82.一難



 ゴシゴシとペットの頭部を洗う。 洗われているペットは俺の言うとおり黙って目を瞑ったまま成すがままにされている──が、後ろからみているとなんだか心なしか嬉しそうにしていた。

「ガーくん気持ちいいか? 痒いところはないか?」

「ダイジョウブー」

 ペット──ガーくんに話しかけると、頭をスポンジで洗われているガーくんはとても気持ちよさそうな声をあげながらそう返事をしてくれた。

 ちなみにガーくんについて少しだけ説明をしておこう。

 ガーくん、ヴィヴィオのペットであり俺たちの家族であり、人類を除く生物の頂点に君臨するかもしれないアヒル。 そう──アヒルなのだ。 人語を解し、人語を話し、文字で現すと既にアヒルであることを忘れそうな存在。 しかし俺たちにとってみれば大切な存在。 戦闘能力はバカみたいに強く、きっと俺では勝てない。 しかしなのはとフェイトはきっと勝てるだろう。 だってあいつら主人公属性と補正があるし。 ヴィヴィオのいうことを何でも聞き、ヴィヴィオを常に最優先に持っていく騎士道をひた走るアヒル。 そして──上矢俊と同族であり、同類の存在。 それがガーくんなのだ。 ああ、それと俺にフェラした最初で最後の鳥類でもあるな。

 そんなガーくんに声をかける。

「しかし悪いなー、ガーくん。 あそこでヴィヴィオに手を出してたら俺マジで死んでたかもしれない。 ほんとありがとう」

「キニスルナヨ。 ソンナトキモアルッテ」

 いやほんと……溜まってたのかねー。 かれこれ一週間くらいかな?

「ハックション! っあぁ……すまん、くしゃみが」

「ダイジョウブー?」

「う〜ん……大丈夫だと思うけど。 なんだか軽く寒気がするような……そうでないような……」

 くしゃみと同時に出てきた鼻水を拭いながら自分の体調を改めて調べる。

 頭痛らしい頭痛もないし、腹を下したということでもない。 咳が出ているということでもないし……きっと大丈夫だろ。 鼻水も気にするほどの量ではない。 寒気も気のせいだ。

 全体を洗い終えた俺はガーくんに熱いシャワーをかけて泡を全て流す。

 お次は自分の髪と体を洗おう。

 そう思い、シャンプーに手をかけたその時──ガラガラと擦りガラスのドアが開きヴィヴィオが水着を装着した状態で風呂場に登場してきた。

「ありゃヴィヴィオ? ママ達と皆で朝ごはんを食べてたんじゃないの?」
 
「パパといっしょにたべる〜。 パパおふろはろう〜」

 水着姿のヴィヴィオが笑いながらそう駆けてくる。 そんなヴィヴィオの頭を撫でながら思った。

 ……ヴィヴィオに手を出そうとした自分を殺したい……!

 いや、あの、マジでね? ちょっとヌいてないから危ない思考になってんですよ、きっと。 でも、やっぱ娘に手を出そうとしちゃまずいでしょ? いやもうなんというか、べつにロリコンってわけでもないけど、ロヴィータちゃんのパンツとか放尿シーンとか見たいな〜とかは思うけど、ロリコンじゃないんですよ。 だからヴィヴィオに本気で手を出そうなんて思ってなくてだな、それに俺にはなのはやフェイトといった超絶美少女達がいて……まぁお友達ENDで終わりそうな気はするんですけどね。 もしくはペットEND。 あ、ペットENDで終わるならそれでいいや。 色々と嬉しいことがまってそうだし。 いや、それはもうでもいいんだ、どうでもよくないけどどうでもいいんだよ。

「ヴィヴィオ……もうパパ一生ヴィヴィオに手を出そうなんて考えないから……許してくれるかな?」

「うんいいよー!」

 わーい! きっとヴィヴィオちゃんなんのことかわかってないけど言質取ったから関係ないもんねー! これで俺は無罪だーーー!

