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19.小鬼/郷愁



 深夜の博麗神社に何かが入り込む。

 その者は、酔っ払いのようにふらりふらりと揺れ、何を思ったのか、とある一室へと入って行った。

 そこには布団が一つ、そしてその中に眠る齢17になる少年が寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

「うぁ〜…………。寝むいよぉ〜……」

 その者は目をくしくしとこすると、目の前にある布団の中へともぞもぞと入っていった。

「う〜ん、きもちい〜……。なんか懐かしい〜……」

 何を思ったのか、少年の寝間着を掴んで自分のほうに引き寄せ、力いっぱい抱きつく。

 ボキバギメキ

 丁度少年に抱きついた辺りから、骨が折れたような音が聞こえてきた。

「ぎゃあああぁあああああ!!??」

 それと同時に深夜に響く少年の絶叫

 そしてその絶叫を聞きつけたのか、奥からドタドタと慌ててこちらに向かっている足音が聞こえてくる。

「ちょっとまって!?めっちゃ痛いんですけど!?なにっ!?俺がなにしたの!?」

 いきなりの激痛に、夢から覚めた少年は困惑しながら叫ぶ

 そこに飛び込む少年以外の声

「う〜ん…………ちょっとうるさいよ〜……。せっかくいまから寝るんだからぁ〜」

「えっ!?誰!?なに!?君どこから来たの!?もしかして霊夢の隠し子!?」

「う〜ん、うるさいってば〜……」

 声を大にして喋る少年にその者は口元を強引に閉じらせる

 そしてその直後、閉じていた襖が勢いよく開けられ、驚きと怒りが半々の霊夢が顔を出した。

「ちょっと彼方!?いま何時だと思ってるの!!」

「お〜、霊夢だ〜。やっと異変を解決したんだね〜」

「え?萃香、どうしたのこんな所で?」

 おっす、というように片手を上げて自分に手を振る知人に、霊夢は先程まであった怒りと驚きに満ちた表情は消える。かわりにどうしてこんな所にいるのかという疑問が口から出た。

 問われた萃香は、手に持っていた瓢箪を一口煽り、喋る

「いや〜、霊夢の所に行こうと思ったらさ〜…………。ほら、霊夢と同棲している男が気になって、こう…………ふらふら〜……。っとね」

「ど、どどどどどどど同棲じゃないわよっ!?た、ただの居候よ!」

 いきなりの萃香の発言に霊夢は顔を赤くさせ、左右に視線を振る。

 すると、萃香の手から開放させられ、いまだ激痛に苦悶の表情を浮かべている彼方と目が合う。

「あっ……」

 普段は別に見ていても何も感じないのだが、先程の萃香の言葉で変に意識している自分がいた。

 か、彼方とは……ど、同棲じゃなくて…………い、居候と家主の関係よ…………!それ以上でもそれ以下でもないわ!

 そう自分に言い聞かせて、彼方を見る

 ドキドキドキ……………………やっぱダメ!!

 何故か分からないけど、彼方を上手くみることができず自分から目をそらす霊夢。

「ほほう……」

 そんな霊夢の行動をニヤニヤしながら見ている萃香。

「いつつ……。もしかしてまた骨が折れたんじゃないか……? なんかそんな痛みがあるんですけど…………」

 そしてそんな霊夢に気付かず、一人愚痴る少年が一人。

 そんな少年は襖に立っていた霊夢を見つけ、少し頬を膨らませて怒る

「おい、霊夢!ちゃんと見張ってないとダメだろ!?」

「うっ……。ごめん」

 彼方に怒られ、しゅんとした様子で謝る霊夢。

 ふらふらと状態で立った彼方は、いつもの仕返しとばかりに少し霊夢に余分に怒り、つかの間の自分の優位さに喜んでいた。

 ─────が、それもそこまでだった。

 少年はやれやれといった風に、首を左右に振り

「まったく…………。ところで、この子はなに?霊夢の隠し子か何か?」

 少しばかり怒りすぎたかなと思った彼方は、彼なりの冗談でこの場を和ませようと思ったのだが……

「イマ……ナンテイッタ……?」

 その発言が先程まで、子犬のような顔で怒られていた霊夢の顔に暗い影を落とす。

「あれ……?霊夢さ〜ん…………?」

 ゆらりゆらりと亡者のような足取りで彼方へと近づく霊夢

「ちょっと…………霊夢?じょ、冗談だって冗談!……いや、ホントに冗談だから!?ちょっとまって!?俺の腕はそっちには曲がらないいぃいいいぃ!!??」

 霊夢の鬼をも逃げ出す形相を見ながら、少年の意識はブラックアウトした。

▽    ▽     ▽     ▽

「あの…………霊夢さん。おかわりを…………」

「自分でやれば?」

「…………はい」

 彼方は霊夢のほうに差しだした茶碗を自分のほうに戻し、霊夢の横に置いてある炊飯器の前まで移動してよそよそと白米を盛る。 しかし、彼方の見ている方向は決して炊飯器ではなく霊夢だった。

