23.パチュリー先生と秘密の特訓
「むりいいいいいいいいい!!? 死ぬ死ぬ!!」
「こら彼方!?逃げてるばかりじゃ勝てるものも勝てないわよ!!」
「そうはいっても……!? 隙がないんだもん!!」
今日も今日とて博麗神社に、悲惨な青年の声が響く
「彼方さん!一つの弾幕をみるのではなくて常に全体を見るように意識してください!!」
遠くから紅魔館の門番、紅美鈴が彼方に大きな声でアドバイスを出すものの……
「うおおおおおお!?やばいってやばいって!?」
彼方はそれどころではなく、弾幕の特訓の先生である霊夢の弾幕から全速力で逃げていた
彼方が能力を覚えてから毎日行われている弾幕の特訓と、身体能力の向上。この頃は、弾幕の特訓も次の段階へと移ったわけだが…………
「いやあああああああああああああああ!!?」
彼方は見ての通り逃げ回るばかりである
「ねぇ、おねえちゃん」
「なにかしら、フラン?」
そんな彼方の奇行を神社の縁側でお茶を啜りながらみている者が三人
紅魔館の主こと、レミリア・スカーレット
彼方の友達であると同時にレミリアの実の妹である、フランドール・スカーレット
紅魔館のメイド長であり、最近はフランの世話も主から任されている、十六夜咲夜である
「フランもおにいちゃんと遊びたいよお……」
弾幕の特訓中は、霊夢が直々にフランに彼方に近寄るなと言ってあるのだ。
あまりにもストレートな物言いに、精神年齢が外見通りのフランは目に涙をためたが、その後の彼方の『終わった後なら時間がある時は必ず遊ぶから』との言葉に喜んであっさりとokを出したのだが……そこはやはりというか、子供心が働くのであろう。
「ダメよ。彼方と約束したでしょ?終わるまで待ちなさい」
そんなフランをレミリアは自分がした約束を思い出させる形でわからせる。
「それにしても……最初の頃と比べて中々になってきたんじゃないかしら?」
隣で待機している従者に目を向けながらそう口にするレミリア。従者である咲夜はレミリアが何が言いたいのかを心得ているように口を開いた
「そうですね、最初に比べれば身体能力は普通の妖怪であるならば、十分に逃げれるほどかと。弾幕勝負であるならば普通の妖怪程度なら倒せるかと思います」
咲夜の報告を聞き、レミリアは一つ頷く
「能力を使用した場合だと?」
「それはわかりません。まぁ……冬の妖怪が認める程度にはあるのではないでしょうか?」
「それもそうね。彼方は能力の関係上一定の強さを得られない。まぁ……それは裏を返せば強さに上限がないというある意味凄い能力だけど……」
『うぎゃあああああああ!!?』
「あの様子じゃ無理そうね」
レミリアが見る先には、たったいま霊夢の弾幕をその身に浴びて、地に倒れている彼方がいた。
▽ ▽ ▽ ▽
「精が出るわね、彼方」
「あ、レミリアちゃん」
今日の弾幕特訓を終えて、タオルを取りに縁側に行くと俺の様子をずっとみていたレミリアちゃんが声をかけてきた
「どう?少しは強くなったかしら?」
「う〜ん…………まぁ、最初に比べると少しは強くなったと思うよ」
俺の言葉を聞いてレミリアちゃんは、俺の身体をしげしげと見る
「ふむ…………」
レミリアちゃんは何も言わずにただただ俺の身体を見るだけ。隣に居る咲夜の顔もだんだんと険しくなってくる
「あの〜……レミリアちゃん?」
いくらなんでもあまりこの状態を続けておくと、隣にいる咲夜や後ろで見ている霊夢からなにか飛んできそうなので、たまらず声を出す
「まぁ……大丈夫でしょ」
レミリアちゃんは自分でなにか納得したのか、居間のほうへと足を向けた
「あ、まって!レミリアちゃん!」
そんなレミリアちゃんを俺は呼びとめる
レミリアちゃんは俺の呼びかけに、進めていた足を止め、こちらを振り向く
「どうしたのかしら?」
首をかしげるレミリアちゃんに俺はずっと気になっていたことを質問した
「俺は…………人間だよな? 妖怪のレミリアちゃんからの意見が欲しい」
昨日の一件で、俺の心の中に芽生えたものを消すかのように
「ええ。あなたは人間よ」
レミリアちゃんは、俺にそう一言だけ告げると霊夢に宴会が始まるまで寝るといって、客間のほうへと足を向け直して進んでいった
「なにかあったの、彼方?」
気が着くと、霊夢が俺の傍まで寄ってきて心配そうに俺の様子をうかがっている。
「ん。なんでもないよ。 そんなことより霊夢」