「オコナッタコトヲムニカエスコトハデキナイヨ」

「その通りですよね、ガーくんさん。 マジすんませんでした。 止めてくれてありがとうございます」

 ガーくんに土下座する。 流石の俺もアヒルに土下座する日がくるとは思ってもなかったよ。

「オモテヲアゲヨ。 ヴィヴィオガシンパイシテル」

 ガーくんに言われて、はたと気づき横を振り向くと──ヴィヴィオが悲しそうな顔をしていた。 嫌ですよね、自分のパパがアヒルに土下座してる姿なんて見たくないですよね。

 俺は土下座の件をなかったことにするように、ヴィヴィオに自分が座っていた場所を明け渡し、俺は両膝をついてヴィヴィオの絹のような金色の髪を洗っていく。

「ヴィヴィオー、さっきみたことは忘れようなー。 パパとの約束だぞー?」

「はーい!」

 ……この純粋さはパパの俺でも拝みたくなるレベルだ。 俺の場合、ほとんどの要素がクズで占められてるからな。 けど、危ういとは思うかな……。 ガーくんがいれば問題ないと思うけど。

 長い金色の髪を一通り洗い、そこからリンスを手で揉んで浸透させていく。 あ、ヴィヴィオはしゃいじゃダメだぞ。

「そういえばガーくん。 ずっと聞きたかったことがあるんだけどさ。 ガーくんとヴィヴィオが知らない男と遊んでたって話。 ほら、三日目のやつね。 うん、覚えてるよな? そうそう、それそれ。 それでさ──なんでガーくんは男を倒さなかったんだ?」

 ガーくんほどの腕ならほとんどの──海鳴の奴らは手も足もでないだろうに。 べつに殺せとはいわないけど、ノックダウンさせるくらいのことはしてもよかったんじゃないかな? だって知らない相手だぜ?

 ガーくんはしばし考える。

 ガーくんほどの知力だ。 それを考えていない、考えられない、実行できないはずはない。

「ニテタ。 タマシイガニテタ」
 
「……似てる?」

「ウン。 ダカラコウゲキシナカッタ。 ソレニカテタカワカンナイ」

 ……ガーくんで勝てないのか……。 俺じゃ絶対に勝てないな。 勝てるのは補正がある奴らか、おっさんくらいなもんかね。

 ヴィヴィオの頭に水を調節して先程よりもぬるくしたシャワーをかけていく。 泡はヴィヴィオの頭から体へと流れ落ち、やがて排水溝へと吸い込まれていく。

「しかしまー……無事でよかったな。 ヴィヴィオ、体は自分で洗う?」

「んー……、パパがやって!」

「はいはい。 んじゃ、背中から順々にしていくぞー」

 一度桶にお湯をためて、そこでスポンジを洗い新たに石鹸をつけていく。 数回くしゃくしゃとスポンジに石鹸を馴染ませると、ヴィヴィオの背中にゆっくりとスポンジを押し付け上下に動かしていく。

「痒いところや痛いところはないか?」

「うん、だいじょうぶ!」

 俺のほうを振り向きながら笑顔をみせるヴィヴィオ。 あぁ……かわいい……。

 けど、あんまり長居してると皆に怒られるよなぁ。

「ねぇねぇパパー? あしたおまつりいくんでしょー?」

「うん、そうだよ。 花火とかも上がってかなり楽しいと思うよ」

「ヴィヴィオ……いったことがないの……」

 しゅんとするヴィヴィオ。 そうか……、そばも食べたことなかったもんな。 あの祭り独特の雰囲気とか、打ち上げ花火の凄さとか知らないよな。

 ヴィヴィオの頭に手を置きながら、語りかける。

「それじゃ、パパと一緒にまわろっか。 二人で手を繋いで、タコ焼きやわたあめ、かき氷にリンゴ飴、焼きそばにやきとうもろこしにヨーヨー、全部回るぞ。 お前はまだ小さいんだ。 行ったことがない場所があるのは当然だ、知らないものがあって当然だ、分からないことがあって当然だ。 一歩ずつ、自分の目で確かめながら歩いていけばいいさ。 手を握れば、俺が力強く握り返してやるからさ」

 毎回毎回、なのはやフェイトやはやてと一緒に回っていたけど……今回はヴィヴィオと一緒に回ろうかな。 いや違うな。 ──今回“から”はの間違いだな。

「ありがと、パパ」

 ばしゃばしゃと自己主張するガーくんの咽喉を撫でて落ち着かせながら腕や足を洗っていく。 おまたは……自分でさせたほうがいいかもな。

 そう考えながらヴィヴィオにスポンジを渡そうとすると、

『俊一人だと出禁の店が沢山あるからヴィヴィオが楽しくない思いをするかもしれないよ?』

 そうガラス扉から声が聞こえてきた。

           ☆

 シャマルから俊のアレな感じの検査報告書を受け取ったので、ガーくんと一緒にお風呂に入っているバカに報告しにいくことにした。 ほんと朝から騒々しい。 一人で騒いで狂ったかと思ったよ。

