12.人形使いの宝物



 『シャンハーイ!』

 人里のある所で沢山の子供たちの声が聞こえてくる

 その声はどれもこれも楽しそうで、聞いているこっちが楽しくなってくるほどだ。

 場所は寺子屋。そこで今日は、月に一回の割合で行われる人形劇があっていた。

「すげぇー!すげぇー!霊夢、見てみろよ!これ全部、あの子が一人で操ってるんだってよ!」

 そんな子供たちに紛れて一人はしゃぐ少年がいた

 年の頃は16くらいであろう。その少年は膝に、シャンデリアをおもわせるような羽をもった可愛らしい女の子を抱えて、隣にいる紅白の巫女服をきた少女に話しかけていた。

「わかってるから。聞いてるから。お願いだから彼方、静かにみて頂戴。恥ずかしい……」

 霊夢と呼ばれた少女は、隣の少年、もとい彼方のはしゃぎようにみてるこっちが恥ずかしくなって、顔を赤く縮こまりながら答える

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。ここではいつもこんなことをしてるの?」

「う〜んと……。普段は慧音さんがここで、この子達に読み書きそろばんなんかを教えているんだよ。今日は月に一回行われる人形劇なんだって。フランちゃんは人形好き?」

「うん!大好き!」

 袖をくいくいと引いて彼方に疑問を投げかけたフランと呼ばれた女の子は、首を大きく縦に振って元気よく答えた。

 そんなフランの頭を彼方は優しく撫でる。すると、その手に甘えるようにフランは可愛らしい声を出す。一見すると、仲の良い兄妹みたいである。その横で、若干一名、握り拳を作っているが……。

 はてさて…………

 何故、この三人がこんな所で人形劇を見ているのか?

 それは、昨日の夜にさかのぼる────

▽     ▽     ▽      ▽

 夕食を終えた俺と霊夢は、居間でゆっくりとした時間を過ごしていた。

 この時間は俺も霊夢も居間で、寝転がったり、本を読んだりと穏やかな時間が流れる。別に居間に二人揃っている必要はないのだが、なんともなしに二人ともここにいることが多い。

 俺がスペルカードでも、考えるかな〜って感じで席を立ったその時に電話のベルが鳴った。

「彼方、電話」

「……なんてタイミングなんだ」

 スナイパーにもほどがある……。

 そんなことを考えている間にも、電話のベルが鳴り止むことはなく、俺はしぶしぶと受話器を取った

「はい、もしもし。不知火……じゃなくて、博麗です」

 いかん。ついつい自分の名字を名乗ってしまう……。いまの俺は居候で雑用係。博麗神社に居候中は、プライベートの時以外は博麗と名乗る習慣をつけないと……

「ん?彼方か?ちょうどいい。お前に用があったんだ」

 受話器から聞こえてくる声には聞き覚えがあった。

 何度か博麗神社の生活が危ない、とは言わないまでも結構厳しくなった時に俺を臨時のアルバイトとして雇ってくれた人里の守護者こと上白沢慧音さんだ。

「こんばんは、慧音さん。こんな時間にどうしたんですか?」

「こんばんは、彼方。実はな?前に話したと思うけど、月に一回行われる人形劇のことなんだけど……」

「あぁ、寺子屋の子供たちがいっつも楽しそうに話していましたね」

 たしか亮や、佳奈が嬉しそうに話していたな。俺は毎回見れてないけど。え?何故かって?うちの家主がそういう時にかぎって紅魔館に行ったり、魔理沙の家に行ったりするんだもん。俺を連れて

「そうそう、子供達の楽しみの一つだよ。それでだ、今回は彼方も来ないか?もちろん、霊夢も連れて」

「それはそれは嬉しいお誘いですね。……っていきなり過ぎやしませんか……?」

 いや、俺もめちゃくちゃ見たかったんだけどね?