俺は、そんな心配そうな霊夢の表情を変えたくて話題をふる。結構こちらも前から気にはなっていたことだ。
「霊夢って弾幕特訓のときはあまり高い位置に飛ばないよね? もしかして俺に合わせてくれてるの?」
いまだに空を自由に翔ることができない俺。 ほんとうになんでだろうか?一回、霊夢とそのことについて話し合ったこともあったけど、フランちゃんが乱入してきたから、結局のところ分からずじまいに終わってしまったんだよな…………。今度、紫さんにでも聞いてみようかな。あの人なら答えが分かっているかもしれないし。そうじゃなくてもヒントくらいはみつかりそうだし。
俺が紫さんにいつ会うかなどの計画を立てて、霊夢からの反応がないことに気付き、霊夢のほうをみると……
「…………」
「れ、……霊夢?」
霊夢は何故か顔を真っ赤にしていた
「……が……えるから……」
「へ? ごめん、声が小さくて聞き取れない」
予想外に小さい霊夢の声に俺は疑問に思いながらも、耳を近づける
「〜〜〜! パンツが見えるから飛ばないの!!」
「うわぁ!?」
大きく息を吸い込んだ霊夢は、近づけてきた彼方の耳目がけて思いっきり声を出した。そのいきなりの大声に驚く彼方。
「え!?え!?」
自分の予想とは違った答えにうろたえる彼方
そんな彼方に霊夢は顔を真っ赤になりながら答える
「高く飛んだら彼方にパンツがみえちゃうじゃない!だから、飛ばないようにしてたのに……」
「いや、だって霊夢は前にドロワーズって言ってたじゃん!? そういうのはあまり得意じゃないって……」
「な、なによ!私がパンツ履いてたらダメだっていうの!?」
ぐいッ!っと彼方の肩を自分の方に引き寄せて霊夢は喋る
「それとも…………彼方はそういうの……嫌い?」
「う゛ッ!?」
先程の火山が噴火したような勢いはどこにいったのやら。いきなり上目づかいでみつめる霊夢に彼方は息を飲んでしまった
「いや…………別に、嫌いじゃないけど…………」
「じゃぁ……好き?」
首をかしげながら、ばっちりと彼方のほうをみる霊夢
いつもがツンケンしているだけに、慣れない霊夢をみて彼方の心臓は少し早鐘を打つ
「いや……まぁ……それは嬉しいけど……」
「けど……?」
今度は霊夢が彼方の口に顔を近づける。その差はわずか5cm
彼方の心臓は、先程よりも早く、その音が霊夢にばれないか心配なくらいだ。
「ねぇ……彼方?お願い……聞かせて?」
「いや……あの……その……」
思考回路がヒートして何を考えているのか自分でもわからなくなる。
「えっと────」
彼方が口を開いた瞬間
「おにいちゃん、パンツみたいの?」
フランが彼方の袖を握りながらそう聞いてきた
「へ?」
彼方が振り向くと、フランが自分のスカートをたくし上げている最中だった
「だったらフランのパンツみせてあげるね?」
いきなりのこと+霊夢でショート寸前の彼方にはフランの奇行を止める時間はなく、精神年齢が外見同様のフランはなんの躊躇いもなくその鉄壁のスカートをみずから上げ────
「いけません、妹様。この下劣でロリコンで女たらしで自殺志願者もどきの上に妹様が膝に乗っかるたびにその顔を至高の笑みで満たし、あわよくば妹様をその毒牙にかけようとし、その上人間、妖怪、妖精と様々な種族の者達を自分の手籠しようとしている巫女萌え男なんかに、妹様のその崇高でお美しい下着をみせるなんて、紅魔館のメイド長であり、お嬢様から妹様のお世話を頼まれております、十六夜咲夜が許しませんよ」
───ようとしたところで、時間を止めて傍にきていた咲夜に止められた。
「えー。ダメなの?」
「ダメです。このロリコンだけではなく人里の者でも同じです。もし妹様の下着をみたものがいるのであれば、ナイフの餌食になりますので」
人差し指を立ててフランに優しく語る咲夜。内容はかなり恐ろしいものであるが。
フランは咲夜の言葉に、本当に分かったのかと思うような声で、ハーイと手を上げた
咲夜はそんなフランをみてため息を一つ
「あの……咲夜さん……? もしかして、俺のこと嫌い?」
そんな咲夜の後ろから彼方が声をかける
「べつに。第三者からみて、貴方のことを正確に分析した結果だけど……なにか問題でも?」
「ありまくりだよッ!?」
叫ぶ彼方に、咲夜は本当に不思議そうに首をかしげた
「第一俺はロリコンじゃないし、女たらしじゃないし、フランちゃんをそんな目でていないよ!!」
