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13.春の雪



 『訪れた春は、寒かった』

 ある所に一人の少女がいた。少女の家柄は伝統があり、少女自体も生粋のお嬢様であった。おしとやかで清楚な少女は周りからみてもとても可愛らしかった。

 しかし、少女の周りにはいつも死体だけが転がっていた。自分を好いていた男も、自分が大好きだった家族も少女には触れることができなかった。

 少女は自由に死に誘うことができたのだ。しかしその力を少女は自分の力で操ることができなかった。触れる者、近づく者を例外なく死に誘ってしまったのである。

 少女は自分を呪い、力を呪った。

 そんな時だった。自分と同じように未知な力を用い、自分自身を妖怪だと名乗る女の子に出会ったのは。

 少女は喜んだ。やっと自分の傍に居てくれる者が現われたことを。

 少女は喜んだ。やっと自分を怖がることなく接してくれる存在を見つけたことを。

 女の子は紫と名乗り、毎日毎日遊びに来てくれた。

 少女にとって紫と話している時間がなによりの楽しみだった。

 その時だけは自分が女の子なんだと自覚することができたのだから。

 紫が何か言うたびに少女が笑い、少女が何か言うたびに紫が笑う

 それは幸せの時間だった。

 しかし時間とは、かくも無常に過ぎていくものである。

 それは二人の少女にとっても例外でなく、幸せの時間は唐突に終わりを告げた。

 紫が泣き崩れる傍らで少女は安らかに死んでいた。

 その顔は、ようやく苦しみから解放させたかのような顔をしていた。

 少女の死の理由は明らかであった。

 自分の能力が原因だった。少女には自分の能力で人が死ぬことに耐えれなかったのだ。

 その日は庭の桜が満開で綺麗に咲き誇っていた。

 少女の口が小さく動く

 その声は誰が聞くこともなく、ただただ桜の木だけが少女の死に様を黙っているみているだけであった───

▽    ▽    ▽    ▽

 春

 それは新緑が芽吹き、長い冬眠から目覚め、人々が新しいことに向かって一歩を歩きだす季節

「だというのに……いまだに冬なんですけど。暦的にはもう春だよな?」

 外の世界ではとっくに春を迎えている頃だというのに、幻想郷ではいまだに雪が降り積もり、寒い日々が続いていた。

 初めに内は、少し冬が長いんだろうな。と思っていたがここまでくると疑問を持たないほうがおかしいくらいだ。

「そうね。これは流石におかしいわね……」

 彼方の対面に座りお茶を飲んでいた霊夢も、いつにもまして真剣な表情をしている。

「ここまでくると『異変』じゃないのか霊夢」

 霊夢の隣では遊びに来ていた魔理沙が顎に指をおいて霊夢に問いかける

『異変』

 彼方はそのフレーズを何度か聞いたことがある。

 異変とは外でいうところの事件みたいなものである。 しかし、その事件の規模が違うのである。幻想郷を国で例えるとするならば、その国を揺るがすほどの大事件、それを『異変』と幻想郷の人達はいう。 そしてその異変を解決するのが、博麗霊夢と霧雨魔理沙というわけだ。

「確かに、これは異変と呼んでもよさそうね」

 霊夢は飲んでいたお茶を静かに置き、立ち上がる。

 それに続き魔理沙も立ち上がった。

「え? 二人とも何しにいくんだ? というか、どこ行くんだ?」

 二人が立ちあがったことに疑問を覚えた彼方は、二人を交互に見やりながら問いかける

「なにって…………ちょっと、異変の元凶の所に」

 彼方の問いかけに、しれっと答える魔理沙

 そんな魔理沙を霊夢は無言で背中を押して、外に追い出した。

 二人が行くなら俺も行くよ

 そう言おうとした彼方に先手を打って霊夢が背を向けたまま、彼方に告げる

「あんたは絶対、来ないこと。じっとして家で待ってなさい。いまのあんたが来ても足手まといにしかならないわ」

▽     ▽      ▽      ▽

「『足手まといにしかならないわ』だってよ。いくら、いまだに俺がろくに飛べないで、弾幕も通常時では少量しか撃てないからといって、あんまりじゃないかな。こう……もう少し言い方とかもあると思うんだけどさ。 それに、行く寸前で来た咲夜さんはokだったんだぜ? どう思う?アーちゃん」

