7部分:08.取材A



 霊夢・フラン・咲夜・文が見つめる中で彼方はゆっくりと喋り出した

「その子とは家が近かったってのもあるんだけどさ、きっかけは俺が迷子になってさ。 その時に泣きながら石段を上がった先が彼女の家だったんだ」

「ほうほう……。 石段、というと神社かなんかですかね?」

「そうそう、神社なんだ。 ここよりは大きいかな」

 ペンを走らせながら問う文に笑顔で答える彼方。 その横で霊夢が持っていた湯呑を割る音が聞こえてくる。

「も、もちろん! 博麗神社だって素敵な所だよ!」

「そう。 別に私は気にしてないし。 まぁ、あんたがそういうなら、ありがとうって言っとくわ」

 澄ました顔で答える霊夢に、咲夜がクスクスと笑う

 しかしそれも、霊夢の一睨みですぐに消えてしまった

「ほら、早く続きをお願いしますよ!」

「え、あぁ」

 そんな二人を無視するように催促する文に返事をして、当時の事を思い出しながら彼方は話した



           ☆



「ひっく……ひっく……」

 石段で泣いている少年がいた。

 一人ポツンと座っている少年に、一人の女の子が声をかける。

「あの……どうしたの? なんで泣いているの?」

 後ろから声をかけられた少年は、身体をびくつかせて女の子の方を振り向いた。

 その目は滝のように涙を流していた

 女の子のほうを向いた少年は、小さな声で呟く。

「おとうさんと、ひっく……喧嘩した」

 そう小さな声で呟く少年に少女は疑問を投げかける。

「なんで喧嘩しちゃったの?」

「だって……おとうさんが僕と遊ぶ約束を忘れてたから……」

 今日はいつも忙しいおとうさんが、少年のために休暇をとった日であった。

 一日大好きな父親と遊べる。

 その事実に少年は有頂天になり、なにをするかまで考えていたほどだった。

 しかしその遊びは、実現することはなく少年の中だけの日程になりかわってしまった。

 嬉しそうに外へと出かけようとする少年に父親は、申し訳なさそうに少年に告げた。

 ────ごめんな、彼方。 お父さん、急用が入ってしまったみたいなんだ。

 心の底から、申し訳なさそうにいう父親

 なんで?今日はずっと遊んでくれるんはずでしょ? あのとき約束したじゃん

 小さいときというのは、世界は自分の周りだけが全てで、他のことなど知らないものである。

 そんな子供が約束を違われたらどうなるであろうか?

 ───おとうさんの馬鹿!

 少年はそう一言いって家を飛び出してきたのである

 自分のことよりも、その急用とやらのほうが大切なんだと思いながら。 溢れる涙を止めることせず出ていった。

「だから、お家を飛び出してきたの?」

 話しを聞き終えた少女は少年に聞いた

 その問いかけに少年は、小さく首を縦に振るだけにとどめた

 少しの間、二人は喋ることを止めて静かに時の中に身を委ねる

 依然として少年は目から涙を浮かべている。

 その様子をみた少女は、何かを決心したかのように立ち上がると家のほうへ駆けて行った。

 ポツンと一人残された少年。

 広い神社で一人ぼっちという状況に、少年はどうしよもなく心細くなり出尽くしたと思っていた涙が、また零れそうになっていた

「ひっく……うぅ……ふぇ?」

 泣きだす寸前、少年は頭を撫でられた感覚がして思わず顔を上げた

「……あれ?」

 撫でられたと思って顔を上げてはみたもののそこには誰もいなかった。

 気のせい?