「自殺志願者と巫女萌えは否定しないのね?」
「…………まあ、傍からみたら自殺志願者だろうし……。けど、巫女萌えは違う。たまたま幼馴染が巫女のようなことをしているから────」
「気がつくと、巫女萌えになっていたと」
「だから違うってばッ!!」
力いっぱい叫ぶその彼方の姿が咲夜には図星にみえた
「ふ〜ん…………。まぁ私は貴方が巫女萌えでもメイド萌えでもなんでもいいんだけどね。 私はそろそろ宴会の準備をしに行くわ。霊夢一人じゃ大変そうだし」
霊夢。その言葉で自分の傍に先程までいたはずの人物がいつの間にか消えていたことに気がついた
咲夜の言葉を信じるなら宴会の準備にいったのであろうが……先程の霊夢はどうしたんだろう? その…………少しだけ可愛く思えてしまった。 いや、霊夢は十分可愛いのだが、そういう外見の可愛さじゃなくて内面の可愛さというか……自分でも言ってるこがよくわからないけど。
「それなら俺も宴会の準備を手伝うよ」
辺りを見回すと、美鈴もフランちゃんも姿がない。多分、霊夢の手伝いにいったんだろう。
「それには及ばないわ」
「どうして?」
「今日でこの宴会も最後だと思うし。あなたもうすうすは気付いてるんじゃないの?この宴会に」
3日おきくらいに行われる宴会、この頃は毎日あるようにもなってきた。
はじめのほうは、この宴会が行われる異常な頻度も幻想郷的には普通なものなのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい
「まぁ……確かにこの頻度は異常だと思うけど。それがなんで手伝わなくていいことになるんだ?」
宴会の準備といっても、かなりの数が集まるのだ。それを準備するのは大変である。霊夢だって人数は欲しいはずだ
咲夜は彼方に告げる
「いまの貴方じゃ無理ってこと。 紅魔館にパチュリー様がいるはずだから、今日はそこで一日、ゆっくりしときなさい。帰るころには全て終わってるから。 お嬢様もこのことは知っているみたいだし」
「なんか納得がいかないんだけど……」
渋る彼方の頬になにかが通り抜ける
「返事は?」
「いってきます」
別に宴会が嫌いというわけではないが、未成年の俺には少しキツイものがあるのは事実だし…………なにより紅魔館の図書館にも興味があったので、よしとしよう。
そう思った俺は、汗をふき服を着替えて博麗神社を後にした
▽ ▽ ▽ ▽
「こうしてお話しするのは初めてですよね?わたくし紅魔館の地下にある、あの図書館で司書をしています小悪魔です。ちなみにパチュリー様の使い魔です。」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。博麗神社の雑用係の不知火彼方です」
咲夜に言われて紅魔館を訪れると、門の前に悪魔です。と主張しているかのような女性がいたので話しかけたところ、なんでもパチュリーの使い魔らしく、わざわざ俺を図書館から迎えにきたらしい。
「ここが図書館になります。どうぞ」
紅魔館を地下を歩くこと数分、大きな扉を前に小悪魔は手を前に出し、俺を誘っている。
俺はその誘いにのり扉を開ける
「うわぁ……!」
本・本・本・本・本・本・本・本・本・本・本
そこには辺り一面に本棚が置いてあり、その本棚自体も自分の身長の数倍の大きさがあった。そんな中を妖精メイド達が、えっちらおっちら本を運んでいる
「ふふ……。驚きました?」
隣が隣で微笑んでいるがいまの彼方にはそんな小悪魔の言葉すら耳には入ってこなかった
「すげえ……。外の世界でもこんな図書館、数えるほどしかないぞ……」
自分が予想していたものよりも遥かに巨大で、ざっとみただけでその種類の豊富さがうかがえる
まるで夢の国にでも来たかのような様子に満足する小悪魔。するとそこに一人の女の子が奥から出てきた
「あ、パチュリー」
彼方に名前を呼ばれたパチュリーは、彼方のほうを一目みて
「騒がないこと」
それだけいって、また奥へと引っ込んでいった
「なんというか……。口数が少ないね」
最初に会ったときも、あんな感じで必要最低限の言葉しか話さなかった気がする
「パチュリー様はいま外の世界の本にはまっているらしく、徹夜で解読を試みていますからね。普段はもう少しだけ口数も多いんですよ?」
困った顔を浮かべて喋る小悪魔
「へー。外の世界の本か〜。やっぱパチュリーってそういうの気になるんだな。」
