39.挨拶



「早く握手しようよ」

 そう言われて瞬間、震えて使い物にならなかった手が無意識に上がって新宮と名乗った女性と握手することになった。 女性特有のやわらかい手であった。

「ああ……やっと君の手に触れることができたよ。 僕がどれだけ君の手を想像していたことか、僕がどれだけ君の手で妄想していたことか。 君で妄想していたことか。 君の手が僕の下腹部をゆっくりと撫でまわすんだ。 ふくらはぎを触り、太ももを触り、そうして段々と股のほうへとさながらヘビのようにやってくるんだよ。 まずは下着越しに僕の割れ目にそってゆっくりと上下に動かすのさ。 勿論というか、当然というか僕はその行為でよだれを垂らしてしまうんだ。 そうして湿ってきた下着をみながら君はゆっくりと下着を脱がしていくんだよ。 そうして露わになった僕の秘部を君はまた撫でるんだ。 君はじらすのがとても上手くてさ僕が腰を動かして自分から懇願するまでは決して指を|蜜壷《みつつぼ》へは入れてくれなくて、いつもいつも最後は僕が懇願することになるんだよ。 指を入れたら最後、君は緩急をつけて僕に一切の抵抗を許さないんだ。 バラードのようにゆっくりとロックのように激しく、ときに|陰核《いんかく》を責めながら僕を絶頂へと誘うんだよ。 腰をガクガクさせた後、ぐったりとしている僕を見て君はちょっただけ困った風に微笑むんだよ。 【ごめんね】なんて台詞を言の葉にのせながら。 だから今度は僕が仕返しをするんだ、唐突に起き上がって両手を掴んで押し倒し驚いて喋ろうとする唇を強引に奪い、舌で君の口内を蹂躙していくんだよ。 日本語になっていない言葉を呻きながら必死に体を引き離そうとするんだけど君の体は正直でどんどん理性より性欲のほうが勝っていくのさ。 そこまでいくと僕の勝ちだ。 口を離すと僕と君が混ざり合った唾が君の口からはみ出して垂れてくるのさ。 それをみながら僕は君の肉棒を露出させゆっくりと手でしごいてみせるのさ。 自分の唾を落下させ着地したところを中心にゆっくりとしごいていくと先走り汁がどんどん溢れてくるんだよ。 くちゅくちゅと官能な音が部屋を支配していると、急に君は腰を浮かすんだ。 それが合図でね、腰を浮かせた瞬間に僕もしごくのを止めるのさ。 そうすると射精しそうになっていた息子は肩透かしを食らい結果的に射精することができなくなる。 そのかわり天を突かんばかりに息子は反り返っているので僕はその息子を掴んで自分の秘部へゆっくりと挿れるんだ。 俗にいう騎乗位だよ。 情けない声を出す君をみながら僕はゆっくり腰を上下に動かすんだ。 腰と腰を打ちつける音が空間を支配して、堪らなくなった僕はまたもや唇を奪っちゃうのさ。 その頃には君は僕を受け入れていて濃厚なキスへと変貌していく。 その間にも僕は腰を動かしているんだけど、我慢できないのか君のほうも突いてきちゃうんだよ。 そうして互いに貪っていると僕の膣の中で息子が膨らんできてさ。 それが射精の合図で、君は必死に外へ出そうと引き剥がすんだけど、僕のほうが力が強いからそのまま果ててしまうんだよ。 蜜壷からは濁った白色の粘り気のある液体がどろっとこぼれおちてきて。 そしたらあとはこっちのもの。 これを口実に君に婚姻を迫っちゃうわけだよ。 君はそれを断ることができなくて晴れて二人は結婚。 その後も愛ある行為を重ねていきめでたく出産へ。 ちなみに産まれた子供は女の子で名前は|天理《てんり》ちゃんね。 二人の新婚ラブラブ生活はこんなのでどうかな? まず、朝は僕が君の耳元で優しく愛を囁きながら起こすことからはじまるんだ。 勿論ダブルベットで、僕達の間には天理ちゃんがいるんだけど、僕はその反対側から囁くわけだよ。 けど君は朝が弱くて一向に起きてくれないんだよね、あんまり遅いと君が仕事に遅れちゃうし僕も僕で朝食の支度が間に合わなくなるからしょうがなく強行手段に出ちゃうわけ。 布団の中へ潜り込んで朝の生理現象が起こっている君の肉棒を口に含むんだ。 はじめは舌でちろちろと円を描きながらゆっくりと唾液を全体につける。 そうすると棒はピクッピクッともっともっととせがんできてさ、僕はその期待に答えるべく一気に喉の奥まで飲み込み舌を絡ませながら絶頂へと誘うんだ。 そこで君はようやく気付く訳だよ。 はじめは夢現なんだけど、下腹部から聞こえてくる音とおかしいくらい湿っている一物を感じ布団を勢いよく布団を剥がしにくるんだ。 そこでみる光景はおいしそうに君のものを咥えている可愛い奥さんさ。 【おはよう、アナタ】なんて僕は言うんだけど恥ずかしがり屋な君は隣で天使の寝顔の天理ちゃんのことを気にかけながら慌てふためく。 その顔が可愛くてますます舌を動かし顔を上下に動かしちゃうんだ。 恥辱に塗れた顔で果てる君は最高に可愛いよ。 そうしてやっと起きたダーリンをみながら僕も朝食の支度にはいるんだ。 食事は至って普通だよ。 