61.パパ力はまだ高くない



「パパー、どうしたのー? げんきないよー?」

「へ? そうかな?」

「うん。 ぽんぽんいたいのー? だいじょうぶー?」

 スーパーから帰ってきて、すぐに夕食を作りいつも通りに家族四人で食べているとき、隣で食べていたヴィヴィオが俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 ヴィヴィオは俺の腹をさすりながら心配そうに覗き込む。 ガーくんも俺のほうをみて心配していた。

「こーら、ヴィヴィオ。 ダメでしょ? ご飯食べてるときに席を立ったら」

「ヴィヴィオはパパのおひざにすわっただけだよ? いどうしただけだもん」

「それでもです。 俊くんの膝から離れなさい」

「えー! いやー!」

「あ、こら! 抱きつかない!」

 ヴィヴィオとなのはが言い合った結果、ヴィヴィオが俺のほうに抱きついてくる。 うれしいけど……ヴィヴィオちゃん、パパの首が絞まってる。 綺麗にパパの首を絞めている。

 バンバンバン

「ヴィ、ヴィヴィオ!? 手を離して!? 俊の口からお米が垂れてる!」

 フェイトの慌てた言葉ですんなりと手を離してくれるヴィヴィオ。

「パパー、だいじょうぶー?」

「うん、大丈夫だよ。 ちょっと首に痕がついたようなきもするけど……。 ありがとな、ヴィヴィオ。 なのはもヴィヴィオを怒らないでくれよ、俺がボーっとしてたのが悪いんだしさ」

「うっ……娘ってずるい……。 わたしも小っちゃくなれば……」

「な、なのは? だ、大丈夫? そんな非科学的なこと考えちゃダメだって」

「わ、わかってるよそれくらい。 でも……ヴィヴィオにとっても甘いし……」

 うっ……!? で、でもでもヴィヴィオはまだ5歳だし、まだまだ甘やかしたほうがいいような気もするし、ヴィヴィオの笑顔可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし、ヴィヴィオ可愛いし。 ……あれ? さっきからヴィヴィオ可愛いしか考えてなくね?

「なんというヴィヴィオの魔力……!?」

「まあ、俊は頭おかしいのがデフォだし気にしないけど」

 フェイトちゃん、俺も心配してくれよ。

「でも、確かに俊くんおかしいよ? いや、頭おかしいのは何年も前から知ってるけど、きょうはご飯も食べてないし、わたし達に悪戯もしないし」

「うん、確かにおかしいかも。 いや、頭おかしいのは何年も前からだけど。 なにかあったの?」

「いや〜……とくになにかあったというわけじゃないんだけどさ。 なんというか──人妻っていうか、母親ってすごいな〜と思ってさ」

 そういった瞬間、なのはとフェイトの顔が引き攣った。 そして下を向いたまま黙る。

 どうしたんだ? そう思いながら二人に声をかけようとした矢先、ガタリと音をたてて二人が自分たちの料理をもって俺の隣に座ってきた。 いつも一人ぼっちか、ヴィヴィオが隣にいる状況がデフォルトだったので、この二人の行動は進展したとみても過言ではないはず……!

「「…………」」

 過言というより遺言を書いたほうがいいかもしれない。

 黙ったまま箸を進める二人を横目で見ていると、そんなことを思ってしまった。

「あー、ママたちせきたっちゃダ──」

「よすんだヴィヴィオ。 いいかヴィヴィオ。 世の中には、逆らっちゃいけない存在がいるんだよ。 触れちゃいけない存在がいるんだ」

 いまなのはとフェイトとかかわったら確実に骨が3本はもって逝かれる。 なんか経験からしてわかる。 何年俺が幼馴染として隣でストーカーしてると思ってるんだ。

 だからこそ、俺はヴィヴィオの口を塞ぎながらごく自然な動作で席を立つことにした。

「さ〜って、風呂にでも入ろうかなー!」

 いつの間にかバインドで足を固定されていた。

「あ、あれ?」

「俊くん、ご飯が残ってるよ。 残しちゃダメだよ」

「そうだよ俊。 席に座って食べる」

「……はい」

 なのはとフェイトが自分の分の料理を食べながらも、俺に席に着くように促す。 それに俺が逆らえるはずもなく、ゆっくりと座り、箸を持ち直す。 ……完全に食欲がなくなってしまった。 ……どうしよう……。

 しかしそうはいっても、ここで俺が食べないことにはヴィヴィオに示しがつかない上に、食材に申し訳ないのでゆっくりとスローペースで食べていくことに。

「ところで俊くん」

「ん? どしたのなのは」

「年上と年下と同年齢なら、俊くんはどれを選ぶ?」

「……えーっと、それ……なんの意味があるの?」

「いや、とくに理由はないけど。 一応、ハッキリさせておこうと思って」

 目を合わせないまま、告げるなのは。

 意図はまったくもってよくわからないけど、とりあえず考えてみる。

 年上というと、桃子さんやリンディさん、あとクイントさんも入るよな。 まぁ、年上は甘えることができるし、正直ちょっといいな〜、とは思ってしまう。 ……いや、そもそも桃子さんやリンディさんだと年が離れすぎている気がするな。 まぁいいや。 美人だし、20代でも通用するし。

 年下は、嬢ちゃんやスバルくらいでいいんだよな? ヴィヴィオやキャロだと年下すぎる気がするし。 う〜む……正直、年下と考えたときの対象がバカすぎて何の感想もでてこない。 いや、年下も可愛いけどさ、あいつら常時発情してるようなもんじゃん? なのはやフェイトが発情して、一日中ヤるみたいな展開ならいいけどさ、あいつらとじゃなんか雰囲気を出せる自信がない。
 
『俊さん! そこからここにインサートです! ほら、カモン!!』

 ……最悪勃起不全になりそうだ。 泣きながら腰を振ることになりそうだ。 もしくは挿入した瞬間、エナジードレインとかされそう。

 最悪の場合、俺のことをなのはだと脳内で設定しそうで怖い。

 というかもとより──

「同年齢一択なんだけど」

 もっというならば、なのはとフェイトなんだけど。

「そう。 ……よかった」

「うん、なんだか安心したね」

 俺の答えを聞いて、なのはとフェイトがほっと一安心したように二人で笑い合う。 これはアレか? 大好きな幼馴染を取られまいとしての行動ということか?

