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15.雪を溶かすは光の波動



 私の目の前には一人の少年が立っている。その少年は荒い息を整えてから私に話しを切りだした。

「えっと……もしかしてレティさんも人里に用があるんですか?……その塩を買いに来たとか……」

 苦笑いを浮かべながら私に問う少年に、私は満面の笑みで返した

「いいえ、違うわ。ちょっと人里でひと暴れしようと思ってるの」

 私の答えに少年の苦笑いが消える。

「……そんなことしたら霊夢が黙っていませんよ?」

「あいにく博麗の巫女は異変を解決にいってるでしょう。私の目からみてもこの季節外れの雪は異変にうつるもの」

 私の切り返しに少年は押し黙る

「話しはそれで終わりかしら?それなら私は用事があるから行かせてもらうわね?」

 私は呼びとめられて止めていた足を再び動かす。

 さぁ、どうやって脅かしてやろうか? そんなことを考えながら歩いていると、頬に何かが通り抜ける。 そしてその数秒後に頬を伝わる赤い雫。

「ふふ……。酷いことするわね。レディの顔に傷をつけるなんて……」

 私はもう一度、ゆっくりと振り返る

「……すいません、レティさん。流石の俺もいまのあなたを黙って見送るわけにはいきそうにないですわ」

 先程までとは打って変わった表情で私を射抜くその姿。 これぞ、まさしく私が望んだものだった。

▽     ▽     ▽      ▽

 俺は銃を構えたままレティさんをまっすぐに見つめる。

 レティさんはあくまで軽く笑うだけだ。

 しかしそれはそうだろう。カッコつけたはいいものの俺とレティさんの間にある力量差は歴然である。まったく……呆れるな、俺自身に。これじゃ、勝負なんかにはなりそうもないよ。

