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31.そんな関係



「えへへ〜、おにいちゃん。 フランが乗るときもちいい?」

「う、うん。きもちいいよ」

「不知火、アタイのほうがきもちいでしょ?」

「え、あ、そうかもしれないね」

「ルーミアは?ルーミアは?」

「そ、そうだね。ルーミアのもきもちいよ。 けど、そろそろ降りてくれると助かるかな」

 傷口が開くから

 現在の俺の状況はというと、遊びにきたフランちゃんとチルノちゃんとルーミアちゃんに馬乗りの状態で乗られている形である。 いっておくが俺が望んでこんな体勢になっているのではないことは伝えておく。

「そ、そうだよ三人とも。 彼方さん、只でさえ絶対安静って言われてるんだし、あまり負担をかけるようなことしちゃダメだよっ!?」

 チルノちゃんの横で大妖精の大ちゃんが必死に手を振り上げて三人を引き剥がそうとしているが、それも徒労に終わりそうだ。

「けどおにいちゃん、ずっとお布団から出てないの?」

「いや、トイレに行くときは霊夢の手を借りて布団から出てるよ。 まぁ、それ以外の時は出れてないけど。」

 前回は許してくれた霊夢であったのだが、同じことが二度も続くとそうはいかないみたいだ。炊事や洗濯のとき以外は俺を監視するために、この部屋から一歩たりとも出ようとしない。 食糧だって魔理沙にお願いするくらいの念の入れようだ。 ずっと俺の傍を離れようとせずに、10分おきくらいに「困ったことはない?」だとか「なにか持ってこようか?」とか、なんというか……くすぐったいようなことをしてくれるので、夢でも見ているのではないかと思ってしまうこともあるけれど。

「ふふん────だったらアタイのぶゆうでんを特別にきかせてあげる!」

「だったらフランが絵本をよんであげる!」

「だったらルーミアがおはなししてあげる!」

 同時にハモル三人の声

「ちょっと、アタイは不知火のおやぶんなんだから、ここはアタイでしょ?」

「違うよ、おにいちゃんはおにいちゃんなんだからフランだよ」

「あのね?あのね?ルーミアね?」

 いきなり可愛い口喧嘩をはじめるチルノとフラン。 そんな二人を無視して彼方に自分が体験したことを話し始めるルーミア。 ルーミアの話しを笑顔で聞きながら、彼方はあの後の出来事を思い出す。

 家族の絆を見た後に待っていた罵詈雑言の嵐を

▽    ▽    ▽    ▽

 ────回想────

 俺はあの後、すぐさま永遠亭の診察室に運ばれた。早く止血しないとまずい状態に陥るらしかったと永琳さんは言っていた。 というか、片足突っ込んでいた。

「はい、リラックスしてね。 ちょっとだけ痛いから」

 診察室に運ばれる頃になると、ぼーっとしていた頭がクリアになり消毒液の独特な臭いが鼻を刺激してくる。 永琳さんは注射器を取り出して、なにかの液体を俺の身体の中へといれてくる。 火照っていた身体が急激に冷めてくるのが実感できた。

「嬉しそうですね、永琳さん」

「ふふ。やっぱりわかっちゃうかしら?」

 聖母のような頬笑みを浮かべながら、鼻歌混じりに俺の処置を施していく。 それでいてその処置が完璧なんだからつくづく脱帽ものである。

「一つだけいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「いつからこの計画を?」

 ほんの一瞬だけ永琳さんの動きが止まる。 しかしそれは、ほんとうに一瞬ですぐに永琳さんの手は動き始める。

「そうねぇ……いつからだと思う?」

 俺の目を覗きながら聞いて来る永琳さん

「……最初に会ったときからだと思います」

「その根拠は?」

 面白そうに、探りをいれてくる永琳さん。 なんでそんなに嬉しそうなんだろうか……

「俺が初めて永琳さんに会ったとき貴女はこう言いましたよね? 『あの娘はね、兎なの。臆病者で人の目ばかり気にして、そのくせ振り向かれたら怖くて逃げだしてしまう、そんな兎なのよ。だからね、見逃してしまうのよ。誰かの優しさや、温もりを』 あの時はなんで俺にあんな話しをしたのかさっぱり理解ができませんでしたけど、今日やっと理解できましたよ。あの言葉に隠された意味を」

