィヴィオは俺の顔面付近にガバッと抱きついてきた。

「つ〜かま〜えた!」

 ヴィヴィオは体重も軽いので、体には負担がかからないが──抱きついた場所が悪かった。

 父親が息子を高い高いの要領で湯船に浸けるように、俺もヴィヴィオを持ち上げたときに抱きついてきたのだ。

「ヴィ、ヴィヴィオ……? おっぱいがパパの顔面に……」

「きゃー! パパのえっちぃー!」

 ヴィヴィオは笑いながら、キャッキャキャッキャとはしゃぐ。 ……なんというか、この反応をみていると、さっきまで変なことを考えていた俺がバカらしく思えてきた。 なに娘に動揺しているんだ。 バカか俺は。

 深呼吸を一つして、再度気持ちを締め上げる。 いまの俺はヴィヴィオのパパ。 そして娘と風呂場でやることといったら──体洗いっこだ!

「ヴィヴィオ、ヴィヴィオはいっつもママ達に体を洗ってもらってるのか?」

「うん! あ、でもねでもね! ガーくんはヴィヴィオがあらってあげるの! いっかい、フェイトママがガーくんをあらおうとしたんだけど……ガーくんヴィヴィオいがいにされるのいやなんだって」

「ガークンアラッテイイノヴィヴィオダケ!」

「なんという騎士道っぷり……。 ちょっとすげえや」

 ブレないな、ガーくん。 お前にならヴィヴィオを任せることができるよ。 へんな虫がついたら人知れず殺してくれよ。

 俺のアイコンタクトが通じたのか、ガーくんがビシリと手を親指を立てるような動作をする。

「まあ、いいや。 それじゃ、きょうはパパがヴィヴィオを洗ってあげちゃうよー」

「え!? ほんと!?」

「うんうん。 それじゃ、髪から洗おうね〜」

 ヴィヴィオを風呂イスに座らせ、俺は片膝をついてシャンプーを取る。 2・3ノズルを押した後シャンプーを手に馴染ませヴィヴィオの髪を洗っていく。 ゆっくりと頭皮をこするように、決して傷つけないように気を付けながらわしゃわしゃと洗っていく。

「きもちい?」

「うん! あわさんたくさん!」

「そうだねー、あわさんがいっぱいだねー。 ほーら、山ができたぞー!」

「しゃきーん!」

 両手ですくうようにヴィヴィオの髪を洗いながら、丁度中心にくるところの髪の周辺を束ね、竹とんぼを飛ばす要領でくるくるとこすっていく。 するとヴィヴィオの髪はタワーのようにビヨーンと伸びてちょんまげのようになる。

「それじゃ流すから目を瞑ってー」

「はーい!」

 ヴィヴィオが目をぎゅっと瞑ったのを確認して、お湯をすくいゆっくりとかけていく。 そのときに綺麗に泡が落ちるように、手も同時に動かして泡を刈り取る。

 シャンプーをしたあとはリンス。

「いつもリンスはする?」

「うん! ママたちがやってくれるのー!」

「そっか。 俺もママたちと入りたいものだ」

 まあ……できないわけだが。

 リンスを手に馴染ませ、とりあえずシャンプーと同じ要領でヴィヴィオの髪を梳いていく。 あまりリンスは使わないので、正直ちょっとわからんが……きっとおそらくこんな感じだろう。