「あら…………?来ないのかしら?私を止めるんでしょ?」

「そうですね。んじゃ……いかせてもらいますよ!」

 変化させた装飾銃で弾幕を撃ちだす。弾幕は一直線にレティの方へと向かい

「なんとも弱弱しい弾幕ね」

 レティに届くことなく、レティの目の前で消えていった。いや、レティの目の前に出来た雪の壁に当たった。といったほうが正しいだろうか。

「くそッ……!」

 雪の壁をみて彼方はレティの正面から横へと移動しようとしたが

「無駄よ」

「──!?」

 移動しようと足を踏み出した瞬間、彼方が置いた足がまるで底なし沼にはまったかのようにズプズプと入り込み、その場で身動きがとれなくなってしまった。

 足をひっこ抜こうと動かすも、動かせば動かすたびに下へ下へと吸い込まれていくような感覚に陥る。

「ふふふ。そういえば、あなたは私の能力を知らなかったかしら?」

 先程から一歩も動いていない場所でレティは彼方に話しかける。

「というか、レティさん。能力持ちだったんですね……」

 いまだに抜けない足を抜こうともがきながら、なんとか返事を返す。

「あら、それも知らなかったの?」

「聞いてませんでしたし」

 彼方の答えを聞くとレティは、くすくすと笑ってゆっくりと彼方の方へ歩き出した。

「私の能力は『寒気を操る程度の能力』よ。あなたにも分かるように言ってあげるとするならば……雪や冬を自在に操れる、とでも言い換えればいいかしらね?」

 彼方の元まで来たレティは、動くこともできずにいる彼方の顔に手を添え

「これがどういうことか、分かるわよね? いまの貴方は私に捕えられた憐れな人間なのよ」

 顔がもう少しで触れ合う。という距離まで接近して官能的な声で彼方に甘く囁く

「はは……。レティさんみたいな人と一緒にいれるのならそれもいいかもしれませんね」

 ただ……、と彼方は小さく呟き

「俺じゃ貴女みたいな素敵な女性とは釣り合いませんよ」

 もっていた装飾銃を片手で回し、逆手に持ちかえてレティの無防備な腹へと弾幕を浴びせる

 油断していたところでの弾幕攻撃に思わず後ずさる。 しかし、弾幕を喰らったのにもかかわらず、レティは痛がる素振りなど微塵もみせなかった。

「おいおい…………。流石にへこみますよ。あんなに特訓してんのにレティさんピンピンしてるじゃないか…………」

 会心の一撃をおみまいできたと思っていただけに、彼方はレティの様子をみてがっくりとうなだれた。

「ふふふ……。いえ、あなたの一撃は結構良かったわよ。すくなくとも私が冬以外に喰らっていたら、いまの一撃で流れが変わったかもしれないわね」

 そう、彼方の攻撃は確実にヒットしていたし至近距離からの現段階で撃てる弾幕量の全てを撃ち、かつ力をかなり注いだ彼方の弾幕はそれなりの攻撃力になっていた。

 ただ時期が悪かっただけなのだ。レティ・ホワイトロックという妖怪は春・夏・秋では妖精のチルノにも負けるほどの弱さであるが、冬であるならばその力は絶大なものへと変貌を遂げる

「そろそろ私からも仕掛けてみようかしら…………」

 レティが呟いた瞬間に、拳ほどの大きさの雪の塊が彼方に襲いかかる。

「がッ!?」

 想像を絶するような痛みに彼方は思わず声になっていない声を上げる。 しかしレティはそんなこと気にする様子もなく彼方に雪の塊をぶつけ続ける

 そこには一切の妥協などなかった。

「ほらどうしたの?このままなら、あなたは死んでしまうし、このままいけば人里の人達だってただでは済まないと思うわよ?」

 レティは攻撃の手を休めない。 やがて、耐えきれなくなったのか彼方は足が抜けたかと思うと、後ろへと思いっきり吹っ飛んだ。

「げはッ!?……はぁ……はぁ……」

 口内に溜まっていた血を吐きだして、ふらふらの状態でなんとか立ち上がった彼方へとレティは追い打ちをかける。

「ほら……みて。雪があればこんなことも出来るのよ?」

「おいおい……。いくらなんでもこれはねえってば……」

 彼方の周りには、雪で作られた人間の武器がいくつも矛を向けていた。

「あ〜……だめだ」

 周りをぐるりと見渡して自分がどうあっても避けるのは無理と分かったのか、彼方は頭を掻きながら困ったように笑う

 そんな彼方をみて、レティは問いかけた

「あなた……本当にそれでいいの?」

「え?何がですか?」

 レティの問いかけに、彼方は首を曲げて問いかけの意図が分からないと答える

「これを喰らったらただでは済まないわよ?怖くないの?」

「俺が怖がってないようにみえますか?見てくださいよ、この手」

 彼方は装飾銃を持っていない手をレティに見せる。その手は小刻みに震えていた。寒さから来るものもあるだろうが、いまのこの状況からくる恐怖からの震えであることは彼方の言葉から分かった。

 では何故、彼はそんな顔が出来るのか?

 普通、恐怖に支配されたものというのは顔が変わるものだ。例え、屈強な男であろうとも無様にその顔は恐怖で支配され、命乞いをするものだ。

 しかし彼方には当てはまっていなかった。

 いままさに無数の雪の武器によってその身を貫かれんとする男の顔は自信に充ち溢れていた。

 不思議な少年だ。

 レティはそう思った。

 会った時から感じていたことだった。 そもそも妖怪である自分と普通に話しをする時点でそうとう不思議ではあるが。

 だが、所詮は人間。 私が人里を襲うと言ったときに見せた彼の表情。そして先程の彼の狙撃。それだけで、彼は人里を選んだのだと分かる。

 といっても当たり前の結果ではあるが。人間である彼は結構な頻度で人里に世話になっているとも聞いた。良くしてもらった所が妖怪によって滅ぼされるかもしれないんだ。彼の性格からしてみれば放ってはおけないだろう。まったく…………人間とは理解しがたい生き物だ。

 まぁ、なにはともあれ彼は私ではなく人里で選んだ。その結果だけで十分だった。あぁ……私は何をしているんだろう?彼を貫いたところで何が変わるわけでもないのに……。まったく……自分から期待したくせに自分で失望するなんてほんと可笑しな話よね。もうとっとと終わらせよう。元から人里を襲う気など皆無だし、直にこの長い冬も終わるだろうし。さっさと次の冬に備えるための準備をしないといけないし。

