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11.冬妖怪の恋愛指南



 『彼方が悪いんです』

 しんしんと雪が降り積もるこの日

 俺と霊夢は人里へ買い物に来ていた

「冬だというのに、人里の人達は元気だな〜」

 厚着をしているものの、行き交う人々の顔は笑顔で溢れていて、なんだか見てるこっちまで楽しくなってくる。

「確かにここと、そっちじゃ違うのかもしれないわね。外の世界はどうだったの?」

「う〜ん……。なんというか、こんなに笑顔じゃなかったかな。確かに笑顔の人もいたけどそれは作り物だったり、とか結構あるし」

 外の世界は、色々なことがあり過ぎて、みんな笑顔というものを忘れている人が多いような気がする。

 その点……幻想郷の人達の笑顔は見ていて気持ちがいい

「ところで霊夢。みるからに高そうなものを買っているけど、大丈夫なのか……?生活結構厳しいんじゃなかったっけ?」

 手に持っている食材の中身をみやる。幻想郷内では滅多に食べることができない海の幸や、高そうな肉が入っている。

 帳簿をみながらため息をついている霊夢の姿を知っているこちらとしては、こんなり無理して大丈夫なのかと心配になってくる

「大丈夫よ。いざとなったら紅魔館にたかりに行くし」

 ごめん、咲夜さん。俺に霊夢は止められない。

「でも……なんでいきなり?」

 そう聞く俺に霊夢は、八百屋に鎮座してある野菜をみながら

「べつに……いきなりじゃないわよ。その……あんたが浮くことができるようになったから、その……記念にと思って……」

 小さな声で、ぼそぼそと喋る霊夢。その顔は熟れたリンゴのように赤かった。

 彼方が初めて浮くことに成功したその日は、まるで自分のことのように喜び、できの悪い弟がテストで100点をとってきたことを自慢するかのように周りの人にみせびかしたもんだ。

 その時の彼方はあまりの恥ずかしさのあまり、途中で逃げ出したのだが。

「き、記念といっても、あれよ?べつに普段よりちょっとだけ豪華にするだけだし、そもそもやっと浮くことができるようになったのか……。ってくらいだし!少し才能がある人なら、もうとっくに空を飛んでいることだしね!」

 わたしは自分でも自覚できるほどの早口で捲し立てる

 彼方が紅魔館から飛び出したあの日

 なんども探しに行こうか迷った。だけで、その度に魔理沙に止められた。

『あいつはこれくらいじゃ、諦めないぜ』

 そして魔理沙のいうとおりだった

 夕方近くになって帰って来た彼方の目は、フランとの夜に視たあの目をしていた。

 それから彼方は寝る間も惜しんで練習をしていた。

 それをわたしが発見できたのも全くの偶然だった

 まぁ……発見できた理由は、あれよ、あれ。その……人間にとっては欠かせない行動というか……。えぇいっ!そんなのはどうでもいいの!

 えっと……そうそう、彼方はわたしが眠りについたころに一人、庭で空を飛ぶ練習をしていた。

 空を飛ぶといったって、初めは空に浮くことから始めてるのだけど……、まぁとにかく彼方は一人で練習していたわ。それが終わると弾幕の練習を、そして美鈴に習っている格闘を。

 格闘といっても、本格的な格闘を学んでいる、ということではないみたい。美鈴いわく『彼方さんは格闘よりも、まずは身体能力を上げましょう!』ということで身体能力の向上を最優先でやられてるみたいね。もちろん、たまに格闘も教えるみたいだけど。

 弾幕に至っては、思わず顔を覆いたくなるほどね。いまだに弾幕で出せる量なんて指で足りる程度だし、質に至っても同じく。まぁ、彼方の場合は能力が能力だけに、もっとすごい弾幕もできるかもしれないけど……それは希望的観測に過ぎないから考えるのは止めましょう。

 確かに才能なんて欠片もないけど、それでも彼方は諦めようとはせず、寝る間も惜しんで練習してきた。

 だから、今回彼方が浮くことに成功したのが嬉しかった。舞い上がりすぎて思わず周りに自慢してしまうくらい。

 まだまだ浮くことができただけで、これからやっと空を飛ぶ練習だけど……まずは浮くことができたのを祝ってあげないと!

