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壊れないように扱うね
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「改めましてこちら、紅魔館の主レミリア・スカーレット様です」
咲夜さんの紹介に満足げに頷く主ことレミリア……ちゃん?
「あ、どうも。 不知火彼方です」
対面に座る俺は軽くお辞儀をしながら挨拶する。
やはり、主との対談は緊張する
「そう固くならなくてよい」
そんな俺に足を組んだポーズを崩さないままレミリアちゃんは苦笑する。
苦笑するレミリアちゃんを見ながら、俺は隣で素知らぬ顔で座っている霊夢に小声で話しかける。
「なぁ……霊夢。 あの子の後ろに生えてるものって、もしかして……」
「もしかしなくても、吸血鬼よ。 自称だけど」
やっぱり……。 そんな思いを持ってもう一度目を向ける。
ピンクのフリルを纏い、頬づえをつき優雅に足を組んでいるその姿はまさにここの主といったところか。
「(でも……幼女だからな……)」
レミリアの外見は10〜12歳くらいだ。 それが関係しているのか、してないのか分からないが、どうしても女の子が背伸びをしている印象のほうが強かった。
「あ、あの? なんで俺を呼んだか教えてくれますか?」
そうは言っても、ここはレミリアの館。 客である彼方としては、外見が幼女だから……なんか微妙だな。 なんてことは口が裂けても言えないわけで、結果としてそもそもの疑問である、何故自分が呼び出されたを聞くことにした。
「あら? 要件は伝えてなかったの咲夜?」
「あの? 私も連れてこい。 としか言われてないのですが……」
キョトンとした顔で咲夜さんのほうを見るレミリアちゃんに咲夜さんは困った顔で答える。 連れてこい、と言われただけで連れてくる辺り、咲夜さんもある意味只者じゃない。
「まぁいいわ。 彼方……といったかしら。 貴方に会ってもらいたい子がいるのよ。 そしてできれば友達になってほしいの」
「はぁ……」
俺に会ってもらいたい? 誰だろう? それに、友達って……
俺の頭の中で様々な想像が膨らむ中、隣にいた霊夢がおもむろに声を上げた。
「ちょっとレミリア! あんたまさか……アイツを彼方に会わせるつもりなの!?」
いきなりの霊夢の声量に、思わず驚き霊夢の方をみる。
「あの……霊夢? えっと……よく知らないけどそんな毛嫌いしなくても──」
「あんたは黙ってて!」
霊夢はいつになく真剣な顔つきでレミリアを睨みつける。
こんな霊夢を見るのは初めてだった。
「大丈夫よ、霊夢。 “いま”はね」
対するレミリアは霊夢の声には動じず、それだけでなくどこか余裕たっぷりに霊夢を諭す。
「ばかばかしい。 帰るわよ、彼方」
「えっ!? おい、待てよ霊夢!」
彼方の抗議など耳に入らない霊夢は、そのまま扉を開けて部屋を出ようとする。
「どきなさい」
「それはできない相談です」
いつの間にか移動していた咲夜が霊夢の行く手を阻む。
「相談? 違うわよ、命令よ」
「私に命令できるのはお嬢様だけですので」
頑として譲らない咲夜。 そんな咲夜に業を煮やしたのか霊夢は懐から一枚の札を取り出す。
「お、おいおい、霊夢。 別に会うだけだろ? それなら、危険なんてないじゃないか。 レミリアちゃんも大丈夫って言ってるんだし! ね! レミリアちゃん?」
「えぇ」
あわや戦闘が始まるのかというところで、慌てて止めに入る彼方。 そして、あんな状況だったのにもかかわらずニヤニヤとした笑みを見せるレミリア
「……」
「いてっ!? 何すんだよ!?」
何が気に入らなかったのか、霊夢は俺の足を思いっきり蹴った後、先程まで座っていた椅子に腰かける
かくいう俺も霊夢に手を上げれるはずもなく、ぶつくさ言いながら椅子に座るのだが。
俺達二人が座ったのをみてレミリアちゃんが後方に控えている咲夜さんに小声で何か言っている。 多分、会わせたい子を連れてくるのだろう。
「かしこまりました」
一礼し、消える咲夜さん。
「(え……? というかこの空気どうすんの!?)」
彼方は一人、不機嫌な霊夢と相変わらず笑みを崩さないレミリアを交互に見ながらこの場の空気をどうしようか悩んでいた。
☆
コンコンっとノックする音が聞こえてくる
わたしはぬいぐるみで遊ぶのを止めて、音のしたほうを振り向きながら答えた
「だれ?」
「妹様、咲夜です」
咲夜? なんで咲夜がこんなところに?
そんな私の疑問を察したのか咲夜は投げかける前に私の質問に答えた
「会わせたい人物がいるそうです」
会わせたい人物? 誰だろう?