 そう考えて私は手を振った。すると彼方の周りにあった武器が一斉に彼方へと襲いかかっていった。さようなら、彼方

▽       ▽       ▽       ▽

 彼方とレティの戦いを上空から見守る一人の少女がいた。

 漆黒の翼を生やした鴉天狗の射命丸文である。

「ほんと……似ても似つきませんね」

 文はなんともなしに呟く。

 ブン屋である自分の勘を頼りに外に出てみれば、冬の妖怪が人里へと向かっているところだった。そしてそこに彼方が登場してきて勝負勃発。はじめはウキウキ気分でみていたのだが、流石に一方的なレティによる攻撃で興が覚めたのか、いまはカメラを手に取ることなく戦況を見守っていた。

「というか……あれが本当に悪魔の妹である、フランさんを倒した彼方さんなんですか? 弱すぎます」

 ハッキリ言って文は少し彼方に失望していた。そもそも彼方がレティに喰らっていた技だって空さえ飛ぶことができていれば楽にかわすことができるのに。

「何故彼方さんは弾幕を撃たないのかしら? いくら彼方さんが弱いからってけん制に弾幕を飛ばすことは可能なのに……あッ!」

 そこでやっと文は気付いた。彼方の先になにがあるのかを。

 そして気づいてから笑いがこみ上げてきた。

 まったく…………。彼はどこまで人がいいのか。だが、これで彼が弾幕を放たない理由がわかった。

 まったく────弾幕を撃ったら人里に当たってしまうなんて普通は考えるか?自分が下手すれば殺されるかもしれないって時に。

 本当に彼は面白い。彼といると新聞のネタに困ることなんて無くなるだろう。そんな気さえしてくる程だ。

 だから───だから明日の新聞の一面を面白くするためにほんの少しだけ力を貸すことにしよう。

 私は翼を思いっきり動かし下へと降りて行く。

▽    ▽     ▽     ▽

「信じられないわ…………。 あれを喰らって生きているなんて…………」

 レティが見た光景はなんとも信じがたいものだった

「へへ……。 あいにく、こちとら毎日美鈴による特訓をしているもんでね…… 。覚悟さえ決めてれば、一回くらいは耐えられるものだよ……」

 肩や足を貫かれながらも決して崩れはしない彼方がそこにいた。

「といっても……正直限界が近づいてるんだけどね」

 たはは……。 と力なく笑う彼方の横に一陣の風が吹き抜けた。そして耳に聞こえてくる見知った者の声

「ほんと呆れますね……。あなた程度じゃ、倒せないと分かっているのに」

「…………文?」

 彼方の隣へと降り立った文は彼方の姿をみてため息をつき、そして同時に驚いた

 銃を持っていない手はだらりと下がり血がぽたぽたと垂れ、足はがくがくと震え、先程から荒い息を吐き出している。 これではいつ死んでもおかしくない状態だ。

「はぁ……はぁ……。なんで……文がこんな所にいるんだ?」

「強いて言うな……ブン屋の勘ですかね」

「……あっそ。けど、ここに文がいることは好都合だよ。ちょっと手伝ってくれ……」

「勝負に参加しろ。なんてことだったらお断りですよ。あくまで私はブン屋としてここに来たんですからね。私が参加したら新聞を書くときに主観的になってしまいますもん」

「それなら大丈夫さ」

 ちょいちょいと文を手招きして近づけ、その耳にそっと何かを話す彼方。

 文は彼方の提案を聞くと、満面の笑みで親指を向けた

「奇遇ですね!私もそう考えていて、するつもりだったんですよ」

 その言葉を聞いた彼方は、にやりと笑って

「んじゃ、よろしく」

「ええ、わかりました」

 文は自分が持っていた団扇で彼方をひと仰ぎする。すると彼方の周りに風が集まってきて彼方をふわりと持ちあげる。ゆっくりと持ちあげられた彼方はそのまま先程とは反対方向へと降り立った。

