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17.蝶の辿った軌跡



 わたしが目を開けた先には二人の人物がいた。 一人は長い刀を持った初老の男で、もう一人は綺麗な金髪の女性でその手にはお洒落な感じの日傘を持っていた。

『こんにちは。待っていたわよ』

 金髪の女性が私に向かって頬笑みかけてくる。

『あら?ほんと〜?ごめんね、待たせちゃって』

 わたしが謝ると女性はいつの間にか持っていた扇で口元を隠す。

 多分、笑っているのだろう。扇で口元を隠したのは、その笑いを見させないためだと思う。

 そう勝手に私は判断した。

『ねえ、そういえば貴女のお名前はなんていうのかしら?』

 私の問いかけに女性は口元を隠していた扇を、パチンッと閉じて私に告げた。

『八雲紫よ。よろしくね』

 思えばあれが私と紫との初めての出会いだった。

 ──────本当に?

「弾幕勝負の最中、考えごとなんて随分と余裕じゃない」

「───ッ!!」

 前方から聞こえてきた声で私は初めて目の前で起こっていたことに気がついた。

 迫りくる霊気の籠った札の弾幕

 それをすんでの所で私は回避した。

「あら、もしかして私が声をかけなければ今の当たってたかしら?」

 およそ巫女服とは思えないような巫女服を着た少女、博麗霊夢はいま放った弾幕をみて一人呟く。

「大丈夫よ。貴女の弾幕程度なら私は落とせないわよ」

「言うじゃない。面白いわね」

 目の前の少女が懐から一枚の札を取り出す

 夢符『封魔陣』

 その瞬間、私をとり囲むように大きな陣が形成される

 大した力だわ……。その年齢でそんな強力な力を持つなんて……。流石は紫が一目置いてる存在ね。

 幽々子が思っている間にもその陣はゆっくりと狭まっていき…………

 少女が手を前にかざし、握った瞬間に一気に縮小される

 それをみた霊夢はふぅ……と口から漏らしパタパタと身体を手で仰ぐ

「あ〜疲れた。さてと…………咲夜のほうも……。ん?」

 門の前で戦っているであろう咲夜も、既に終わっているであろう。と読んでいる霊夢の前に一匹の蝶が漂ってきた。否、一匹だけではない。

「なっ……!?」

 霊夢の周りを漂う蝶は数えることができる範囲で50匹はいたのだ。

 その蝶は見る者を魅了するような美しい羽を揺らしながら霊夢の周りをまわる

「あらあら、紫に聞いていた通り、博麗の巫女ってのは随分な怠慢なのね。あれくらいで私が落ちるとでも?」

「普通はあれを喰らったら落ちるんだけどね……。あんたは普通じゃないみたいね…………」

「あら〜?私は普通よ」

「あんたみたいな普通がいてたまるもんですか」

 軽口をたたく霊夢であったが、ほんとうに予想外なことだった。

 スペルカードにはありったけな力を込めたはずだ。そこらへんの妖怪はもちろん、先程あった従者でもかなりの痛手を負うはずなんだが……目の前で優雅な仕草で笑っているこの亡霊はみた感じ、こたえている様子はない。

 そしておまけに自分の周囲に展開される蝶。 四方八方を塞がれており、ここから抜け出すのは至難の業だ。

「それじゃあ…………こんどはこっちの攻撃も受けて貰おうかしら」

 幽々子の言葉に応えるように後ろに大きな扇が姿を現す。

「さぁ……蝶のように舞いなさい」

 華霊『ゴーストバタフライ』

 霊夢の周りにいた蝶が一斉にその羽で霊夢を襲う。 いや、霊夢の周囲にいた蝶だけではない。幽々子の後ろに展開された巨大な扇からも蝶がその羽を揺らし、霊夢へと襲いかかって来る。

 一撃一撃は霊夢のそれよりは軽いが、いかんせん数が多すぎる。最初のほうは防ぐことができていた霊夢も次第と押されていき、ついには無防備な状態でスペルカードを受けることになってしまった。

「ふん……。あんたのスペルカードも大したことないわね」

 幽々子のスペルカードを全て受け切った霊夢は、なんとも平気な顔で幽々子に告げる。

「丁度いいわ……。この頃、彼方の訓練に付き合ってレベルを落としていたのよね……」

 弾幕勝負において右に出る者はいないとさえ言われる博麗霊夢。

 その霊夢に弾幕の訓練を受けている彼方なのだが、二人の力量差は文字通り天と地ほどの差がある。 いくら妖怪と人間の公平をきすために弾幕を使うようになったからといっても、弾幕だって打ち所が悪かったりすると人間の場合は死ぬ恐れもあるのだ。 

