68.俺の股間がカンピオーネ
がやがやと女性達がロッカールームで水着に着替えているのを横目に私はハイビスカスの絵柄が描いてあるビキニを手に取った。
今日はこれから沢山みんなと遊んで、ご飯を食べて、あわよくば彼と一緒に……
そんなちょっとした期待を持ちながら下着を脱ぐ。 昨日は頑張って縞々パンツをはいたけど、今日はちょっとだけ大人の雰囲気を醸し出した黒を穿いてきた。 ……彼は見てくれなかったけど。 いや、べつに彼に見てほしくって穿いたわけじゃないんだけどね? なんだろう、いまちょっとだけ私の見る目が変わった気がする。
けど……ちょっとくらい覗き込む仕草をしてほしかったな……。
そんなことを思いながら水着に着替えようとすると、隣にいるなのはが肩を叩いてきた。
「ね、ねぇ? ピンク色のビキニと、す、スク水はどっちがいいと思うかな?」
「なのは、年を考えようよ」
かれこれ10年の付き合いになる親友のなのはが、ピンク色のビキニとスクール水着を片手に聞いてきた。
「わ、わかってるよ!? なんか危ない犯罪の香りがするのはわかってるけど……、好きそうじゃん……」
「いやいや、好きそうだからって着てこられたからビックリするよ」
そういって私は水着を着る。 う〜ん、ちょっと胸が苦しい……。
「えっと……パレオはっと」
ロッカーをごそごそと漁ると、奥のほうに封印したものが誤って下に落ちる。
てすたろっさ(スク水)
「…………フェイトちゃん?」
「え〜っと……好きそうじゃん?」
「わたしには言っておいて、自分は着る算段だったの!?」
「い、いや違うよなのは!? 恥ずかしいからやめたよ!? なのはみたいに痛い子にはなりたくないし!」
「べ、べつに痛くないよ! 喜んでくれるもん!」
『主はやて、実際のところアイツは好きなのでしょうか?』
『素直にツインにしたほうが喜ぶやろな〜』
「「…………」」
ずっと思ってたんだ。 髪が長いからツインテールにしようかな〜、と。 べつに彼のためとかじゃないよ。 ほんとだよ?
私もなのはも無言で髪を結ぶ。
結ぶ終えた私たちはとくに何を喋るわけでもなく、というか、喋れずにそのままロッカーを閉める。
「あれ、なのはちゃん。 それパッド──」
「ダメ!? 言わないで!?」
「なのはちゃん、あの人はそんなこと気にしないから大丈夫だと思いますよ?」
「シャマルさんまでやめてください!? わたしにも意地はあるんですよ!?」
「……無乳のエースオブエース……」
「シグナムさん、ちょっとお話があるんですが」
なのはが涙目でながらも怒りで顔を真っ赤にしてシグナムに詰め寄る。 なのはも大変だね……。 でも──彼は大きいのと小さいの、どっちが好きなのかな?
☆
「う〜……大きい人は小さい人の気持ちがわからないんだー……」
「な、なのは? あんまり胸を見られると……」
なのはと二人、砂浜を歩きながら彼のいる位置へと歩いていく。 基本的にバカでお祭り男だから騒がしいところにいけば見つかるだろうし。
じっとみていたなのはが、ふと何を思ったのか私の胸に手を置いてきた。
「な、なのは!? なにやってるの!?」
「いや……なんでこんなにおっきいのかなぁと思って……」
そのまま軽く揉み始めるなのは。
「ひゃッ!? だ、ダメだってこんなところでそんなことしたら!?」
「う、うん……、だ、大丈夫だよフェイトちゃん」
「ん……あッ……! な、なにが大丈夫なのかサッパ……リだよ、んッ!」
「ふぇ、フェイトちゃん……だ、ダメだよそんな声だしちゃ……」
「そ、そんなこといわれても……、な、なのはが手を離してくれたら……!」
フェイトの声を無視して、なのはは胸を揉む。 はじめは軽く触る程度だった手も、いまでは大きく撫でまわすように動かし、ときたま力を入れる。 その緩急と強弱の使い方でフェイトはたまらず声を出す。
「な、なのは……」
「フェイトちゃん……」
なのはとフェイトの体が密着に近い形で近づく。 はぁはぁ……と荒い息と、んッ……という艶めかしい吐息が二人を支配する。
『はやてさん、あの二人は止めなくていいのでしょうか? 男性客が大変なことになってますが』
『シグナムいるし、なんだか二人とも本気っぽいしいいんちゃう? アイツの噂知ってる人間ならまずあの二人に手を出そうとは思わんよ。 それに、あの二人がそのままゴールしてくれたらこっちは独り占めできるしなー』
『成程、あなたのような人を小悪魔と呼ぶんですね。 なんだか時代すら思い通りにいきそうですね』
『時代の先駆者はいつも型破りで常軌を逸したバカと相場がきまっとるで』
「……フェイトちゃん、なんか……ごめんね」
「うん……きにしないで……」
いまさらながら、周囲の人間に見られていたことを思いだした二人は顔を赤くしながら謝った。 いや、赤い顔は恥ずかしいという想い以外にもありそうではあるが。
「ん、なんだ。 もう終わったのか。 ではいくぞ、アイツが何を仕出かしているのかわからんからな」
至近距離にほど近いところで待機していたシグナムが、私となのはに話しかける。
「なんだろう……初期のわたしは危ない部下に振り回される可哀相な上司という役回りのはずなのになぁ……」
