69.69だけでもう、えろいことを妄想するよな



「ヴィータさん、ひょっとこさんたちの所が騒がしいんですけど、なにかあったんですか?」

「アイツが思いっきり地雷踏んだ」

「はぁ……地雷……ですか?」

 スバルとヴィータが見つめる先には、なのはが涙をためながらひょっとこに何かを言っていた。 そしてそれをはやてとフェイトが後ろから冷や汗を流しながら見ている状態であった。 ひょっとこはほとんど放心状態で、糸の切れたマリオネットよろしく動かない。 その一部だけが和気藹々で楽しむ空間ではなくなっていた。 周囲の人間も見ないふりして、ときたまひょっとこに敬礼している人間までいる始末。

「なのはさんがほとんど泣きそうですね。 ぺろぺろしたいです」

「お前は上司をもう少し敬え。 しかしまぁ……あの空気どうするんだろうな」

「アイツの首を切り落とせば済むことじゃないのか?」

「シグナム、そんなことしたら発狂するぞ間違いなく。 無理無理」

 シグナムの真剣に考えた解を、ヴィータは呆れながら否定する。

 横にいたティアがヴィータに話しかける。

「ひょっとこさんなら首取れても大丈夫そうですよね、なんか普通にくっつけそう」

「お前はアイツに対してどんな目を向けてるんだ。 流石のアイツもそこまで人外じゃねえだろ」

「いや、そうとも限らんぞ、ヴィータ。 アイツなら首がくっつくかもしれない。 だから一度だけアイツの首を落として──」

「ザフィーラ! シグナム止めろ! こいつ危なすぎる!」

 ヴィータの声にザフィーラが一つ頷いて、シグナムを羽交い絞めにする。

「離せザフィーラ! 主はやてと密着したアイツを許しておけるか!」

「落ち着けシグナム! せめて腕にしろ! 腕なら生えてくるから!」
 
「む……、本当かザフィーラ。 ならば腕で勘弁してやろう」

「おい、いつからアイツはナメック星出身になったんだ。 確かに前写メで見せてもらったけど、アイツ自身は地球人だからな」

「ふっ、冗談だヴィータ。 守護騎士のリーダーは、そんな器の小さい人物ではない」

 そういって、ふと柔らかい笑顔でヴィータの頭を撫でるシグナム。 その身長さゆえか姉が妹を宥めている風に捉えることができる。 ヴィータは一つ溜息を吐いて、軽く笑った。

「まったく……頼むぞ、リーダー」

「あぁ──マミらせればよいのだろ?」

「なに一つわかってねえじゃねえか!? お前の器粉々に砕けてるだろ!?」

 結局、ザフィーラとシャマルの二人に取り押さえられたシグナムであった。

 シグナムを捕縛し終えたヴィータはやれやれといった調子で息を吐き出す。 そんなヴィータにスバルとティアが話しかける。

「私の予想だとひょっとこさんって、なんだかんだ言いながらはやてさんとゴールしそうですよね」

「スバル、冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ。 アイツが家にいるとかこっちが発狂しそうだ」

「けど、そうしてくれたら私がなのはさんと一日中下半身を中心的にぺろぺろできるのですが……」

「ティアは一度病院行ったほうがいいんじゃないか」

「けど、ひょっとこさんが頼りにしてる人ってはやてさんですよね? 何かあるとすぐはやてさんに連絡しますし、相談しますし」

「まぁ、確かにそれはあるけどな。 けど、アイツが最終的に頼るのはなのはだと断言できるぞ。 アイツとなのはの関係は、友達とか親友とか幼馴染とか、そんな関係じゃないからな」

「……それってエロい感じでしょうか?」

「残念ながら健全だ」

 ティアのどきどきとした視線に、ヴィータは頭を叩きながら答える。

「お前らも少しは知ってるだろ、闇の書事件」

「あ、はい。 軽くではありますが」

「あの時な、魔法が使えなかったアイツは裏方に回ったんだ。 しかもアイツが向かった先は管理局本部の限られた上層部だけがいる所。 まあ学校でいうところの生徒会みたいな所だな。 そこに直談判しにいったらしいぞ。 本人曰く、正論でフルボッコにされたらしいけどさ。 アイツはこの主張だけは譲らなかったみたいだ」