 俺の言葉に受話器越しに慧音さんの乾いた笑いが聞こえてきた

「ははは……。実はな?寺子屋の子供たちにどうしてもと頼まれてな……。全く、そのせいで今日は授業にならなかったよ……」

 受話器越しでも、慧音さんが手を額に持っていき、やれやれ……としてる光景が鮮明に浮かんでくる

 なるほどな。子供達たっての頼みなら慧音さんも断れないしな。

 俺が一人納得していると、慧音さんは、それに……と前置きをした後

「私も楽しそうに人形劇を聞いてくるお前にみせてやりたいと思っていたんだ。いつも、どんぴしゃで居ないからな」

 そう言って苦笑した

 かくして俺は霊夢に頼んで、人形劇を見に行くことになった。初めは、すんごいジト目で見られていたが、急になにかを思い付いたのか、霊夢はえらく優しい笑顔になって了承してくれた。

 そして俺は人形劇を見に行くことになった。

 いまから楽しみだ。だって、一人で沢山の人形を操り、噂によると半自立人形もいるみたいだしな

▽    ▽    ▽     ▽

 うんうん、と昨夜の回想を終わらせる

 そういえば、フランちゃんは今日遊びに来たから連れてきたんだよな。俺と霊夢が二人で見てることを条件に。

 そこは人里の守護者、人里に害が及びそうなものは野放しにはしない。

 まぁ、あの顔をみるかぎりこの条件は人里の人達を安心させるための条件だろう。

 慧音さん自身はとても歓迎していた。優しい方だ。

 ワァー!!

 ふと、子供達の歓声がひと際大きくなった

 んっ?って何事かと思い前を見ると────

「これでおしまいよ。長々とありがとうね」

 そう言って子供達に頭を下げている女の子がいた。

 金髪に赤いヘアバンド、そして隣に人形をずらりと並べていた

 この女の子こそが先程から、子供達に人形劇をみせていたアリス・マーガトロイド。子供たちからはアリスって呼ばれてるらしい。

 アリスは子供達に手を軽く振った後、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 …………しまった!?後半まったく聞いてなかった!?

 あまりのことにショックで手を畳について打ちひしがれていると

「ちょっと、彼方。これからどうするの?」

 横から霊夢がつんつんと指でつつきながら今後の予定を聞いて来る

「ちょうど、お腹もすいてきたことだし……その……ご飯なんてどうかしら?」

 もじもじとし、周りの子供たちに視線を移しながら霊夢は彼方にそう提案する

「ねぇ、フランちゃん。あの子の肩に乗っていた人形が半自立人形かな?ちょっと触ってみたいんだけど……」

 しかし当人はアリスの肩に乗っていた半自立人形に夢中で霊夢の言葉が耳には入ってくることはなかった

「…………」

 スクッっと席を立つ霊夢

「ん?どうした、霊夢。トイレ?」

「ちょっと、用事を思い出したから帰るわね」

 陽気な声で霊夢に聞く彼方とは対照的な声音で霊夢は出入り口に向かって歩く

 その途中、子供達が霊夢の顔をみて怯える

 霊夢の後ろ姿しか見えない彼方からは想像できないかもしれないが、この時の霊夢は鬼をも射殺すほどだった。

「ふ〜ん、そっか。霊夢も一緒に来るかと思ったのに、残念だな。んじゃ、俺達はちょっと話してくるから、気をつけてな?」

 彼方の言葉に腕を軽く振って寺子屋を出て行く霊夢

「はぁ……。この、朴念仁……!」

 霊夢の言葉は、子供達の声にかき消されていった

▽    ▽    ▽     ▽

 霊夢と別れた俺はフランちゃんを連れて、アリスさんを探していた。

 すると前方に笑顔を浮かべている慧音さんと、ふぅ……って感じで一息ついてるアリスさんを見つけた

 慧音さんも俺に気付いたのか、手を振ってくる

「よく来てくれたな、彼方。人形劇はどうだった?」

「いや〜凄かったですね。外の世界にも人形劇はありますけど、あんなに沢山の人形を一人で操り、なおかつ自分も劇に加わるなんてのは、初めてみましたよ」

 俺の言葉に慧音さんは、満足そうに頷いて、隣にいたアリスに話しかける。

「そういえば、紹介がまだだったな。こちらは、不知火彼方。外の世界から来たもので現在は博麗神社でお世話になっている。ここの寺子屋にも何度かアルバイトしに来てもらっているよ、子供達の人気ものだ」

 慧音さんがアリスさんのほうを見ながら喋る。

 そんなに俺って子供達に人気だったっけ?結構俺が遊ばれているような気がしてるんだけど……

「えっと、はじめましてアリスさん。不知火彼方です。きょうの人形劇とっても凄かったです」

 そういって手を差し出す

 アリスさんはその手をとって

「はじめまして、さん付けは慣れないから、アリスでいいわよ。私も彼方って呼ぶことにするから。あなたの噂は魔理沙から聞いているわ。面白い能力を持った、面白い人間だ、ってね」

「ははは……」

 乾いた笑いが口から無意識に出てくる

 さては魔理沙の奴、俺の失敗談を延々と語りやがったな……!