 そう思い、わたしは後ろにいるであろう彼方に声をかけた

「ね、ねぇ彼方?あなた確か人参を甘く煮詰めたものが好きだったわよね?」

 彼方のことだ。あの笑顔で元気よく肯定するでしょう。

 そう思いながら後ろを振り返ったわたしの目に飛び込んできたのは───

「すいません、怪我はないですか?」

「えぇ。大丈夫です」

 兎の耳を生やした女の子を抱きかかえるようにして声をかけている彼方だった。

 女の子のほうは彼方の問いに完結に答えると、そそくさと去って行った

「いや〜、驚いたな〜。こんなところでブレザーを見ることになるなんて。久しぶりだったからついついそのまま見ちゃってさ〜、そのままあの子とぶつかってしまったよ。アハハ」

 彼方はわたしをほうをみながら、楽しそうに喋る。

 ブチィッ!!

 その顔をみた瞬間、わたしの中の何かが切れた

「そういや、なにか言ってたけど……って、霊夢さん?どうしたの?」

「どうしたの?ですってぇぇ〜……!!よくもまぁ、その口からそんな言葉を吐けるわねぇ〜……」

 ゆらり ゆらり

 身体を左右に揺らしながらゆっくりゆっくり彼方の至近距離まで詰めていく

「わたしがあんたの頑張りを称して祝ってあげようかな〜、と思って少しだけ無理をして買ってるのに。あんたの好物を思い出しながら買い物をしてるのに、当人のあんたは楽しそうに女の子をナンパですか。そうですか……」

 『逃げろ』というサインが彼方の身体の中を駆け廻る

 しかし彼方の身体は一向に動かなかった。否、動けなかったのだ。

 幻想郷に初めてきた時に味わった恐怖の感覚が蘇って来る

 ゆらり ゆらり

 彼方の至近距離のところに到達した霊夢

「……た…………か……」

 小声で何かを呟いている

「え?」

 その言葉を聞こうと彼方が霊夢の口まで耳を持っていった瞬間───

「彼方の馬鹿ぁぁぁぁああぁぁ!!」

 爆音と呼んでも差し支えないほどの声で霊夢が彼方に叫ぶ

 彼方はというと、あまりの大きさに思わず尻もちをついてしまった。

 キッ!