 人間で弾幕を撃てる者など幻想郷では数えるほどしかいない。そして、その全員が規格外の能力を持ち、弾幕勝負もそれなりに強い。ゆえに弾幕勝負で死ぬようなことなどなかった。 しかし、霊夢から訓練を受けている少年、不知火彼方は違っていた。 

 凡人を絵に描いたような少年は、霊夢による弾幕訓練で結構なとこまでイったりする時がある。 もちろん訓練なのだから、少しぐらいは無茶をしないといけないのだろうが……それでも毎回毎回こうなら少年の身が持たないと思った霊夢はあえて自分のレベルを落とすというやり方で訓練をしていた。

 そんな訓練を毎日毎日していたためか。自分でも知らず知らずの内に幽々子との弾幕勝負の時でも自分のレベルを押さえて戦っていたのだ。

「あら?悔しかったの?私を落としたと勘違いして、逆に私のスペルカードを真っ向から受けて悔しかったの?」

「う、うるさいわね! いまからあんたの扇子へし折ってやるから覚悟してなさい」

 幽々子の挑発的な言葉に霊夢は、指をビシッと突き付ける

「ふふ……。それは面白い────!?」

 面白いわね。と続けようとした幽々子の顔を何かが掠める

「ふふ…………」

「次は扇子よ」

 霊夢が放った弾幕が幽々子の頬をかすめる。

「悪いわね。こっからは本気で行かせてもらうわ」

 霊夢が左手を勢いよく薙ぐ

 ヒュンヒュンヒュンッ 

 するとそこに現われる針針針

「串刺しにならないように気をつけてね?」

 針を幽々子へと向かわせる霊夢。針が幽々子へと向かっている間に自分は一旦下へと直下していく。

「弾幕を針に換えたくらいで……私が倒せるとでも?」

 幽々子は慌てることなくその針をギリギリのところでかわす。

「ええ、思うわよ」

 声が聞こえてくるのは幽々子の下

 先程、直下していた霊夢が勢いそのままに幽々子と肉薄する。

「喰らってみなさい。流石に痛いわよ」

 霊符『夢想封印 集 』

 霊夢の莫大な霊気によって作られたスペルカードが幽々子を襲う

 五つ六つからなる陰陽玉が一つの大きな塊となって幽々子の腹で爆ぜる

「くっ!?」

 流石の幽々子も至近距離からのこの攻撃は逸らすこともできずに、なすすべもなく受ける。

 そこに飛び込んでくるのは霊夢の針。

 15本にもおよぶ針がそのまま幽々子の腹に突き刺さる。

「これで!!終了────!?」

 最後の一発を撃とうとしたところで霊夢が何かに気付いたのか、勢いよくその場を離れる

 その直後に無数の蝶が霊夢のいた場所へと群がる

「残念……。もう少しだったのに……」

 幽々子は童女のように顔をぷくりと膨らませて霊夢を睨みつける

「それはお互い様でしょ。あと少しであんたを落とせたっていうのに」

 霊夢は少しイラついているのか、舌打ちをしながら幽々子に答える。

「というか……なんであんたはそこまでして、その桜の下をみようと思っているわけ?」

 ふいに霊夢が幽々子に訪ねる。

「そうねぇ……。興味と疑問ってとこね」

 幽々子の答えに霊夢は、「ふ〜ん」となんだか間の抜けた声を上げる

「…………あなたが聞いたんじゃないのかしら?」

 霊夢のあまりにもな返事に幽々子は弾幕勝負の真っ最中だということを忘れて困った笑顔を向ける

「いや、別に私はいいんだけどさ。そんな簡単な理由だとはね。……もしかしたら、あんたがその桜を咲かせることで悲しむ人がいるかもしれないわよ」

 ────もう……疲れちゃった

 霊夢の言葉とともに突然脳裏に浮かびあがる映像

 ────この世界で生きるのは私には難しかったみたい・……

 綺麗な桜の木の下で少女が手に持っていた何かを自らの身体にあてがいながら寂しそうに笑う光景

 ────…………私が死んだら、あの子は泣いてくれるのかな?

