3部分:03.紅魔館



見た目で妖怪か人間なのかわからないわ
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夢を見た。

 そこには、幼い頃の俺と隣に彼女がいた。

 俺は神社でうずくまり、その隣で彼女が心配そうな、それでいてどこか泣きそうな顔をしていた。

「ねぇ、どうして───ちゃんはそんな顔をしているの?」

 あの頃の俺は、どうして彼女がそんな顔をしているのか分からずにそう聞いた覚えがある。

「だって……かなたちゃんが泣かないから」

 そう言った彼女は既に限界が来ていたらしくその瞳にはボロボロと涙が零れていた。 あの時の俺は本当に困惑していたと思う

 あの日、親父が亡くなった日。

 それを信じたくなくて、───ちゃんの神社に行った。

 でも、それで何かが変わる訳でもなく何もかもが嫌になった時、───ちゃんがいつのまにか隣にいてくれていたんだ。

 あの時、俺は何て言ったかな?酷いような暴言を吐いたかもしれない。

 それでも、───ちゃんは怒ることもなく、ああして隣にずっといてくれた。ましてや、泣けない俺のために泣いてくれた。

 あの時の俺達は大人からしたらどう見えていただろう?

 女の子を泣かした男の子?

 それとも、男の子に同情している女の子?

 いや、そもそも大人なんていなかったかな?

