14.白玉楼での大決戦!!



 時は少し前に遡る

 彼方を博麗神社に置いて、異変の元凶を解決しに来た霊夢・魔理沙・咲夜はそのまま真っ直ぐ、元凶であろう場所に向かっていた

「なぁ霊夢。ほんとにあいつ置いてきてよかったのか?」

 自分の少し前を駆ける霊夢に声をかける魔理沙。

「よかったもなにも、今の彼方の実力じゃ妖精を倒すのが精々じゃない。 そんな状態で連れて行ったりしたら、そっちのほうが危ないに決まってるじゃない」

「なるほどなるほど……ようは彼方を連れていくと心配でうまく行動できないと……」

「ち、違うわよ! だ、誰があんな奴なんか……!?」

「そういえば、人里の娘から熱烈なアタックを受けてたな、あいつ」

「…………へぇ」

 二人の会話を横で聞きながら咲夜は、はぁ……、とため息をついた

 先程言ったことは全部魔理沙の出鱈目だろう。元に魔理沙の顔は、霊夢を弄れて嬉しい。といった風な顔をしている。 

 まぁ……もしいまのが本当ならば紅魔館からも彼方にキツイ何かがありそうではあるが。

 それにしても……あの彼方のことだ。どうも大人しく私達の帰りを待っているとは思わない。 彼の性格からして、またなにかに巻き込まれてるような気がしてならない…………。 まぁ、彼のことだからまたどうにかするでしょう。

「それよりも、早くこの異変を解決しちゃいましょう。お嬢様が花見をしたくてうずうずしているのよ」

 春の季節が近づくにつれて段々と花見の話題が増えていた紅魔館。

 やはり桜の下で飲む酒は普段とは少し違うのだろう。

「ん?そういえば、霊夢のところにも酒好きでお祭り好きの鬼がいたよな?」

「えぇ。彼方が居ないときに私の傍に来て、いつもぼやいていたわよ。花見はまだなのか。とね」

 やれやれと言ったように話す霊夢

「けど、いまから解決しても花見ができる期間は短いだろうな」

 雪が降っているから誤解しがちだが、いまの暦は5月なのである。 この異変を解決したとしても、できる回数といえば指の数で足りる回数である。 

 それでも十分だろうと感じる者もいるかもしれないが、霊夢や魔理沙からしてみたら異常に少ない回数である。 もっとも、宴会のたびに毎回準備する霊夢からしてみたら少し喜ばしいことであるが。

「そうね。まったく…………異変を解決してもなにか一波乱ありそうな予感がするわ」

 小さな身体で、いつも酒を入った瓢箪を持っている二本角の鬼を頭に思い浮かべながら小さくため息を吐いた

▽     ▽     ▽     ▽

「もうすぐね……」

 綺麗な桃色の髪を一度かきあげて一人呟く女性がいた。 その女性の周りには2・3体の亡霊がフヨフヨと浮いていた。亡霊はその女性の周りをくるくると動きまわる。

 そんな亡霊に軽く笑いながら、女性は後ろをゆっくりと振り返る

「それで、何しに来たのかしら?紫」

 振り向いた女性の目の前。 そこには妖怪の賢者こと、八雲紫が立っていた。

「随分と大がかりなことをやっているようね、幽々子。幻想郷中の春度を集めるなんて」

「ふふ。ビックリした?」

「当たり前よ。おかげで寝過ごしちゃったじゃない。まったく…………。どうりでいつになっても春が来ないはずだわ」

 腰に手を当てて怒っている紫に、幽々子と呼ばれた女性は上品に口に手を添えて笑った。

「まったく。こんなことして一体何をしようとしてるわけ?」

「この桜の木の下に眠っている人を起こしたいのよ」

 辺り一面桜が咲き誇っている中に一つだけ咲きかけの桜の木を指さしながら幽々子は言った

「幽々子…………」

「『富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ。その魂、白玉桜中で安らむ様、西行妖の花を封印してこれを結界とする。 願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ……。』ねぇ紫。不思議だと思わない? ここは冥界であり、そのほとんどが霊体。 そんな中で何故この桜の下にいる人物は亡骸であり続けるのか?私は疑問であると同時に興味でもあるの。 そしてその答えは、これを満開にすることができれば解決するの」