 刹那に飛び散る赤い花

 その花は綺麗な桜に飛び散り、桜を艶やかな姿へと変貌させた。

 そしてその光景を幽々子はいつの間にか、離れた所で見ている自分に気がついた

「……え?」

 自分でもどこから出てきた声なのか分からない声に困惑しながらも、何かに動かされるように一歩ずつゆっくりと近づいていく。

 一歩、二歩、三歩

 その少女に近づく幽々子の鼓動は、歩を進めるために早くなっていく

 あともう少し、もう少しでこの少女の顔を視認することができる

 幽々子は足を前へと大きくだ────

「幽々子様ダメです!!」

 ───すことはできなかった。

「よ、妖夢……?それに……ここは」

 後ろから強い衝撃を受けて振り返ると、そこには自分の身体に力いっぱい抱きついている自分の従者がいた。 そしてそれと同時に、先程まで視ていた不思議な光景も消えていた。

「幽々子様ダメです!!これ以上行ったらダメです!!」

 イヤイヤと小さな子供が駄々をこねるように幽々子を引きとめる妖夢

「こ、こら!?妖夢恥ずかしいから止めなさい。それに行くってどこに────」

 幽々子が振り向いた先には

「────西行妖……」

 まるでここまで幽々子を誘っていたかのように静かに静かに佇んでいた。

 もしかして…………先程の光景はこの桜が私に視せてくれたものなのか?

 この桜はあの映像を通して私に何かを伝えようとしていたのかな?

 なんてね。そんなことあるはずもないのに。まったく……自分で考えておいてなんて都合のいい妄想なんだこと……

「幽々子様ぁ……」

 私は私を決して離すまいと力を込めて裾を握っている自分の従者をみる

 いつもいつも自分のわがままを聞いてくれた子。 

 私のために一生懸命頑張ってくれた子。

「ねぇ妖夢。もし……、もし私が消えちゃったら、貴女は私のために泣いてくれるかしら?」

 妖夢の顔が上がり、私を見つめる

 その目に涙をいっぱいに溜めながら。

「そんな……こと……、言わないでくださいよ……」

「ああ!?ごめんごめん!?別にそういう意味じゃないからね!?」

 ほんの一瞬だけ、妖夢の顔が誰かと被った

 だが、それは一瞬すぎて私には誰かわからない

「あなたも…………そう想ってくれてるのかしらね?」

 幽々子が問うた視線の先の者はついぞ答えを言うことはなかったが、幽々子はそんな答えに満足して、霊夢へと向き直った

「博麗の巫女さん。この勝負、私の負けでいいわ」

 そういって幽々子は腕を虚空へと振るった。

「これで貴女のいう異変というのも解決よ」

「そう。それじゃ私は失礼するわ。あとは二人…………いや、三人でね」

 軽く手を振りながら来た道を戻っていく霊夢

 そんな霊夢を笑いながら見送った幽々子は、いまだに自分の裾を抱きしめている妖夢へと顔を向ける

「ねぇ、妖夢。これからも私と一緒に居てくれるかしら?」

「そんなの当たり前じゃないですか!!」

 絶対に離すもんかと幽々子へと全身タックルを決める妖夢

「私は幸せ者ね。────そうは思わない?紫」

 何もない空間へと喋りかける幽々子。 するとそこに空間の割れ目が出てきて、一人の女性が出てきた。

「ふふ……。羨ましいわ、幽々子」

 金髪の女性、八雲紫は二人の姿をみて嬉しそうに目を細める

「ねぇ、紫」

 そんな紫に幽々子は一拍置いて

「いつまでもお友達でいてくれるかしら?」

 そう問う

 問われた紫は、開いていた扇子を閉じ少女のような笑みを浮かべてこう答えた

「ええ、もちろん」

▽     ▽     ▽     ▽

 桜の花が舞っている

 空一面に舞った花弁は鮮やかなピンク色の空間を作る

 そんな空間で、二人の少女が笑いながら談笑をしていた。

 ここからでは遠くて内容までは聞こえないが、とても楽しい内容なのだろう。

 沢山談笑して、話し疲れたのだろうか、二人の声が唐突に止んだ。

 すると、片方の少女が真剣な面持ちで何かを話し始める

 もう片方の少女は、その話しに口を挟むことなく静かに黙って聞いていた。

 やがて少女の話が終わったのだろう。辺りは静寂が支配する。

 少しの静寂の後、話しを聞いていた少女のほうがおもむろに何かを離しはじめた。

 その声はやはりここからでは遠く、その内容までは分からずにいた。

 だがそんな中、一つだけ分かった言葉があった。

 聞こえたわけではない

 だが、こう言ったという確信はあった。

『ずっとお友達でいようね』

 少女がそう言ったであろう瞬間、もう一人の少女が抱きつく。

 それから二人は照れたようにはにかむ

 そんな二人の少女の見ながら、庭で一番の桜の木はただただ綺麗な花を咲かせるだけであった。




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