『あなたの目の前にはいるのは、そんな兎よ。 さて……あなたはどうするのかしら?』

「実際は賭けだったけどね。期待通りのことをしてくれて助かったわ。 流石人里のヒーローさんね」

「はは……。 それは文がでっちあげた称号ですよ。俺にはヒーローなんて言葉、似合いませんよ」

 ぎゅっと胴体に包帯が強く巻かれて、思わず顔を歪める。

「……あなたがそこまで言うのなら、別にいいけどね。 とにかく、助かったわ。────それに益々興味が出てきたわ」

「…………え?」

 怪しく光る目を隠そうともせずに、体が動かない俺に詰め寄り、その指で俺の顔をあげ、永琳さんを少し見上げるような形にする。 永琳さんは俺の唇をゆっくりと撫でながら

「仮にもエリートである鈴仙相手にあそこまで戦えたこと。そして自分の体を顧みずに行動するところ。そしてその体。依然みたときよりも、ずっと引き締まっているわ。能力も変わっているわね。 まぁ……それについては心当たりがあるけどね」

 唇から下へと降りて行き、肩を撫で背中へと移り、背中に付着していた血を一すくいして自分の唇へと持っていく。

 ゆっくり、舐めまわすように、上品に、しゃぶるように、血を舐め取る。

「あなたを観察することができたら、とても有意義なことになるでしょうね」

 すでに俺と永琳さんとの距離は数センチだけ。 俺が少し前にいけば──────

「診察室に運ばれたと聞いたから来てみれば……随分は楽しいことしているな、彼方」

「ええ、ほんとうにね………………」

 いきなり聞こえてきた聞き覚えのある声に、俺はすかさず永琳さんとの距離を離す。が、なにもかもが遅かったみたいだ。

「れ、れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれっ…………!」

 その者は一瞬にしてその場の空気というものを支配した

 その者は一瞬にして彼方の喉を痙攣させ、体すらも痙攣させた。

「文から色々と聞いたわ。私と魔理沙が弾幕勝負をしている間に、随分と面白いことをやっていたそうじゃない?」

「ち、違うんだっ!霊夢っ!俺の話しを聞いてくれ!」

「…………あいつ……完全に浮気がばれた男みたいな反応してるぜ」

 ゆっくりと俺に近づいてくる霊夢。後ろのほうで魔理沙が何か言っていたけど、いまの俺には関係ない。というか、霊夢が怖すぎて目が離せない。 自分の全てが霊夢に集中しているみたいだ。 怖すぎる……これがスペルカードの創設者にして右のでる者はいないとさえ言われる博麗の巫女のプレッシャーか……!

「ねぇ、なんであなたが此処にいるのかしら?」

「いや……それは」

「ねぇ、今頃あなたは私の帰りを神社でまっているんじゃないのかしら?」

「えっと……ですから」

 一つ言葉を発するたびに、一歩づつ距離を詰めてくる霊夢。

「今度という今度は──────許さないわよ?」

 いまここに宣言しよう─────

 不知火彼方は翌日、鈴仙並みに目を赤くし、腫れあがっていると─────

▽     ▽     ▽    ▽

 いまは治療中で、患者の傷に響くから。という名目で顔で笑って、心がマグマのような状態の霊夢と顔で笑って心で大爆笑の魔理沙を永琳さんが追い出してくれてから、数分。 お互い何も喋ることなく、医者と患者の役割を果たしていた。

「ねぇ……彼方?」

 そんな中、永琳がふいに話しかける

 いまは背中の治療の最中でうつ伏せの状態である。永琳は独り言のように彼方の反応をまたずに話し続ける。

「今回……私はあなたを利用したわ。 そのとき、あなたはどう思った? 怒り?それとも悲しみ?」

 永琳の声のトーンがきもち低く聞こえる

「私はあなたに会ったときから、ずっとこの計画を立ててたわ。 そしてあなたは私の目論みどうり……私達の手のひらで十二分に踊ってくれた。それは私達にとってみれば嬉しいことだけど……あなたにとってどうかはわからない」