「ところで、さっきから気になっていたんだけど……その子って吸血鬼よね?」

 アリスがフランちゃんの方を指さしながら聞いて来る。

「えぇ、そうですよ。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹のフランドール・スカーレットですよ。俺の友達なんです」

 とうのフランちゃんは、人形となんか話しているけど…………

 名前でも名乗っているんだろうか?フランちゃんは胸に手を置いてなにか言っている

 対する人形のほうは、シャンハーイ!シャンハーイ!って言ってるけど……名前かなにかなのかな……?

「魔理沙の言うとおりね……」

「え?」

 俺がフランちゃんと上海のやり取りに気を取られている隙に、アリスが何か言ったので、つい聞きなおしてしまった

「いや、なんでもないわ」

 頬笑むだけで教えてはくれないんだね…………

「ところでこの人形だけど、これが噂の半自立人形?」

「そうよ。名前は上海。そしてこっちが蓬莱。私の宝物よ」

 アリスの肩に乗っている黒い人形がホウラーイ!っと可愛らしい声を上げて挨拶?をする

「こんちには、蓬莱ちゃん。なるほど。フランちゃんと遊んでいるほうが上海ちゃんか。って……あれ?」

 先程まで聞こえていたフランちゃんの声が止んでいた。というか、二人の姿が消えていた

「…………さっきまで、いたよね?」

 俺は先程までいた場所を指さしてアリスに同意を求める

「いたわね。まったく……悪いけど彼方、探すの手伝ってもらえる?」

「オッケー」

 というか、上海ちゃんと一緒にフランちゃんも消えてしまったわけだし。

 このままフランちゃんをはぐれました。なんてことになったら慧音さんの立場と、俺が物理的に危ない。

 かくして、俺とアリスは人里のどこかにいるであろう、フランちゃんと上海ちゃんを探すことになった。

▽     ▽     ▽      ▽

人里の大通りに俺と蓬莱を肩に乗せたアリスが歩く

「それにしても…………どこにいったんだよ。フランちゃん。あんなに俺か霊夢に離れないって約束したのに」

 さては忘れているな。レミリアちゃんの妹だからな。ありうる。レミリアちゃんもよく約束を忘れるし……。いや、あの子の場合はわざとっぽいけど……

「大方、人里なんて行く機会ないから珍しくって色々と見て回っているんじゃないの?吸血鬼が人里に行くなんて聞いたことないし。上海は……なんとなくついて行ったのかもね」

 ということは…………フランちゃんの横で上海ちゃんがついて回っていると。それはそれで和むな。

「まぁ……それでも人里の人達に、何かあったら危ないし。さっさと見つけるほうがいいわね。じゃないと、霊夢が動くわよ」

 それはヤバい

 でも、焦ってたって見つかるわけじゃないしなぁ……

「え〜と、なんか話しながら見つけない?例えば……アリスと上海・蓬莱ちゃんの話とか」

 俺の言葉に一瞬アリスは立ち止まったが、すぐに歩き始めてポツポツと話し始めた

 金髪の少女と、半自立人形の優しい物語を────

▽    ▽     ▽      ▽

 元々人間だった私は、魔法の修行を積んで魔法使いというものになった。

 身体は食事を取らなくてもよい身体になった。それでも私は食事・睡眠どちらとも取っているが。理由は人間だった頃の習慣が抜けきってない。のと、睡眠を取ったほうが集中力が上がるからである。

 魔法と言っても、それぞれに属性というものがある。魔法使いにも色々とあり、何が得意で何が不得意なのか、それぞれ違うものだ。魔法使いとしての私は苦手な魔法も得意な魔法もなく、いわゆる万能型だった。