『なのはがこの永遠に続く負の連鎖、必ず断ち切ってくれます』

「そしてあたしたちと戦っていたなのははこう言ったよ」

『俊くんは必ずやってくれるよ』

「なのははアイツが闇の書の後始末と今後はなんかとしてくれると信じ、アイツは現在起きている事件をなのはが解決してくれると信じた」

 ヴィータは思い出す。

 大胆不敵に、満面の笑みで言い切ったなのはの姿を。 純白のバリアジャケットに身を包み、自分と対峙していたあの姿を。

どんなに拒絶しても、何度だって近づいてくる、あの恐怖の魔導師を。

「確かにアイツとはやてのコンビは怖いよ。 二人とも何をしてくるかわからないしな。 ただ、アイツとなのはのコンビはもっと怖い。 わかっていても止められないからな」

「それじゃ、ひょっとこさんとフェイトさんのコンビはどうなんでしょうか?」

「えげつない」

 ヴィータはそれだけいって、ひょっとこたちの方に視線を向けた。

「あのときのアイツは恰好よかったけどな。 いまじゃ見る影もない」

「時代の流れって悲しいですね……」

 ティアのトーンの低い声と、悲しそうな瞳に守護騎士たちが頷く。

「いいか、新人達。 ああいう男にだけは騙されるなよ。 ああいう男は刺されて死ぬか、泥沼にはまるかで、えらいことになるからな。 エリオ、あいつと同じ道だけは辿るなよ?」

「は、はい……」

 ヴィータの真剣なまなざしに、エリオはただただ頷くことしかできなかった。



           ☆



 大嫌い。 なのはが涙をためながらそう言ってきた。

「はは……な、なのは? いつもの冗談だろ……?」

「冗談じゃないもん! 俊くんなんて大っ嫌い!」

 なのははそういって俺のほうを見ずにそっぽを向いてしまった。 ……いったい何が悪かったのだろうか? いや、きっとまた俺が何か不適切で琴線に触れるようなことを言ったのは確かだろうけど……。

「そ、そうなんだ……。 俺のこと嫌いなのか……」

「うん」

 俺の確認する言葉に、なのはが大きく頷いた。 もうダメだ、なのはは俺のことを完璧に嫌ってしまったらしい。 いつもの冗談じゃない、本気の嫌い方だ。 長年傍にいるのだからそれくらいわかる。

 死のう。 もう生きている意味の半分は消えてしまったのだから。

 俺はよろよろとフェイトとはやてのほうに向きなおる。 二人とも冷や汗を浮かべてこちらをみていた。 そんな二人の内の一人、フェイトに目を向ける。 フェイトが生きる意味のもう半分なんだけど……ぽっかりあいた穴を感じながら生きるのは辛い。

