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40.joker



 ワイワイガヤガヤのパーティーも日付が変わってから2時間ほど経った頃、ようやく終わりを迎えた。 パーティーに呼ばれていたものたちは一人、また一人と帰って行き後には静けさと、食べ残しだけが残っていた。 妖精メイドたちは楽器と食器の片付け、清掃を、メイド長である十六夜咲夜は泊まる者たちを案内した後、妖精メイドたちの手伝いに参加、門番である紅美鈴は門へと戻り警備の続きをすることに。 そして当主であるレミリア・スカーレットと友であるパチュリー・ノーレッジは揃って就寝の形をとった。

 さて、ここで誰かお忘れではないでしょうか?

 紅魔館のマスコット的存在にして、一同全員で可愛がっている存在である、フランドール・スカーレットの存在を。

 今宵のパーティーが楽しみでしかたなかった彼女はあまりのハイテンションで過ごした結果、本番のパーティーの時には寝てしまい参加できなかった子である。 そしてそのまま朝までゆっくりと眠っていてくれたなら良かったのだが、彼女は丁度パーティーが終わった頃に目が覚めてしまい────

「ねぇねぇ、フランと遊ぼうよ〜」

「いまから寝ようと思ったんだけど……」

 いま現在、彼方が案内された部屋に遊び道具を持ってきていた。

「う〜……フランはいま起きたもん」

「おにいちゃんは今まで起きてたから、ちょっと眠いかな〜。なんて思ったり」

「でもフランは眠くないから遊ぼうよ〜」

「はい……」

 彼方は観念したのかいままで持っていた枕を手放した。 パーティーも終わり咲夜から案内された部屋でいざ寝ようとしたところでコンコンと扉をノックする音が聞こえてきたので何事かと扉を開けると、いままで寝ていたであろうフランがそこにいたのだ。 彼女曰く、「皆起こしにこなかった! フランも行きたかったのに! ……でも、怒ろうとしたけど咲夜たちは急がしそうだったし、他の人たちは眠ってたからおにいちゃんの所にきたの!」とのことだった。 べつに彼が寝ようとしてないわけではない。 スーツをハンガーに掛けネクタイを外し、咲夜に貸してもらったパジャマに着替えようとしていたところにスナイパーのように彼女がきたのだ。 

 外で待機していたかのようなタイミングで。

 ベットにダイブしようとした矢先に来てしまった彼女を彼方が断れるわけもなく、そのまま夜の遊びへと突入することに。

「えへへ……おにいちゃんと夜の遊びだね。 ちょっと緊張しちゃう」

「フランちゃん、あまり誤解を招く言い方しちゃダメだよ。 それに緊張してるのは俺の方だよ。 ──ペン突きはまずいって」

 左手を限界まで広げたまま彼方は目の前に座っているフランをみる。 いま現在二人がいる場所は向かい合う形で椅子に座るテーブルである。 そのテーブルの上でフランはペンを回しながらニッコリと微笑んでいる。

 しまった……! この娘、結構本気で怒ってる……!

 彼方はそう直感的に感じた。 そしてその直感は見事当たることとなった。

「あの……フランちゃん、やっぱ別の遊びに──」

 タッ、タタタタタタタタタタタタッ!!

「なに、おにいちゃん?」

「……いえ、なんでもないです」

 たった1秒間の間に自分の左手の端から端をペンが何回移動しただろうか。 手がブレ、残像にまで進化しているこの娘にいま自分が出来ることとはなんだろうか?

「でもこれはおにいちゃんがつまらないから他のにしよっか」

「うん、そうしてくれるとありがたいな。 無駄に命を散らさずに済むだろうし……」

 そう──とことん彼女に付き合って、遊び疲れて寝かせることである。

 彼の長い長い夜はまだはじまったばかりである

         ☆

「クイーンでビショップを攻撃──」

「はい、チェック」

「……あ」

 深夜3時、あれからペン突きに飽きたフランは持ってきたおもちゃ箱からチェスを取り出して勝負を申し込んできた。 こちとらチェスはあまりやったことないが、将棋なら外の世界で幼馴染と沢山やってきたのでそれなりの自信はあったのだが──

