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24.化け猫と猫神様



 なし崩し的にパチュリーが先生に加わったところで、美鈴と霊夢の特訓が楽になるはずもなく、むしろ霊夢は俺を親の敵のようにいじめ抜き、結構キツイなスケジュールに俺は身体的にまいっていた

「そうだ……。人里へ行こう」

 誰もいない自分の部屋で呟いた俺は、息抜きに人里へと足を運んだ

▽     ▽    ▽     ▽

 霊夢に人里へ行くことを告げると、なんか疑いをかけられた目で見られたけど、なんとかそれに耐えて人里へと来た。それにしてもあの目はなんだったんだろう? まるで浮気を疑っている妻みたいな反応だったけど……。

「あややや、そこにいるのは彼方さんじゃないですか」

「お、文じゃん。なにしてるの?」

「取材ですよ、取材」

 大通りを歩いていると後ろから声をかけられたので、振り返ると文が手を振っていた。それに軽く振り返して近寄ってみると、どうやら取材をしにきたらしい。 誰だろう?慧音さんかな? それとも慧音さんから話しをきいただけの人物だけど、阿求さんって人かな?幻想郷の歴史書を編纂していると聞いたけど……いまだに挨拶に伺うことが出来てないんだよな……。近々時間を作って挨拶に伺うことにしよう。

「それで?その取材人物って俺が知っている人?」

「ええ、もちろん」

 俺の問いに文は満点スマイルを浮かべ

「クリスという人物に取材を試みようと思いまして」

 とんでもない人物に取材を試みようとしていた。

「文、止めたほうがいい。クリスさんは色々な意味でやばい」

 とくに服装が。そしてオーラが。 

 幻想郷の重鎮達とは違う意味で寒気を覚えてしまう

「あやや……。そんなに危険な人物なんでしょうか?」

「うん。危険のベクトルは違うけど……」

 文は顎に手を当てて考えこんでしまった

「まぁ……なんとかなるでしょう。彼方さんを差し出せば……」

 どうやら俺の耳は壊れたらしい。文の口からとんでもない言葉が聞こえてきたんだからそうに決まっている

「文。今度おごるからクリスさんは止めとこうぜ」

 クリスさんは源氏名みたいなもので、本当は橘さんなんだけど………それを言ったら俺が橘さんに怒られそう。それを理由にオカマバーの従業員なんかにさせられたら、俺は外の世界に帰る勢いで霊夢に頼みごとをするだろう。

「えー………ヒモの彼方さんに奢られても……なんか私が無理やり奢らしたみたいになりそうですし。どうせかけそばとか辺りでしょうし……」

「ヒモじゃないって言ってるだろっ!?」

 なんども寺子屋で会ったじゃん。それとも文は子供達に混じって俺が慧音さんの授業を受けているとでも思っているのか

「あはははは。冗談ですよ。三割くらい」

 リアルな数字ですね。まだ一割とかのほうが笑えてくる

「それにしても、彼方さんはなにをしているんですか?」

「ん? あぁ、なんというか……息抜き?」

 いきなりの話題転換に一瞬頭がついていけなくなった俺は、質問をしてきた人に対して質問で返すというなんとも訳のわからない回答をした。 

 だが、息抜きであることには変わりないよな。決して訓練がきつすぎて逃げ出そうなんてこと微塵も思ってないし。

 俺の言葉に文は、一つ頷いて納得した顔で俺に言った

「霊夢さん達の訓練が嫌で逃げてきたんですね」

「逃げたんじゃない。戦略的撤退だ。 いや、それも違うな。ただの息抜きだよ。 第一、訓練が嫌であろうとなかろうと俺が霊夢や美鈴、それにパチュリーになにかを言える訳がないだろ。 皆、俺のために自分の時間を割いてまで訓練に付き合ってくれてるんだから」

「でも、彼方さんは元にこうやって逃げてますよね?」

 首を傾げる文に、俺はなんて言えばわからなかった

 確かにどんな言葉をこの口が吐こうが俺が逃げている……息抜きをしている事実は変わらないわけで………でもいまから帰ったところで、霊夢から白けた目で見られるのは必須でし。それどころか、訓練が強化されたりしたら………