 もしも……もしもこの日のためだけに、永琳さんが俺に接してくれたなら。 先程の言葉は全て嘘だったなら。

 もしもそれが本当だとしたら、少しだけ……いや、大分悲しいことだけど─────

「幻想郷に来る前、いや、それよりも昔に一人の女の子と、とある約束をしたんです」

「約束?」

「はい。それは只の口約束なんですけどね。 俺の中で奥で……いまもずっと燦然で消えることなく、色あせることなく、光り輝いているんです」

 口約束なんて、簡単に忘れてしまうはずなのに。 これだけは、守ろうとしている。 芯となって刺さっている

「できることなら……その約束というのを教えてくれないかしら?」

 そう言いながら、永琳さんは優しく俺の背中を叩いた。 どうやら、治療は終わったらしい。

 起きながら、永琳さんを正面から見るような形に座り直して俺は誇らしげに堂々といった。

「『周りの人達だけでも笑顔にさせる』。これが俺と早苗ちゃんが交わした約束なんですよ。 俺は正義のヒーローみたいに世界中の人を助けることなんてできないから、せめて自分の周りの人は、笑顔にしようって決めてるんです。 確かに、ずっと駒として使われたのは少なからずショックでした。けど、鈴仙や永琳さん、輝夜さんにてゐの笑顔をみたときに、ショックよりもずっと大きな喜びがこみ上げてきました。だからいいんです。 ────それに、伝わりましたよ。永遠亭の人達の想い」

 そういって彼はあどけない笑顔を私に見せた。

 まったく……。今回の計画は、彼の行動にも釘を刺すという名目も入っていたわけだけど……これは完璧に完敗かな。

「ほんと……面白い子ね。 ところで、その早苗ちゃんって子が彼方の好きな子なのかしら?」

「へっ!?いや、その、zsxrdctyヴおjyhtrざrsxyるいい」

 いきなりの質問に顔を赤くさせて、必死に理解不能な言語を喋り続ける彼方であった

 ────回想終了────

▽    ▽    ▽    ▽

「だから、おにいちゃんはフランのおにいちゃんであって─────」

「だから、不知火はアタイの子分で─────」

「それでね?それでね?その人間の人はルーミアをみるなり────」

 いつまでも平行線のままのチルノとフランちゃんの可愛い口論、そしてちょっと本格的に怖くなってきたルーミアの話しを聞きながら、俺は昨夜の回想を終わらせた。 

 治療の結果としては、3日間は絶対安静で、それから少しづつ動いていくことを許す。ただし、霊夢から離れないように。鼓膜は自然に治していく。ということだった。 あんなボロボロだったのに……本当に美鈴の訓練をして良かったと思った。 霊夢から離れないように、というのは俺の状態で一人で行動しようものなら、妖怪の餌になるからだろう。万全な状態ならいざしらず、いまの俺は恰好の餌というわけだ。

 普通なら俺みたいな奴と一緒に、四六時中行動を共にしないといけないのは嫌なはずだけど霊夢はその説明を受けた後、笑顔で承諾してくれた。嫌な顔一つせずに。咲夜あたりなら、共にいる間、ずっと暴言を吐くか、舌うちのマシンガンなのに。

 本当に此処にきてから、霊夢には迷惑ばかりかけているな……。 いつかお礼に何かプレゼントしたいな。リボン……はあるから、簪なんかどうだろう?いや、ストレートに花なんかもいいかもしれない。

「彼方、入るわよ? ……って、チビッコ共はなにしてんの……。ほら、おりなさい。彼方は怪我人なんだから。 あ、あんたは入ってきなさいよ」

 いまだに言い合っている二人を抱きかかえると、霊夢はルーミアの首根っこを掴んで、大ちゃんと一緒に出て行き、外の誰かを手招きする。その際に俺のほうをチラッっとみて目が訴えてきた。 