「……………………」

 紫はその語る幽々子の顔をみることができなかった。

 その昔、紫には女の子で人間の友達がいた。その子はとても特別で人間が手にするには大きすぎる力を持っていた。 そしてその能力ゆえか、その子の周りには誰もいなかった…………。 そんな時だった。紫が女の子に声をかけたのは。 女の子は、はじめは紫の存在に驚きはしたもののすぐに心を開いた。 

 とても楽しい毎日だった。紫が話すとその子は笑い、その子の笑顔を見るたびに紫も笑った。 

 だが、その子と仲良くなることで、その子が抱えているものがどれだけ重いものなのかということを紫は知ってしまった。

「どうしたの?紫。 顔色が悪いわよ?」

 幽々子の声で紫は無意識に下げていた顔を上げる

 そこには心配そうな顔で首を傾けた友達がいた。

「大丈夫なんでもないわ。それよりも、もうすぐ来るわよ?幻想郷の異変解決人たちが」

 幽々子に笑顔で心配ないことを告げて、もうじき来るであろう異変解決人のことについて触れる

「あなたの庭師が弱いとはいわないけど、それでも一人は此処に来ると思うわよ」

「丁度いいじゃない。その子からも春度を取っちゃえば、この桜も満開になると思うし」

「そう……。だったら私は何も言わないわ」

 すき間を作り、その中に入る。幽々子の決意が変わらない以上、これから先は自分は傍観者として見守ることにしたのだ。 

「紫」

 すき間を閉じる瞬間、後ろから幽々子の声が聞こえてきた

「どうしたの?」

「ありがとう」

 後ろから放たれた言葉に、紫は手を軽く上げてこんどこそすき間を閉じた

▽     ▽     ▽      ▽

 異変の影響で好戦的になっている妖精達を叩きのめしながら進んできた霊夢達は一つの門の前で立ち止まった。

「まさか冥界まで来ることになるなんてな〜」

 辺りを見回しながら魔理沙が呟く。 その周りには霊体がふよふよと浮いていた

「まったく…………。こんな所にまで来させるなんて、ただじゃおかないわよ」

 博麗神社から霊夢達のスピードで結構な時間をかけてここまで来たのだ。

「そんなこと言ってないで、さっさと行きましょう。お嬢様と紅魔館が心配だわ」

 咲夜は自分が居ない紅魔館が今頃どうなっているのか少し心配だった。 そして自分の主人であるレミリア・スカーレットが心配でたまらなかった。

 それもそうね。そう言って門を潜ろうとした瞬間

「お待ちください」

 腰に二本の刀を差した白髪の少女が霊夢達と門の先を結ぶように出てきた

「ここから先は一方通行です。申し訳ありませんが、来た道を戻ってください」

 腰に差した二本の刀の一つを手に取り、霊夢達の方に向けながら喋る

「そうしたいのは山々なんだけどね……。こっちも、「はいそうですか」って言って帰るわけにもいかないのよね。」

 やれやれ…………と首を横に振りながら決して戻ろうとはしない霊夢をみて

「そうですか……。ならば───」

 キンッ──!!

「ならばその首貰います、ってことかしら?」

 腰に差していたもう一つの刀を引き抜き、霊夢の首を一閃しようとした少女の目の前に咲夜が躍り出り、ナイフで刀を受けていた。

「ここは私に任せて貰えるかしら?霊夢」

「あら、いいの?」

「えぇ。そのかわりさっさと倒してきてちょうだい」

 言われた霊夢は、少女の横をそのまま通って、屋敷の中へ入って行く

「あ!待ってください!」

「貴女はここで私と遊んでもらうわよ」

 すぐさま霊夢を追いかけようとした少女であったが、その足目がけて咲夜がナイフを投げてきたので、それを回避すべく横に避ける

「しょうがないですね…………。貴女をさっさと倒してすぐにあの巫女を追うことにしましょう」

 既に見えなくなって霊夢の追跡を諦めて、目の前にいる咲夜を倒すことに専念した少女は一度刀を納めて、居合いの格好をとる

「その心配は無用だから大丈夫よ。」

 対する咲夜も自分の周囲にナイフを散らばらせて、迎撃の態勢をとる

「魔理沙。手は出さないでね」

「分かってるって」

 咲夜から手出し無用と言われた魔理沙は、離れた所で二人の勝負を見守ることにした。 本当は自分も勝負したいのだけども、させてもらえなそうだし、なによりそんなことしたら、後で咲夜になにされるか分からない……。いや、それもそれでありだけども。

