81.海鳴初の男
背筋に氷の壁が舌を這うような悪寒と、腹のあたりに微妙に人の感触を覚えて目を覚ます。 うすぼんやりとした視界、そんな中で少しづつ昨日の記憶を紐解いていく。 昨日は確か大枕投げ大会になって……嬢ちゃんが調子に乗って桃子さんの顔面にブチ当てて、そのまま全員就寝の形になったんだよな……。 いや、マジ桃子さんすごかったわ。 咄嗟に張った障壁パンチでブチ破ったからね。 ギャグ補正どころの話じゃないわ。 俺でも本気で蹴らないと破れないっていうのに。
ふと、伸ばした腕に重みを感じて隣をみる。
「……んっ……。 もう、逃げちゃダメだって……」
……天使?
「あ、なのはだった。 やべ、素で間違った……」
これはかなり恥ずかしい。 いや、まぁ天使だから間違ってはないけど。
なのはは俺の左の腕を枕にしてぐっすりと眠っていた。 朝からなのはの寝顔をみれて幸せ。 今日一日頑張れそうだ。
なのはの頭を撫でようと使われているうでとは逆のほう──すなわち右腕を上げようとしたところで──違和感を感じた。 まったくもって持ち上がらないのだ。 訝しみながら、そちらをみると──
「もう……逃げちゃあかんて……。 これにサインとハンコを押せば……こっちのもんやから……」
……悪魔?
「あ、はやてだった。 やべ、素で間違った……」
パキっ
あれ……? おかしいな、右腕がまったく動かなくなったぞ?
急に動かなくなった右腕に違和感を感じて自力で戻そうと努力してみる。
「動いたら足の神経切断するで」
右腕くらい使わなくても困ることはない。 左手でこすればそれで事足りるしな。
「はやて……起きてる?」
「………………」
小声ではやてに聞こえるように話しかけたものの、はやては無反応だった。
もしかしていまの寝言? お前の寝言怖すぎるんだけど。
両腕が使えないことはわかったが、この二人に使われるなら本望である。 そしていい加減、無視してきた腹の気配を確認しなければ。
頭を少し浮かせて腹のほうをみる。
「……何故もう少し下に寝てくれなかったのか」
思わずそう呟いた。 口が勝手に動いた。 脳が指令を出すよりも先に反射の要領で音として出していた。
目の前には、腹の上には、フェイトが枕代りにしてぐっすりと眠っていた。 それはもうスヤスヤと安らかに、まるで女神のような美しさで眠っていた。
悔やまれる……! とても悔やまれる……!
もう少し下にいてくれたら、あわよくば口に挿れることができたかもしれないのに……!
人生にベストは存在しないらしい。
それがよくわかった一瞬であった。
ようやく全体をみる余裕ができてきたので、目線を一周させることにした。
嬢ちゃんがデ○ルドを持ったまま寝てるとか、意外にロヴィータちゃんの寝顔が可愛いとか、シグシグは寝顔も凛々しいとか、ザッフィー犬の姿のまま寝るのかよとか、エリオもキャロも俺の足掴んで何してんのとか、シャマル先生その体勢キツくないのとか、スバルお腹だして寝ると風邪ひくよとか、そんなことよりも何よりも──
「おはよう、ヴィヴィオ。 今日も早起きだね」
「えへへ、パパとおしゃべりしたいからはやくおきたの!」
何よりも──ヴィヴィオと挨拶できてよかったと思った。 ヴィヴィオと一緒にこうやって笑い合うことができてよかったと思った。 親バカ万歳。
けどヴィヴィオ──あまりパパの股間をみないでくれるかな? もっというなれば、勃起してるキノコを見ないでくれるかな?
「パパ? ここおっきしてるよ? だいじょうぶ? びょうき?」
ヴィヴィオが心配そうに四つん這いで俺に迫ってくる。 いまさらではあるが、ヴィヴィオのパジャマはウサギの顔が描かれたものである。 そしてヴィヴィオの後ろにはガーくんも起きていて頭に睡眠キャップを乗せたまま、こちらに手を振っていた。 ……アヒルに睡眠キャップって意外と合うな。
ヴィヴィオが俺の勃起したナニを指さしながら涙をためている。
そういえば、あまりこうやって勃起をみせたことはなかったよな。 一応、これでもパパだからそこらへんは気を使っていたんだけど……。 まさか起きて早々ナニをロックオンされているとは思ってなくて……。
「いや……病気じゃないよ。 むしろ健康の象徴かな? ほ、ほら、それよりも着替えよっか! パパが手伝ってあげるから!」
必死に話題逸らしを決め込む俺だが、うちの愛娘は大層俺のことが心配らしく頑なに首を横に振った。
「でもでもでも、パパのここくるしそうだよ? パパしんじゃうよぉ……」
萌え殺された。
涙をためながら心配してくれるヴィヴィオには申し訳ないのだが、こればかりはどうしようもない。
……いや、まてよ?
ふと考える。
ヴィヴィオにこのいきり立つナニを鎮めてもらうのはどうだろうか……?