 桃子さん曰く『きっと溜まってたのよ』とのことだったが、それとこれとは別問題だ。 これには私もなのはも相当怒っている。 とくに信用してずっと動向を見ていたなのはの怒りはとんでもなく恐ろしく、食事中の全員の顔色が悪くなるほどだ。

 けどまぁ……とくに雑菌もはいってなくてよかったかな。 問題なしの異常なしだね。

 脱衣所まで行くと、バカの衣服よりも小さく、可愛らしいうさぎのパジャマが捨てるように放置されていた。

「ま、まさか……!」

 すりガラスの向こうから、男性と幼女のシルエットが見える。 バカとヴィヴィオで間違いない。 この気配からして……ガーくんもいるみたいだね。

 首を鳴らし指を鳴らし、虐殺体勢に入ろうとした瞬間、声が聞こえてきた。

 それはとても優しく温かみのある声色で、先程までバカをやっていた男と同一人物とは思えないほどの声色でヴィヴィオに語りかけていた。

『それじゃ、パパと一緒にまわろっか。 二人で手を繋いで、タコ焼きやわたあめ、かき氷にリンゴ飴、焼きそばにやきとうもろこしにヨーヨー、全部回るぞ。 お前はまだ小さいんだ。 行ったことがない場所があるのは当然だ、知らないものがあって当然だ、分からないことがあって当然だ。 一歩ずつ、自分の目で確かめながら歩いていけばいいさ。 手を握れば、俺が力強く握り返してやるからさ』

 そう彼は語りかけていた。

「そういえば……俊もそうだったね」

 知らない土地であるミッドを自分の目で見て歩き、魔法を確認して、わからない原理を聞いて、そうやって一歩ずつ知る努力と分かる喜びを歩んできたんだよね。

 けど俊──出禁喰らってるお店があること忘れてない?

 毎回毎回、どこか計画性に穴のある彼に溜息つく。 勝てる戦いしかしないからこういった当たり前のことが疎かになっちゃうんだよ。

 まぁ……出禁くらい俊なら誤魔化しそうだけどさ。 けど──ヴィヴィオと俊と私の三人でお店回るのも楽しいかも、というか夫婦に見られたりして。 エリオとキャロはスカさんとウーノさんと行動するみたいだし。

「俊一人だと出禁の店が沢山あるからヴィヴィオが楽しくない思いをするかもしれないよ?」

 だから俊。 一緒にいこ?

              ☆

「あ、フェイトママだ! やっほー!」

『やっほーヴィヴィオ。 俊、シャマルから検査の報告書貰ってきたよ。 異常なしだって』

「そりゃよかった。 去勢なんてことになったら俺はキャサリンの所で働くことになるからな。 あいつマジで堀にくるからすんげえ怖いんだよ」

『あ、ちょっとまって。 下に小さく何か書いてある。 えーっと……“使ったら終了しますので一生使えないと思いますけどね”だって』

「」

『だ、大丈夫だよ俊!? 使うときがちゃんとくるから!』

 ありがとうフェイト……、その優しさで俺の心は救われたよ……。 それにしてもシャマル先生、なんて不吉なことを書くんだ。

 ぺちぺちとヴィヴィオが俺の膝を叩く。

「どうした? ちゃんとおまた洗った?」

「できんってなーに?」

 あぁ……ヴィヴィオ知らないよね。 流石の俺もミッドではまだ出禁になった店はないと思うし。

『出禁っていうのは、“出入り禁止”のことだよ。 そうだね〜、うーん……簡単にいうと今日からヴィヴィオはパパとママ達のお家の中に入っちゃいけません。 っていうことだよ』