「はーい、ヴィヴィオ。 目を瞑ってー」

 ヴィヴィオが目を瞑ったのを確認して流す。

 さて……次は体か。

 う〜ん……体ねぇ。 どうしようか……やっぱり洗ったほうがいいよなぁ。 いまさら体だけ洗わないってのは色々と問題がありそうだし。

 そう思っていると、ヴィヴィオがこちらを振り返っていた。 手には体を洗うためのスポンジとタオルが。

「ああ、ごめんなヴィヴィオ。 いま体も洗ってあげるから──」

「ヴィヴィオがあらってあげるー!」

「……え?」

「いつもね、ママたちとあらいっこするの! だからパパもしよー?」

「いや……パパはもう体洗ったから大丈夫だよ。 それよりヴィヴィオの──」

「だーめー」

 ヴィヴィオからスポンジとタオルを取り返そうとしたが、ヴィヴィオは自分の体を割り込ませてスポンジとタオルを俺から遠ざける。

 う〜ん……流石にヴィヴィオに体洗わせるのは色々とマズイ気がする。 なんというか……フラグな感じがしてならない。

 だからといってここで俺が無理やりにとったらヴィヴィオは泣いちゃうかもしれないし……。

「はぁ、それじゃ……前は色々と本気で危ないことになりそうだから、背中を洗ってくれないか?」

「はーい!」

 手をあげながらヴィヴィオは俺の後ろに回り込む。 前は俺の大事なポコチンが控えているし、できればヴィヴィオにはそういったものを早い段階で知ってもらいたくない。 俺もなのはもフェイトもヴィヴィオには健全に生きてほしいのだ。 既にアニメやゲームに浸ってるのでなかなか難しいかもしれないけど。

「それじゃいくよー?」

「はーい、よろしくー」

 背中に石鹸をつけたタオルの感触が伝わってくる。 こしこしととても弱い力でヴィヴィオが一生懸命俺の背中を洗ってくれる。 あぁ……なんかいいな、こういう娘とのコミュニケーションは。

「パパー? きもちぃー?」

「ああ、とってもきもちいよ」

「えへへ……」

 俺の答えに満足したのか、ヴィヴィオは笑顔満開で俺の背中を洗っていく。 力はまったく弱くて、お世辞にもうまいとはいえないけども──なんだろう、ちょっと涙が出てくるほど嬉しい。 なんだかなぁ……俺って意外と涙脆いのかも。

 自然な動作で涙を拭う。 しかしタイミングが悪いのか、ヴィヴィオにその涙を見られていた。 ヴィヴィオちゃん、いちいち俺の顔色を見なくていいからね?

「パパー、だいじょうぶー?」

「うん、大丈夫だよ」

「でも、ないてたよー? やっぱりぽんぽんいたい?」

 そういいながら、心配なのか俺の膝に座るヴィヴィオ。 ちょっとこの体制はヤバイ。 めちゃくちゃ洒落にならない。

 流石にヴィヴィオで勃起するほど俺も人間終わってはないけれど、なにかの拍子に息子を刺激されでもしたら──

 俺の脳裏に浮かぶ最悪のシナリオ。 エロ本ではたまにあるけど、現実ではありえない光景。

「い、いかんいかん!? ヴィヴィオ、流石にそれはダメだって!!」

「きゃっ!?」

 迷いも躊躇いもなくヴィヴィオを強引に引き離す。 しかしその拍子にヴィヴィオはタイルに倒れてしまった。

「す、すまんヴィヴィオ!? だ、大丈夫か!? うおっ!?」

 慌てた俺はタイルが湿っていることにも気づかずに足に力を入れたため──滑ってしまい、結果的にはヴィヴィオを押し倒すような恰好になってしまった。

 沈黙が訪れる。

「ヴィ、ヴィヴィオ……これはその……不可抗力というもので……」

 なにを娘相手に慌てているんだろう。 というか、そもそも俺がどけばいいのだが。 しかしながら、あまりにも風呂場に居すぎたためか若干頭がボーっとしてしまい、1テンポ動作が遅れてしまう。

 そんな俺の体を知ってか知らずかわからないが、ヴィヴィオは目をとろんをさせながら、その小さな手で俺の顔を触ってきた。 それはいつかフェイトと俺が危ないことになりそうなときにみた、フェイトの目と同じであった。

