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26.隠れた満月



 日が沈み、黒の世界が辺りを支配し魑魅魍魎が跋扈しはじめてきた時間。幻想郷の境目に位置する家で一人の女性が空を見上げていた。綺麗な金髪に、右手には扇子を携え、その女性はただただ黙って空を─────月を見上げていた。

「まさか月を隠しちゃうなんて大それたことするとは……それも霊夢にも気づかれることなくね……。まぁ、彼方はおしいとこまではいったわけだけどね」

「紫様。流石にこうも続くと私達妖怪としても困るものが出てきますよ。……どうしますか?」

 本来、異変に対しては妖怪である八雲紫は関わらない。その役割を担うのは博麗神社の巫女である、博麗霊夢の役目である。─────が

「人間としては、さして問題ないことですものね。……しょうがない、今回ばかりは私も動くことにしましょうか」

「おや、紫様で参れらますか。お供は必要ですか?」

「大丈夫よ。流石に私一人は……ね。あくまでサポートよ。解決するのは人間よ。それじゃ、行ってくるわね」

「お気をつけて」

 スキマを開きその中へはいっていく紫をうやうやしく見送る紫の使い魔、八雲藍。スキマが完璧に閉じ、その不気味な目が消えたときに下げていた顔を上げ、小さく息を吐いた。

「今晩は徹夜ですかね」

 主人が働いているときは自分の共に起きている。主人が寝ているときは自分が代わりに働く。それが使い魔、八雲藍である。

▽    ▽     ▽     ▽

 人里より離れた所に点在する神社、博麗神社。

 もう時刻にしては寝てもおかしくない時間帯なのだが、一つの部屋には明かりが点いていた。その部屋の中には、一人の少年と、まだあどけなさが残る、少女がいた

「ねぇ、彼方……。もっと……出していいのよ? 私はまだまだ頑張れるから……」

「でも、霊夢……。俺は今日はもう無理だよ……。昼間だってあんなに激しくしたじゃないか……」

「でもあれくらいじゃ足りないの……。おさまらないの……。大丈夫、彼方なら出来るはずよ。ほら、まだまだそこは元気じゃない……。昼間にあれだけ激しくしたのに、もうこんなに元気になって……ほんと、彼方ったら……、ここなんてビクンビクンなってるよ?そろそろ我慢の限界なんじゃないの……?いいのよ、ほら、吐きだして……」