 彼方のほうをみた霊夢の目には少しばかり涙が溜まっていたのだが、本人は耳が痛すぎてそれどころではない。

「彼方のことなんか知らない!この馬鹿!あんたなんかさっきの子とよろしくやってたら!!」

 そう吐いて、霊夢はさっさと飛んで博麗神社まで帰って行った。

 残されたのは、いきなりのことで戸惑っている彼方と、霊夢が叩きつけた食材だけだった。

 ▽    ▽    ▽     ▽

「う〜ん……流石に女の子と買い物に出かけてるのに、他の女の子と喋るのはまずかったかな〜。それに、さっきの俺は傍からみたらただのナンパ野郎だったしな〜……」

 あの後、騒ぎを聞きつけ駆けつけた人里の守護者の人に事情を説明し、俺はいま歩いて博麗神社に帰っている最中だ。

 人里の守護者の人からは拳骨をもらってしまった

 いま思えば当然であるが。

「まずったなー……。外の世界で学習したつもりだったんだけどな〜……」

『もう!彼方ちゃんは、わたしだけをみてればいいの!』

 そう言ってプリプリと怒る彼女のことを思い出す

 外の世界ではよくあの子と買い物に行っていた。そのたびに俺はあの子にそう言われていた。

 あの子いわく、女の子は自分と一緒にいる男の子が違う女の子と仲良くしていたらダメらしい。

 これもあの子が腰に手をあてて、まるで物分かりが悪い子供に先生が優しく教えるように延々と話された覚えがある。

「それに……この食材をみるかぎり今日は豪華な料理を作る予定だったんだろうな〜……」

 霊夢によって一部が食べれなくなった食材を目の高さまで持っていき、その食材の凄さにため息が出る

 海が存在しない幻想郷で海の食材を手に入れること自体が至難の業だ。

 そしてそれが人里に流れてくる、ということはほとんどない。

 だというのに───

「鯛が二匹……」

 元来、鯛とはめでたい時に振る舞われた食材である。

 どのような手段を講じてこの鯛を調達してきたのか分からないが、霊夢がどれだけ俺のことを祝おうと思ったのかはこれをみれば明らかだ。

「そういえば、あの時は俺よりはしゃいでたよな〜」

『やったわね!彼方!』

『みてみて魔理沙!ついに浮くことができるようになったわよ!』

『まぁ、わたしの指導がよかったからだけどね』

 はしゃぐだけはしゃいで、その後我にかえったのか急にそっけなくなった少女を思いだして、ついつい笑みが零れる

「っと、少し寒くなってきたな……」

 博麗神社までもう少しあるというのに、だんだんと寒さが厳しくなってきた

「おいおい、勘弁してくれよ……。ただでさえ寒いの苦手なのに……」

 ついついそんな愚痴を零してしまう。まぁ、誰もみてないしいいだろう。

「あら、この寒さがいいんじゃないの?」

 前言撤回。後ろに誰かいました

「もしかして、あなたも冬が嫌いなのかしら?」

「いや、嫌いではないんですけど……。寒さがすこし苦手で……」

 冬にしかできないことだって沢山あるし、そういうのが楽しめるので冬は好きだ

「ふ〜ん……寒さは苦手なのに冬は好きと……。おかしな人ね」

 俺の答えを聞いて背後でくすくすと笑い声がもれる

 その声が気になり俺はそ〜っと後ろを振り返る

 そこには、雪女らしき人が口に手を当てて笑っていた

「くすくす……、ごめんなさいね?あまりにも可笑しかったから。私の名前はレティ・ホワイトロックよ。よろしくね」

 そういって差し出された手を握り返して、こちらも名乗る

「不知火彼方です。えっと……レティさんは、その……妖怪です、よね?」

「ええそうよ。冬の妖怪よ」

 冬の妖怪?

 なんか限定的な言い方をする人だな。それに───握っているはずの手がとても冷たい人だ。

 いや、冬の妖怪なんだから当たり前かもしれないけど……

「ところで、あなたは一体こんなところで何をしているのかしら?」

 首を傾げながらそう聞くレティさん

「え〜っと……」

 先程のことを言っていいのか迷う。というか言いたくない。

 第一なんて言えばいいんだよ!?

 えーと、えーと!?……そうだ!

「家に帰る途中です」

 目まぐるしく回る頭の中で出た答えはなんとも簡潔的だった。

 実際博麗神社に帰ってる途中だし、嘘をついてる訳ではないし大丈夫だろ!

「ふ〜ん……家に帰る途中ねぇ。家に帰る前に女心というものを学んでみたらどうかしら?」

 …………へ?

 いきなりの発言に思わず目が点になる

 なにを言ってるんだこの人……?

 俺の視線に気づいたのか、レティさんは、ふふんとでも言いたげな顔で

「ずっと後ろから聞いていたのよ。色男さん?」

 可愛くウインクを送って来た

▽    ▽    ▽    ▽

 雪が降りたる道で、一人の妖怪と一人の人間が何かを話していた。

 男が一方的に喋り、女は男の話を聞いているだけである。

 やがて男は話し終えたのか、その口を閉じる。

 男の名前は不知火彼方。外の世界から幻想郷に来た絵に描いたような凡人である。

 そして女の名はレティ・ホワイトロック。冬の妖怪である。

 何故共通点なぞ存在しない二人が一緒にいるかというと────

「それはあなたが全面的に悪いわね」

 ───レティによる恋愛指南を彼方が受けているからである

「うっ……!やっぱり……」

「当たり前よ。むしろ死ななかったことに感謝するのね。私なら氷漬けにしてたわ」

 氷漬け……!?

 驚く俺にレティさんは、当然よ、とう顔をしたまま眼前にピッと人差し指を持っていき

「それくらいの罪だと思いなさい」

 やれやれと困った風に頭を振りながらそういった

「でも…………もしそうならこれからどうすればいいんでしょか?」

 あの子の時は、一緒に寝るとかで許してくれたけど…………霊夢にそんな提案しても…………

『霊夢、今日は一緒に寝ようか?』

『夢想封印!!』

 ダメだ!!消されるビジョンしか思い浮かばない!?

 いや……よく考えてみると、そもそもこの年になって一緒に寝るように強要してきたあの子がおかしいんじゃないか……?