 そんな私が一番、心惹かれた魔法が人形を自在に操る魔法だった。

 自分の手や足の延長のように人形を操ることができたら、どんなにいいだろうか。

 その頃から私は人形作りに没頭した。人間の頃から手先が器用だった私には、人形作りはそんなに難しいことではなかった

 来る日も来る日も人形作りに精を出していた私は、やがて二つの人形を作りだした。

 名前は上海と蓬莱。自分の持ちうる知識をフルに使って作りだした最高傑作だった。

「こんにちは。上海、蓬莱。…………わかるかしら?」

 名前を呼び掛けたはいいけど、本当にこれで成功したのか不安でついつい付け足してしまう。

 そんな私をみてまるで、大丈夫と言っているように人形達は動きだした

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ!」

 そう言って可愛い声を上げた上海と蓬莱は私に抱きつく

「キャッ!……もう、全く……」

 人形でありながら、人形じゃない。そんな二人に私は口でこそ怒っているようにしながらも本当はとっても嬉しかった。なんだか新しい家族ができたような気がするから。

「よろしくね?二人とも」

▽     ▽     ▽     ▽

「それからは、どこに行くにしても上海と蓬莱と一緒よ」

「へ〜。んじゃ、一番の友達なんだな」

「友達というより、宝物ね」

 アリスは俺の隣を歩きながら、どこか誇らしげにしている。蓬莱も、首を縦に振って肯定の意を示している

 宝物で一番の友達か…………。それってまるで───

「まるで、可哀想な人だな。とか思ってるんじゃないの?」

「うぇ!?」

 いつの間にかこちらを向いていたアリスが俺のほうにそう質問してくる

「いやいや!?誰もそんなこと思ってないよ!?」

「本当かしら?魔理沙が勝手に本を持ちだして、そのことが私にバレた時と同じ顔になってるわよ」

 それは一体どんな顔だよ

 アリスは何を勘違いしているのか、俺がアリスを可哀想認定していると思い込んでいるらしい。

 なんとか誤解を解かないとな……

▽    ▽    ▽     ▽

 彼方とアリスが探している中、フランと上海もまた二人を探していた

「う〜ん…………お兄ちゃんが迷子になっちゃったね」

 あっちをきょろきょろ こっちをきょろきょろ

 フランは人里の店の中を覗きながら肩に乗せている上海に彼方が迷子になった旨を伝える

「シャンハーイ!」

「え?アリスがいるから大丈夫?う〜ん……でもお兄ちゃんだしな〜。何かしているかもしれないよ?」

「シャンハーイ……」

「あぁ!ごめんごめん!そんなに落ち込まないで!大丈夫!お兄ちゃんにアリスをどうこうなんて勇気ないと思うから」

「シャンハーイ!」

 フランの言葉を聞いて、元気な声を上げる半自立人形こと上海。先程から落ち込んだり、喜んだりと忙しい人形である。

「ねぇ上海?上海はアリスと一緒にいれて嬉しい?」

「シャンハーイ!」

 フランの問いに元気いっぱいで答える

 その様子をみてフランは微笑む

「おや?そこにいるのは、アリスちゃんの人形じゃないのかい?」

 後ろから聞こえてきた声に二人は振り向く。そこには、少し太り気味で優しい雰囲気をした女性が立っていた

「やっぱり人形さんじゃないか。こんなところにいたのかい。アリスちゃんが探していたよ?」

 女性はそのまま目線を合わせるためにしゃがみこんで

「お譲ちゃんがフランちゃんかい?お連れさんが探していたよ?」

「あッ!それお兄ちゃんだ!ねぇおばさん、どこ行ったか知ってる?」

 おばさんと言われた女性は怒ることもなく、フランに先程までアリスと彼方がいた場所を教える。

「ありがとう!おばさん!」

 フランはというと女性にお礼を言ってから上海と一緒に彼方達がいるであろう場所まで一目散に駆けて行った。その後ろを上海がひょこひょことついて行く。その様子に人里の男達はかなりときめいたという

▽     ▽     ▽      ▽

 先程から俺は必至に誤解だということをアリスに説明している。

 説明すること数十分。アリスは分かってくれたのか、俺の顔の前に手を出してきた

「ストップ。もう、十分わかったわよ。それに魔理沙の話を聞いているかぎり、あんたがそんなこと思うような人間じゃないのは分かってるわよ。なんたって、吸血鬼の妹のために命張るくらいだものね」