 そう思って辺りを見回す

 下をみて、上をみて、左右をみて、後ろをみる

 しかし、そこには誰の姿もみえず少年の頭には疑問が残るだけとなった。

「はぁ……はぁ……。 おまたせ!」

 背後で少女の声が聞こえ振り返ると、少女は肩で息をしながら両手に柔らかいボールを抱えてニッコリと微笑んだ。

「さ! 一緒に遊ぼ!」

「……え?」

 いきなりの展開についていけない少年をよそに、少女は手を掴むと少年を強引に引っ張って、そのまま少し離れてボールを投げた

 投げたボールは、緩やかな軌道を描き少年の所に届くこともなく、その半分くらいの場所で静かに止まった

「あぅ……」

 恥ずかしそうに下を向く少女。 自分の握力の弱さを今頃になって思いだしたのだ。

 そんな少女の様子をみて、少年は家を飛び出してから初めて声を出して笑った

「あはは。 ちょっとここじゃ遠いよ。 もう少し近寄ろうか」

「えへへ」

 少年に釣られて少女も笑いながら、二人して近づく

「いくよ、えい!」

 掛け声とともに、勢いよくボールを投げる

「わぷっ!?」

 勢いよく投げられたボールは、地面と平行に進み彼女の元に到達した。

 しかし彼女は、そのボールを捕ることができず顔で受け止めることとなった

「だ、大丈夫!? ごめんね」

 慌ててかけよる少年

 少女は額を押さえうずくまる

 その姿におろおろすしながら、手を伸ばそうとして引っ込める動作を繰り返す

「な〜んちゃって♪」

 次の瞬間、少女はけろりとした顔で少年に笑みを向けた

 その姿に安堵した少年は、次第に笑いがこみ上げてきた

「?なんで笑ってるの?」

「だ、だって……わぷっ、って」

 少女の顔に赤みが指す、いまさらになって先程の可愛らしい悲鳴が恥ずかしくなってきたのだ

「も、もう! 笑わないでよ!」

「ご、ごめんごめん。 あっはっは」

 ぽかぽかと少年の身体を叩く少女に笑いながら謝る少年

「でも……やっと笑ってくれたね」

「え……?」

「ほら、涙。 止まってるよ」

 指差されたところに触れると確かに涙は止まっていた

「ほんとだ……」

 つい数分前まであんなに泣いていた自分が嘘のようだった。

「泣いてる顔より、笑ってる顔のほうが人って素敵でしょ? 笑顔はそれだけで人を幸せにする魔法だよ。 だから……もっと笑顔でいようよ?」

 そう笑った少女の顔は、少年にはまぶしすぎて思わず見惚れてしまった。

「うん……。 そうだね。 でも、もし泣きたくなったらどうすればいいの?」

「そのときは、わたしの胸を貸してあげる」

「泣きたくても泣けないときは?」

「代わりにわたしが泣いてあげる」

 胸を張って答える彼女

 そんな少女に少年は、笑みを浮かべて

「じゃぁ、君が泣いてるときは僕が胸を貸してあげるね」

 少年の言葉に一瞬驚いた顔をしたが、少女ははにかみながら頷いた。

その後、少年と少女は疲れて寝てしまうまで一緒になって遊び尽くした



           ☆



「んで、後から聞いた話によると親父と母さんが町内を必死になって探して俺を見つけたらしい。 そのときは、俺も彼女も疲れ果てて縁側で二人仲良く寝てたらしいけど」

「なるほど〜、家出から始まる出会いという訳ですね」

 彼方の話を真剣に聞いていた文は、ものすごいスピードでメモを走らせながらしきりに頷いていた。

「なんとも微妙な出会いなんだけどな」

「それで、その子とはずっとお付き合いを?」

「うん、そうなるかな」

 ほへ〜、と感嘆の声を漏らす文

「ねぇ、他の質問はないの?」

 いままで黙って聞いていたフランが羽をせわしなく動かして文に聞く

「ありゃ? フランちゃんにはこの話は面白くなかったかな?」

 あんなに聞きたそうにしていたのにな〜、と思いながら膝に座らせているフランに聞くと

「ううん。 とっても興味深かったし、面白かったよ。 お兄ちゃんの小さい頃の話も聞けたし。 でも、お兄ちゃん嬉しそうに話すんだもん」

 ぷくー、と頬を膨らまして喋ったフランの主張は訳の分からないものであった。

「え゛? というか、そんなに嬉しそうにしてた?」

「えぇ。 つい弾幕を打ち込みたくなるくらいね」

 さらりと言われた霊夢の言葉は彼方を震え上がらせるには十分だった。

「そう?私は純粋に面白かったけどね」

 フォローのようで、そうでない咲夜