「ええ。本を読むのが大好きですから。けど……あまり根を詰め過ぎても……。はぁ…………どっかに外の世界に詳しい人がいてくれたら」
ため息をついて、軽く頭をふる小悪魔。やはり使い魔としては主の体調が心配なのだろう。
「あの……俺外の世界から来たんですけど……」
そんな小悪魔をみて彼方は恐る恐る手を上げた
「…………」
目をぱちくりさせて彼方をみる小悪魔
そんな小悪魔に苦笑で返す彼方
そしてその二人の前を疑問を頭に浮かべて通る妖精メイド
なんとも微妙な空気だけが辺りを支配した
▽ ▽ ▽ ▽
「無理に決まってるじゃない。」
「ですがパチュリー様。彼方さんは外の世界の人ですし……」
「まったく……。こういうのは外の世界の人間に任せとくもんだぜ? それで、パチュリーは何を必死になっているんだ?」
小悪魔とパチュリーと話している横から俺がパチュリーの手に持っていた本を奪い取る
「…………『相性がわかる占い』ねぇ。こんなものまで入って来たのか?」
「あ!ちょっと返しなさいよ!」
本を取られたパチュリーが俺の手めがけてジャンプしようとするが、普段から動くこともないパチュリーが俺から奪えるわけもなく、その場でジャンプして着地しただけに終わった
「パチュリーってこういうの信じるタイプなの?そもそも」
俺の問いにパチュリーは、まさか……。という顔をして
「まぁ、信じる信じないといえば信じないわね。ただ、魔法を扱うのもとしてはこの本は興味があるわ。たったこれだけの行動・言動・持ち物だけで他人の好意、そして関係性がわかるんだもの。 彼方、これが外の世界の魔法かしら?」
かなり真剣な表情で俺に話すパチュリー
「いや…………。魔法……とは少し違うし。それにその本に書いてあることが必ずしも当たるというわけではないから…………。パチュリーが求めているような成果はないと思うよ?」
外の世界の女子高生や、恋に生きる人達は信じてそうだけど……。いがいに男の人達は信じてないんじゃないかな? あぁ……早苗ちゃんは信じてたかな?『この世には恋愛成就の神様がいるんです!』って豪語していたくらいだし。早苗ちゃんの家系からすると、そういった考えになるのは当たり前だけど
「そ……そんな……!? 騙したわね!?」
「え゛!?それ俺が作ったものじゃないんだけど!?」
ショックを受けたかと思うと、いきなり俺の襟首をつかんで前後に動かすパチュリー
「だ、ダメですよ!?パチュリー様!彼方さんは真実を言ったまでだけですし!」
そんなパチュリーをあわあわと止める小悪魔
小悪魔に止められて、肩で息をしながらもやっと自分の持ち前の冷静を取り戻せたのか、ふぅ……。と息を吐いて座る
「…………まぁ、真実を教えてもらったことだし。そのことについては礼をいうわ」
それだけいって、パチュリーは俺が元から存在しなかったかのように自分の周りに積まれている本を手に取り読み始めた。そんなパチュリーの後ろで小悪魔が困った顔をしながら、頭を下げている。 これがパチュリーの“素”なのだから気にするこはないのに。
「んじゃ、俺も勝手にさせてもらうよ。 あ、パチュリー?魔法に関する本は読んでもいいのかな?」
「奥にある本じゃなければいいわよ。 奥の本は開いただけで貴方なら発狂するだろうし」
「……うん。絶対いかないよ」
この年で人生を降りたくないし
▽ ▽ ▽ ▽
「う〜ん……。反射、反射っと……」
パチュリーから自由にしてもいいという許可も貰ってから一時間。俺はある魔法を探していた
「ないな〜…………。パチュリーに聞いたほうがいいかな?」
「どうかなさったんですか?」
困りに困り、最終的にはパチュリーに聞くという結論に達したところで奥から出てきた小悪魔に話しかけられた。しかも隣には次の本を取りにきたのであろう、パチュリーも一緒だ。
「あ、小悪魔。それにパチュリーも丁度いいところに来た。ちょっと相談したいことが────」
「いやよ」
「はやいよッ!?なんで幻想郷の人ってこうも早いの!?」
「まあまあ……パチュリー様も話しくらいは聞いてあげても……」
小悪魔、可愛い顔して結構言うね。胸にくるよ、いまの言葉
小悪魔の言葉を聞いたパチュリーは、いかにも嫌そうな顔をするが、しょうがない……。といった様子で持っていた椅子に座った。 …………もしかして椅子を持ち歩いているのか?
