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21. 汝、想ひ 此のぶみ送る



「もう一度、言ってくれるかしら?」

「えっと……紫さん。怒ってます?」

 石の上に正座をさせられながら俺は、恐る恐る口に出す。

 紫さんは何を拗ねているのかよくわからないけど、またしても俺は地雷を踏んだらしい。

 はてさて……どこで俺は地雷を踏んだんだろうか?

▽     ▽     ▽     ▽

 人里を出て、俺はまっすぐこの場所。紫さんと初めて会い、チルノの子分?友達?になったあの川である。

 確証があるわけではなかった。ただ、紫さんならあの場所で俺の来ることを予知しているかのように待っていると思ったのだ。

 結果だけを述べてしまえば確かに紫さんはいた。 

 俺が汗を掻きながら目的の場所にまで行くと、紫さんは日傘を差して川に足をつけながら、まるで俺が来ることを分かっていたかのように、「ようやく来たわね。待ってたわよ」その言葉を口にした。あいかわらず恐ろしい人である。

「なんで俺が此処に来るって分かったんですか……?」

 そう口にする俺に紫さんはこちらを向いた後、笑いかけながらいった

「さぁ?なんでだと思う?」

 俺を試すかのように、くすくすと笑う紫さんに俺は何も言えなくなる。 答えなんて全て、紫さんだから。で片が済みそうだし。

「残念ながら、俺には分かりません。それより、相談があるんです」

「それは私に相談しなければならないことなのかしら?霊夢や紅魔館のメイド長じゃなくて」

「はい。紫さんに相談したいことなんです」

 俺がそう言うと、紫さんは少し嬉しそうに、まるで幼い弟に頼りにされた姉が嬉しくてつい顔がニヤけてしまうような顔をした。

「そう。私に相談したいことなのね。そうなの」

「はい。長生きをしている紫さんにしかできない相談なんです」

「彼方。そこに正座しなさい」

 ………………え?

▽    ▽     ▽     ▽

 思い出した。どこが悪かったのかはわからないけど思い出した。

「あの…………どこがダメだったんでしょうか?」

「はぁ…………」

 紫さんはため息をつくだけで、答えてはくれないらしい。 いや、自分で考えろってことなのかな?

 俺が脳の中をフル回転させて答えを導きだそうとしていると、紫さんが唐突に話しかけてきた。

「もういいわ。あなた相手にこんなことしてたら、日が暮れちゃうし。 それで?何か相談したいことがあったんでしょう?」

「あ、はい。あの……紫さんは幻想郷の管理者なんですよね?」

「ええ、そうよ」

「だったら……幻想郷の管理者に対して聞きたいことがあります」

 居住まいを正し、紫の目を正面から見る彼方。そんな彼方を見て紫も居住まいを正す

 大きく口を開け、質問を言おうと声を出そうとしたところで、自分の口から音が出ていないことに気がついた。

 自分では質問したはずだったのに、その質問は音に変換されることなく紫の耳には届かなかった。

 あれ……? おかしいな……?

 少しおどけたつもりが、またしても言葉は声にはならず口だけが動いた

 声が出ずに焦る彼方。 

 そんな彼方に紫は自分の両手で彼方の両手を包み込むようにして持ち、安心させるように言った

「大丈夫よ。私は逃げないから。ゆっくり、落ち着いて」

 語りかけるように喋る紫に、彼方は素直に頷いた。

「お水でも飲んで喉を潤しましょう。ここまで休憩なしで走って来てるんですから喉だって乾いてると思うわよ」

 そしていつの間にか紫の手には、どこから取り出したのであろうコップが一つ。中には水が入っている。

 彼方は紫が差し出してきたコップを会釈だけして貰い、ゆっくりと喉全体に染み込ませるように飲んだ。

「どう?少しはマシになったかしら?」

「……はい。大丈夫です」

 彼方の声が戻ったのをみて、紫は良かったと嬉しそうに笑った。

「すいません、紫さん。いつも迷惑かけてしまって…………」

 肩を落とし、しょんぼりする彼方に紫は言った

「いいのよ、彼方。迷惑をかけて、かけられて。それが人間なんだから」

「なんか、紫さんが言うと成程って思ってしまいますね」

「ふふふ。当たり前じゃない。私は幻想郷ができる前からこの世に存在しているのよ。それに、ありとあらゆる人間だって見てきたの。 そんじゃそこらの人間なんかじゃ、比べ物にならないほどの人生の先輩よ」

 その麗しい外見のせいで忘れてしまいがちになるが、紫は妖怪なのである。

 そして今の話を信じるとするならば、幻想郷が出来た頃がいまより1000年くらい前だと霊夢に教えて貰った。そしてその昔から存在している。

「そうでしたね。ついつい忘れてしまいますが、紫さんって妖怪でしたものね」

「ええ、そうよ」

「それでは…………その人生の先輩であり、幻想郷の管理者に問います」

 私は──────此処に残ってもいいんでしょうか?