「パパ……」

「えーっとヴィヴィオ? ちょっとパパ頭がボーっとしてるから、できれば自分で抜け出してくれないか? あ、そのまま上に抜けてくれよ。 下は色々とマズイから」

「パパ……」

 話を聞いてくれ、我が娘よ。

 そろそろ腕の限界が訪れてきた。 腕がぷるぷるいっている。

 あー、このままヴィヴィオに倒れてヴィヴィオが怪我してそれによって俺が二人に怒られて殺されるのかー。

 そんなことを考えてしまう。 まったくもってついてない……明日から帰省だというのに。

 ガラッ

「……ん?」

「フェイトちゃんはヴィヴィオの回収を、あとガーくんも。 わたしは俊くんにお説教するから」

「わかった。 できるだけボコボコにお願い」

「任せて」

 目にも止まらぬ速さで、フェイトが俺の下にいるヴィヴィオを拾い上げ、俺の顔面に膝を華麗に入れてから外に出る。 そしてヴィヴィオの体を綺麗にふきあげ、どこかへと去って行った。 その後ろをガーくんがぺちぺちとついていく。

 後に残っているのは、俺となのはだけ。

 ……助かったような助かってないような……。 でも、俺は何も悪いことはしてないはずだし……叩かれるようなことはないはずだ!

「ありがとうなのは。 とりあえずのぼせそうなので、そこをどいてくれないか?」



           ☆



「ありがとうなのは。 とりあえずのぼせそうなので、そこをどいてくれないか?」

 こ、この男……! よくもいけしゃあしゃあと……!

 わたしの目の前には、タオルで大事な部分を隠した幼馴染がヘラっとした顔で立っていた。 心なしか、ちょっと安堵したような笑顔である。 大事な部分が隠れてて私も安堵してる。

 それにしてもこの男、わたしとフェイトちゃんが庭で本を燃やしている間にヴィヴィオとお風呂にはいるなんて……いったい何を考えているんだろう?

「あー、ちょっと話なら後で何回でも説明するから、まずは風呂から出してくれ」

 そういって俊くんが横を通り過ぎようとした。 俊くんが通り過ぎようとした瞬間、自分でも驚くほどの速さで俊くんの腕を掴んだ。 驚きこちらを見る、そんな俊くんを横目にわたしは強引に元の位置に戻らせた。

「あ、あのー……なのはさん? ちょっと本気で頭がぼーってしてるのですが」

「とりあえず……座ろうか?」

「えっと……なんで?」

 疑問の声を上げる俊くんの足を強引に払う。 それをひょいと片足を上げて回避する俊くん。

「「…………」」

 なんともいえない空気が辺りを支配する。

 ……ちょっとだけ恥ずかしい……。 いや、だって普通ならさ、これがアニメとかだったら転ぶはずだよね? なんで回避するのこの人。 本人だって、回避しちゃったから『うわぁ……どうしよう……』みたいな顔してこっちの様子窺ってるじゃん! だったら倒れてよ! もう!

 気を取り直してもう一回足払いをする。

 シュッ(なのはの足払い)

 ひょい(俊くんが避ける)

「「………………」」

 な……なんでこんなときだけ無駄な身体能力を使うの……!

 我慢できなくなったわたしは──踵落としを俊くんに喰らわせて強引に倒した。

 思いっきり頭をタイルに打った俊くん。

「いっつ……お前! いくらなんでもそれはやりすぎ──」

「しゅ、俊くんが悪いもん! なのはを無視してヴィヴィオとお風呂なんかはいって──きゃっ!?」

「え!? ちょっ!?」

 タイルがびしょびしょに濡れていたらしく、わたしは俊くんに詰め寄ろうした瞬間に足が滑り、ついいましがた俊くんが転んだところにわたしも転ぶこととなった。

「「……こ、これはその……」」

 意図せずして、先に倒れていた俊くんがわたしを抱くような姿勢になり、傍から見たらわたしが俊くんを襲っている構図と呼ばれても文句が言えない体勢になってしまう。

 丁度わたしの下腹部をもう少しだけ下ろせば俊くんの……その……だ、大事なところに……あたってしまう……ような体勢に。

 俊くんはのぼせているのか、顔をとても赤くして早口にまくしたてる。

「こ、これはその、アレだよ! な! は、早いとこ出ようぜ! 俺もうのぼせちゃって大変なことになりそうなんだ!」

 と、俊くんは言うだけ言って私をどかそうとしない。

 これは……ほんとうにのぼせちゃってるのかな……?