「えっとさ……弾幕勝負についてなんだけど……。俺ってまだ弱いから成功法の弾幕じゃ皆に勝てないじゃん?」
「ええ、そうね。これからも勝てないと思うけど」
「…………それで新しいスペルカードを作ろうと思ってるんだけど……。そのスペルカードに反射をつけたいな……。っと思って」
「……反射?」
俺の言葉にパチュリーが怪訝そうな顔をする
「うん。ほら、光の屈折みたいな感じで、弾幕も反射できないかな……と」
「弾幕を……?あなたが相手の弾幕をってこと?」
「いや、自分の弾幕をだよ」
例えば、俺が弾幕を撃ったとしよう。俺の弾幕は一直線に飛んでいくタイプで、ほんとうに弾丸のようなものだ。 けど、俺の弾幕は高確率で避けられるだろう。 そこで、この反射を利用する。イメージとしては弾幕の道に鏡を置く感じだ。そうすると、弾幕は直線上に進むのではなく、また違った軌跡を描くと思う。そうやって相手を翻弄、あるいは攻撃して、弱ったところに光波動を撃ち込む。
「って、ことなんだけど…………」
椅子に座って俺の考えを黙って聞いていたパチュリーが口を開く
「ふ〜ん……。なかなか面白い発想ではあるけど。それだけではスペルカードにする意味がないわ。 そうね……。そのあなたがいう鏡を相手の周囲全体に展開させて、そこに貴方が弾幕を撃つ。もちろん、全体に展開させるわけだから弾幕はその中を不規則に動きまわり、やがて避けられなくなった相手はその弾幕を喰らう。これくらいじゃないとスペルカードにする意味がないわ」
ペラペラと喋るパチュリー。成程、これくらいじゃないとスペルカードにする意味はないのか……。
「もちろん、これには貴方がその鏡を動かすというのが絶対条件よ? そうしないと不規則な動きはできないし、いくら周囲に展開するといっても通り抜ける場所はいくらでもあるわけだから」
俺の方にピン!と伸ばした人差し指を向けるパチュリー。 それにしてもパチュリーって親切だな。俺が考えたものに対して、こんなにも考えてくれるなんて…………
「それにその鏡も魔法ではなく、あなたの弾幕と同様な力で作らないと意味ないわ。下手に魔法で代用なんてことは絶対にダメ。わかった?」
「お、おう……。ありがとうパチュリー」
「あっ!……まぁ、これは礼よ、礼」
やっと自分が熱くなっていたことに気付いたのだろう。バツが悪そうな顔で俺のことを睨みつけると、そそくさとその場を去ってしまった
「えっと…………。なんか悪いことしたかな?」
「ふふ。いえいえ、パチュリー様も楽しそうでしたし、よかったと思いますよ?」
去った場所を見ながら隣にいる小悪魔に話しかけると、小悪魔はくすくすと笑うばかりであった
▽ ▽ ▽ ▽
パチュリーの言葉を思い出し、紅魔館の庭を借りて練習すること一時間。どうも上手くいかない。 もともと、自分で言ってて悲しいが、才能がないというか凡人の俺には結構難しいみたいだ。
「どうもうまくいかないな……」
そろそろ休憩しよう、と思いはじめたとき後ろから声がかけられた
「一つの鏡に力を注ぎ過ぎよ。もっと、全体に満遍なく…………。そうね、薄い生地を伸ばす感覚でやったほうがいいわ。それと、弾幕と同じ力なんだからもう少し抑えても十分に維持できるはずよ」
「あ、パチュリー」
みると、パラソルの下で小悪魔に用意させたのであろう紅茶を飲みながら、パチュリーが本に目線を向けたまま俺に指示をしてきた。
「……なんでパチュリーが?」