「(はぁ〜……仕方がない。後で彼方と弾幕勝負でもするか)」

 そう心に決め、二人の勝負を見守る魔理沙であった

▽      ▽      ▽      ▽

 少女を咲夜に任せた霊夢は一人で長い階段を飛び続け奥へと進んでいた。

「こんにちは。随分と遅かったわね」

 長い階段がもう少しで終わる、といったところでいきなり空間からすき間が出てきて、そこから声が聞こえてきた。 そしてその中からスルリと金髪の女性が出てきた。

「あなたは覚えているかしら?私の顔を」

「えぇ。覚えているわ。私が先代巫女から受け継いだ時にいたわよね」

 霊夢が昔先代の巫女から博麗の巫女を受け継いだ時に傍にいた人物だった。先代からは妖怪の賢者である、と教えられた。

「それで一体なんのようなの?邪魔するのであれば、ここであんたから倒すけど…………」

 懐から一枚のお札を取り出す霊夢に紫は、手を上に上げて

「私は別にあなたと勝負をするために来たんじゃないわ。むしろ、彼女を止めてほしいのよ」

「止める……?もしかしてあんたこの先の人物と関係があるの?」

 そう聞く霊夢に静かに首を縦に振った紫

「今のあの子には私が大きく関わっているからね……」

 そういった紫の顔はどこか寂しそうだった。

「ねぇ霊夢。あなたは……大切な人が自分よりも先に死んだらどうする?」

「それは……仕方がないんじゃないのかしら。生きているかぎり、『死』というものには逃れられないだろうし」

「確かにそうね。なら、その子がずっと生きている間苦しんで苦しんで、あげくの果てに自害したのならどうする?」

「それは……」

「私はもう一度あの子に転生して同じ苦しみを味わってほしくなかったの。だからあの子の骸を西行妖の下に封印した」

 いつものように訪れた場所には、自分にいつも笑いかけてくれていた友達が満開の桜の元で息を引き取っていた。

 自分はあの子を救えなかったのだ。 自分が願ってもいない能力で人生を翻弄された少女。人間ではじめて友達になった少女。そんなあの子を私は救えなかったのだ。

「このままいけば、あの子は西行妖の封印を解くでしょう。もしも西行妖の封印が解けたならば、止まっていた時間が全て動き出すでしょう」

 そうしたならば、止まっていた時間は全て止め処なく流れあの子の死に繋がるだろう。

「私じゃあの子を止めることはできない。……だから霊夢。お願い、あの子を止めて」

 そう言って頭を下げようとした紫の額に霊夢は手を差し出し止める

「悪いけど、あんたとこの先にいる人物の関係なんて知らないし、興味もないわ。それにそういうのは私じゃなくて、もっと相応しい奴がいるからそいつにでも相談しなさい。その馬鹿なら私の神社でいつも庭掃除してるから」

 そう言って紫の横を通り過ぎていく

「私は私の目的でこの異変を解決しに行くわ。こう寒いと炬燵代だって洒落にならないし、なによりあの馬鹿に幻想郷の桜を見せたいしね」

▽     ▽      ▽     ▽

 はらりはらりと桜が舞う

「いい光景じゃない。流石は幻想郷中の春度を集めただけあるわね」

 その桜をみながら、博麗霊夢は中央に佇む女性に声をかけた

「ふふ。綺麗でしょ?あなたもここで花見なんてどうかしら?」

 女性は霊夢のほうにゆっくりと振り返りながらそう声をかける

「悪いわね。あいにく花見は誰と、どこでするか決めてるのよね。だから────」

 さっさと返して頂戴────?

 ふいに放たれた霊夢のお札を幽々子は全て防ぐ

「あら〜、ひどいじゃない。不意打ちなんて」

「手が勝手に滑っただけよ」

「手が滑ったのならしょうがないわね」

 幽々子が言葉を発した瞬間、霊夢に大量の弾幕が襲いかかる

「ごめんなさいね?手が勝手に滑っちゃって」

「手が滑ったのならしょうがないわ」

 うふふ…………。と二人して笑う。

「私は博麗霊夢。あなたを今回の異変の犯人として少しばかり痛い目にあってもらうわ」

「ちょうど春度が足りなかったとこなのよね。あなたが来てくれてよかったわ」

霊夢は自分の周りに針とお札を展開し、幽々子は黒い蝶を周囲にばらまく

「「さぁ、はじめましょう?」」

 その瞬間、春を取り戻すための弾幕勝負が始まった




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