こんがり焼いたベーコンとお砂糖を使って甘く仕上げたスクランブルエッグ、トースターで焼いたマーガリンたっぷりの食パンにミルクを少しだけおとしたコーヒー。 僕も一般的な料理くらいは出来るからこれくらい朝飯前さ。 まあ、朝飯の途中なんだけどね。 そうこうしているうちに仕事へ行く時間になってしまうの。 ほんとおかしいよね、愛するが故にその愛を守るために愛する人を残していかないといけないなんて間違ってるよ。 だから僕もそんな世界に最大限の抵抗を示すために玄関先でキスをして送り出すのさ。 ああ、一時間に一回のメールと電話は欠かさないよ。 けど、それをするたびに僕の秘部は疼いてしかたがなくなるのさ。 まったく……君も罪な男だよね。 けどそんな君を僕は大好きで毎日毎日天理ちゃんと一緒に壁と天井と床一面に君の写真が貼ってある部屋に向かうんだ。 そこにいくと360°君に見つめられている気がして君と混じり合っている気がして、僕の心はちょっとだけ満たされる。 僕がそんなことをしている間、君は仕事を頑張って昼食の時間をむかえるんだ。 勿論、お昼ご飯は僕の愛情たっぷりの愛妻弁当だよ。 ピンクの綺麗なハートマークとタコさんウインナー、可愛いうずらの玉子に男の子が大好きなからあげ、君が大好きな出し巻き卵にミートボール。 その中身をみてまだ子供扱いされていると思った君はちょっとだけ憤慨するんだ。 それでも綺麗に残さず食べる君はとっても可愛くてさ、思わず押し倒したくなるほどに。 まあ、夜は押し倒すんだけどね。 僕はその後も天理ちゃんと遊んだり家事をしたりご近所付き合いをして君が隣に居ない寂しい時間を過ごすの。 しかし時間は必ず流れるもので夕方になるとクタクタになりながらも君が帰ってくる。 それを僕と天理ちゃんは玄関先でお出迎え。 君の姿がみえた瞬間に走って君の所までいき不意打ちのキスをお見舞いなんかしちゃって、【今日もお疲れ様】そう一言呟いてね。 ここで重要なのがご近所さんがみている目の前ですることだよ、そうすることによって君は浮気なんて出来なくなる。 勿論、君がそんなことする男性じゃないと知ってるんだけどさ……芽は潰しておいたほうがいいだろ? そうして仲良く手を繋ぎながら家に帰って、お決まりの言葉を口にするんだ。 【私にする? 可愛いお嫁さんにする? 自慢できる奥さんにする? あなたのことが大好きな女の子とする?】って。 君は返答につまって困惑するんだ。 たぶんどの選択肢にするか迷ってるんだね。 そうして出した答えはいつもこう。 【ご飯を食べた後、お風呂に入りたいかな】もう!天理ちゃんがいる手前、いつもこういった回避をしてくるんだから! けどそこは大人の余裕を取って応じるのさ。 ほかほかの白ご飯とお肉たっぷり肉野菜炒め、冷えた麦茶にナスのおひたしにお味噌汁。 三人で仲良く食べながら今日のことを各々報告するのさ。 といっても僕は家事と育児と天理ちゃんのことを報告するだけ。 あとは君のお話をゆっくりとじっくりと楽しく愉快に慈しみながら愛でながら聞くのさ。 また話すときの君が可愛いんだよね。 そして食事を終えて僕は後片付けを、君は天理ちゃんとお風呂へ。 後片付けを早めに終わらせて天理ちゃんを迎えに行くのが僕の日課。 目元は君似で口元は僕似の将来可愛らしい娘に育つこと間違いなしの女の子。 僕はそんな天理ちゃんの髪を乾かして、ベビーベットに寝かせるんだ。 天理ちゃんはむにゃむにゃと赤ちゃん特有のよくわからない言葉を喋りながら眠りにつく。 その頃に丁度君がタオルで髪をぐしぐしと掻きながら現れて、しばらく一緒に寝顔をみておくんだ。 満足するほどみたら今度は僕達の番、今日はどんなプレイでするのかを決めるんだ。 女子高生・ナース・メイド・巫女・婦人警官・女教師・魔女っ娘・裸ワイシャツ・裸エプロン・テニスウェア・レオタード・チャイナ服・スチュワーデス・チアガール・ドレス・バニーガール・サンタコス・体操服&ブルマ・ゴスロリ・甘ロリ・スクール水着 衣装部屋には多種多様なジャンルのものがあるからどんなことにでも対応できるから色々と飽きないよ。 君は恥ずかしそうにどんなプレイがしたいのか言うのさ。 そして始まる愛ある行為。 主導権を握ったり握られたりしながら獣のように互いの体を心ゆくまで貪り尽くし日付が変わるまで愛し合っちゃったりしてさ。 最後は決まって繋がったまま舌を絡めての濃厚なキス。 天理ちゃんが起きちゃうんじゃないかというスリルと快楽の二つが体躯を支配してなんともいいがたい快感が僕を襲ってくるんだよ。 それは君も一緒で、二人で瞳をとろんとさせながら終わるんだ。 まあ、そんなことを毎日してるから君が朝に起きれないんだけどね。 これが僕と君とのラブラブ新婚生活。 ────という妄想をしている設定の女の子でいこうと思ってるんだけどどうかな? やっぱりインパクトがありすぎて引かれちゃうだろうか?」