「とある人に言われました。幻想郷は俺みたいな甘い奴が居る所ではない。って。ましてや、俺は弾幕勝負だってするし…………」

 段々と言葉が弱くなり、ぼそぼそと喋る彼方。

 自分だって、何も好きで毎回怪我をしているわけではない。霊夢や咲夜みたいにほとんど無傷で終わりたい。 だけでも、自分の強さではそれをすることができない。 それに自分には残してきた家族だってある。永琳達と絡むようになってから、家族に対する想いというものが段々と強くなってきてる自分を客観的にも感じ取れる。

 会いたい

 母に会いたい。 友に会いたい。 そして───彼女に会いたい

 そう思ってしまったが最後、その想いは日に日に強くなっていった。

 けど、目を覚まして霊夢がいて、フランちゃんが遊びに来て、人里に行けば皆がいて。

 好奇心で此処に滞在したはずが、いつの間にか長年そこにいたかのような感じに思えて来てしまった。

 だからこそ動けないでいた。

 紫はそんな彼方を一瞥して、口を開いた。

「幻想郷の管理者、八雲 紫として不知火彼方の問いに答えましょう。────現段階でいえば、あなたは此処に残ってもよろしい。」

 その言葉に彼方は、ほっと胸をなでおろす。よかった。自分はまだ此処にいてもいいんだ。

 そう思う反面、そうなってくると自分はいつ家に帰ることができるんだろう?と疑問が沸いてくる

「あの……紫さん。もし、もしですよ?俺が外の世界に帰りたいって言ったときは、俺は帰ってもいいんですよね?」

「ええ。そうよ。ただ、此処での出来事を全て記憶から消すことになるだろうけどね」

「……え?」

 何を言っているのか分からなかった。 紫さんの言葉に唖然とする俺を差し置いて、紫さんは続ける

「あなたが此処で出会った人物、行った場所、見た風景、出来事、能力、その全てを消して私が責任を持って貴方を外の世界に送るわ。どうせ、貴方が帰るなんて言い出したら、最低でも二人ほどは貴方を監禁してでも引き止めようとする人物がいると思うしね。」

 ちょっと待ってくれよ…………

「そうじゃなくても、貴方はお人好しな部分があるから、帰るときになったら、誰かの泣き顔をみて決心が鈍ったりするかもしれないし」

 俺のことを無視して話しを進める紫さんに、俺はたまらず声を上げる

「ちょっとまってくださいッ!?なんで……!なんで記憶を消したりなんか……!?」

 思わず立ち上がる俺に、紫さんは管理者の顔として俺に告げた。

「なんで……? はぁ……。彼方はまだ分かっていないみたいね。此処は幻想郷。外の世界で生きられない者たちが住みつく場所。 此処と外の世界は繋がっていないようで、繋がっているの。ゆえに外の世界の者に知られる訳にはいかないのよ。」

 その言葉に俺は次の言葉を放つことができなかった。

 確かに言われてみればそうだ。

 此処は外の世界に存在が知られる訳にはいかない場所なんだった。 もし、俺が外の世界に帰ってきて、うっかり口を滑らしてしまえば大変なことになる。99%の人が信じなくても、そこに1%でも信じてしまう人が出てくると、そう遠くない未来に幻想郷という世界そのものが消えてしまうかもしれない。 

「結局……変わらないか……」

 いや、俺が此処にいてもいい。ということが分かっただけでも大きな進歩なのかもしれないな。そういう意味では紫さんに感謝しないと

「そうねぇ…………。別に手紙くらいなら私がスキマで送ってあげないこともないわよ?」

 俺の落胆をみて、可哀想になったのかは分からないが紫さんがそう提案してくる

「えッ!ほんとですか!!」

 思わず紫さんの肩を抱いて、揺すぶる

 がくがくと前後に揺られ、流石に苦しくなったのか紫さんは手で俺の手を掴み、優しくどける

「え、ええ…………。ただし条件があるわ。貴方が本当に手紙を出したい人にしか書かないこと。外の世界の常識の範囲内で書くこと。私達妖怪について触れないこと。そしてその手紙は貴方からの一方通行で済ますこと。 わかったかしら?」

「はい!!わかりました!!」

 そうだ!手紙という方法があったんだ。 帰るか、残るか。という選択にばかり気を取られてこんな簡単な選択すらも見逃していたなんて……

「それじゃ、紫さん!!書いたら持ってきますので!!」

 そうと決まれば早く博麗神社に戻って手紙を書かないと!!