 そしてそんな様子を萃香はニヤニヤと笑みを浮かべながらみていた。

「おい、萃香っていったよな? どうにかしてくれよ、さっきから霊夢の発するオーラみたいなので胃がきりきりすんだよ……」

 ご飯をよそい自分の席まで戻った彼方は隣で酒を煽っている萃香に小声で話しかける。

「え〜……。だって、あたしは関係ないし〜。ひっくっ。これは霊夢とあんたの問題でしょ〜。 ほんと、人間ってのは面倒だよねぇ〜。あいつが人間に拘る理由がわからないよ」

 持っていた瓢箪をテーブルに置いて、そのまま彼方の膝にごろんと座る。

「いや、寝っ転がるんじゃなくてさ。どうにかしてほしいんだって…………。てか、酒臭…………。どんだけ飲めばそんなになるんだよ」

「いや〜、そんなに褒められても困るな〜」

 褒めてねえよ。そう内心思いながらも彼方は口を挟むことなく、もくもくと箸を動かした。

「あ、そうだ。霊夢。俺、食べ終わったら永琳さんの所に行ってくるよ。傷の具合の確認と、萃香に締め付けられたところがズキズキと痛むんでさ。だから、今日の弾幕訓練は少し遅れるけどいい…………?」

 ふと思い出して箸を止め、対面に座り、相変わらず一人もくもくと食べている霊夢に話しかける

「そう…………勝手にしたら。…………折れてればいいのにね…………」

 ボソッと呟く霊夢の言葉にほんの少しだけ背筋を寒くした彼方であったが、それをなんとか切干大根と一緒に飲みこんだ。

▽     ▽     ▽      ▽

「え〜っと…………ここら辺で待っているように言われてたんだけど……」

 博麗神社を出て、人里近くの竹林の前まで足を運ぶ。そこで彼方はとある人物を待っていた。

「それにしても……萃香って何しに来たんだろうな」

 人の身体を痛めつけたあげくに、俺の朝ご飯を横からちょくちょく取っていた小さな鬼を頭に浮かべる。

 鬼

 外の世界では、漫画やゲーム、伝承にまでなっている存在

 その力は他の妖怪より圧倒的に優れており、嘘を嫌い、人間の恐怖を体現したような存在

 この幻想郷に居ることになるならば、いつの日かその存在とも相まみえると思っていただけに、先程の萃香の様子を見ているとなんだか拍子抜けしてくる。

 しかしそうは言っても鬼は鬼。その圧倒的な存在感は彼方をビビらせるには十分だった。

 萃香が彼方の膝に乗ったとき、一瞬だけ、ほんの一瞬だけであるが彼方の身体は、ほんの少し動いた。 身体が勝手に反応したのだ。 鬼という圧倒的な存在の前に。

「まぁ……俺がどうこうしたって敵わない相手なんだけどな。圧倒的強者と戦うなんて、普通ありえないしなぁ〜」

 自分自身で納得のいく答えが出たのか、一人うんうんと首を縦に振っていた彼方の後ろから呆れに似た声色が届いてきた

「『圧倒的強者と戦うなんて、普通ありえないしなぁ〜』って……あんた既にそのありえないことをやってのけてるわよ……」

「あっ!鈴仙。もう薬売りは終わったのか?」

「ええ、たったいまね。…………ほんと、なんでお師匠さまは私にこんなことさせるのかしら……」

 後ろから聞こえてきた声に振り向けば、外の世界でお馴染みのブレザーを見に付け、背中に薬箱を背負っている鈴仙が立っていた。

 彼方に治療を施してくれた永琳の住んでいる永遠亭という建物は、少し厄介な場所に建ってある。 もともと、身を隠すためにそんな厄介な場所に建てたとは聞いているが、理由までは教えてくれなかったし、彼方もそこまで聞こうとは思わなかった。

 永遠亭の建っている場所というのは、普通の人間ならば一度そこに入ってしまうと、戻ることは不可能とまで噂されている、迷いの竹林という場所だ。切っても切っても、決してその成長を止めようとしない竹林は、人の方向感覚を狂わせ、その精神をも狂わせるとさえ言われている。 もし、その場所から出ることができるとするならば、迷いの竹林の案内人役である、幸運の兎に見つけてもらうより他はないらしい。

