38.紅魔館式パーティー
日中の
「あっつ〜……。 食費が浮くし、おいしいもの食べられるから行くのはいいんだけどさぁ、この暑さだけは勘弁してほしいわ」
「そんなこといったってしょうがないだろ、夏が暑いのは当たり前なんだからさ」
そんな中、夜闇の道をさくさくと歩く二人がいた。 一人は幻想郷の巫女である博麗霊夢。 大きな赤いリボンと腋見え巫女服が特徴の可愛い女の子である。 もう一人は外来人である不知火彼方。 目まで届く前髪と肩につくかつかないかくらいの長さまで伸びた後ろ髪。 今日の服はちょっと背伸びして外来人の知り合いに借りたスーツを着こんでいる。 白ワイシャツに淡い緑色のネクタイを結び、黒のスーツできめていた。 周りからみたらかっこいいというよりは、微笑ましい感じである。 彼の顔が少しだけニヤついているのも考えを増長させる要因かもしれないが。
「それにしても、紅魔館の夕食って楽しみだよな〜、やっぱ洋食が多いのかな?」
「まあ、結構多いわね。 ただ、今日は立食の形をとるみたいよ。 他にも呼んでるみたいだし。 派手好きのレミリアらしいわ」
霊夢は軽くため息をつく。 今日は紅魔館から夕食……というより、パーティーのお誘いがあったのだ。 朝飯を食べているときに急に咲夜が訪ねてきたので何事かと思いきや、『本日、20:00よりお嬢様主催のパーティーを開催いたしますので、是非これを』と、霊夢に招待状を差し出してきた。 やはり紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は伊達じゃなく
「まあ、幻想郷の皆って宴会とかすんごい好きだし、派手好きが多そうだよね」
「私は静かなほうが好きなんだけどね」
確かに霊夢は宴会で騒ぐよりも一人でのんびりとお茶をしているほうが様にはなってると思うけど。
霊夢と談笑しながら歩いていると、昼間のように明るい空間に出た。 そこだけ夜を取り外したように明るく、思わず感嘆の声をあげてしまった。 流石紅魔館、本気すぎる……。
「あ、お二人ともいらっしゃいませ! お二人が最後になりますよ!」
門前で門番である美鈴が手を振りながら話しかけてきた。
「みんな早いな〜。 もしかして美鈴は俺達を待っていてくれたの?」
「もちろんですよ、私は紅魔館の門番ですよ? お客様を全員見届けてからお屋敷の中に入るのが当たり前です」
「あら、それじゃ悪いことしちゃったわね。 美鈴も楽しみにしてたんでしょ?」
隣にいる霊夢がとくに悪びれた風もなく話しかける。
「いえいえ、私情より仕事が優先ですので」
かわらない笑顔で霊夢に返答する美鈴。 霊夢もその答えを予測していたのであろう、何もいわずに口元だけわずかに口角をあげた。 今日の美鈴はいつもよりしっかりしているみたいだ。 いつもこうなら咲夜も安心するだろうに。
「それじゃ、行きましょうか」
スタスタと歩く霊夢に合わせて、美鈴が門を開ける。 俺も霊夢に手を引かれながら門をくぐると、屋敷の中から聞こえてくるはしゃぎ声や華やかな音色が一層大きさを増して聴こえてくる。 そのまま美鈴に案内されて大きなホールへと連れて行かれると
「うわぁっ……! すげえ……。 紅魔館ってこんなこともできるのかよっ!?」
そこには、ホールを埋め尽くさんばかりに大量に置かれた料理と、その前方でオーボエ・フルート・ファゴット・トランペット・ホルン・ティンパニ・ヴィオラ・チェロ・コントラバス・チェンバロ・ピッコロ・バスドラム・シンバル・ワグナチューナー・マリンバ・コルネットなどなどの楽器を使って綺麗かつ繊細な演奏で楽しませてくれる妖精メイドたちの姿があった。 ゆったりとした曲調で決してその場を崩すことなく心を穏やかにさせ、話しやすい空気を作っている、そんな雰囲気が外から感じられた。 いつもは遊んでばかりで給料泥棒だと思っていたけど……やっぱ紅魔館のメイドなんだと改めて思った。