「おにいちゃんチェス弱いね……、どうしたの?」

「うん……20戦20敗は流石にまずいかなぁって考えてたとこかな」

 その自信は5敗あたりから崩れ去ることになった。 疲れと眠気を考慮しても自分よりフランのほうが遥かに強いのが現実として認識してきたからである。 

「(おかしい……早苗ちゃんとやるときはいつも五分五分の戦いになるのに……!) ふ、フランちゃんもう一回だけしようか?」

「う〜ん、いいよ〜。」

 駒を並べ直してもう一戦

 彼方はクイーンを中心に攻め、フランはほどよく均等にそれぞれの駒の役割をきちんとこなした戦い方を。 

「はい、チェックメイト」

「……参りました」

 10分もつかずに決まる勝敗。 あまりにも早すぎる戦いである。

「う〜ん……、チェスはおにいちゃん弱いからトランプにしよっか」

 チェスをおもちゃ箱に入れ、次に取り出したのはトランプ。 トランプはダイヤ・ハート・スペード・クラブの四つの柄と1〜13の数字が描かれており、それとjokerと呼ばれるカードがはいっている。 それ一つで占いから大人数でのパーティーゲームまでこなすすごいものなのだ。 

 フランはトランプを取り出して小さい手で一生懸命カードをくる。 

「それでフランちゃん、トランプといっても色々と遊び方があるけど何して遊ぶの?」

「ん〜っと……ババ抜きしよ!」

 フランの提案に驚愕する。 

「(たった二人でババ抜きだとッ……! なんて恐ろしい娘だ……ババ抜きとは本来大人数で行うものであって二人で行うものではない、なぜなら純粋に楽しくないからだ。 誰がババを持っているのか、それを予想しながら楽しむゲームであるがゆえに二人ではしない。 自分が持っていなかったらすなわち相手が持っていることになる、それを分かっていながら興じるほどの心を俺はまだ持っていない……。 あの早苗ちゃんでさえつまらなすぎてお茶を汲みにいったほどだっ! それをこの娘はいとも簡単に言ってくれるじゃないか……。) そ、そうだね〜。 バ、ババ抜きしよっか〜」

 落胆の気配を悟られないように明るく振る舞う。 フランちゃんの遊び相手になると決めたんだ。 それにもうすぐフランちゃんも眠くなるはずだ……それまでの辛抱だと思えばいい!

 深夜4時、彼方に宛がわれた部屋からは少女の声が聞こえていた。

「あ、またババ引いちゃった〜……これをこうしてこう混ぜて……。 はい、おにいちゃん」

 俺の前に差しだされた二枚のカード。 その二つを交互に見ながら手を小刻みに動かして迷ったフリをする。

「え〜っと……どっちかな〜?」

 左 普通に置かれてる

 右 左よりも5cmほど高い位置に置かれている

 ハッキリいって丸わかりである。 これが魔理沙辺りならフェイクもいれてくるはずなのでこうされたほうがなおのこと分かりにくいのだが──

「んっんっ」

 フランちゃんの場合は左に手を動かすたびに強引に取らせようとして、右に手を動かすたびに肩をいれて取らせまいとする。 なんとも分かりやすい反応である。 というか、肩をいれてまで取らせてくれないのか。 

 はぁ……と心の中でため息を吐きながら左のほうを取る。 その瞬間、フランちゃんは太陽のように眩しい笑顔を浮かべた。

「ん? フランちゃんこれで俺は上がりだからそっちはババでしょ? なんでそんなに喜んでるの?」

 いい加減眠くなってきたので遊びを終わらせるべく終了させたのだが、自分の予想に反してフランちゃんは何故か笑顔だった。 いつものフランちゃんならポカポカと俺の腹を叩いてくるのに。

「えへへ……だってババってことはおにいちゃんでしょ? だったらババはフランが持ってるべきだもん」

「……ん? え〜っと、おにいちゃんはババなの?」

「うん、おにいちゃんはババなの。 それでね、咲夜がJでお姉さまがKなの。 フランはQで美鈴が10。 パチュリーが9で、小悪魔が6なんだよ!」

 唐突に突然に突拍子もなくフランちゃんは話しはじめた。

「霊夢が1で魔理沙は2。 そしておにいちゃんはババなんだよ!」

 彼女の言っていることが俺には全く理解できなかった。 霊夢が1で魔理沙は2? そして咲夜がJで美鈴が10……いったいどういうことなんだ?