 くすくすと笑いながらアリスは俺の鼻を、ちょんと押す。

 ははーん。…………ハメられたわけか。

 それでもアリスが笑っているんだから、それでいいや。

 そう思ってしまう自分は随分と甘いのかもしれない。

「おにいちゃーん!」

 前方からの聞きなれた声に思わず前をみる。

 そこには上海を肩に乗せて走りながら大きく手を振っているフランちゃんがいた。

「フランちゃん!どこいってたんだよ。心配したんだぞ?」

「えへへ。ごめんなさい、お兄ちゃん。人里ってあんまり行かないからついつい色々見て回りたくって」

 笑顔全開で答えるフランちゃんに俺は、怒る気力がなくなってしまう

「上海もよ。勝手に居なくなったりして、心配したのよ?」

「シャンハーイ……」

 アリスが幼い子供をしかるように人差し指を上海の前で立て、めっ、っと怒る。アリスに怒られた上海は、声も幾分か小さく、しゅんとして答える。

 そんな上海を見かねたのか、フランちゃんが一歩前に踏み出して何か言おうとするが、その前に俺が口を優しく押さえる。

「全く、いつもいつも勝手にどっか行って…………心配するこっちの身にもなりなさいよね」

 アリスはそう言って上海の頭を優しく撫でる。

「シャンハーイ!」

 たまらずアリスに抱きついて、胸の中に顔をうずめてすりすりする上海。そこに蓬莱も加わり、アリスの周りだけ別空間に発展する。

「こ、こら!?やめないさい!?まったく……彼方も悪かったわね。上海探すの手伝ってもらって」

「いや、こっちとしても結果的にはフランちゃんを見つけることができたんだし。お互い様だよ」

 頭を下げるアリスに俺も下げる。あんまりこんなことをしていると、人里の人からおかしな目で見られてしまうので、二人して止める。

「ほら、二人とも帰るわよ」

 アリスが上海と蓬莱の手を引いて去って行こうとする

「それじゃあね、彼方。また今度でも外の世界の話でもしてくれないかしら?」

 その途中、アリスは俺のほうを向きそう話してきた。

「俺でよかったら喜んで。人形大好きで乙女チックなアリスさん」

 アリスは俺の言葉に驚いた顔をするが、すぐに俺の顔をみてにやりと笑い

「さようなら、幻想郷一のお馬鹿さん」

 今度は振り返ることなく、歩いて行った。

 小さな友達で、なによりも大きい宝物と一緒に────

▽    ▽    ▽     ▽

 彼方達が去った後、一人の少女と一人の女性がそこに立っていた。

「まったく……ちゃんと見張ってなきゃダメでしょうに。なにしてんのよ、あの馬鹿」

「まぁまぁ、吸血鬼の妹ちゃんのほうも大人しく人里の見ていただけだったし、被害もなにもないんだからいいじゃないの」

 少女が額に手を置いてため息をつく横で、女性のほうはニコニコとした笑みでフォローする

「それにしても、あなたも一緒に探せばよかったじゃないのかい?こんな面倒なことしなくても……」

 女性によるもっともらしい問いかけに、少女は身体をもじもじさせて

「だって……いまさら出て行くのもカッコ悪いし……。それになんだかストーカーみたいじゃない」

 身体をもじもじとさせてそう言う少女に女性は、やれやれといった様子で答える

「元にストーカーじゃないの。後ろをこそこそとつけ回ったりして」

「ち、違うわよ!?これはフランが何か起こさないように監視を────」

「アリスちゃんとあの少年が楽しそうにお喋りしている時の貴女の顔、ものすごく怖かったわよ?」

「う゛!?」

 痛いところを突かれた少女はそれきり黙ってしまった。

 そんな少女を面白そうに、くすくすと女性は笑う

 笑われた少女は、頬を膨らませて反論しようとするが、女性の顔をみて無駄だと悟りそのまま口をつぐんだ。

「それにしても…………彼、面白い子ね。色々と」

「あげないわよ。絶対に」

 女性の指す彼が何者なのかすぐに分かって少女は、先程とは打って変わった表情で女性にキツク言い含める

 その様子をみた女性は、やれやれ……といったぐらいに肩を竦ませ

「まったく……。彼、後ろから刺されなきゃいいけどね」

 女性の言葉は、何か考えごとをしている少女の耳に届くことはなく、晴天の空に溶けて消えていった




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