 俺は紫さんに会いに行くときよりも早いスピードで博麗神社までの道のりを急いだ。

▽    ▽    ▽    ▽

 彼方が去っていった後、紫の後ろに空間ができそこから九本の尾を生やしている女性が出てきた

「いいんですか?紫様。あんなことしてしまって。そんなことしたら多方面からバッシングが来ますよ?」

「あら、それはそれで面白そうじゃない。私の目の前に連れてきて、私の目を見ながら言ってもらおうかしらね」

 紫は扇子で口元を隠しながら、心配する女性に面白そうに口を歪めながらいった。

「はぁ…………。困ったものですね」

「ん?なにが?」

「紫様の行動にですよ。あんなことして、知りませんよ?彼が外の世界にもっと恋しくなっても」

 紫のスキマを借りてから、先程の出来事を余すことなく見ていた女性は彼方が走り去ったほうを見ながらいった

「これでいいのよ。じゃないと彼方、そう遠くない未来に大変なことになりそうですもの」

「まぁ……それは確かにそうですけど」

「それに、彼方の正体が分からない内にどうこう決めるのもね」

 紫の言葉に女性は、主の方を振り向くも、その顔は日傘を盾にしてあり伺うことはできなかった。 そんな様子をみて女性はため息をつく。この人はいつもそうだ。本当に決めないといけないことは自分一人で何でも片づけようとする癖がある。

「それにしても……彼の正体ですか。それは人間や妖怪と言った種族的なことではなく?」

「違うわ。もっと別なものよ。…………まぁ、いずれ分かるわよ。それまで彼方に関しては様子を見てることしかできないわ」

「それで…………、もし都合が悪いものだった場合はどうするんですか……?」

 女性の言葉に、紫は答えずに黙る。

 質問をした女性も、何も言わずにただただ返答がくることをまつ。

 一分だろうか、二分だろうか?

 やがて紫の口が動いた

「そんなの決まっているじゃない──────」

▽    ▽    ▽     ▽

 猛スピードで戻って来た俺は、玄関で脱いだ靴も揃えずに急いで自分に割り当てられた部屋に行く

「あっ!こら、彼方!!練習サボってどこで遊んでいたの!!」

「悪い霊夢!!説教は後で聞く!!」

 途中、傍から見ても怒っていることが分かる霊夢に会ったが、その横をすり抜けて部屋に入る。後ろで霊夢が何か罵声を浴びせている気がするが気にしない。 そんなことより、いまは大事なことがあるからだ。

「たしか、ここに書きものと、紙が……。っと、あった。」

 引き出しを片っぱしから調べて、依然に慧音先生から頂いた紙と、書きものを見つける

「よ〜し!書くぞ!」

 えっと…………俺が本当に送りたい相手だったな。

 まずは母さんだろうな。こんな俺でも息子なんだし、心配してくれないとそれはそれで少しへこむ。

 それと、彼女。 なんだかんだ言って、此処に来てからというもの、ふとした瞬間に彼女の笑顔が、声が、脳内で再生される。

 正直な話。此処にきてから彼女のことを想わなかった日はないと思う

 優しい彼女のことだ。俺のことを心配して捜索願いとか出してるかもしれない。 彼女には俺が無事なことを伝えないと。

 そう心に決め、いざ俺が筆を握り、書こうとした瞬間に

「なにをしてるんだい?」

「うわぁッ!?」

 目の前にいきなり萃香が現われた。いきなりの登場に思わず仰け反る俺

「なんだ、萃香か。驚かすなよ」

「いや〜、ごめんごめん。なんか面白そうなことしてるのかと思ってさ。 それで、何をしてるんだい?」

 何故かそのまま俺の膝に座りながら尋ねてくる萃香に俺は簡単に説明をする。

「なるほど。まぁ、どっちつかずの彼方には妥当な選択だろうね」

「まぁね。俺がもう少しカッコ良く、どっちかを選ぶことができたらいいんだけどね。萃香も書いてみる?文あたりに届けて貰えばいいし」

「う〜ん。まぁ、暇つぶしにはなるかも」

 そう答えを聞いてから、俺は萃香の分の紙と筆を渡す。紙と筆を受け取った萃香はそのまま自分の身体をスライドして俺の横に腰を落とした。

「ん?なにかい。私に見られたら、まずい内容の話でも書くのかい?」

「いや……。そうじゃないけどさ。」

 なんというか……。フランちゃんもそうだけど、ちっちゃい子って膝とか、年上の人の隣とか好きだよな。 あ……、年齢的にいったら俺のほうが年下か。

 まぁ…………萃香が満足してるならそれでいいや。 さっさと、俺の自分のことに集中しないと…………。

 えっと……彼女には此処についてからの経緯とかを説明しないとね…………

 母さんには…………あの言葉にしようかな。

 そうして俺は、途中で飽きた萃香によって遊びに誘われたり、遊びにきたフランちゃんに遊びにさそわれたり、俺をカエルと戦わせようと連れ出しに来たチルノに誘われたりと、安城さんが見たら、ステッキで叩かれそうな感じのあれをしながらも、なんとか徹夜をして書いて、朝一番に紫さんに会いに行き、手紙を渡した。