「……え?」

「もー、3840文字にも及ぶ僕の頑張りをそんな疑問の言葉一つで答えないでくれないかなー」

 目の前にいる女の子は腕を頭の後ろにもっていきながらため息とともにそう吐き捨てた。 先程までに感じていた圧迫感、震え、恐怖感は既に消えシミを作っていたワイシャツも、何事もなかったかのように元通りになっていた。 端的にいうと汗臭さなんかなく、シミ一つ存在していなかった。

「あ、シミのことを気にしてるのかい? 大丈夫だよ、今日の僕は君を困らせにきたわけじゃないからちょっとした手品を使って|逆転《かえし》たんだよ。 僕は枕がえしだからね、指パッチン一つで事は済むのさ」

 童女のようにクスクスと笑う彼女。 いまの彼女からはなんにも感じない……。 だけど、確かに先程の彼女からは鬼にも匹敵するほどの力を感じた。 ……いったいどうなっているんだ?

「あの……さっきから一人で喋っていましたが、結局俺になにか用事でもあるんですか?」

 得体の知れない彼女に意を決して聞いてみる。

「とくにないよ。 ただ君に会いたかったから来ただけ。 今日はこれで失礼するさ」

「はぁ……そうですか。 俺もこれからもう一度パーティーのほうに戻るので失礼します」

 なんとなく、なんとなく彼女には関わってはいけないと頭が警鐘を鳴らしているので出来るだけ早めに退散するべく踵を返す。

 ああ、そういえばナポリタンを食べそこなってたから食べようかな。 いや、そういえば霊夢が俺の分も取り分けてくれてるんだっけ? だとしたらお礼をいってありがたく頂くことにしよう。

 完全に戻った体調に満足しながらこれから起こることが楽しみで早速中に入ろうとする自分に彼女は一つ言葉を投げかけてきた。

「待ちなよ、いつまでそうやって良い子ぶってるつもりなんだい?」

「……は?」

 その言葉で射命丸文のときと同じように足が止まる。

「『』つけてないぶん分かりづらいけどさ、そろそろ吐きだしたほうが僕はいいと思うけどな」

「……ちょっと言ってる意味がわからないんですけど」

「なに簡単なことだよ。 ──見苦しい嫉妬と不細工な笑顔、善人気取りの主人公気取りは止めようぜってことさ。 もう分かってるだろ? 君ごときじゃ主人公になれないことはこの幻想郷が教えてくれただろう。 蜥蜴の妖怪の件もとっても面白かったよ。 自己保身に走る姿はなんとも滑稽だったしさ。 ところでどうだった? 妖怪を殺そうとできた機会は」

 決してその可愛らしい表情を崩すことなく、世間話でもするように話す彼女。

「まあ僕としてはそれを彼女たち相手にして、嫉妬のほうを見ることができたらもっと楽しかったんだけどさ。やっぱり──」

「黙れよ」

 彼方はそう一言呟いた。 水面に石を投じたときのように波紋となって彼女に響く彼方の声。

「へぇ……やっぱり君はそっちのほうが似合ってるよ」

 そう話す彼女の目線の先には鷹のように鋭い瞳で、抑揚を感じさせない雰囲気で身に纏う空気がかわっていた彼方の姿があった。

「おおっ、怖い怖い。 けど、そんな顔してていいのかな? もうすぐ可愛い巫女さんじゃ来ちゃうよ?」

 そういった矢先、ガチャリと扉が開く音がして中からちょっと酔っ払っている博麗霊夢が顔を出した。

「かなたー、大丈夫―?」

「あ、うん。 ……平気だよ、霊夢。 俺も丁度行こうとしていたところなんだ」

「そう? だったら中に入ってきなよ。 今日は紅魔館に泊まることになったから、心配しなくてもいいわよ」

「へー、お泊まりか。 ちょっと楽しみだな」

「……へんなこと禁止だからね」

 いつも通り、霊夢と軽く談笑をしながら紅魔館の中へと入っていく。 そのとき、チラリと後ろを確認したところ彼女の姿はどこにも見当たらなかった。 




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