「そ、そうだね! こんなところを誰かに見られたら誤解されちゃうし……」

 ……べつに、誤解されてもいいのでは?

 そんな考えがふと頭によぎってしまった。

 俊くんは、いつも不敵そうでなんでもできそうに見えるけど、その実、わたしの知っている人の中で一番弱い人間だと思っている。

 だからこそ、俊くんはいつも消去法を使っているのだ。 対策を立てているのだ。 あのバカみたいな行動も、そんな消去法の一つだと思う。 あのはやてちゃんでさえ、俊くんの用意周到さと狡賢さなら敵わないみたいだし。

 だけれども、俊くんはこういった自分が予想していなかったトラブルというものに弱い、とてもつもなく弱い。 きっと、わたし達の誰かが人造人間で、人間と機械の半々の存在だと知ったら、俊くんは少なからず動揺すると思う。 わたし達には見えないところで、動揺するんだと思う。

「な……なのは?」

 ほら、いまも動揺している。 ちょっと心臓に手を当てれば、鼓動の音と速さがいつもの何倍も速いのがわかる。

 無意識に俊くんの髪を撫でてしまう。

 そして俊くんは臆病だ。 わたしは俊くん以上に臆病な存在を知らない。 俊くんが自分の考えれる限りの対策をするのもそれの証拠といっても過言ではない。

 そして、だからこそ──俊くんは一歩を踏み込んでくれない。 このへたれ!

 わたしは浮かせていた腰をゆっくりと下ろす。

「……んっ……あっ」

「お、おおおおちつけなのは!? お前までのぼせてどうするんだ!?」

「う、うん……なんだか、なのは……のぼせちゃったみたいなの」

 腰だけじゃなく、支えていた両手さえもゆっくりと折り曲げて、俊くんに全体重を預ける。

「だ、大丈夫!? いまフェイトが来てくれると思うから! それまで我慢しろよ!?」

 俊くんがわたしを両手でしっかりと抱きながら、わたしの意識を保とうと声をかけてくる。 ……頑張っておしつけてるのに、なんでこの人は気付かないの? いや、わたしの身を心配してるから嬉しいけど……。

「俊くん……ごめんね、なのはもう……頭がぼーっとしちゃって……」

「や、やばいのか!? もう意識がやばいのか!?」

 俊くんの頭も相当だよ……。

 そう心の中で思っていると、何か固いものがわたしの……大事なところに当たった。

 ふと彼の顔をみれば、ものすごく気まずそうな顔をしている。

「えっと……すまん、なのは……。 その、お前の顔をみてたらつい……」

 え!? や、やっぱりコレはアレなの!? お、男の人ってのぼせててもこうなるんだ……。

「う、うん……しょうがないよ」

 いざ本当に押し付けられると、その……体が固まってしまう。 やっぱり恥ずかしくって、顔がタコのように赤くなりそう。

 まずいと思ったのか、俊くんが体の位置を変えようとする。

「あっ、んっ……だ、だめ……いま変えちゃダメ……!」

「いや、でも……そうしないとなのはのアレと俺のとが──」

「だ、だから……俊くんが動くたびに……こ、こすれて……」

 い、いくら下着をはいているとはいえ……その……か、かんじないわけじゃないし……いま動かれると、本気で危ない……

「で、でも、我慢して動かないと──」

「な、なのはが動くから……! 俊くんはじっとしてて」

「お、おう……」

 そして固まる俊くん。 こ、これなら……だ、大丈夫なはず。

「そ、それじゃ……なのはが動くから、俊くんはじっとしててね……?」

 こくりと頷くのを確認して、わたしはできるだけゆっくりと俊くんから腰を浮かそうとする──が、あまり長くいすぎたためか、手の力がまったくはいらず、少しばかり腰を浮かすことしかできなかった。