(※どう考えても犯罪です)
ヴィヴィオは俺のことを心配してくれている。 そして俺もヴィヴィオのこんな顔を見たくない。 そしてヴィヴィオがこんな顔をしている原因はどう考えてもこの天を目指しズボンを突き破るんじゃないかと思うほどのナニである。
……成程、これがハッピーエンド。 これが人生のベストということか。
(※どう考えても犯罪者の思考です)
だというならば……ちょっとヴィヴィオちゃんに協力してもらわないとな。 これは親子のスキンシップだから。 それ以外のなにものでもないからね!
「ヴィヴィオ……実はな……、パパ……もうすぐ死ぬんだ……」
「えぇっ!? そんな、ヴィヴィオいやだよぉ! パパともっとあそびたいよ……。 パパにいっぱいだっこしてもらいたいよぉ……。 いやー、パパしんじゃいやー!」
「わっ!? ちょ、お、落ち着けヴィヴィオ!? 助かる方法はあるから!」
「ひっく……ぐすっ……、ほんと……?」
「ああ、もちろんだ!」
俺の死ぬ死ぬ詐欺を本気で受け取ってしまい、大声をあげて泣き出すヴィヴィオ。 その声を聞いて全員が起きないかと一瞬冷や汗をかいたが、どうやらそれは徒労に終わるようだ……。 しかしヴィヴィオ……。 そんなに俺が死ぬのが嫌なのか。 あれ……なんか涙が出てきた……。
ヴィヴィオに笑いかけながら要件を伝える。 生き残るための戦力を教える。
「パパが生き残るための方法は一つ……。 あの股間の病気をヴィヴィオが鎮めるんだよ……」
「ふぇ……、どうすればいいの……? パパのためならヴィヴィオがんばる……!」
拳を胸の前でぐっと握りしめるヴィヴィオ。 可愛い……そして癒される……。
「まずパパのズボンを下ろす。 そしたらナニが出てくるから……それを優しく手でしごきながら口に含むんだ……」
(※救いようがありません)
「う、うん……! ヴィヴィオがんばる……!」
ヴィヴィオは俺の言葉を受けて、下腹部へと場所を移動する。
そして俺が少しだけ腰を浮かしたのをみて、ゆっくりとズボンをおろす──ところで唐突に横にいたガーくんがヴィヴィオの目の前に立った。 丁度ヴィヴィオとナニの直線上に立つ形で。
「ガ、ガーくん……? どうしたの……? はやくしないとパパが……」
「ヴィヴィオニハマダハヤイ。 ガークンニマカセテ」
そういうと、ガーくんはヴィヴィオをゆっくりと夢の国へと誘う。 こいつ……いつの間に魔法を習得しやがったんだ……!?
ヴィヴィオを眠らせたヴィヴィオは俺のほうをくるりと向く。
そして──そのままズボンを下ろしはじめた。
「おいちょっとまって。 おいそこのアヒル。 お前だよお前」
「シヌトイロンナヒトガカナシム」
「いや、あれ冗談だから。 マジ冗談だから。 ちょっとした親子のスキンシップだから」
必死に止める俺だが、ガーくんはそんなことお構いなしに露わになったナニに口を近づける。
「おいマジやめろ!? わかった! 俺が謝るから! 3000文字くらい使って謝罪文乗せるから! だからマジでやめろって!?」
響く俺の絶叫。 飛び散る俺の謝罪。 しかしそんなことなどアヒルには通用しないらしく──
ジュっジュルルっっジュルルルっ!
「ぎゃぁああああああああああああああっ!? 俺のナニがアヒルに犯されるーーー!? ちょっ、スト、スト、あっ……ちょっとまって……。 これ……意外と気持ちいいような……」
絶妙な快感が俺を襲う。 こいつ……なんというテクニックを……!
「って、冗談じゃねえぞ……! アヒル相手に射精したらそれこそ“上矢”の名が大変なことになる……! ガーくん、その口を離すんだ! じゃないと丸焼きにするぞ!」
「コワイー!」
俺の声を聞いて、ガーくんはようやく口を離す。 それと同時に快感もなくなった。
「はぁ……はぁ……。 あぶねぇ……、アヒルのフェ○テクってすげえな……」
荒い息を吐きながら、心臓を落ち着かせる。 これが早朝でよかった……。 5時帯に起きる奴なんて俺かヴィヴィオかガーくんくらいだろ? まぁ、たまにフェイトも起きるけど、フェイトはこうやって俺の腹の上で寝てるから、この珍事件は誰にも見られて──
くる(横を振り向く)
ニコっ(なのはが笑いかけてくる)
み、見られてたぁああああああああああああああああっ!? 一番見られたくない相手に見られてたぁあああああああああああああああ!?
「お、おはようなのは……。 今日も可愛いね……」
「ありがと、俊くん。 ところでさ、俊くん。 色々と言いたいことはあるんだけど──」
なのはが起き上がる。
今のうちに開いた左腕で顔面を防御──
「娘に手をだすなっていったでしょうがぁああああああああああああ!!」
振り下ろされたなのはの拳は防御をいとも容易く壊し、俺は二度目の就寝を遂げた。
これが……エースオブエースの実力か……!