「骨が砕かれ……手足は千切れ飛び……」

「彼方さんっ!?どうしたんですかっ!? なにをどう想像したらそんな答えにいきつくんですかっ!?」

 顔が青ざめているであろう彼方の肩を揺さぶりながら、必死に正気に戻させる文。

 そのかいあってか、なんとか彼方は正気へと戻った

「あ、そういえば彼方さん。少し聞きたいことがあるんですけど────」

 なんとか正気に戻り、深呼吸をしている彼方に別の話題を持ちかけた文であったが

「こんな所に猫とは珍しいな。うりゃうりゃ」

 彼方は文の反対方向を向いて、自分の足元にいるなにかと遊んでいた

「………………」

「いたっ!?文さん扇でビンタは止めてください!? ちょっとなんなのっ!?」

「べつに……。なんとなくです。 それはともかく、その足元で戯れているのは猫さんですか?」

 彼方の足元を、覗きこむような形でみた文は、真っ白な毛並みの猫が彼方の足……というより、ズボンにしがみついているのをみながら彼方に話しかける

「だね。猫なんて幻想郷で見たことなかったらいないのかと思ったよ」

「あれ?そうでしたっけ?」

 疑問符を傾げる文に

「ほら……俺、普通の人とは周りにいる連中が違うじゃん……?」

 彼方は少しだけ、どんよりとしながら答えた

 毎日毎日、訓練訓練訓練。それに永琳の診察にフランとの遊びやチルノとの遊び

 普通の外来人であるならば、まずこうは日常を送ってないだろう。

 だからといって、この日常が嫌というわけではない。

 むしろ、毎日毎日が楽しくて仕方がないのかもしれない。

 普通ではないから、霊夢と出会い、普通でないからフランやチルノと友達になれたのだから。

 普通の人間である、自分が。

「と、そんなことは置いといて……この子、迷子かな?」

「う〜ん……。見た所、そのようですけど……。多分、“猫”ですから、あの子と関係があるのかと……」

「あの子?」

「ええ、簡単に言ってしまうと────」

『にゃーにゃー』

「ん?魚が食べたいのか?」

「………………」

「痛い痛いっ!!?? 文さん、俺の腕はそっちには曲がらないです!!」

 自分の話を無視されたのが嫌だったのか、はたまた彼方程度に無視されたのが嫌だったのか……文は無表情で彼方の腕を人体が曲がることがない方向に力いっぱいに曲げていた。

 そんな二人を微笑ましそうに見守る人里の人達

「みなさ〜んっ!? そんな目でみてないで助けてくださいよ!?」

 人里の人達に向かって手を伸ばす彼方であったが……

『にゃー』

 その手は人里の人達に届くことはなく、かわりに真っ白な毛並みの猫が彼方の手に自分の手をのせたのであった。

▽    ▽    ▽    ▽

「まったく……よくまあお金もないのに、魚を買おうと思いましたね」

「川魚なら……そんなに高くないと思ったんだ……」

 先程文によって、ありえない方向に曲げられそうになった骨は無事にことなきを終えたわけだが……。 猫に魚を買おうと思ったところ、自分の手持ちでは圧倒的に足りなく、近くでそれを黙って見ていた文に代わりに支払ってもらう形になったのだ。

『にゃー?』

「うんうん。いいんだよ君は。それよりおいしいかい?」

『にゃー』

 彼方の落ち込んだ声に反応した猫は、彼方を気遣うように彼方のほうを心配そうに向いたが、そんな猫を彼方はしゃがみこみ頭を一撫でして問いかける。 

 その問いに対して、猫は目をつぶって嬉しそうにすることで答えた

「それにしても……この猫さんは私達をどこに連れて行きたいんでしょうか?」

 いま文達がいる場所は先程の人里を出て山の中である。

「ここは妖怪の山に属する所なんですが……」

「あ〜……もしかして文の立場が悪くなったりする?」

 鴉天狗である射命丸文は妖怪の山に住んでいる。そして妖怪の山は天狗達によって支配されているのだ。

 天狗達を言葉であらわすなら、“会社”という言葉がしっくりくるかもしれない

 外の世界の人間社会を小さく纏めたもの。

「べつに悪くなったらなったでいいですよ。 身内を持ち上げるだけの、新聞というにはあまりにもお粗末なものを作り、誰もそのことについて一切の不満を持っていないんですから」