「あぅ……パパぁ……、ヴィヴィオはいっちゃダメなの?」

「あくまで例え話だよ、例え話。 それにあそこがヴィヴィオの家なんじゃない。 パパとママ達と一緒にいる所がヴィヴィオにとっての家なんだよ」

 ヴィヴィオからスポンジを受け取り、それと交代する形でシャワーをかけていく。

「しかしまいったな〜。 俺一人じゃ出禁の店とかあるし、厳しいなぁ。 かといって、出禁以外の店行くか、というのも嫌だし……」

『と、ところで俊。 えーっと、提案があるんだけど……』

 って、そういえば此処にフェイトがいるじゃん。 ヴィヴィオも俺とガーくんと行くより、フェイトも一緒に回っていったほうが楽しいだろうし……、ちょっと頼んでみるか。

『その屋台回り、私も一緒に行くってのはどうかな?』

「フェイト、予定がないなら一緒に回らないか?」

 俺とフェイトの声が被る。

 数秒して、くすくすと戸の向こうから笑い声が聞こえてきた。 それにつられるようにして俺も笑う。

 ヴィヴィオはそれをおかしそうに見ていたがじきに俺たちの笑いにつられて笑いだした。

 なんかいいなぁ……、こういった会話にこういった雰囲気は。

「ハックシュン!」

            ☆

 ヴィヴィオを先に上がらせて、少し時間を遅らせてから俺も風呂場を後にする。 ガーくんの体をふきふきして、自分の体と髪に纏わりついているストーカー体質な水の雫とおさらばした後、フェイトが置いてくれた衣服に身を包んで食卓へ向かう。

 ガチャ

「朝からすいません、桃子さん。 風呂まで用意してくれて──」

 な の は さ ん と 遭 遇 し た

「……おはよう俊くん。 朝からお風呂とはいい御身分だね。 まぁ、べつにそれはいいんだけどさ。 とりあえず朝ごはん食べよっか」

 なのはさんに引きずられるような形で椅子に座らせられる。

「あれ? みんな食べたんじゃ……」

「わたしとフェイトちゃんとはやてちゃんとヴィータちゃんとヴィヴィオは待ってたよ。 他の面々は俊くんの自業自得だから待つ義理ないよといって食べさせたけど。 いまは翠屋で仕事中かな?」

「ふーん。 あ、ありがと。 それじゃいただきます」

 なのはから白米と味噌汁のはいったお椀をもらい、手を合わせていただく。 それにならって皆も手を合わせる。

 目の前には焼き魚に白米、味噌汁にきゅうりの浅漬けにひじきの煮物。 和を意識して作った朝食が並べられていた。

 味噌汁を口に含む。

 中はオーソドックスに豆腐とわかめに葱なのだが──

「うまい……。 これ桃子さん? ちょっと味が違う気がするけど──」

「それ作ったのわたしやで」

 俺の問いに答えてくれたのは、正面に座っている八神はやてだった。 すっかり風邪もよくなったようで安心である。

 それにしてもこのうまい味噌汁……はやてが作ってくれたのか。

「うまいよ、はやて。 やっぱはやては料理上手だな。 それにしてもはやて、お前は俺を待っていてもよかったのか?」

「いまから二人揃って食べる習慣をつけとくと、今後の生活においても支障ないやろ? それに俊と一緒に食べるほうがおいしいで?」

 笑顔を見せてくるはやて。 思わずその笑みに一瞬固まる。

「そ、そっか! それは嬉しいなあ。 俺もはやてと一緒に食べれて嬉しいよ!」

「うれしいわー。 まぁ……わたしが一方的に食べることになるんやけどな」

「あ、俺ははやてのためなら何でも作るぞ? はやては一方的に食べればいいんじゃない? 帰省前だってたまに手伝いを頼むくらいだったし」

「ふーん、そっかそっか。 俊がそういうなら仕方ないなー」

 仕方ない、仕方ない、そういいながら笑うはやて。

 はやては俺と違って仕事もあるんだし、家に招待すれば皆の分もついでに作るのに。

「ロヴィータちゃんも悪いな。 ロリなのに」

「どう考えてもロリ関係ないだろそれ。 お前の中のロリは万能すぎるぞ。 ……まぁ、はやて一人残していくと色々と不安だしな、主をほったらかす騎士なんて意味ねえだろ?」

「三名ほどほったらかして仕事いってるけど」

「…………わたしにはやてのことを預けてくれたんだよ」

 誤魔化した。 いま盛大に誤魔化した。

 チラリと右横をみると、フェイトとヴィヴィオが楽しそうにおしゃべりしながら食事を楽しんでいた。 そしてヴィヴィオの横ではガーくんが箸を使いながら俺たちと同じように食事していた。 なんだろう……どう足掻いてもガーくんに勝てそうにない。