横をみると既に霊夢の姿はなかった。 慌てて視線を右に左に移していくと、丁度前方右斜めの所で霊夢が大皿に料理を移しているところが目にはいった。 どうやら真剣に盛り付けているところだし、そっとしておいたほうがいいかもしれない。
「俺もなんか食べようかな……」
久しぶりにナポリタンとか食べたいな。 ケチャップたっぷりの真っ赤なナポリタン。 考え出したら一層食べたくなってきたので、テーブルの隅に置かれてある小皿を取る。
「あ、でもここは招待してくれたレミリアちゃんに挨拶いくのが礼儀だよな。 霊夢は……まだ盛り付けてるし、俺だけでも行くべきか……それとも霊夢をまって二人で行くべきか」
小皿を片手に考え込む。 そうしていると、コツコツとまるで見つけてほしいといわんばかりに靴を鳴らしている人物と目があった。 銀髪を三編みにして頭には白いヘッドドレスに、頑張って土下座の体勢からなら下着が見えそうな位置の青いメイド服。 スカートの端をちょこんと掴んで持ち上げその人物は一礼した。
「ようこそいらっしゃいました、不知火彼方様。 今宵は夜の主にして夜の支配者であるレミリア・スカーレットが主催するパーティーにお越しいただきありがとうございます。 私はこの紅魔館に仕えるメイド長、十六夜咲夜と申します。」
「ははっ、今日は仕事モードなんだね咲夜。 いや、咲夜さん」
「はて? 仕事モードとはなんなんでしょうか? まったく、彼方様も面白い冗談を仰りますね」
ニッコリとほほ笑む咲夜、改め咲夜さん。 こうしてみると咲夜さんってかなり凄いよな。 料理もできて家事もできる。 おまけに美少女だし。 人里の男衆がよく話題にするだけある。 ……まあ、俺としては違う一面もみているので人里の男衆のようにはならないけど。
「あら、彼方様。 ネクタイが曲がってますよ。 折角、立派なスーツを着ているのですからネクタイが曲がっているなどの勿体ないことはしてはいけませんよ」
流れるような動作で俺のネクタイを掴み、位置を直そうとする──が、ちょっと気に喰わないのか結んでいたネクタイを解き、1から始める咲夜さん。
「今日のためにわざわざスーツを?」
「あ、うん」
「そうですか、それはとても光栄なことですね。 見渡すとわかりますが、パーティーだからといって彼方様のように礼装で来る方などいらっしゃらないので。 そのお心遣い紅魔館一同感謝いたします」
「う……うん」
手慣れているようで、なんの止まりもなくネクタイを結び終える咲夜さん。 最後に肩を叩き腰を叩き、一歩後ずさり納得したように首を縦に振った。
「あ……ありがと。 さ、咲夜さん」
訂正、あまりこういった面を見ておくと人里の男衆のようになるかもしれない。 触れなくても自分の頬が熱いのがわかるほどだ。
このままではダメだ。 そう思った俺は話題を振ることにした
「そういえばさ、レミリアちゃんに挨拶に行こうと思うんだけど……やっぱ霊夢と二人で行ったほうがいいかな?」
「そうですねー……あまり霊夢様が遅いようでしたら一人で行かれるのもアリだとは思いますが。 ふふっ、それにしても優しいのですね彼方様は。 他の方々はそんなこと関係ないとばかりに好き勝手していますのに」
話題を振って誤魔化そうとしたはずなのに、気がつくとさっきと同じようにふんわりと微笑まれ、その笑顔を見て熱くなってる自分がいた。
「そ、そうなんだっ! それじゃ、霊夢もまだかかりそうだし俺は先に挨拶しに行くよ! それじゃ!」
片手を上げながら、呆れるほどのテンパリ具合で早口に喋りながらその場を離れる。 咲夜さんはそのことになんの注意もせず、止めもせずただただ手を振り返すだけにとどめた。