 あそこには俺と───ちゃんの二人だけだったような気がする。

 数分か数十分か。

 静寂の中で、先に俺が口を開いたんだ。

「───ちゃん。僕さ、お父さんみたいな正義のヒーローになりたかったんだ……」

 いつも後ろから見ていた父の姿。

 強くて逞しく、そしてそれ以上に優しかった父。

「ぐすっ……いまは……なりたくないの……?」

 ───は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、もっとぐしゃぐしゃにさせて彼方に問い詰めた。

「どうだろう……。よくわからない」

 あの時の俺は色んなことが起こりすぎて、自分でもよくわかっていなかった。

「……だったら、かなたちゃんの周りの人達だけでも笑顔に……ひっく、させてみたら……?」

 それはなんとも安直で、実に子供らしい発想だった。

「え……?」

「だから……かなたちゃんの周りの人達だけでも笑顔に、してみようよ?」

「そんなこと……僕にできるかな……?」

「うん……!かなたちゃんなら大丈夫だよ。だから……約束」

 そして根拠のない自信だった。

「うん。僕頑張ってみるよ」

 交わした約束は口約束。

 書類もなければ、縛りもない。

 それでも……この約束だけは守ろうと思ったんだ。



           ☆



「懐かしい夢を見たもんだな……」

 夢から覚めた俺は思わずそう呟いた。

 自分が交わした、たった一つの約束

「なにが懐かしい夢よ、このねぼすけ!」

「げふっ!?」

 声と同時に横から強烈なキックが脇腹に突き刺さる。

 思わずもんどり打つ俺に、蹴りを放った張本人の博麗霊夢がおたまを持って冷ややかに告げる。

「雑用係の癖に、掃除をさぼって寝てるとは……どういうことかしら?」

 いまにも、キレそうな霊夢。というか半ギレである。

「あ?、え?っと……それは───」

「言い訳は聞きたくないわ」

 彼方が何かを言いだそうとする前にピシャリと言い放つ霊夢。

「(聞く意味ないじゃん……)」

「なにか?」

「いえっ!なんでもありません!」

 あまりの恐ろしさに、声が裏返ってしまった。

 そんな彼方の様子をみて霊夢は、はぁ、とため息をついて洗面台を指さした。

「取りあえず、朝食出来ているから顔洗ってきなさい。あんた、酷い顔よ」

「酷いって……」

 あんまりにも、あんまりな言い方に彼方はムッとしながらも洗面台に向かっていった。

 しかし、鏡をみて納得である。

「あぁ……確かにこりゃ酷いわ」

 洗面台の鏡でみた俺の顔は、涙の痕がくっきりと残っていた。



           ☆



「それでさ?、霊夢」

「はいはい。その話しはさっき聞いたわよ」

 後ろの二人の声をbgmにしながら竹箒で落ち葉を集める。

 今日も今日とて、平和な一日である。 家主である霊夢は賽銭箱を確かめて落ち込んでいたが。

 まぁ、それも毎日の日課だ。 別段気にすることではない。

 そんな折、来客が霊夢の所に訪ねてきた。

 青い生地を主体としたメイド服、頭に置かれたヘッドドレス、人形のような白い肌をした女の子だった。 年は俺とそう変わらないはず。

「こんにちは。霊夢はいるかしら?」

「えっと、霊夢ならそこだけど」

 親指で後ろを指さす。

「ありがとう。その竹箒似合うわよ」

にっこりとほほ笑みかけながら、俺の横を通り向ける女の子。

「(竹箒が似合う男って……どうなのよ?)」

 疑問を感じるところは、一応褒め言葉として受け止めておこう。

「ふぅ……」

 大体の落ち葉を集め終えたので、俺も霊夢のところに行くことにした。

「丁度良かったわ。 彼方、いまから出掛けるわよ」

「俺も?」

「そう。 というか、あんたが主役みたいなもんよ」

 俺が主役?なんだろう、結構楽しみだな。



           ☆



「なんであんたに合わせて歩かないといけないのよ」

「別に俺は一人でいい、って言ってるだろう」

 森の中を四人仲良く歩く。

 先頭を俺と霊夢。 後方を魔理沙と女の子。

「まぁまぁ、たまにはこうやって歩くのもいいじゃないか。 それに、歩きが嫌なら霊夢は飛んで行けばいいだろう?」

 魔理沙の言葉に霊夢が反論する

「別に歩きが嫌なんて一言もいってないわよ」

 その言葉に魔理沙は、へ?、だの、ほぉ? だの訳のわからない呟きを漏らす。

「なんかすんません。 俺が飛べないばっかりに、貴女にまで迷惑かけたみたいで……」

 俺は後方で静かに歩いていたメイドに話しかける。

「いえ。客人の意見を最大限に聞き、それに答えるのが私の勤めですから」

 メイドさんは営業めいた笑みを浮かべて答えた。

 なんというメイド魂。 その姿に思わず感心してしまう。

「さぁ、ここを抜けるとすぐですよ」

 その言葉で俺は前を向く。

 次第に日光の光が強くなり森を出る瞬間、思わず目をつぶってしまった