「フェイト……バルディッシュ貸してくれない……?」

「えっと……、何をする気?」

「首切り落としてくる」

「はやまらないで!? 大丈夫、素直に謝れば大丈夫だから! 私も一緒に謝るから!」

「そ、そうやで俊! わたしも謝るから! 三人で謝ったら許してくれるって!」

「それじゃ、サメ探してくる」

「「だから落ち着け!?」」

 フェイトとはやてが必死に足と上半身にしがみつきながら俺を押さえる。

 それでも俺は止まらずにサメを探しにシートから出る──ところで、二人のほかに誰かが俺の腕を掴んだ。

 生気のない瞳で、よろよろとスローテンポで振り向く。

「き、嫌いだから……そばにいて……。 そ、その……俊くんに精神的ダメージを与えたいから……」

「……え?」

「だ、だから、一緒に座ろうよ……?」

 上目使いで俺のほうを見てくるなのはは顔を赤くしながら、もじもじとしながら、それでも俺の腕を離すことなくパラソルの下に引っ張り込もうとしていた。

「あ……うん」

 俺は茫然としながらも、なのはに引っ張られ先程の定位置に座る。 隣にはなのはが体育座りで座る。

『……あれはダメやな。 天然だから破壊力が段違いや……』

『狙ってないからねー……』

 フェイトとはやてがこそこそと話す声がかすかに聞こえてくる。

「ねぇ、俊くん?」

「な、なに?」

 その二人の声も、なのはの呼びかけで聞こえなくなる。

「俊くんは……大きいほうが好きなの?」

「い、いや……そういうわけじゃ……」

「でも、フェイトちゃんの胸がいいっていったじゃん」

「それはだな、えーっと……フェイトの胸は至高というかなんというか……。 こう、大きさとか関係なくてだな、いやでも大きいからこそいいわけであって、大きくなかったらやっぱりダメなような……、いやしかしながらフェイトのいいところは胸だけじゃないんだし──」

「……変態バカ」

「う゛っ、面目ない……」

 なのはの冷たい声に思わず謝る。 けど男ってこんなもんじゃないのか?

 なのははそんな俺をジト目でじっと見て──やがて、ふっと笑って見せた。

 その笑顔がどういうことなのか、いまの俺にはよくわからなかったが……どうやらそこまで機嫌を損ねているわけではなさそうだ。

 なのはは遠巻きにビーチバレーを楽しむ皆をみながら、感慨深いように呟いた。

「増えたね、わたし達の周りも」

「ん。 そうだな」

「はじめはわたしと俊くんの二人っきりだったのに。 ユーノ君に会って、フェイトちゃんと出会って、アースラの皆さんと会って、はやてちゃんと会って、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさんの守護騎士の面々、リインフォースさんに出会って。 ティアにスバルにエリオにキャロ、スカさんにウーノさんにおじさん。 そしてわたし達の大切な宝物のヴィヴィオとガーくん。 いつの間にか、囲まれちゃったね」

「ははっ、気付けば大所帯だな。 どいつもこいつも手放したくない奴ばかりだよ。 どいつもこいつも危なっかしい奴だからだからな」

 それに俺は既に、二回も手放しているわけなのだから。

 そういった俺に、なのはは呆れた溜息を吐く。 そして鼻先をちょんと叩いて膨れっ面をみせた。

「わたし達からしてみれば、俊くんが一番危なっかしいんだよ? そのくせ、だれよりも前に出て危険な役をやろうとする。 だから皆、俊くんを囲ってるんだよ?」

「おいおい、なにを馬鹿なこと言ってるんだ。 俺はいつも最後尾にいるぞ。 そこから皆を見守るんだよ」

「だーかーらー、俊くんが最後尾にいたら皆心配して後ろにいっちゃうに決まってるでしょ? ほんとおバカさんなんだから」

 何故かバカにされた。 あれ……? 最後尾にいると思っていたのは俺だけだったの……?

「まったく……やっぱり俊くんはダメダメだなー。 これだからダメ男なんだよ」

「だ、ダメ……男?」

 まさか好きな人にダメ男呼ばわりされるとは……。

 複雑な俺の心境を知ってか知らずか、なのはは俺の手をそっと握ってきた。

 そしてこちらに顔を向けて、満面の笑顔でいってきた。

「ダメ男さんはふらふらと何処かに行く癖があるから、しかたなくわたしが手を握ってあげましょう」

「む……、なんだよその言い方。 俺だってそんなふらふらとしてないぞ」

「はぁ……これだからキミはダメなんだよ。 そこらへんも少しずつ勉強しようね」

 うっ、俺ってそんなにふらふらしてるのかな?