あの場を離れた俺は、挨拶に行く前に気持ちを平常心に戻すべくホールを巡回している妖精メイドからグラスに入ったジュースを貰った。 これがなんとも甘く、|葡萄《ぶどう》のよい香りと芳醇な味が口全体に広がり舌で転がしながら楽しめるものであった。 料理だけでなく、飲み物にしても一流なんだなと痛感した。
「おや、彼方くんではありませんか。 久しぶりですね」
「ん? 文も来てたんだ」
呼ばれて振り向けば、ショートの黒髪に相変わらず飛んだら下着が絶対見えるであろう黒のミニスカートに白のシャツ、肩に鴉を乗せている幻想郷のブン屋こと射命丸文がワイングラス片手に立っていた。
「あーでも文は顔が広いだろうし、当たり前なのかな?」
「というか、レミリアさんは派手好きですし、目立ちたがり屋ですので結構な数の人を呼んでますよ。 今日のことを記事にさせるために私も呼ばれた感じですし。 把握しているかぎりでは永遠亭のメンバーに迷いの森コンビ、私と博麗神社の二人に、人里の守護者とその相方である藤原妹紅、八雲紫とその従者である八雲藍とその八雲藍の式神である橙。 後は冥界コンビですかね。 氷精と宵闇なんかは勝手に入ってきて遊んでるみたいです。 あ、この人もいましたね……伊吹萃香さんも呼ばれたみたいです。 なんであのお方を呼ぶんですかと愚痴りたくなっちゃいます。 愚痴っていいですか、彼方くん?」
「いや……そんなこと言われても困るんだけど。 というか、くん付けになったんだ」
「まあ、よく考えてみれば私は彼方くんより何倍も生きてますしね。 先程のようなことでアタフタしている子供にさん付けもアレですし。 というか、彼方くん絶対女に騙されるタイプですよ、間違いなく」
「理由がアレだけど、くん付けって素直に嬉しいかも。 しかしだな……そのカメラでさっきの場面も激写してたんだろ、どうせ。 お願いだからばら撒かないでくれ。 色々と人間関係が壊れちゃうかもしれない。 主に人里の男衆との関係が。 それに俺が騙される? はっ! そんなことあるわけないと思いたいね」
「えらく弱弱しい発言になってますよ。 それと写真のことなら大丈夫ですよ。 脅すときくらいにしか使いませんので」
「なお悪いだろっ!?」
「だって天狗ですもん」
どんなに可愛くウインクしたって、発言が可愛くないので騙されないぞ。
そんなこんなで文とちょっとした立食お食事会を楽しむ。 やはりというかなんというか、文は会話するのに慣れてるようで常にリードしてくれるのでこちらともしても話しやすいし、会話が苦痛にならない。 このトークスキルがあるからこそ幻想郷のブン屋として活躍できるのだろう。 もっともっと文との会話を楽しみたいという欲求があるが、あまり主催者への挨拶が遅れるのはまずいのでここら辺で一旦止めにするべきか。
「ちょっと主催者であるレミリアちゃんに挨拶に行ってくるから、話しはまた後ででいいかな? あ、それと霖之助は来てないのかな?」
「香霖堂の店主なら今日は見かけてないですね、一番に来たのが私ですので見落としはないでしょうし、最後がお二人ならこれで全員だと思いますが。 それにしても……そっちの毛があったとは。 かといって女の子に興味がないわけではないですし。 もしかしてバイですか?」
「ちげえよっ!! 瞳を輝かせながら変なこと聞くな! こら、写真を撮るな!?」
一気に騒がしくなる俺と文。 若干、あくまで若干メイド長にときめいたわけだけど、文にだけはときめかない自信がある。 ……大丈夫なはず。
さて、そろそろ本格的に時間がやばくなってきたので退散することに。 咲夜さんと同様に片手を上げ去るところで文から声がかかってきた。
「そういえば彼方くん。 ちょっとした疑問なんですが、彼方くんって弾幕勝負において勝ちたい!って強く願ったことありますか?」
その一言で足が止まる。