 下の者は上の者には逆らえず、下の者は上の者に気にいられるような記事を書く

「あんなの新聞なんて言い切れませんよ。 あぁ、話題が逸れてしまいましたね。 ですから、何を言いたいかというと、彼方さんは気にしなくていい。ということですよ」

 俺の肩を軽く叩いて

 その文の表情は少しばかり寂しそうで

「さ、行きましょうか? 猫さんも早く行きたがってますよ?」

 先を歩こうとした文の手を無意識に掴んでしまった

「???どうしたんですか。彼方さん」

「あ、……その……なんでもない」

 何かを言わなくちゃいけないはずなのに

 俺は何も言えなかった

 いや────言ったらいけないと思った

 何故そう思ったのかはわからない

 けど……霊夢の言葉を借りるなら“カン”というものだろう

「お〜い!いきますよ〜!」

 いつの間にか、自分より遥か前方へと進んでいた文に追いつくために俺は小走りでその場を後にした

『やれやれ、呆れたな……。 まるで、学級限定の新聞だ。いや、只の点数稼ぎか』

▽    ▽    ▽     ▽

 先程の場所から歩くこと10分。なにやら大きな家が見えてきた

「やはり……私の考えは正しかったですか」

 隣で得心がいったというように頷く文

「?どういうこと────」

 その言葉の真意を確かめようと文に話しを振ろうとした瞬間、家の玄関が開き何者かが駆けてきた

「やっと見つけました!もう、どこ行ってたの!?」

 身長はフランより少し高いか同じくらいで、猫耳と二又の尻尾を生やした女の子が、俺の足元の猫に向かってなにやら怒っていた

『にゃー』

「へっ?この人達にお魚さんを貰ったの? ちゃんとお礼いった?」

『にゃーにゃー』

 俺からしてみればこの女の子が一方的に会話をしているようにみえるんだけど……一人と一匹の間ではちゃんと会話が成立しているらしい。

 というか……この子誰だ?

 白猫との話がついたのだろう。女の子はこちらのほうを向く

「えっと……この子がお世話になりました。私、橙|ちぇん|っていいます」

 一度頭を下げてから、橙は笑顔で彼方に自己紹介をした

「お礼の言葉がいえるなんて橙ちゃんは偉いね。 こんにちは、俺は不知火彼方。博麗神社って分かるかな? その神社でいまは居候として厄介になってるんだ」

 膝を折り、橙と同じ目線の高さにしてから、できるだけ優しい声を意識して橙に自己紹介する彼方

「雑用係とは言わないんですね」

「そこ、うるさい」

 隣でボソリと呟く文の言葉にツッコミをいれて橙に話しかける

「橙ちゃんはここに一人で住んでいるのかい?」

「はい!一人ですよ! あ、でも藍しゃまが毎日来てくれるのでほとんど二人……かな?」

 ん?藍しゃま……?

 その単語には身に覚えがあった

 自分の良き相談相手である、八雲紫の式である

「ねぇ、橙ちゃん。その藍しゃまって────」

 誰なんだい?

 そう聞こうとした所で先程の玄関から新しい声が聞こえた

「こらー、橙。 外に行くときはちゃんと後片付けしないとダメじゃないか────」

 普段みたことがないほどのデレデレ顔で、橙ちゃんを怒りながらこちらに来る八雲藍がいた。

「……………」

「……………お久しぶりです、藍さん」

 こちらに気付いた藍が固まるなか、どうにかそれだけを言うことができた彼方

 その横では文が必要以上にカメラのシャッターを切り

「あれ?藍しゃまー、どうしたんですかー?」

 訳が分からないといった様子で彼方と藍を交互にみやる橙がいた

▽    ▽    ▽    ▽

「あれからかわりはないんだな」

「ええ、毎日普通に生きています」

 藍さんの以外な一面をみてしまった後、俺は家の一室にて藍さんと話していた

 この話しに文も参加したかったみたいであったが、橙ちゃんの遊び相手をするなら取材を一度だけ受けるという藍さんの取引に、首を高速で縦に動かし隣の部屋で嬉々として遊び相手になっている。