とぼとぼと三人で歩いていると、小さな声でなのはが呟いたのを耳にした。
かける言葉が見つからなかった。
☆
「しかし海とはまた久しぶりですね、主はやて」
「せやな〜。 一年ぶりやね」
「そこまで久しぶりでもなかったですね、主はやて」
「ゆるゆるで平和な世界観を舐めちゃあかんで」
まぁ……年々犯罪率は減少しているし、近頃は義賊とかいうのも出てきたみたいだから管理局のほうもそこまで慌ただしくはないよね。
「けど、犯罪はなくならないよねー。 こればっかりはどうしようもないけどさ」
「しかしながら、主はやて。 でしたら魔導師ランクの高い私達って遊び過ぎではないでしょうか?」
シグナムのもっともな意見に、はやては気にしてない風に答える。
「前にミゼット提督が言ってたんやけど。 『六課はアイドル的立ち位置である。 それは裏を返せば、その六課が慌ただしく仕事をしていると他の局員の不安の種になってしまうかもねぇ』 とかなんとか。 それに、六課は海とかいったほうがええで。 ……夏の特大号のいい種にもなるし」
「特大号?」
「ん、こっちの話や」
なのはの疑問にはやてが笑顔で回避する。 けどまぁ……確かにあの六課が仕事をしてたら慌てるかもしれないね。 私は執務官だからそれなりに仕事はあると思うけど。
「けど義賊ですか〜。 なんだか面白そうですね」
「シャマルは興味あるの?」
「へ? フェイトちゃんは興味ないんですか?」
「う〜ん、あんまり興味ないかな」
「あれま。 他の皆さんは?」
『とくに興味ないなぁ〜』
「うぅ……私だけなんですね」
シャマルが肩を落とす。
そうやって皆で話しているうちに、新人たちと先に来ていたヴィータやザフィーラ、それに彼とスカさんを見つけた。
海水でびちゃびちゃになった紙袋がシュールすぎて怖い。 いつになったらあの紙袋を脱いでくれるんだろう。
「って、あれ? なのは、ヴィヴィオ見える?」
「いや……海水に勇敢に立ち向かうガーくんの姿しか見当たらない」
二人で顔を見合わせる。
「「ヴィヴィオが危ない!!」」
猛ダッシュで彼が休憩しているパラソルの方へと走る。 そこには私となのはが考えていたとおり、ヴィヴィオが彼に懐いて何かを掲げていた。
そして──
『よーし、ヴィヴィオ。 それじゃパパが全身をべたべたと触っちゃうからな〜!』
このロリコン!!
☆
脱臼だけで済んでよかったと判断するか、脱臼させやがって、と難色を示すかは人それぞれであるが、俺はこう判断する。
「俊くん、そこに正座しなさい」
「俊、正座」
まだお仕置きは終わらない。
「なのは、フェイト。 俺の言い訳を聞いてくれ」
「聞くだけ聞いてあげる」
「聞いたからって何か変わるとは限らないけど」
……逃げ出したい。
もう言い訳を諦めて、制裁を加えられる覚悟で他のことに集中することにした。
マジマジと二人の水着を見る。
なのはの水着は魔力光と同じピンク色である、それも鮮やかなピンク色だ。 なのはの可愛らしさと相まって抜群すぎる。 こいつは俺を萌え殺す気か。 ……どうやらパッドをつけているらしいな。 俺の目は誤魔化せないぞ。
フェイトの水着は白色にハイビスカスの絵柄が描いてあるフレッシュ感抜群の水着である。 そして腰元には黒いパレオ……どうしてフェイトは俺のツボを知ってるんだ? パレオっていいよね。
「「なんかエッチな視線が……」」
じろじろと見すぎたのか、なのはとフェイトは自分の水着を両手で隠しながら俺の視線上に肩を割り込ませる。
「いや……ただ二人とも可愛い水着だな〜っと思って……。 それに俺の好きなツインテもしてるし」
流石の俺も予想外。 あまり見ていると……大変なことになってしまう。 既に半起状態、正座をしているからいいものの……ここでなにかが起こってしまうと大変なことになってしまう。
「そ、そう? ふ、ふ〜ん……べつに俊くんにそんなこと言われても嬉しくはないけど、まぁありがとう」
さも当たり前だろと言わんばかりに、腕を組みながら喋るなのは。 まぁ、確かに可愛いとか俺限定で言えば言われ慣れてるよね。 もう少し気の利いたコメントができればよかったなー……。
「あー、すまん。 気の利いたコメントができなくて」
「へ!? い、いやべつにそんなことは……!?」
なのはが手をぶんぶんと振りながら否定してくれる。 やっぱり優しいなぁ……。
そんななのはの可愛らしい行動を見ていると、ずいっとフェイトが詰め寄ってきた。 体だけ詰め寄ってきたので、四つん這いの状態である。
「ねぇ、水着が可愛いの? 私は可愛くないの?」
「へ? いや……水着も可愛いけど、大前提としてフェイトが可愛いということがあるわけで──」
フェイトの顔を直視できなくなり、思わず視線を下にさげる。
そこには──桃源郷が広がっていた。
フェイトの胸が大きかったのか、若干窮屈な様子のたわわに実ったおっぱいが天を目指そうと谷間を作っていた。
思わずガン見する。 思わず直視する。
体の中の全神経が、フェイトの胸に釘づけになる。
なぜだ? 胸なら風呂場の入浴中とかに多少なりとも見てるじゃないか?