 降り立った場所は、後ろにはすぐ人里がある場所だ。 先程まで彼方が立っていた位置というのは、前には丁度人里あり弾幕を撃ちだすのには少し躊躇する場所であった。

「あら……?こんなときでも人里のことを心配していたの?本当に馬鹿な子ね」

「はは。馬鹿で結構ですよ」

 これで心おきなく攻撃ができる…………ということはなかった。既に彼方の身体はボロボロであった。

 手は片方は完璧に使い物にならなくなり、足はいまにも崩れ落ちそうで、先程喰らった攻撃で全身の至る所から痛みがあり、挙句の果てにはこの環境で意識が朦朧とさえしてきた。

 どんなに取り繕っても隠せない状態だ。というか隠す気力も沸いてこない。

 そしてそんな彼方をレティは冷ややかな目で見ていた

「ほんと…………考えられないわ。他人のために命を張ろうとするなんて」

 我が強い妖怪には分からない心理だった。

「まぁ……別に私はわかろうなんて思わないからいいけどね。そんなことより、なにか遺言はあるかしら?」

「遺言……ねぇ。そうだな……別に遺言ってほどじゃないけど。もう少し貴女と話したかったかな」

「───!?」

 ぼろぼろの身体でそう言う彼方にレティは驚いた。

「……あら?どうしてここで私の名前が出てくるのかしら?ご機嫌とりのつもり?」

「別に……そういう意図があるわけじゃないですよ。ただ……もしここで貴女を行かせてしまったら、貴女は人里を襲ってしまう。そうしたら霊夢は人里を襲った貴女を退治することになるでしょう」

 いくらレティが強いといってもそれは冬に限った話である。 冬以外の季節ならばレティは自分自身で弱いと言っていた。そんな時に霊夢と対峙したらどうなるかくらい彼方でもわかる。

「俺はもっと貴女と話しをしたい。あなたが知ってる冬のことについても知りたいし、冬の幻想郷を二人で回ってもみたい。だからこんなくだらないことで貴女を失いたくなんかない。だから俺は行かせない。例えこの身が朽ちようと絶対に貴女を人里へと行かせない。だから、ここから先は一方通行だ!」

 喋るたびに辛くなる。息を吸い込むたびに苦しくなる。しかしこの言葉を言わずにはいられなかった。

「あなたは……人里を守りに来たんじゃなかったの……?」

「守る?何言ってるんですか?俺はレティさんを止めにきただけですよ?」

 勘違いしていたのは私のほうだったのだろうか?

 私はずっとこの少年が人里を襲いに来た私を倒すためにやってきたと思っていたのに、実際はそんなことをしたら私がどうなるのかを危惧して止めに来ただけだというのか?

 なら───なら彼は最初から私のことを考えて行動してくれていたのか?

「ふふ……。そんな綺麗事で誤魔化そうたってそうはいかないわよ」

 そんなことあるわけない。

「綺麗事なんかじゃないさ。俺はレティさんに来年も会いたいもん。こんな寒い中でさ、二人でかまくらなんか作ったりして、博麗神社に皆で集まって雪合戦なんかしたりして…………そうやって遊びたい」

 そんなの嘘だ。どうせ口からのでまかせだ。

「だからレティさん。来年の冬も俺に会ってくれますか?」

 彼の言葉が優しく胸の中に入ってくる。こんな高度な嘘を彼がつけないことくらい分かっている。けど、信じられなかった。いや、怖かったのだ。

 だから私は自分も気づかない内におそるおそる彼に聞いていた

「ほんとうに……私のことを覚えていてくれるの?」

「当たり前じゃないですか。俺に女心を教えてくれた人を忘れるなんてこと、できるわけないじゃないですか」

 最高の笑顔で私に答える彼。

 あぁ……まったく、呆れるのは彼じゃなくて私自身ね。

 自分はすぐに忘れてしまう存在だと決めつけて、それが嫌で一芝居うって、彼を呼び出して…………。そんなことしなくても、彼は私のことを覚えていてくれたのに。まったく呆れるわ。怖くて彼に素直に聞けなかった私自身に。