『パパー! なのはママー!』
 
 遠くからよく知った声が俺たちを呼ぶ。 声のする方向に目を向けると、ヴィヴィオがこちらに手を振っていた。 その隣ではガーくんも手を振りながらこちらに駆けてくる。 どうやらガーくんのほうは海水の件、大丈夫なようだ。

「どーん!」

「きゃっ、こーらヴィヴィオ。 なんでわたし達の間に入ろうとするの」

「えへへ……、パパーだっこー」

 なのはの声を無視して、ヴィヴィオが俺のほうに両手を広げてくる。

 それに苦笑しながらも、可愛い娘に頼まれる快感に身をゆだね腋から抱き上げる。

 丁度対面する形での抱っことなった。

「パパー、ヴィヴィオのことすきー?」

「うん? 当たり前だろ、ヴィヴィオのこと大好きだよ」

 撫でながら答える。 隣のなのははあまり面白くなさそうに顎にヒジをつけて俺とヴィヴィオの会話を見ている。 もう犯罪者を見る目だ。

 ヴィヴィオは俺の答えを聞いて、満足したのか笑顔で言ってきた。

「えへへ、ヴィヴィオもパパだいすきー。 スバルンにきいたらね? パパはヴィヴィオのことすきだから、ヴィヴィオとパパはけっこん? できるんだって!」

「そ、そうなんだ〜……。 す、スバルがね〜……」

 全身に悪寒が這いよってくる。 体の芯が急激に冷えた感じがして、体がぶるぶると震えてきた。

「ねーねー、パパはヴィヴィオのおむこさんになってくれるんでしょー?」

「い、いやヴィヴィオ。 これはだな……。こ。言葉のあやというかなんというか……、そもそもパパとヴィヴィオとじゃ年齢差が激しいという問題が……」

「……パパはヴィヴィオのこときらい……?」

 先程まで笑顔だってヴィヴィオが顔を曇らせ、泣き目で俺に聞いてくる。

「そんなわけないだろ! ヴィヴィオのこと大好きに決まってるだろ!」

「ヴィヴィオもだいすきだよ? スバルンがさっきいってたもん。 すきなひとどうしはけっこんできるって」

 ヴィヴィオの無垢なまなざしが痛い。 確かにその通りなのだが、それはあまりにも夢物語というかなんというか。

 そんなあまりヴィヴィオに現実を叩きつけることができない俺に、代わりに隣の人物が叩きつけた。

「ヴィヴィオ、俊くんにはもう相手がいるからダメなの」

 ちょっと俺の思っていた言葉とは違う形だったけど。

「えー? だれー?」

「そ、それはほら……、いつも一緒にいる人……じゃないかな?」

 なのはがこちらをチラチラと見ながらヴィヴィオの問いに答える。

 ヴィヴィオはなのはの言葉を聞いて、隣のガーくんと必死に考える。 首を左右に揺らしながら考える姿がなんとも可愛らしい。

 そうして待つこと10秒、頭に閃きの電球が光ったかと思うと大声で叫んだ。

「おじさんだ!」

「……え、な、なのはは……俺とおっさんを結婚させる気なのか……?」

 なんて怖い女だ。 手を握ってくれるといいながら、谷に突き落とそうと誘導してやがる。

「ちょっ、違うに決まってるじゃん!? ほ、ほらヴィヴィオ! 他にもいるでしょ? 俊くんと一緒にいる女の人が!」

「……リンディメッシュさん?」

「俊くん、ちょっとお話しがあるんだけど」

「誤解だから!? たまたまヴィヴィオと三人で買い物したくらいだから!?」

「へ〜……未亡人と娘を連れて買い物ねー」

 なのはが顔だけ笑顔でこちらに詰め寄ってくる。 その姿と覇気が恐ろしくダッシュで逃げ出そうとはしたものの、バインドによって縛られてしまった。

 そしてそのまま馬乗り状態へ。

「キミは手を握るくらいじゃ足りないみたいだね。 首輪が必要みたい。 それも決して外れないほど頑丈な首輪がね」

「い、いや、ごめんなさい!? よくわからないけどごめんなさい!」

 必死に命乞いする俺に、なのはは顔を近づけて耳元で囁いた。

 ──ダ メ

 後でスバル張り倒す。




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