 あのときの文の顔ときたら…………

「ふむ、それは結構だ。君は明らかに“こちら側”ではないからな。博麗神社で庭でも掃除しているのがお似合いだよ」

 咲夜にも言われたけど……もしかしたら俺の天職は庭掃除なのか? だとしたら少しだけ泣けてくる

「あの……藍さんに聞きたいことがあるんですけど……」

「ん?なんだ?私にわかる範囲なら何でも答えてやるぞ」

 その言葉を聞いて俺は自分の胸を少しだけ抑えながら

「俺はあの時────どんな顔をしていましたか?」

 あの時────はじめてルーミアに会い

 ────ルーミア達の怯えた姿をみて

 ────あの妖怪の傲慢な姿をみて、自分の中の何かが一瞬だけ壊れた

 あの時、紫さんが止めに来てくれなかったら……俺はなんの躊躇いもなくあの妖怪を殺していたのだろう。 なんとなく、自分の中に変な確信めいたものがある

 藍さんは黙って俺は見つめている。その瞳は何かを躊躇っているようにもみえた

「そうだな……。とても人間らしい顔をしていたよ」

「…………は?」

 思いもしなかった答えに俺の思考は一瞬ついていけなくなった

「彼方。君は太陰対極図というものを知っているかい?」

「太陰対極図……ですか?」

 それなら外の世界で、バッチとしてみたことがある

「簡単にいうと、世界のすべての物は陰と陽の二つで成り立っているという考え方に基づいたものだ。 陽とは、光・ポジティブなどといったプラスのもので使われてることがおおい。 逆に陰とは、悪・ネガティブといったマイナス方面で使われることが多い」

「でも、俺の記憶が正しければ……白いところにも黒い点があったような気がするんですけど……」

 律義に手を上げながら疑問をぶつける彼方

「うむ、よく気がついたな。いま彼方が言った通りだ。 白いところにも黒い点があるな。これは、善の中にも悪はあり、悪の中にも善はある。という考え方だ。 完全な善などなく、完全な悪などない。全てが混じり合って存在している。そういう意味だ」

 完全な善はなく、完全な悪もない

 ということは────あのときのアレが俺の中の悪なのか?

 黙っている俺が気になったのだろう。

「そうきにするな、彼方。私の知人曰く、『完全な悪や善なんて、それこそ化物に等しいな』ということだからな。 それに、だからといって不知火彼方という存在が変わるわけでもないだろ?」

「そう……ですね。確かにそう通りですね」

 ありがとうございました。 と頭を下げる俺に藍さんは、きにするなと声を出す。そしておもむろに俺の後ろのほうへと声を張り上げた

「さぁ、私達の話は終わったぞ。 こそこそしてないで出てきたらどうだ、橙。誰も怒っていないから」

 藍さんが声を上げた数秒後襖から橙が、みつかちゃった……というように気まずそうに顔を出す。そしてその後ろから文も。

「?どうしたの、二人とも」

「いや〜……橙のほうが彼方さんに言いたいことがあるとかで……。一応、私は止めたんですけど」

 頭を掻きながら困った顔を浮かべる文。そしてその話しの中心人物である橙は、とことこと彼方の前まできてガバッと勢いよく頭を下げた

「お願いです、猫神様!橙に力を貸してくださいっ!」

 誰ですかソイツ。存じ上げません

「いや、あの、……え?」

 訳が分からなり、周りをみると文は、あちゃ〜とした顔で顔を覆い、藍さんは口を開けていた

「だって!橙が使役できなかった白猫さんをいとも簡単に使役しましたし……! 猫神様に間違いありません!」

「間違えです」

 橙の力説に間髪いれずに否定の言葉で返す彼方

「ふぇ……」

「彼方、ちょっと話しがある」

「え゛っ!?」

 自分の考えが否定され涙目になった橙。そんな橙をみて藍は彼方の首根っこを掴み奥の部屋へと怯える彼方を引きずって行った

 後に残ったのはいまなお涙目の橙と、困った顔を浮かべている文だけ

「え〜っと……彼方さんは正義のヒーローですから、正体がバレるのが嫌だっただけなんだと思いますよ?」

 いたたまれない気持ちになって、ついつい橙に話しかける文

「うぅ……。ほんとう?」

「ええ、本当ですよ」

 文の言葉を聞いて、先程の涙顔はどこへ消えて行ったのか。橙は嬉しそうに自分の部屋へと帰って行った。

「はぁ……ブン屋としては嘘を吐くのは嫌なんですが……しょうがないですね」

 奥から聞こえてくる彼方の叫び声をBGMになんとか自分で納得した文であった




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