あの図書館からずっと出ないものだと思っていたんだけど。それと小悪魔も
「……あなたの練習の音で静かに本が読めないのよ。だからさっさとあなたに習得させれば落ち着いて本が読めるでしょ?」
はいはい、すいませんね。音がうるさくて
「って、あれ?音なんてしてたかな?鏡を作成させて弾幕を撃つことしかしてないんだけど……」
「ほら、さっさと続きをしなさい。みてあげるから」
「あ、うん……」
なんだか少し釈然としない感じだけど、パチュリーがいると心強いのは確かだし、ここは素直にパチュリーにいうことを聞いておこう
そうして俺はパチュリー指導の元、宴会からレミリアちゃん達が帰ってくるまで練習を続けたのであった
▽ ▽ ▽ ▽
「それで?明日は何時くらいに練習にくるのかしら?」
「え゛?」
何故か迎えにきていた霊夢と一緒に博麗神社に帰ろうとしたとき、今日一日付き合ってくれたパチュリーにお礼を言ったら、そんな言葉が返ってきた
「『え゛?』じゃないでしょ。明日はいつ練習にくるのか聞いてるのよ。あなた一人で練習なんてできるわけないでしょ? それともなに?自分一人でできると過信しているのかしら?」
いや、流石にそうは思っていないけど…………。迷惑にならないのか?
「それであなたの生きる確率が上がるならね。あなたが死んだらフランなんて幻想郷を破壊しちゃうかもしれないし」
ああ、なるほど。そういうことね。パチュリーって身内には優しいんだな。それとフランちゃんが紅魔館で大切にされてるようで安心したよ。
「それじゃ…………来るときは電話いれるってことでいいかな?」
時間指定なんてしても、この頃は襲撃する子が多くて邪魔されそうだし
「ええ、わかったわ。それじゃ、帰ったら今日のことをちゃんと復習しとくように」
パチュリーはそれだけ言って、小悪魔を引き連れてさっさと屋敷に入っていった。その途中小悪魔が会釈してきたので、こちらも会釈する
「さて、またせたな。霊夢」
「べつに待ってないわよ」
…………なんだか少し棘があるのは気のせいですか?
「そ、そうだ。フランちゃんに一声かけてから帰ろうと思うんだけど」
今日、遊んでないし。
「妹様なら、『おにいちゃんがフランを置いてけぼりにした。もうしらない!フランもおにいちゃんを置いてけぼりにする! あのロリコン野郎で巫女萌え、メイド萌え野郎!』とか言って部屋に帰ったわよ」
「咲夜…………何時の間に?あと、最後のほうは捏造だろ。フランちゃんにまでそんなこと言われたら、ショックすぎて違う意味で発狂するよ」
霊夢に聞いたはずなのに、時間を止めてきたのであろう咲夜が答えた
「いまの貴方は紅魔館のお客様だもの。メイド長としてお客様を見送るのは当然の義務よ」
そういって咲夜はお辞儀をした。
そんな咲夜を見るのが少し恥ずかしかったので、俺は霊夢の手を掴んで博麗神社まで帰ることにした。
▽ ▽ ▽ ▽
その頃のフランちゃん───
「明日、おにいちゃんに会いに行ったら、自分からは話しかけないこと。いいクマちゃん」
自分の部屋でお気に入りのぬいぐるみ相手に誓いをたてていた
「う〜!でもでもおにいちゃんが話しかけてこなかったらどうしよう? そんなの嫌だよぉ・・・・」
ぬいぐるみを顔に押し付けてパタパタと足をさせるフラン。その表情はありえもしない想像をして少し涙目になっていた
「…………やっぱ話しかけちゃおう…………」
そして、寂しくて、自分が立てた誓いを数分で破壊したフランであった