なのに何故?
頭の中で自問自答する。 俺の体はどうしたんだ?
「どうしたの?」
フェイトが首を傾げながら聞いてくる。 その動きに合わせて少しだけ胸が揺れる。
「い、いやっ……とくになんでもないよ……」
ごくり……そう生唾を呑み込んだ自分の咽喉音がやけに響いた。
フェイトに聞かれてはいまいだろうか? そんな考えが脳裏によぎる。
「あーれーこーろーんーだー」
「わぷっ!?」
そんな俺の背中に誰かが棒読み声で体当たりをかましてきた。
この声の主はよく知っている。 なんせ俺が一番厄介になっている人物かもしれないのだから。
「はやてお前な──」
背中にましゅまろが当たっている感覚を覚えて硬直する。
え? これもしかして、え?
「んー? どしたん?」
はやてはそう聞きながらも、あるものを俺の背中に押し付けてきた。
柔らかい弾力が俺の背中を通して体全体に伝わってくる。 むにゅむにゅとしたマシュマロが俺の脳内を犯していく。
「は、はやて……? できれば離れてほしいかなー……なんて思ってるんだけど」
前にはフェイト、後ろにはましゅまろを押し付けるはやて。 こんな状態をいつまでも続けられるほど俺の精神は強くない。
「離れてほしいなら自分から離れればいいやん? それはできんの?」
「で、できるよ! できるに決まってるだろ!」
はやてから離れるために体を動かした──はずであったのだが、俺の体はまったく力が入らずにそのまま動くことができなかった。
「あ、あれ……? はやて、お前魔法使って」
「いや、何もしてへんけど?」
「いや、でも体が──」
体がまったく動かない。 バインドで縛られたみたいにまったく動かないのである。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、後ろにいたはやてが首に手を回してきた、 そしてその手で俺の顔を撫でてくる。
「なぁ、俊。 もしかして、わたしの胸で興奮してるとか?」
「ば、ばかいえ!! これはお前らが来る前にちょっとはしゃぎすぎてだな──」
「ふ〜ん。 そういえば俊。 わたしって意外に胸あるんやで?」
「そ、それがどうした」
「いやな、俊はロリ巨乳を認めたくないからわたしを貧乳扱いするやろ? けど、いい加減認めたらな〜、と思って」
「い、いいんだよ! 俺はフェイトくらいの胸がいいんだ!」
「ふ〜ん……、けど、そこは素直な反応をしとるで?」
はやては撫でていた手をゆっくり、ゆっくりと下腹部に下げていく。
「ば、バカお前、ここには人が沢山いるわけで──」
「それじゃ、人がいない所なら……ええの?」
はやてが右肩から顔を出し、そう聞いてくる。
「へ? えっと、そういうわけじゃ、いやでも、結果としてはやっぱりそうなって、で、でも俺にはなのはとフェイトという人がいて」
しどろもどろの俺の顔を、はやて以外の誰かが強引に向きを変えさせる。
「私とお話し中でしょ? 私だけをずっと見てて」
ぐきりっと嫌な音が首から聞こえてきた。 しかし、そんなことなど今の俺には気にならなかった。 だって、フェイトの顔が少し動けばキスできる位置まできていたのだから。
「俊。 俊はうろちょろしすぎだよ。 そんなんじゃ──」
フェイトが何かを言おうとした瞬間、後ろのほうでなのはの声が聞こえてきた。
『……なんて……塊……』
そのなのはの声に、俺とフェイトとはやてはなのはのほうに視線を向ける。
なのははその視線を浴びて、いや俺と目線を合わせて若干涙をためながら叫んだ。
「おっぱいなんて脂肪の塊じゃん!」
「な、なのは……?」
「俊くんのバーカ! おっぱい魔人! 変態!」
「い、いや……あの、なのは? 人が見てるから……」
「俊くんなんて大っ嫌い! サメに食べられてしんじゃえ!」
…………なのはに嫌われた。