 そういって彼方を見ながら、下唇を舌でペロリと舐める霊夢

 そんな霊夢の言葉を聞いて、彼方もいままで懸命に我慢していたのだが、既に限界に達していた体ではどうすることもできずに彼方は叫んだ

「もう限界だよ、霊夢!!─────空気椅子で弾幕製作終わらせてもいいよねっ!?」

「まったく……しょうがないわね」

 その言葉を聞いた瞬間に重力に抗うことを止めた彼方がどさりと畳に落ちる

「まさか……アレ以上に訓練が厳しくなるなんて……」

「だって……パチュリーにとられたみたいで悔しいじゃない。」

 ぷいっと彼方とは反対方向を向く霊夢

「あら……紫いたの?」

「ええ。あなた達がいかがわしいことをしているのかと思って、隠れてみていたの」

 振り向いた霊夢の前方、見慣れぬものなら卒倒してしまいそうなほどのおびただしい目の中から幻想郷の管理者である、八雲紫が扇子で口元を隠しながらくすくすと笑う

「べ、べつに私達はそんなことしてないわよ……!」

「あら、声だけ聞いたらそうだったから、すっかり私はお邪魔なのかと思ったわよ」

「はぁ……はぁ……、これは筋肉痛で永遠亭に行くハメになりそうだ……。って、あれ?紫さん。こんな夜更けにどうしたんですか?もしかして眠れない……とか?」

「ふふ、こんばんは。彼方、私達妖怪にとって夜こそが活動時間なのよ?」

「あ、そういえばそうでした……」

 目の前で上品に笑って見せる紫さん。こんなに綺麗な女性だからついつい忘れがちになるけど……紫さんって妖怪なんだよな。しかも幻想郷内でも上位に入るらしいし。

「けど……そうねぇ……。なんだか身体が火照って眠れなくなってきたわ。彼方、責任とってくれるかしら?」

「な、なんで俺なんですかっ!?」

 にじりよってくる紫さんから遠ざかりながら叫ぶ。

「え……?」

 後ろ手でシャカシャカと逃げていたのだが、ふと畳に触れている感触がなくなったことに驚き、したをみようとすると

「いやんっ。もう、彼方って大胆なのね。……本格的にわたしのここも疼いてきちゃったわ……。ねぇ、責任とってくれるかしら?」

 俺は紫さんのスキマによって移動され、その終着点に紫さんの胸があり、おもいっきりわしづかみしていた。

 紫の胸を掴んだまま固まった彼方に、紫は腕を首に回して彼方をその胸で沈みこませ、彼方の手をそのまま自分の腰より下に持っていく

「あ ん た は な に し に こ こ に き た の よ !」

 ところで、後ろに立っていた霊夢から蹴りをいれられ、可愛らしい声を出しながら彼方を離した。

「いったぁ〜いっ!もうなによ、霊夢!」

「それはこっちのセリフでしょ!!」

「きゃぁ〜!彼方〜!霊夢がいじめるわ〜!」

 いまだ固まっている彼方に抱きつく紫

「彼方!!」

「えっ!?俺!?」

 いきなり霊夢に睨まれてたじたじの彼方。そんな彼方をニヤニヤした顔で見つめる紫。

 ────おかしい

 なにが? そう聞かれると具体的なことは言えないけど、いつもの紫さんじゃないことは分かる。

「……紫さん、どうしたんですか? なんというか……いつもの紫さんじゃないというか、焦ってるというか……とにかくいつもの紫さんじゃないですよ?」

 心配そうな声を出す彼方に、紫は少しの間呆然とした顔をしたが、それもすぐに消え、笑顔を浮かべた。

「ふふ、優しいのね彼方って。でも大丈夫よ」

 ほんとよくきづく子ね。大変な時期でなければもう少しこうやっていたいところだけど……残念ながら時間がないものね。

「ねぇ、霊夢?」

「なによ?」

「月、きづかないかしら?」

 上を指さす紫につられ、霊夢は縁側へと足を進めそのまま真上を見る。そこには、夜の闇を優しく照らす月の姿があるばかり。

「……これは……!」

 目を細め、月を凝視していた霊夢はハッと何かに気付き、後ろ……紫のほうを振り向く。

「やっと気付いたのかしら?……まあ、人間である霊夢達には関係ないことだから、これにかんしては責めるつもりなんてないけどね。」

 妖怪である紫達にとって満月は死活問題である。

「それで、博麗の巫女はどうするのかしら?」

 あくまで霊夢を挑発するようかのような紫

「行くしかないでしょ」

 霊夢はため息をついて支度をする。

▽    ▽    ▽    ▽

 夜の迷いの森に、人形を肩に乗せて歩く少女が一人。

「まったく……。自分では手詰まりなのがなんとも情けないわね。不本意だけど魔理沙の力を借りるしかないわ。」

 歩くこと数分、人形使いのアリスの眼前には一つの家が建っている。その扉をアリスはコンコンと叩きながら用がある人物の名前を呼ぶ

「魔理沙―、いるかしらー?」

『おーう、ちょっと待ってくれ!』

 ドタドタドタ!

 ノックをして数秒も経たない内にこの家の主人である、霧雨魔理沙がひょっこりと顔を出す。黒い帽子はかぶっておらず、水分を含んだ髪の毛と首にかけてあるタオルからもしかして風呂上がりであろうか。

「あら、もしかしてお風呂上がりだったかしら? それなら少しだけ悪いことをしたわね」

「いや、きにしてないぜ。それよりどうしたんだ?借りてる本ならまだ読んでないから返さないぜ?」

「それはいつか返してもらうからいいわ。それよりも……ねぇ、魔理沙?」

「ん?」

「たまには身体を動かしたくない?」

▽    ▽     ▽    ▽

 真っ赤に染まった紅茶を片手に月を見る吸血鬼が一人。その瞳に映るは夜を明るく照らす月。

「なかなか面白いことするわね。わたしに断りもなく月をどうこうするなんて」

 口を三日月のようにして嗤うレミリアに、紅茶のおかわりを注ぎに来た咲夜は話す

「もしかして……お嬢様、行く気じゃありませんよね?」

 引き攣った笑みを浮かべる咲夜にレミリアは爽やかな笑みを浮かべ

「あとは頼んだわよ」

 親指を咲夜に突き付けた後、背中の羽を大きく開き空へと飛んで行った。

 困ったものだ……。額に手を当てた咲夜は、自分の主人に苦笑しながらもその後を追う。あんな主人なんだ。一人にさせておくとなにをしでかすか分からない。

 空を飛ぶ寸前、咲夜は思い出したかのように手を誰もいない空間へと振った。

▽    ▽     ▽    ▽

「あの……幽々子様、ほんとうに行かれるんですか?」

「ええ、もちろん」

「本当のほんとうにですか?」

「本当のほんとうによ」

 白玉楼の門の手前、白髪おかっぱで此処の庭師である魂魄妖夢が主人である、西行寺幽々子を止めようとしている。しかし当の本人はそんなことなど、どこ吹く風でニコニコ顔で妖夢の通せんぼを押し通す。

「ちょ、ちょっと幽々子様!?目的とか、目星とかついてるんですかッ!?」

 幽々子の笑顔に負けて、あっさりと押しとおされた幽夢が後ろから困惑気味に問うが、幽々子はかわらず、笑顔を浮かべて

「大丈夫よ、大丈夫。飛んでいるものを全部落とせばいいんでしょう?」

 怖いことをいった。

 意気揚々と屋敷を飛びだす主人をみながら、妖夢はなんとも微妙な気持ちで空へと駆けて行った。

 様々な思惑が交差する中、本物の月を取り戻すため、妖怪と人間という異色のペアが幻想郷を巡っていくのであった。

▽    ▽    ▽    ▽

「……また留守番か」

 そしてこの男も、部屋をぐるぐると回っていたのであった




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