 手紙に込めた俺の想いが届くといいな

▽    ▽    ▽    ▽

「あら?これはなんでしょうか?」

 私が学校から帰ってきたら、私の机の上に見慣れない紙が一枚置いてありました。

「諏訪子様の悪戯かしら?神奈子様はこんなことしないし……」

 まぁ、なにはともあれ、読んでみないとわかりません。私はその場に鞄を置いて、紙を持ち、差出人の名前をみます。

 ───不知火彼方より

「…………え?…………嘘」

 そこに書いてあった名前は、いま私が一番会いたい人の名前でした。 私の忠告を無視して山へと入り、その翌日には行方不明になり、いまだその姿を現すことがなかった、私の大切な人の名前でした。

「お、おちつくみょよ。私。そんなことで風祝が務まりますか」

 既に噛んでる気がしないではないが、そんなこと気にしてなんかいられない。

 だって、手紙を送って来るってことは、よっぽど危険な状態になっていたり、助けを求めてたりすることが多いって、昨日のテレビでも言ってたし。

 私は急いで文面に目を通す。

 ──早苗ちゃんへ

『元気ですか? 私はいま、腋をだした巫女の元で居候として住まわせてもらっています。』

 これは確かに彼方ちゃんの頭が危険な状態になっている……。

 腋を出した巫女なんて、そうそう居るはずもないのに……。

 続けて、文面を読む

『多分、心配していると思うので、これまでのことを軽く説明します。俺が早苗ちゃんや、母さんの忠告を無視して出て行った夜、色々ありまして、巫女の元へ居候することになりました。』

 なに一つ説明になっていないことについて説明を求めたい

『それから、色々ありまして、小さい金髪の妹のような友達もできましたし、小さい子の子分兼、友達にもなりました』

 小さい子に馬鹿にされてるようにしか見えないんだけど…………

『それと、学校のような場所で教師まがいなこともやっています。それに、人形職人とも友達になりました。そして新聞屋とも仲良くなりました』

 ふふ……。あの彼方ちゃんが教師なんてできるのかしら? けど、人形職人ってのは羨ましいかも。彼方ちゃんには、長い年月をかけて私の趣味をマスターさせたし。

『まぁ、微妙に命を狙われたりしますが、どうにかなると思います』

 ……………………え?

『まぁ、色々と不思議な体験をしている真っ最中ですが、必ず早苗ちゃんの元に戻ってきます。だから、もし戻ってきたときはノートなんかをみせてくれると嬉しいです。 それと、それまで母さんをよろしくお願いします ────不知火彼方より』

「ふう…………。ほとんど、意味がわからなかったけど、大丈夫のようで安心したかも」

 最後まで読み終えた私は、紙を折り、机の引き出しの中にいれる

 巫女や妹のくだりなんかが、気になったけど、それは後で問い正せばいいことだしね。

 隣の部屋から、私を呼ぶ少し幼い声が聞こえてくる。それに続いて大人びた女性の声も。

 まったく…………。諏訪子様も神奈子様も彼方ちゃんがいなくなってからというもの、私を寂しくしないためにあんなに振る舞ったりして…………。

「はいはい、いま行きますよー!」

 早く帰ってきてね?彼方ちゃん。 あんまり遅いと、迎えに行っちゃうぞ?

 …………おばさまのほうにもこの手紙、届いているのかな?

▽    ▽    ▽    ▽

「まったく…………彼方くんったら。お母さんに勝手に行方不明になんかなっちゃって」

 部屋で一人、女性が一枚の紙をもって愚痴る

 その外見の若さは、下手したら20代でも通ってしまうかもしれないほどだ。

「ねぇ、パパ。ほんと、彼方くんってば、ダメダメなんだよ?」

 女性は正座のまま、一人の男性が写っている仏壇にまで移動して持っていた紙をみせた

「今頃になって、出かける挨拶なんてするんだもん。わたしの教育が甘かったかな〜?」

 女性がみせたその紙には、早苗のときとは違い、短くこう書いてあった

『いってきます』




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