「うわぁ。 ……すげぇ……」

 その姿はまさに圧巻だった。

 外装を赤色で統一して前には大きな門。 これだけで、ここの主が幻想郷でどういう立ち位置かわかる。

「なにボケっとしてるのよ。 さっさと行くわよ」

「え、あぁ悪い」

目を奪われていたのはどうやら俺だけのようで魔理沙と霊夢はそうでもないらしい。

門の前まで行くと長身の女の人が立ったいた。

「あ!咲夜さん。 おかえりなさい。 この方がそうですか?」

「えぇ。 そうよ」

「こんにちは! わたし紅美鈴[ほんめいりん]っていいます! ここで門番をしています!」

 長身の女性。紅 美鈴は彼方に向かって手を伸ばす

「ああ、俺は不知火彼方。よろしく」

 彼方も名乗ってから握手する

「(なんかメイ……ドさんといい門番といい、ここって礼儀正しいな)」

 どっかの誰か達とは大違いだ。 そう心の中だけで呟いた。

 すると、いつのまにか彼方の後ろに移動していた魔理沙が耳元で彼方に話しかける

「知ってるか?こうみえても妖怪なんだぜ?」

 へ? 妖怪ねぇ?。

「はっ!? 妖怪!?」

 あまりの衝撃事実に思わず首が90°曲がる

「まじだぜ。 なっ?」

「はい。 妖怪ですよ?」

 信じられん……。 人間とどう違うんだろう。

 見た感じ、俺となんら変わらないけどな……

 美鈴を見て、魔理沙をみる。

 うん、かわらないな。

「……もういいかしら?」

「え?あぁ、すいません!」

 声のしたほうを振り向くと、そこにはメイドさん、確か咲夜さんって言われてたよな。 その隣には腕組して、早くしろ。 と目で訴えている霊夢がいた。

「それじゃ、美鈴、また後で!」

「はい!」

美鈴に手を振った後、俺は咲夜さんが開けてくれた門をくぐった。

「(近くでみると、ますます凄いな……)」

首を回し館全体を見回す。

キイッという門特有の音と共に咲夜さんが門を閉める。

「それでは……」

 その瞬間、俺の視界から咲夜さんが姿を消した。

「……は?」

「こちらですよ、彼方さん」

 バッ!

 思わず声のした後方に思いっきり振り向いた。

「紅魔館へようこそ。 不知火彼方様。 わたくし、メイド長を務めております十六夜咲夜[いざよいさくや]と申します。以後、お見知りおきを」

 そこには、スカートを小さくつまみ軽くお辞儀をしている咲夜さんがいた。



           ☆



「へ?、ならあれが咲夜さんの能力なのか」

 咲夜さんを先頭に俺・霊夢・魔理沙の順で後をついていく道すがら、先程の瞬間移動について質問したらこの答えが返ってきた。

 なんなの、この娘達。俺なんて能力はおろか料理すら作れないぞ。

「では、こちらになります」

 咲夜が足を止めた場所はひと際大きな扉をした部屋。

 どうやら目的の人物はここに居るようだ。

 コンコン、と咲夜が控えめにノックする。

 少しの間を持って返事が返ってきた。

「入れ」

 その声はやけに幼かった。

「失礼します。 お嬢様、目的の人物を連れてきました」

「うむ、ごくろう。 そこの者も入ってくるがよい」

「失礼します」

室内に入った彼方の目に飛び込んできたのは幼い容姿で、しかしどこか足を組んだそのポーズが似合っている。 そんな少女だった。 王者の風格すら漂わせる。

「……え? あ、すいません。 部屋間違えたみたいです」

 彼方は、その少女を一目みた瞬間にUターンして室内から出ようとする。

 ガシッ!

 不意に掴まれる右肩。 その手の方角をそ?っと見ると咲夜が笑顔を浮かべている。 しかし、その目は笑っていなかった。

 ─逃がしません─

 声こそ出していないものの、その口はハッキリとそう開いていた。

「部屋? 部屋ならここであっているぞ」

 首を傾げる少女に咲夜は笑顔で答える。

「すいません、お嬢様。 一瞬錯乱したようですがもう大丈夫です」

「そうなのか。 まぁ、それも仕方がない。 なんせ、この私レミリア・スカーレットと同じ空間にいるのだからな」

 少女ことレミリアは自分の言葉に自分で満足に頷いた後、彼方の後方で額に手を当てて自体を眺めていた霊夢に声をかけた。

「あら霊夢。 貴女も来てたの?」

「まあね」

「ふ? ん」

 あまり興味なさそうな言葉で返した割には、背中の大きな羽がピコピコと動いている。

「取りあえず、そこに座りなさい。 咲夜紅茶をお願い」

「かしこまりました。 お嬢様」

 礼をしてその場から消える咲夜

「ほら、いつまでも立っていないで私達も座るわよ」

「いや、それはそうだけど……。魔理沙は?」

 辺りを見回すとさっきまで居た魔理沙が消えたいた。

「あぁ。 大図書館のほうじゃないかしら」

 図書館? おいおい、この館にはそんな凄いものまであるのかよ……。

 改めて、この館に驚く彼方であった。




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