『なにかあったら……分かってるわよね?』

 俺はただただ首振り人形のように頷くだけしかできなかった。

   ☆

 皆が部屋から出て行き、無音な世界がやってきた。

 おかしいな……。 霊夢が誰かを呼んだことは確かなんだけど……。

「隠れてないで、出ておいで〜……なんつって」

「よ、よくわかったわね。わ、私が隠れていただなんて……」

「……………………え?」

 冗談半分で、誰もいない空間に向かって話したら、そこから兎さんがでてきました。

 俺が思考停止している中、鈴仙は早口になにかを捲し立てる

「べ、べつに私があんたの所に来ることなんか、これっぽっちもないんだけど、まぁ、あんたのおかげっていう考え方もあるし、その点だけは褒めようと思ってね!」

 ほとんど分からなかったけど、なんとなく褒められた感じはする。 

 すると鈴仙は、後ろ手で隠し持っていた何かを俺の胸に投げ込んできた。

「これ私が調合した薬。し、お師匠さまのようには作れなかったから使ってもらわなくてもいいけど……草で切ったときにでも使って」

「お、おう」

「それと、その怪我のこと、謝らないから」

 何故かえらそうにふんぞり返っている鈴仙。 まぁ……それにかんしては俺も謝られると困るけど。

「当たり前じゃないか。俺は本気の弾幕勝負で鈴仙に負けたんだし、元々、『ごっこ』遊びだしな。 終わったら、普通にしてればいいんだよ」

 それにパンツもみれたし。というのは言わないでおこう。これ以上、傷を増やしたくない。

「…………よけいな弾幕までみようとするから、ついていけないのよ」

 顔を横にそらしながら、小さな声でそんなことを言ってくる鈴仙。もしかして、俺にアドバイスしてくれてるのか?

「あ、ありがとう。今度から気をつけるよ」

「べつに……いまのはただの独り言よ」

 なんて都合のいい独り言だこと。

「そんなことより、あなた友達いないでしょ?」

「人をさびしんぼみたいに言わないでくれ」

 それが本当なら、ルーミアは俺のことを食べようと思ってきてるわけで、フランちゃんは破壊しようときてるわけじゃないか。

 俺の反論に鈴仙は少しばかり、悩んであと、指を突き付けて言いなおしてきた

「常識人の友達いないでしょ?」

 人形使いあたりが聞いたら絶対にキレてると思う

「あんたの周りは変な人物が多いみたいで、一般常識の友達が欠落してるみたいだから、そんな可哀想なあなたに私が救いの手を差し伸べてあげるわ」

「それって……友達になってくれるってことか?」

「う゛っ……。 べ、べつに友達とまでは……。ただ、相談とかお互いの故郷のこととか……そういったものを話せる仲なのは、いまのところ該当者としてはあんたくらいなわけで……べつに私は……」

 えっと……よくわからないんだけど。とりあえず────

「えっと、よろしくな?うどんげ」

「うどんげ言うな。よろしく、彼方」

 そんな軽口をかわしながら、俺達はお互い握手をした。

     ☆

 握手をしたあと、風のような速さで鈴仙は部屋から出て行ったきり帰ってこなかった。永遠亭に戻ったのかな?

「あら、彼方。ずいぶんと嬉しそうじゃない」

「まあね。友達が一人増えたからさ」

 フランちゃんとチルノちゃんと大ちゃんとルーミアちゃんが帰り、二人だけの夕食の席で霊夢はご機嫌な俺をみてそういってきた。 それにしても、フランちゃんは一人で帰るって言ってたけど……ちゃんと帰れてるのか?

「あんまり無茶をしてると、早死にするわよ? とくに此処じゃ」

 今日の夕食のてんぷらを食べながら、俺のほうをみる霊夢。

「それくらいわかってるよ。 退くときは素直に退くさ」

「どうだか」

 それっきり喋ることなく箸を動かしていく。 うん、やっぱ辰五郎さんところの野菜はうまいな。

 だが、そんなゆったりとした時間は玄関から聞こえてきた泣き声で終わってしまった。

「この声……フランちゃんじゃないか?」

「はぁ……大方、道が分からなくて帰れなくなったんじゃないかしら。 まったく……咲夜に電話で一人で帰るなんて威勢のいいことを言っていたくせに」

「はは……。たぶん、チルノちゃん達が皆自分達で帰るのをみて、自分もできると思ったんだと思うよ」

 それか、まっすぐに紅魔館に帰らず遊んでいたか。

 玄関から聞こえていた声は、だんだんとこちらに近づいてきており、その音も大きくなっていた。

 霊夢は、やれやれ……とでもいいたげに泣きながら俺の腹めがけてダイブしてきたフランちゃんを抱き上げ、紅魔館に送り届けるべく、神社を後にする。

 手を振るフランちゃんに手を振り返しながら、俺は霊夢と一緒に食べるべく、箸をおいて一人、天に浮かぶ月を眺めるのだった。




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