 しかしそれは普通の人間ならばの話である。

 空を飛べる者は、空から永遠亭に行くことができるし──────

「鈴仙のように波長で、帰ることもできるのか……」

 前を歩く鈴仙を見失わないように注意しながら彼方は一人呟いた。

 なんでも鈴仙の能力は、『狂気を操る程度の能力』らしい。 何度か、永琳に傷を見せに行くときに暇潰しに…………と話されたけど、自分にはよく分からなかった。

「もう少しだから」

「ん。あいよ」

 それから数分、鈴仙の言葉通りに永遠亭にはすぐ着いた。

 鈴仙は彼方を永琳の元へ案内したあと、用事があるといって自分の部屋へと消えて行った。

 その間、彼方はもちろん、永遠亭の誰とも目を合わせることはなかった

▽     ▽     ▽     ▽

「う〜ん…………傷の具合はいいみたいだけど…………。そっちの骨は折れてるわね」

「……え?ほんとですか?」

「ええ」

 永琳さんにレティさんとの弾幕勝負の傷の具合を確認してもらった後、先程萃香に喰らったところの骨をみせたところ、見事に折れてることが判明。流石は鬼。あれくらいで普通に人間の骨を折るとは…………いや、俺が脆いのかもしれないけど。

「やったほうも結構力を入れたみたいね。貴方じゃなきゃ、大変なことになってたわよ」

 くすくすと笑う永琳さん。 永琳さんは俺のことを頑丈みたいにいうけど、当の本人としてはなかなかどうして……そうは思えないのだが。

「あの……永琳さんが思っているほど、俺は頑丈じゃないんですけど……」

 過大評価をされては困ると思った俺は、永琳さんに思いきって言ったのだが、俺の言葉を聞いた永琳さんは、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。 そしておもむろに額に手を当て

「ふぅ……。知らぬは本人のみ。ってことかしら。…………けど、彼方くんは結構な鈍さだし、頭もそこまでよさそうじゃないし……」

 ため息とともに、可哀想な目でみられた。

「あの……永琳さん?」

「あら、なにかしら?」

 恐る恐る問いかけた俺に、笑みを向ける永琳さん。

「えっと……なんでもないです」

 その笑みに負けて何も言い返せなくなる俺。なんとも情けないこと極まりない

 はぁ……と小さくため息を漏らす俺の下で、もぞもぞと何かが動く感触を覚え下を見ると、白くてふわふわしてるうさぎが俺の脛をかじっていた。 その様子になんだか懐かしさを覚え、ついついうさぎをかかげ膝の上にまで持っていく。 するとうさぎは膝の上が気持ちいいのか、次第にうとうととしてきて、ついには俺の膝の上で夢の世界へと旅をはじめた。俺はそんな兎の頭をゆっくりと撫でながら、外の世界のことを考える。

 外の世界では、動物園というものはあって、そこには小動物とふれあえるコーナーが用意されていた。あの子はそういう小さいものが大好きで、よく動物園に行ったときは小動物ふれあいコーナーを動こうとはしなかった記憶がある。 兎やハムスターを抱きながら俺に近寄ってきて、隣に座る。そして俺に抱えている動物を差し出して、それに俺がびっくりしてその様子をあの子が楽しんで…………。不思議なものだ。男の俺は正義のヒーローやロボットというものが好きで、彼女は小さいものが好きだったのに、よくずっと一緒にいたものだな。 まぁ……付き合う内に、お互いロボットや正義のヒーロー、小さいものが好きになっていたけど。 ここに来てもうすぐ一年になる。学校のことも心配だし、残してきた母さんのことも心配だ。今頃、母さんはどうしているんだろう?早いうちに親父を失い、一人息子まで行方不明になってしまって……泣いているんじゃないだろうか?母さんにはずっと笑顔でいてほしい。外の世界の友達にだって会いたいし、彼女とも会いたい。 

「はい。これを使いなさい」

 考えごとをしている俺の目の前に、永琳さんがハンカチを差し出してきた。 その行動に訳が分からなくて戸惑っていた俺だったが、永琳さんが自分の頬に手を宛がう動作をし、そのまま立ち去る。そんな永琳さんにつられて俺も自分の頬に手を当てることでようやく気付いた。

 ─────自分の頬から涙が流れていることに

 考えごとえおしていたせいか、はたまた違う理由なのかは知らないが、俺は涙を流していたらしい。みると、俺の膝の上で寝ていたうさぎも俺を心配しているのか、俺を見上げていた。 そんなうさぎに俺は、「大丈夫だよ」と一声かけて永琳さんから貰ったハンカチで涙をふいた。




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