「……いきなりどうしたんだ? 変な質問だけどさ」
「いえ、ちょっと最近昔を思い出す出来事がありまして。 まあ、あまり詳しくは語りませんがその昔の出来事で愉快な男性がいたんですよ。 そこで、やっぱり男の子ってそういうことを想ってるのではないかと考えましてね。 身近にいる彼方くんに質問してみたわけです」
「ああ、成程ね。 俺は別に勝ちたいなんて思ってないよ。 約束さえ守れることができればそれで充分なんだから。 鈴仙のときだってそうだっただろ? それに俺が霊夢や魔理沙や紅魔館の皆に勝てると思うか? 無理無理」
ひらひらと手を上げて無理なことをアピールする。 それと、いまの俺には約束の方を口に出すことは躊躇いがあるのだが……。
「ふ〜ん、そうですか。 それならいいんですけど。 いやはや、時間を取らせてしまって申し訳ないですね。 ではでは、お二人で仲良く挨拶にでも行って来てくださいな。 私はまた取材を開始しますので」
「そっちも頑張ってなー。 ……って、二人で?」
文の台詞に出たとあるワードに首を捻る。 あれ? 霊夢ってまだなにかしてるはずじゃ……。
「随分と楽しそうにおしゃべりするのね? メイドさんにネクタイを直してもらい、記者とお話できて満足かしら?」
「……あ」
にこやかなスマイルで佇んでいる霊夢と目があった。 というか、霊夢が俺のネクタイを掴み強引に自分の方へと向けさせていた。
「まったく……油断も隙もありゃしないわね。 言ったでしょ? 博麗としての自覚を持つようにって」
「すいません……。 でも、霊夢さんや。 博麗の自覚って、なんか俺の名字が博麗みたいで誤解を受けちゃうんだけど」
「……意図的にそうしてんのよ、バーカ」
「え? ごめん、耳が悪くて聞こえなかったんだけど……」
「ううん、なんでもないわ」
ネクタイを掴んでままの霊夢が小さく呟いたのだが、俺の耳が悪いのかちゃんと聞こえなかった。 バカという単語は聞こえたのだが。
「あら、ネクタイが曲がってるわよ。 もうダメじゃない、私が直してあげる」
鼻歌を歌いながらネクタイを結んでいく霊夢。 ほんとうは咲夜が綺麗にしてくれたので曲がるなんてことはないのだが。 というか、霊夢がこのネクタイを曲げたのでは? ……でも霊夢の嬉しそうな顔が見れたから益得かも。
「はい、できたわよ。 ほら、レミリアのとこに挨拶行くんでしょ? 早く行きましょ? 料理だってアンタの分も取ってあるんだから」
「ほんと? それは嬉しいな。 だから遅くなってたんだね」
自分の主観でしかないけども最近の霊夢は妙に大人っぽいような気がする。 こう……紫さんや永琳さんみたいかな。 俺としては子供っぽい、というと失礼かもしれないけど前の霊夢も可愛かったのでなんだかな〜と思う。 だからといって霊夢にそれを言うことはないんだけど。
☆
霊夢に手を引かれてやってきたのは、出入り口よりも一番遠い場所であり妖精メイドの演奏がほどよい位 置から聞こえる場所であった。 そこに今宵の主催者であるレミリア・スカーレットは座っていた。 横には友人であるパチュリー・ノーレッジが本を読んでいた。 あいかわらず自分のペースを持っている人である。 レミリアのほうには赤い紅茶が置かれており、パチュリーのほうにはイチゴのタルトが置かれている。
「あら、ようやく来たわね彼方。 今日はあなたに関係ある人物だけを厳選したわけだから緊張せずにゆっくりしなさい。 一部捕まらなった人物たちもいるのだけども」
「やっぱりそうですか。 文から参加者を聞いたときにひょっとしたら?と思ったけどビンゴでしたね。 わざわざすいません」
「べつにいいわ。 このパーティー自体は私がやりたくなったから決行したわけだし」
それでこんな盛大なパーティーを催すことができるとは……紅魔館の財力恐るべし……!