「ねぇ、それって壊れやすい?」
「……はい」
そっか壊れやすいのか……。
「分かった、すぐ行くよ」
壊れやすいなら、丁寧に扱わないとね。
☆
「妹さんがいるんですか」
「えぇ、そうよ」
場所は変わって、先程まで微妙な空気を醸し出していた彼方達の室内
「(友達って……妹さんのことだったのか。 もしかして、レミリアちゃんって妹想いのいいお姉さんなのかな?)」
あの空気に耐え切れなかった俺は自分から話しを切りだすことにした。
結果分かったことは、レミリアちゃんに妹がいることだけ。
ちらりと隣で座っている霊夢をみると、相変わらずな仏頂面で座っていた。
「あの? 霊夢さん? そんなに嫌なら帰っても大丈夫ですよ? ほら、お守りもあることだし……」
そう言って首からかけているお守りを見せる。
「雑用係が逃げないか見張ってるのよ」
俺のほうを横目でみた霊夢はそう言い切ると黙って紅茶を飲み始めた。
「(別に逃げようなんて思ってないっての……)」
霊夢の中の自分の評価はどうなっているのか。
そんなことを考えていると、コンコンっと室内をノックする音が聞こえてきた。
「入っていいわよ」
「失礼します。 お嬢様、妹様をお連れしました」
そう言った咲夜さんの後ろからレミリアちゃんより、2〜3歳くらい年下の女の子が出てきた。
薄い黄色の髪を片方だけ結び、赤と白の可愛らしい服。 そしてなにより、背中に七色に光る珍しい形の翼を生やしていた。
☆
「どうしたの? お姉さま。 いきなり呼びつけて」
「ごめんなさいね、フラン。 貴方に会わせたい人物がいてね。 彼方、この子が私の妹でフランドール・スカーレットよ」
わたしはお姉さまの視線をたどる。
そこには、前自分を倒した巫女ともう一人知らない少年がいた。
その少年はわたしの視線に気づくと、笑顔で椅子から立ち上がりおもむろに私に手を差し出してきた。
「お?、レミリアちゃんと似てるな。 俺は不知火彼方、よろしくフランちゃん」
笑顔で差し出される手。
しかし、その手をフランがとることはなかった。
「ありゃ……」
困った顔をする彼方。
しかしフランはそんな彼方など、どうでもいいかのようにさっさとレミリアの隣に座る。
「ねぇ、お姉さま。あれはなに?」
「霊夢や魔理沙や咲夜と同じ、人間よ」
「ふ?ん……壊してもいい?」
私の問いかけにお姉さまは黙って首を横に振るだけにとどめた。
「え? と……どうすればいいの?」
私達の会話においてけぼりを喰らっていたお兄さんが困った顔で話しかける。
「ねぇ、フラン。 彼、あなたの友達になりたいって言ってるのだけれども。 貴女はどう?」
友達?
ばかばかしい。 私にそんなものはいらない。
いるのは壊れないおもちゃだけ。
「べつに。……興味ない」
わたしの答えにお兄さんは
「でも、友達っていいものだよ?いざという時、助けになってくれるし」
そんなことをのたまった。
助けになる?
それなら私にとって友達とは必要ないものだ。
助けてもらうことなんて何一つないからだ。
それでも……退屈しのぎにはなるかもしれない。
「ねぇ、その友達って……わたしが遊ぼうって言えばいつでも遊んでくれるの?」
「あぁ、もちろん!」
わたしの返答が嬉しかったのか、お兄さんは満面の笑みで答える。
「ふ? ん……。いいよ。 なら友達になってあげる」
そして暇なときに遊ぼう。 お兄さんは人間だから、ゆっくり丁寧に扱いながら……ね。
☆
「ふぅ……、風呂上がりの麦茶は上手いな?」
紅魔館で夕食を頂いた俺達はその足で神社へと帰ってきた。
夕食は人数が多かったので、わいわいと楽しいものだった。
魔理沙がレミリアちゃんの友達、パチュリーのおかずを取ったり霊夢が当たり前のように俺のおかずをとったり。 ということはあったものの満足のいく夕食だった。
フランちゃんが夕食の席で一回も笑わなかったことが、心残りではあるが……。
そう、あれから俺はフランちゃんの笑顔を一回も見れてないのだ。
霊夢が魔理沙がレミリアちゃんがパチュリーが咲夜さんが笑っているあの場でフランちゃん一人が、つまらなそうな顔をしていた。
その顔が……なんだか俺には寂しそうに見えてしょうがなかった。
「って、俺の気のせいだよな」
「何が気のせいなのよ?」
「うわっ!?」
いきなり背後から声をかけられ慌てて後ろを向く。
「なによその顔。失礼にもほどがあるわよ」
浴衣姿の霊夢が団扇で顔を煽っていた。
「いや……いきなりだったからビックリして」
「ふ〜ん」
よっこいしょ、と俺の隣に座る霊夢。
お互い無言の時間が続く。 そよ風が吹き、上に吊るしてある風鈴がチリンチリンと音を奏でる。
「気をつけなさい。あの子には」
前方を見据えたまま、霊夢が俺に話しかけてくる。
霊夢は俺の返事を待つわけではなく、勝手に喋る。
「あの子はね。 『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という能力を持っているの」
「それは凄い能力だな……。 でも、それなら霊夢の能力だって常識外れで似たようなもんじゃないか」
フランちゃんの能力に思わず俺が声を出す。
しかし霊夢は俺の言葉に黙って首を振ってさらに続けた。
「私が能力だけで、あんたに注意するわけないじゃない。 本当に危険なのはあの子自身なのよ。 あの子はね、495年間も地下室に幽閉されていたの。 情緒不安定でね。 少し前に私と魔理沙が関わったことがあったわ。 それからは少しづつ屋敷内を出歩くとは聞いていたけど……」
495年間もの幽閉。 それが本当なら彼女はとんでもない時間を一人で過ごしていたことになるのではないか?
「それだけじゃないわ。 長い間、幽閉されていたあの子は手加減というものを知らないの。 能力も何も持ってない貴方なんか一瞬であの世逝きよ。 あの子にとって、あなたは友達じゃないわ。 ただのおもちゃ、退屈を紛らわすための道具でしかないわ。 それでも───貴方は友達だと胸を張って言えることができる?」
霊夢のまっすぐな言葉に、俺は無言で答えることしかできなかった。