「そう……。でも、そんなぼろぼろで私に傷一つ、つけられない情けない男に私は会いたくないわね」

 自分の考えとは反対の言葉が口から洩れる

「それはお厳しい。けど…………情けないかどうかは俺の最高の一撃を見てから決めてくださいよ」

 そう言って彼は一枚のスペルカードをとりだした

▽    ▽    ▽      ▽

 スペルカード

 それは弾幕勝負において必殺技といっても過言ではない。

 基本的にスペルカードは技名を決めていないと発動することはなく宝の持ち腐れとなる。

 かくいう俺も霊夢や皆の指導によって作ったはいいものの技名がどうもピンとするものが浮かばず、いままで使ったことは一度もなかった

「最初に使うときが、こんなときになるなんてな……」

 やれやれと思ったが、レティさんに認めてもらうにはこれしかなさそうだし…………。

「ふふ……。スペルカードなんて持っていたのね。なら、私もスペルカードを出そうかしら」

 レティさんが袖から一枚のカードを取り出す。

「はは……。お互い全力でいきますか……!」

 もう会話なんていらなかった。

 レティさんはスペルカードを宣言し、弾幕なんてものとは比べ物にならないほどの密度の巨大な雪の塊が俺に襲いかかる

 そんな光景を目にしながら俺は目を閉じた

 思い返すは霊夢や魔理沙の言葉

『あんたの場合は想いで力が変わるんだから、スペルカードといっても普通の弾幕と変わらなくなる時もあるんだからね?』

 分かってるさ、霊夢。 いまの俺の想いは最高潮にまで達しているよ

『いいか彼方?弾幕はパワーだ!スペルカードだってパワーで押すんだよ!』

 ああ、そうだな。魔理沙。 押して押して押しまくるんだよな

 俺は一回大きく息を吸い込んで吐き出す。

 自分の中にある歯車の回転を上げていくように。

 俺の想いがレティさんに届くように。

 さぁ、声を高らかに宣言しよう

 この白銀の世界を溶かすスペルカードを

 レティさんの心の中にふいている吹雪を取り払うために

 俺は声を大にして叫ぼう

「─光想─|光波動《こうはどう》!!」

 目の前に広がっていた巨大な雪の塊が吹き飛ぶ

 想いをのせた光の波動は真っ直ぐにレティを飲みこんでいく

「はぁ……はぁ……。参ったな。やったはいいけど、もう動けそうもないや……」

 世界がぐるぐると回っている

 ここで俺が倒れたらダメだということは分かっているが、どうやら俺の身体は休息を必要としているらしく意識が段々と遠ざかっていく。そして俺は崩れ落ちた。

▽    ▽    ▽    ▽

「まったく…………。いまが冬で本当に良かったわ。でないと、今頃私は消えていたでしょうね」

 ところどころ衣服が破けているレティは目の前で倒れている少年に向かって言葉を発した

「残念ながら彼方さんは意識がない状態ですよ?そんなこと言っても彼に届くことはありません」

「あら、あんな熱烈なプロポーズをしておきながらその返事を聞かないで眠るなんて、中々女心が分かってきたじゃない」

「それ……わかってるのかしら?」

 文の疑問にレティは、ふふ……。と笑うだけで答えを返さず、そのまま後ろを振り向いた。

「あれ?人里のほうはもういいんですか?」

「ええ。元々人里を襲おうとも思ってなかったしね」

 さくりさくりと雪の感触を楽しみながら歩き去るレティを黙って見送る文

 レティはふと立ち止まり、文のほうに向きなおして

「そうだ。彼に伝言をお願いするわ。『次の冬は氷漬けにしてでも連れ帰るからもっと鍛えて頂戴ね。そして、かまくらの件楽しみにしてるわよ』って」

「あややや。彼方さんも大変ですね。分かりました必ず伝えておきますね」

「ええ、よろしく。では、また次の冬にお会いしましょう」

 そういって今度こそレティは歩き去っていった

「とりあえず……これ以上彼はここに置いておくと本格的に大変なことになりそうなので、人里のほうに運びますか……」

 彼方を肩に担いだ文は人里へと入る。

 そこでぼろぼろの状態で担がれてきた彼方をみたアリスと人里の守護者である慧音が慌てふためいて人里がちょっとしたパニックになってしまったが、それは完璧な余談であろう。




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