「まずはその呼び方をどうにかしてくれないかしら?寒気を通り越して、嘔吐してしまいそうよ」

 人里の少し洒落た喫茶店の店内にて、彼方は先程あったことをアリスに話していた。

「だいたいなんで私があんたの愚痴を聞かないといけないわけ?」

 彼方の対面に座るアリスは上海と蓬莱を隣に座らせたまま、自分は頼んでいた紅茶を一口啜りながら彼方に問いかける

「え?だって友達だろ? それに、たまたま人里に行ったらアリスがいたから、つい」

「つい、で人を呼びつけるな!大通りであんなに大声出して……呼ばれるほうの身にもなりなさいよ!?」

「え……?あれが普通じゃないのか? 外の世界ではいっつも、幼馴染とはこんな感じだったんだけど…………」

「私なら恥ずかしすぎて悶死できるわ」

 やれやれ……といった具合に頭を振ったアリスは

「だいたい…………なんであんたは人里にいるのよ?霊夢に家でじっとしてるように警告されたんでしょ?」

 そもそもの原因である、何故ここにいるのかを問いただした

「いや、俺もそうしようとしたんだけどさ。家に塩が無かったら急遽買いに来たんだよ。ほら、霊夢達ってどうせ腹空かせて帰って来るだろうから、おにぎりでも作ろうと思ってさ」

「ふ〜ん……。案外いいとこあるじゃない」

 彼方の言葉にアリスは一つ頷いて、店内に掛けてある壁時計をちらりと見て立ち上がる

「まぁ、確かに異変解決した後なら、お腹も空いているかもしれないしね。 それじゃ、私はもう行くから」

「おろ? そういえばアリスは何しに人里に来ていたの?」

「いまさらそれ聞くの? はぁ……人形作りの材料を買いに来ただけよ。もう少し回ってみようと思うけどね。 あ、会計が私がしておいてあげるわ。今月厳しいんでしょ?」

「はは……。サンキュ」

 俺が苦笑いで手を振ると、アリスを軽く手を振って本当にそのまま会計を済ませて店を後にした。

「さて…………これからどうしようかな。 せっかく来たんだし、このまま帰るってのもなんかな〜」

 肘をついて外の様子を見ながら、これから何をしようかぼんやりと考える

「あややや。こんな所に珍しい人がいますね〜」

「ん? あぁ、文じゃないか。文こそこんな場所に来るんだな」

 後ろから放たれた声に、聞き覚えがあり振り返ると、そこには幻想郷のブン屋こと射命丸文がピースサインをしながらカメラを構えていた

「店内では撮影禁止だぞ」

「大丈夫ですよ。それくらい分かっていますから。 ちぇっ、あなたのいまの姿を写真に撮ればそこそこいい値がついたのに……」

 本当に残念そうにカメラをしまう文

「撮る気満々じゃないか。そして俺の写真なんか誰が買うんだよ」

 俺が肩を竦めながら言うと、文は何故か可哀想な者をみる目で肩を優しく叩いてきた

「…………なに、その手は、目は」

「いえいえ、何も」

 ふと気付くと先程から文が立っていたままなのを思い出して、席に座るように促した。ここに来たということは、店の商品を食べに来たってことでいいんだよな?