「あっ、だめっ、あ、あたってる……」

 少し程度の浮かしでは、どくことなどできず……あ、アレもあたったままである。

 このままではいたずらに体力を消耗するだけなので、先程の位置に戻ることに。

「んっ……!」

 戻した拍子に、俊くんの、だ、大事な部分と、わたしの、だ、大事な部分が上下しこすれ、その拍子に痺れたような感覚を下腹部が覚えた。 少しだけ、ビクッとなる。 体の奥からは熱い何かが駆け上ってきて──

 って、う、うそっ……!? そ、そんなわけないよね……?

 しかしいまは確認を取ることができないうえに、本格的に頭がまわらなくなってきた。

 そして先程と同じ体勢に戻る。

「えへへ……わ、わたし……頭が回らなくなってきちゃった……」

「……俺もう、気分悪くなってきたんだけど……」

 ……女の子が抱きついている状況で、気分が悪くなるってどういうこと? そんなに叩かれたいの?

「ねぇ、俊くん? なのはのこと、好き……?」

「何度も言ってるじゃん。 あ、ちょっとまって、本格的にヤバイかも」

 俊くんは具合悪そうな顔をしている。

 けど、こっちだって本格的にヤバイ。 早く勝手に動くこの口を止めないと……!

「それじゃぁ……もういいよね……? ずっと待ってたんだし、そ、それに俊くんが悪いんだよ……? なのはをこんな気分にさせたのは俊くんのせいだもん……」

 もうやめて!? わたしの口さん勝手に動かないで!

 わたしの意識と制御の頑張りも虚しく、口はどんどん動く。

 ──でも、これでいいのかも。 だって、意外と俊くんって人気者だし、狙ってる人とかいそうだし、だったらわたしが──

「俊くんのデバイスを私の中でカートリッジロードさせて、スターライトブレイカーを撃ち込んで!!」

 もう死にたい



           ☆



「終わった……完全に終わった……。 もう管理局の仕事も辞めたくなってきた……」

 あのセリフの後、俊くんは『スバルや嬢ちゃんよりもやべえ』と言いながら腹筋が攣り、私は無我夢中で逃げてきた。

 どんな人生を歩めば、あんな告白の仕方が出てくるのか。 もうなんというか……翠屋継ごうかな……そうしたら、デバイスとかの単語なんて出てこなくなるだろうし。

「それに……、はぁ……」

 なんか……俊くんに負けた気がする。 下着もアレなことになってたし。 いや、完全にわたしの自爆だけどさ。

「はぁ〜……もうお嫁にいけないよ」

「どっちかというと、あいつが婿になるんじゃねえのか?」

「……へ?」

 呟きに返す人物がいたので、慌てて顔を上げると自分のマンガを俊くんの部屋に置きに来たヴィータちゃんが、またあらたなマンガを抱えながらこっちをみていた。

「無職のあいつは婿になるしか道はねえだろうし。 まあ、誰がもらうのかは知らないけど」

「む、婿?」

「え? だってそうじゃねえの? 婿になって、翠屋だったか? そこで働くんじゃねえのか? あー、でもなのは達が此処にいる間はあいつはずっと此処にいるわけか。 面倒だな、どうにかしてあいつだけさっさと消えてくれればいいのに」

 む……婿……。 た、確かにその手があった、というかその手しかないよね。

 だって、俊くんはわたしがいないとダメダメさんだし、無職なんだから!

 「た、高町俊……ちょっといいかも」

 「? 病気にでもなったのか?」




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