 まったく、二人とも可愛らしくていじらしいなぁ。 どうせアレだろ? いつもツッケンドンな態度だからいざというときに恥ずかしくて、チラチラと俺のほうに視線を向けちゃうってやつか。 そうなのか。 やれやれ、残念だか俺は鈍感男なんてもんじゃないからな。

 もう二人の気持ちに気付いちゃったよ。

 笑い合っていたなのはとフェイトが俺に笑顔を向けてくる。

 まったく、ごめんな二人とも。 二人の気持ち、ちゃんとわかってるよ。

「それじゃ俊くん。 年上ものと年下もののエッチな本は全部処分しておくね!」

 まさかチラチラと向けていた視線が俺の後方にあるエロ本だったとは……。

 二人の気持ちに気付いたところで、どうすることもできない俺だった。



           ☆



「さらば参考書。 俺はなのはとフェイトがいればオカズに困ることはないんだ。 わかってくれ。 あ、でもやっぱり買おう。 二次元には二次元の素晴らしさがあるしな」

 なんとか夕食を食べきり、沸かしていた風呂にはいる。 ちなみに将来的に嫁になる二人は、現在庭で嬉々として俺のエロ本──もとい参考書を燃やしている最中である。 まさか本当に、幼馴染系や同級生系を残して年上と年下の参考書が処分されるとは……。 どうやら、俺は二人の行動力を見縊っていたらしい。

「それにしても……戦闘機人かー。 なーんでナカジマ夫妻は俺にあんな話をしたんだか。 それもスカさん達には内緒で」

『上矢俊君、キミの噂は八神二佐から耳にタコができるくらい聞いているよ。 いつもいつも嬉しそうにしゃべるからね。 八神二佐の話の内容の7割はキミのことだよ』

 俺を強引に連れ出し、スカさんハーレムから遠ざけたあとに最初に放った言葉だ。

 それにしても、はやては俺をどれだけバカにすればいいんだ。 アレだろ、俺の噂の元凶は絶対お前だと思ってる。 噂を流すなら、もっとちゃんとした噂を流してくれよ。 イケメンで優しい男とか、そんな感じの噂を流してくれたらいいのに。

「結構フレンドリーに話されたから、俺もついついフレンドリーに接していたところにあの話だよ」

『ところで上矢君。 戦闘機人というものを知っているかい?』

「あのスカさんハーレムの奴らが全員戦闘機人とかいう存在だって? まあ、たしかにいまにもエヴァに乗り込みそうなスーツ着てたけどさ。 だからって戦闘機人って、戦闘機人って──なぁ?」

 誰にともなく呟く。

 人の体に機械ブチ込むなんてさ。 ようするにあれだろ? 機械で腹からガトリングとか出しちゃう改造ネコの人間verってことだろ。 スカさん暇人だからってそんなことしちゃダメだろ。

「しかし問題は──なんでそんなことを俺に話したかなんだよな。 ナカジマ夫妻には悪いけど、お兄さん力とかないからなんにもできないっつうの」

 あまり管理局のことは詳しくないのでよくわからんが、もしかしたら戦闘機人ってだけで逮捕されんのかな? いや、でもそこまではないだろ。 ……うーん、でもやっぱり後ろ盾くらいは欲しいところだよな。

「ここは……はやてに相談してみるか」

 なんだかんだいって、こういうのははやてが一番頼りになるんだよな。

 きっと、いい案を出してくれるに違いない。

 ほんと……はやてには頭が上がらねえ。 俺が頭上がる人物のほうが少ないけど。

 とりあえずの指針は決まったし、そろそろのぼせそうなので風呂から上がろうと、出入口であるガラス扉に目を向けると、なにやら小さなシルエットがもぞもぞとしていた。 どうやら衣服を脱いでいるようだ。 隣には、鳥類特有の細い足に人間では考えられない口の形をしたシルエットをした物体もいた。

 というか、この家で小さいシルエットといったら、一人しかいないわけでありまして、いまこの場でその子が入ってくると今度こそリアルに遺言を書かないといけなくなっちゃうぞ。

「ヴィ、ヴィヴィオ……? お風呂はいるのか?」

『あっ……パパ……?』

「う、うん。 パパだけど、お風呂はいるならちょっとまってくれ。 パパ、いますぐ出るから──」

 待っててくれ。 そう言おうとしたところでガラガラと引き戸が開く音と、誰かが入ってくる音。 そしてぺたぺたとガーくんが入ってくる音が聞こえてきた。

「やっ……あの……ヴィヴィオ……?」

 突然の事態に頭が正常に働かない。 というか、ヴィヴィオが漏らしたときと同じくらいパニックになる。

 きっと皆はこう思うだろう。 『こいつ脆いな』と。 しかしながら言い訳をさせてくれ。

「えへへ……。 あのね……パパ。 ──おふろいっしょにはいろ……?」

 裸の娘を前にして冷静でいられるほど、俺はまだパパ力が高くないのだ。




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