 文は、それじゃ失礼しますね。と言って先程までアリスが座っていた椅子に座り、注文を取りに来た店員に紅茶とケーキを注文した後、改めてこちらに向き直った。

「して……今日は彼方さん一人ですか? あの霊夢さんが一緒にいないなんて何かあったんですか?」

 野次馬根性丸出しで聞いて来る文

「別に俺と霊夢はセットじゃないんだし、なんなんだよ。お前のその反応は。 霊夢は異変を解決しに行ったよ。魔理沙と咲夜さんと一緒に」

「あぁ、やっと行ったんですか」

 俺の言葉に文は納得したように首を縦に振って

「それで彼方さんは行かないんですか?」

 痛いところを突いてきた

「う゛!?」

「あやや!その反応!何か言われましたね!」

 ずいっ!と身を乗り出して彼方に問い詰めようとする文。 

「べ、別になんでもないよ!? そ、そうだ!文こそ行かなくていいのか!?新聞に載せたら誰もが目を引くようなネタがあるかもしれないぞ!」

 彼方に言われた文は、乗り出していた身を一旦引いて椅子に座り直すと

「う〜ん……行ってもいいんですけど…………ブン屋の勘がこれからもっと面白そうなことが起こると告げているんですよね」

 顎に手を当てて可愛らしく首を動かしながら、彼方にいう

「えー。これ以上ブン屋が喜びそうなことはないと思うんだけどな……。そもそも文の勘なんて当たんのかよ?」

「むっ!失礼ですね。ちゃんと当たりますよ」

 文は注文していた紅茶が来たので、それを一口口に含み自信満々に

「いいですか? 明日の新聞は絶対彼方さんが驚くような記事を書きますからね!」

「まぁ期待しないで待っとくよ」

 そう言って席を立って、文に手を振りながら店を後にした

▽     ▽      ▽      ▽

 雪が積もっている道を彼方は一人で歩く。その手には人里で買ってきた塩を持っている。

 外の世界で好きだった音楽を口ずさみながら歩いていると、前方から見知った妖怪が歩いてきた。

「あら、彼方じゃない。こんな所で一人でいると危ないわよ?」

「こんにちは、レティさん。大丈夫ですよ。低級妖怪程度ならなんとかなるレベルになってきましたから」

 もちろん逃げるレベルであるが。

 俺がそう言うと、レティさんはくすくすと笑う

 そういえば……レティさんは何してるんだ? このまま真っ直ぐいけば、人里の行くけど何か用事でもあるんだろうか…………?

「レティさんはこれから何するんですか?」

 俺がそう聞くとレティさんは、穏やかな笑みを浮かべて言った

「人里の人達にちょっと用事があってね」

 なんだ〜。レティさんも人里に用事があるのか〜。 どんな用事なんだろうかな。

 それを聞こうとした所でレティさんはそのまま、それじゃと言って歩き出した。

 ほんとに何しに行くんだろ?

▽     ▽      ▽      ▽

 博麗神社へと帰った俺は、炬燵の中に足を突っ込んでさっき会ったレティさんのことを考える

 レティさんは人里に用があると言っていた。

 用事って一体なんなんだろうか?

 文みたいに店で何かを食べる? いまいちピンとこない

 アリスみたいに何かを探している? それも微妙

 なら、なんなんだろうか? それも、こんな異変の時に……

「ん……?異変?」

 そういえば……依然霊夢が言っていた。幻想郷の妖怪は基本的に自分勝手でわがままばかりだと。 なのでたまに人里を襲うこともある。と…………。 基本的に人里は慧音さんが守っているし、人里の人達を襲う妖怪は霊夢が退治する。

 だがいまは異変の真っ最中

 霊夢は異変解決に乗り出している。慧音さんはどうかわからないが、人里全体のことまでは分からないかもしれない。 もしかしたら、能力でなんとかなるのかも知れないが…………俺は慧音さんの能力を知らないのだ。

 そんな状態でもし、妖怪が襲撃してきたら……?

「まさか……レティさんにかぎって、そんなことは……ね?」

 口ではそう言ったものの、嫌な想像だけが膨らんでいく。

 自分が寺子屋で勉強を教えた生徒達

 生活が苦しいのを知ってて、皆には内緒でまけてくれた八百屋

 外来人にも係わらず、みんな俺に親切にしてくれた。

 気付いたときには足が勝手に動いていた

 玄関で靴を履き、石段を三段飛ばしで降りる

 別にレティさんを疑うわけではない。…………これは、確認なんだ。

 そう自分に言い聞かせて、俺は先程まで歩いて帰って来た道を、今度は走って戻って行った

▽     ▽     ▽     ▽

 真っ白くて美しい雪の道をレティ・ホワイトロックは歩く。

「もうすぐ人里。ふふ……。異変の最中で助かったわ。いくら冬だからといって、あの博麗の巫女とやり合うのは避けたいものね」

 幻想郷の妖怪にとって、人里の人達というのはある意味大切な存在である。

 だから妖怪の賢者こと、八雲紫がわざわざ外から人間を連れてくるのだ

 別に人里の人達を皆殺しにするのではない。 ほんの少し脅かす程度だ。冬が終わればほとんど外に出ることはない私にすれば、そうしないと人々の記憶に残らないのだ。

 妖怪にとって「忘れ去られる」ということがどれほど辛いことか。

 私の背後で雪を踏む音が聞こえてくる。それと同時に、ここまで全速力で来たのだろうか、荒い息を吐いて、私の名を呼ぶ少年がいた。

 ねぇ?あなたは私のことをずっと覚えていてくれるのかしら? それとも、春が来たらすぐに忘れてしまうのかしら?

「あら、彼方。先程ぶりね」

 あの寒い冬の中、嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれた少年、不知火彼方くん?




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