「あややややや! そうですね! それより少し時間も押してきてるので次の質問にいきましょうか!」

 険悪ムードになりかけたその時、文が危険を察知したのか三人に苦笑いを浮かべる。

 文の行動のおかげで、自分に弾幕を喰らうことがなくなり内心ほっとする彼方

「あややや。 そうですね……では、彼方さんの能力でも聞きましょうか」

「あ! それフランも知りたい」

「確かに興味があるわね」

「たしかに」

 四人の好奇な視線が一斉に彼方のほうを向く

「え〜と……そう見られるとなんか恥ずかしいんだけど……」

「なに訳の分からないこと言ってんのよ。 早くいいなさいよ」

「いや、まあ……。 うん。 えーと、俺の能力は『想いを力に換える程度の能力』だよ」

「「「「想いを、力に?」」」」

 四人は口を揃える

「うん。 俺の想いによって力が変わるみたいなんだよね。 想いが強いほど力は強くなるし、逆になんも想わなかったら、人里の人達にも負ける自信があるよ」

 肩を竦めながら言い切る彼方にフランはニコニコしながら彼方の腕をとった

「なら、あの時のお兄ちゃんはフランのことをいっぱい想ってくれたんだね!」

「うん。 そうなるかな」

 彼方の言葉を聞くと、フランはより一層羽をパタパタと羽ばたかせて幸せそうに笑った

「なるほど〜。 想いによって変動する能力ですか。 珍しいですね」

 ジロジロと彼方をみやる文

「けど、それって一定の強さを確保できないってことでしょ? だったら、能力を身につける前とそう変わらないんじゃないかしら」

 咲夜の指摘に、うっ、っとつまる彼方

 そう、咲夜がいった通り能力を身につけたからといって彼方自身が強くなったかというとそうでもないのである。

 確かに、能力で強くなっているときは妖怪にも対処できるだろうが、普段の場合であればただの凡人。 必然的に幻想郷に初めて来たときのようなことになるだろう

「そこなんだよな〜……。 どっかにいい師匠がいないかな〜」

「あら? 私じゃ力不足ってこと?」

 彼方が腕組みして唸ってると、霊夢が横から口を出してきた

「いや、そういう訳じゃないけど……って、教えてくれるつもりだったの?」

「いやっ!? 別に、あんたなんか知り合いなんて居ないでしょうから仕方なく私が教えてあげようかな、と思っただけで!?」

 ぶんぶんと両手を左右に広げて自分の言ったことを訂正しようとする霊夢

「はは。 ありがとう。 もちろん、俺も霊夢に頼もうとは思っていたけどさ、それ以外にも……こう格闘というか、身体能力を上げたいな、と思って」

 彼方の言葉に霊夢は顔を赤くしながら、そ、そう。とだけ答える

「あら、それなら美鈴に習ったらどうかしら。 あの子格闘ならかなり強いわよ」

 霊夢の横で話しを聞いていた咲夜が、自分のとこのおさぼり門番のことを思い出しながら進言する

「え!? ほんとですか!? そういえば、フランちゃんとの遊びのときも格闘を使ってたような記憶が」

 なんとかあやふやな記憶を呼び起こそうと必死に頑張る彼方

 あのときは彼方もタイミングを計るのに必死で、見てるようで以外と全くみていなかったのである。

「あやや。 そういえば、そうでしたね。 弾幕はさほど強くありませんが格闘はかなりの腕前でしたよ」

 うんうんと頷く文

「そっか……。 なら、明日頼んでこようかな」

 底抜けに明るい門番のことを頭に浮かべながら明日の予定を脳内で組み立てる

「あややや。 もうこんな時間でしたか。 わたしはこのことを記事にしないといけないのでそろそろお暇しますね」

 居間の時計をみた文が早口にまくし立てて慌てて飛んで行った

 それを見送りながら彼方は横にいた霊夢に話しかける

「文って、せわしないんだな」

「そうね。 それより夕飯は何がいい?」

「パスタで」

「却下」

 じゃぁなんで聞いたんだよとは、怖くて言えない彼方であった



           ☆



 風を切って少女は駆ける

 その少女の顔は少し暗かった

「変わって……しまいましたね……」

 意識したわけではないのに、その言葉は勝手に漏れていた

 その言葉が誰に向けて放った言葉なのか。

 少女は自嘲気味に笑うと、先程の話を記事に仕上げるためにより一層スピードを上げて家へと戻った




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