「まあ、これで鴉天狗が記事を書いてくれれば私の存在がまた大きくなるわね」
「相変わらず凄い考えで……」
「当然よ。 なんせ私は夜の支配者なんだから」
胸を張るわけでもなく、至極当然のように答えるレミリアちゃん。 小さな体躯にどれだけの自信が詰まっているのだろうか。 そしてその自信に見合うだけの力を持っているのだから凄いところである。 一言でいうならカリスマがある。 普段はぬけている美鈴や妖精メイドが今日は主に恥をかかせないようにしっかりとしているのがいい証拠だ。 きっと、この紅魔館の皆はレミリアちゃんのことを本当に慕っているのだろう。 羨ましい関係である。
「なに? また異変でも起こす気かしら? また退治しちゃうわよ」
「そうね、退屈になったら起こすのも悪くないわ」
パチュリーの傍らに控えている小悪魔からショートケーキを受け取った霊夢が挑発的な笑みを向けると、レミリアちゃんもまた挑発的な笑みで迎え撃つ。
「え〜っと……まあ異変は置いといて、フランちゃんの姿が見えないのですがいまどこにいるんですか?」
さっきからさりげなく周囲を見回していたのだけど、あの特徴的な羽と愛らしい服をきたフランちゃんが見当たらないのである。 折角のパーティーなのにフランちゃんが風邪などひいていたらと思うと……。
「ああ、妹様ですか。 妹様はパーティーが嬉しかったみたいで昨日からずっとはしゃいでいたんですよ。 ……まあ、それで疲れて寝てるわけなんですけどね」
「……なんというか本末転倒ですね。 フランちゃんらしいと言えばそうなんですけど」
レミリアちゃんは霊夢と軽くメンチを切っていて、パチュリーは我関せずなので俺の疑問は誰が答えてくれるのかと思ったのだが、先程から笑顔で控えていた小悪魔が横からそう説明してくれた。
今頃ぬいぐるみに囲まれながらすやすやと寝てるんだろうなー。 起きたら拗ねそうだけど。
「それじゃ、書き置きを残しておいたほうがいいかな。 起こすのもしのびないし。 紙とペンありますかっと──」
ありますか? そう聞こうとしたところでくらりと体が傾いた。 なんとか体勢を整えて足に力を入れ踏ん張ることで倒れることだけは回避したのだが────
「大丈夫ですか!? ちょっと外で風を浴びてきたほうが……。 ここは一部の方が沢山お酒を飲まれますので少々お酒の臭いが立ちこめてるかもしれないですし」
どうやら小悪魔にばっちり見られていたらしく、両肩を支えられながらそう言われた。
「……確かに微々たる臭いだけどするわねお酒の臭い。 もう少し浄化装置が必要だったかしら」
先程から本を読んでいたパチュリーがはじめて顔を上げてレミリアにそう言った。
「あら、それは気付かなかったわ。 ならもう少し置きましょうか、浄化装置。 とりあえず彼方は外で風でも浴びてスッキリしてきなさい」
「なんなら私も一緒に行こうか?」
「いや一人で大丈夫だよ、霊夢。 ありがと。 それじゃ、すいませんレミリア……さん。 それとパチュリーに小悪魔。 ちょっと席を外しますね」
軽く頭を下げて出入り口へと向かう。 おかしいなぁ……さっきまでなんともなかったのに。
☆
外に出ると幾分かひんやりとしてきた夜の風が多少火照っていた俺の顔を優しく撫でてくる。 その風を受けて顔がひんやりとしていくのを顔全体で感じる。
「ふぅ……。 やっぱ自分でも気付かないうちにお酒の臭いにやられたのかな? でも、お酒の臭いには結構耐性ついてると思ったんだけどな、神社にも酒豪がいるし」
大きな二本の角をゆらゆらゆらして絡んでくる鬼を思い浮かべながら苦笑を漏らした。 でもそうすると変だな。 やっぱりあれくらいで俺が当たったとは思えない。
ひんやりとした空気の中で首を捻っていると、上から声が
「あは。 ごめんね彼方クン。 僕がちょっとだけ酔わせたんだよ。 ゆっくりと二人っきりで話しがしたくてさ」
その声が聞こえてきた瞬間、自分の耳からは中で行っている華やかな喧騒の音が消えた。
「ほら、僕って人見知りだからさ。 今回はちょっと勇気を出してみたんだよ? いつもは君の後ろを30cm離れた場所から見ることしかできなかったのにさ。 アレだよね、恋する乙女が一世一代の告白をしたくらい頑張ったよ。 全部嘘話だけど」
その人を見た瞬間、無意識に足が手が体全体が震えだした。 冷や汗が滝のように流れ落ち、借りたワイシャツがみるみるうちにシミを作る。 脱水したみたいに口からは水分が消え唾すら生産できなくなる。
「まあ、君をずっと見ていたことは本当だよ。 ヤンデレ彼女のように物陰から、ツンデレ彼女のようにチラチラとクーデレ彼女のようにジト目で、ずっと君のことを見ていたよ」
黄色の瞳が俺を射抜いて離さない。 青色のミニスカ着物を風に遊ばせながら、たわわに実った胸を軽く持ち上げながら、耳より高い位置で髪を二つ結びにしたその人は言った。
「はじめまして不知火彼方クン。 僕は
屈託ない笑顔で、フランちゃんを連想させる笑顔で、気軽に握手を求めてきた。