「だからね、みんなババのおにいちゃんを虐めようとするの。 でも大丈夫、フランがおにいちゃんを守るから。 だってフランとおにいちゃんは友達だもんね! 友達を守るのは当然のことだよ、だから安心して。 ──フランはおにいちゃんの味方だからね?」

 その笑顔がその屈託ない笑顔で、出会ったばかりのあの女の子と被ってしまい背筋に悪寒が走った。 違う……、この娘はフランちゃんだ。 俺の大事な友達で、俺に一緒に遊んで此処で出来たはじめての友達で──ああ、妖怪でもあったんだよな。

 その細腕でいとも簡単に俺を首を折ることができるんだ。 その細腕でいとも簡単に俺の心臓を抜き取ることができるんだ。 その細腕で足を腕を引きちぎることができるんだ。 

「どうしたの? おにいちゃん」

「いや、なんでもないよ。 それよりそろそろおやすみ。 朝は一緒にご飯でも食べようよ」

「うん! それじゃおやすみなさい!」

 変な想像をした自分に嫌悪しながら、その様子を外に出さないように仮面を作りながら優しく彼女の頭を撫でて部屋から出す。 出来ることなら彼女を部屋へ連れていきたいところなのだが、そろそろ本格的に体のほうが疲れてきたし、此処で倒れるのも勘弁したいので止めておくことに。

 コンコン

「お客様、女性を部屋へ連れ込む行為は紅魔館の信用問題にもかかわりますのでおやめください。 というか、紅魔館のアイドルに触るのは止めなさいケダモノ」

「いや俺が連れ込んだわけじゃないんですけど……というか口調戻したんだね、咲夜」

「ええ、もう片付けも終わったことだし正式にパーティーは終了よ。 あ〜、肩凝ったわ。 ちょっと肩揉みしてくれないかしら?」

 首をグリグリ回しながらズカズカと部屋に入ってくる咲夜。 ほんと、先程までのドキドキを返してほしい。 

 しょうがなく眠いのを我慢して咲夜を椅子に座らせ肩揉みを開始する。

「ちょっ、肩凝り過ぎだろ……どんだけの激務こなしたらこんなに固くなるんだよ」

「メイドの宿命というやつね。 こっちはコスプレで媚びを売るために着ているわけじゃないのよ? 朝から晩まで主人のために尽くすのだからこうなるのは当たり前よ」

 足を投げ出して本格的にだらけモードの咲夜。 いいのか紅魔館のメイド長がそんなことで──とも思ったが、今日の咲夜は傍目から見ても頑張っていたので肩揉みくらいお安い御用だし、咲夜がリラックスできるのならそれでいいや。 そう思ってしまう俺がいる。

「妖精メイドたちも後片付けの途中で眠りだすし、最終的に私一人で寂しくやってたのよ? それなのにあなたは妹様と仲良く夜のお楽しみですかそうですか。 ナイフで刺していいですか」

「いや、ナイフは勘弁してください。 というか、なんで咲夜まで誤解を招くような言い方を……。 それに咲夜ちょっと疲れてるんじゃない? 色々と危ないよ?」

 言動とか、その……スカートとか。

 投げ出された足は現在は組んでいるので、下着が見えるか見えないかのギリギリラインのど真ん中に立っており、寝る身としてはあまり頭に血をのぼらせるようなものは見たくないのである。 ただでさえ、深夜にメイド服を着た可愛い女の子、それにベットという非常に危険な要素が揃っているというのに。 まあ、手を出した瞬間に俺が死ぬんですけどね。

「危ないのはあなたもでしょ? ──見てたわよ、着物を着た女性と話している場面」

「……え?」

 見られていた? あの場面を? あの顔を? あの言動を? あの目を?

 見られていた?

 知らず知らずのうちに自分の手が震える。 カタカタとガタガタと

「……心配しないで、だからといって私は何も言わないし報告もしないわ。 あなたの奥底の本音を聞くこともないし、興味もない。 だけどこれだけは言わせてもらうわ。 ──これはあなたが選んだ道よ。 回避する方法はいくらでもあったはず。 だけどあなたはこの道を選んだ。 自分の足で歩みはじめた。 私はそれを止めるような真似はしないわ。 だから、だからあなたも──その道から逃げないで」

 肩を揉んでいた手に自分の手を重ね、ゆっくりと離した咲夜は俺の顔を真正面に見ながらそう伝えてきた。 その瞳がいつもの馬鹿にしたような挑発的な瞳なんかではなく真剣に真摯に訴えてるように思え、俺は自分でも意識しないうちに首を縦に振った。 咲夜は満足したのかあの時のようにふんわりと微笑んで──そのまま俺の額にキスをした。

「……え?」

「勘違いしちゃダメよ。 これは妹様と遊んでくれたお礼と肩揉みしてくれたお礼なんだからね」

 ウインクしながら人差し指を唇に持っていき、ダメのポーズをとる咲夜。 次の瞬間にはその姿は消えていて顔が赤い少年の姿だけが残される。

「どうしよう……これじゃ寝れねえじゃん……」

 顔を赤くした少年はそう呟いて、枕に向かって全力ヘッドバットを繰り返す作業に入った。




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