 そして左横をみると──

「…………………」

 なのはさんが無表情でこちらを横目でみていた。 この人完全に覇王色だよ。 これモブキャラ辺りなら絶対気絶してるよ。

 けど──そんな目をしてるなのはも可愛いよね。

 思わずこちらを見つめるなのはのほっぺたを摘まむ。 『はぐっ』 といって無表情の目に生気が戻る。
 
「なにすんの!? 口に含んでたご飯こぼすところだったじゃない!? 落としたらどうすんの!?」

「大丈夫! 俺が拾って食べるから!」

「そういう問題じゃないから!? 落としたご飯の後始末の話をしてるんじゃないの! 食事中にほっぺた触ると危ないって話をしてるの!」

「ごめん、なのは。 もうほっぺた触らないよ……」

「へっ? い、いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……べつに触りたいなら触っていいよ? その、ほら、ペットのお願いを聞くのもご主人様の役目っていうか──」

「今度からパイタッチで我慢するね」

「味噌汁頭にかけていい?」

 何故ほっぺたはよくておっぱいはダメなんだ。 部位差別じゃないか。

「ねぇおっぱいなのは」

「おっぱい担当はフェイトちゃんの役目だから! おっぱい芸はフェイトちゃんだから!」

『なんでそこで私を巻き込むの!? 二人で勝手にしててよ!?』

「……悲しくないの?」

「……ちょっとだけ悲しくなってきた」

 自分の胸をみながら溜息を吐くなのは。 べつになのはにおっぱいなんてなくってもいいと思うんだけどさ。 お前の魅力の中におっぱいはないよ。 おっぱいが入る余地がないほどのものでお前は魅力的なんだから。

「ところで、俊。 明日はお祭りやん? それに伴って午後から浴衣を買いに行くんやけど、わたしの浴衣は俊が選んでくれへん?」

「え? 俺が選んでいいの? んじゃアニコスの──」

「それはまた別の機会に着てあげるから、ちゃんとしたもんをお願いしたいんやけど」

 ちゃんとしたもの……俺にそれを求めるのか。

「まぁ、はやては可愛いからなに着ても似合うと思うけどな。 任せてくれ、俺がはやてに合いそうなものを選ぶよ」

 そうはやてに宣言すると、なのは側から袖をくいくいと引っ張られた。

「勿論、わたしのも選んでくれるよね?」

「当たり前だろ。 俺以外に選ばせないよ」

「うん! 期待してるね! それで、今回も一緒に回るんでしょ?」

 ひまわりのような眩しい笑顔でそう聞いてきたなのはに、俺は申し訳ないと思いながら返す。

「えっと……今回はずっとヴィヴィオと行動しようと思ってさ」

「え? ヴィヴィオと行動するのは当たり前でしょ? なにいってるの? けど俊くんだけだと、出禁のお店が沢山あるでしょ? だから一緒に行こうよ」

「あ、うん。 それなんだけど、フェイトと一緒に──」

「「へー……、フェイトちゃんと」」

「……え」

 そして急激に襲い掛かってくる痛み。 その痛みは足のほうからくるようで、気付かれない程度に下を向くと、フェイトの黒ストッキングに包まれた足が正確に俺の右足の親指だけを打ち抜いていた。 その痛み──想像していただきたい。

「(バカ!)」

 視線で訴えてくるフェイト。 うぅ……ごめんなさい。

 けど、なんでそんなに怒られないといけないんだ……?

「ねぇ俊くん。 わたし達、家族だよね? わたしだけ除け者扱いはちょっとだけ悲しいかも。 ぐすっ……」

「そうやなー……。 俊ならヴィヴィオちゃんが加わっても、『みんなで一緒にまわろっか!』 くらい言ってくれると信じたんやけどなー……。 いつからそんなセコイ男になったんやろ……」

 なのはは目元を覆いながらしゃくり声をあげ、はやても悲しそうな表情でこちらをみていた。

「ご、ごめん! そ、そうだよな! 言われてみればそうだよ、例年通り皆で回ろう! 今回はヴィヴィオを中心として回ろう! な? フェイトもそれでいいよな?」

 懇願するようにそういうと、フェイトは抗議の視線と非難の視線を浴びせつつも、

「(絶対、埋め合わせしてよね!? このバカ! 絶対だからね!?)」

 そう小声でいって、了承してくれた。

 ……フェイトさん、ほんとごめんなさい。

        ☆

 ヴィータは一人、四人の行動を黙ってみつめていた。

 ヴィータだけは見ていた。 見てしまった。

 なのはとはやてが互いにほくそ笑んでいた所を。

「……刺されなきゃいいけどな」

 怒ってひょっとこの足を正確に踏み抜き続けるフェイトと、けろっとした顔で朝食を食べてるなのはとはやてを見ながら、ヴィヴィオに慰められているひょっとこをみてヴィータは呟いた。




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