 外の世界でのあの子の行動に、う〜ん、う〜んと考えている彼方にレティは蹴りを一発ぶち込んで

「いまは目の前のことに集中しなさいっ!!」

「は、はい!!」

 それから、レティによる恋愛指南は一時間にもわたった

▽    ▽    ▽    ▽

 博麗神社の石段を一人の少年がゆっくりと登る

「あ〜、疲れたぁ〜…………。こんな寒い中一時間も恋愛指南はキツイってば」

 ぶつぶつと言いながらも少年の中には、冬の妖怪に対する負の感情は全くといっていいほどなかった。

 それはたぶん、あの冬の妖怪が自分のことで親身になっているのがわかっているからであろう。

 確かに、寒くはあったがそれに見合うだけの何かを得られた……と思いたい

「それより……レティさんが最後にいったあの一言が気になるな〜……」

 恋愛指南が終わって帰る間際にレティさんは確かに呟いた

『忘れ去られる、ということは生きていく中で一番怖いものなのよ』

 あの時のレティさんは、とても妖怪だとは思わなかった。まるで────

「なにボ〜っとしてんのよ?そっから先は石段はないわよ?」

「へ……?って、うわっ!?」

 隣から声が聞こえてきたと思った瞬間、石段を登るために高く上げていた足は石段がないことにより、スカり勢い余って転んでしまった。

 その様子を隣で、冷たい目でみている少女

 その少女に彼方は、きわめて明るい声を意識して話しかけた

「や、やぁ!霊夢!ただいま!」

「おかえり。ずいぶん遅かったじゃない?もしかして……ほんとにあの女の子とよろしくやってたのかしら…………?」

 優しい声色で、可愛らしい笑顔で彼方の首を掴みあげる、博麗神社の巫女、博麗霊夢

 その頬は少しひくついており、後ろには気のせいだとは思うが、鬼がみえる

「お、おちつけ!?違うってば!?」

 彼方は霊夢の手をどけようとするが、あまりの力にどけることを諦めて霊夢に説明をしようとする

『いい?下手に説明なんかするより、女の子は抱きしめられたほうがいいのよ?』

「っ!」

 ガバッ!

「えっと……ただいま?霊夢さん」

 思わずレティの言い付けを思い出し抱きついてはみたものの、何を言えばいいのか分からなかった彼方は先程の言葉を繰り返した

「へっ!?な、なによ!いきなりっ!?」

 いきなりの行動に手をパタパタさせて驚く霊夢のことなど気にせず、なおも抱きしめる

「ただいま、霊夢」

「も、もうっ!…………おかえり、バ彼方」

 顔を上げた霊夢は、嬉しそうに少年の帰りを喜ぶのであった

▽    ▽    ▽     ▽

 かちゃかちゃと食器を洗う音が響く

「霊夢〜、タオルとってー」

「もう、自分で取りなさいよ」

 そう言いながらも霊夢は、彼方のほうにタオルを投げて寄こす

 夕食が終わり、いまは食器を片づけている最中だ。

 元々、これは居候の彼方の仕事なのだが、少し前くらいからたまに霊夢の手伝うようになってきた。

 ザブザブと溜めた水で、皿を洗いながら霊夢は隣でタオルで皿を拭いている彼方に

「ね、ねぇ?彼方?さっきのあれは…………その……どういう意味かしら?」

 もじもじとしながら聞いていた

 さっきのとは、彼方が霊夢を抱きしめたことだろう

 問われた彼方は、皿を拭きながら実にあっけらかんと答えた

「あ〜、あれ?実はレティさんの受け売りでさ〜。いやー、流石レティさんだ!一発で霊夢の機嫌が直ったね!」

「……え?」

「あ、レティさんっていうのはさ────」

 隣でそのレティという女のことを楽しそうに話す彼方

 霊夢の中で、静まり返っていた怒りが再度わき起こる

 ふ〜ん……。やっぱり、誰かの入れ知恵だったのね?

 べ、べつに彼方にあんなことされて嬉しかったわけじゃないし、どうでもいいんだけどさ

 彼方のほうをみやる霊夢

 そこには、いまだその女のことを楽しそうに喋っている居候の姿がある

 だけど……なんでここで他の女の名前なんか出して、ましてや楽しそうに喋っちゃって…………

 プルプルと霊夢の拳が震えてくる

「────それでさ〜、って霊夢さん?どうしたんですか……?」

 彼方なんて…………彼方なんて…………

「あ……れ……?霊夢さん……?」

「もう知らない!!馬鹿ぁ!!」

 その夜、博麗神社の周辺では、泣きながら誰かに謝る声が聞こえたとさ




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