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44.再会



 季節は巡り、何度目かの夏を過ぎ、暦ではもう9月も終わろうとしていた。 そして10月になると、人里の皆さんは山の恵みに感謝する祭りを開催し、豊作を願う。 そして、そんな祭りに俺も呼ばれている。 寺子屋の教師として。 博麗の関係者として。

 寺子屋の教師として。

 博麗の関係者として。

 まるで、俺が外来人であることを忘れているようだった。

 別に距離を置こうなんて思ってはいないし、ましてやこれについてとやかく言おうなんてことは微塵もない。 むしろ、俺をそんなふうにみてくれている人里の人達の優しさが嬉しい。 でも──だからこそ、俺は疑問に思った。

『このまま、幻想郷にとどまるとしたらどうなるんでしょうか?』

『そうねぇ〜、歯車の一部になるんじゃないかしら?』

 クリスさんはそうあっけらかんに言っていた。

 歯車

 幻想郷の歯車

 いて当たり前の存在

 確かに、俺が幻想郷にきて随分と経ち、その間に様々な人と触れ、様々なことを学んできた。

 ただ、だからといって外の世界に帰りたくないわけじゃない。 母さんだって、友達だって、早苗ちゃんだって、心配しているはずだ。 だからこそ、俺は帰らないといけないんだ。

 帰る──

 しかし、帰ってしまったら二度と幻想郷へは行けなくなる。

 それでいいのだろうか?

 霊夢にだって恩返しをしていない。 フランちゃんとだって遊んでいない。 鈴仙にだって借りを返していない。 そんな状態で、そんな状況で、俺は帰っていいのだろうか?

 否、俺は帰りたくないのではないか?

 心の奥底では、幻想郷を捨てきれていないのではないか?

 朝食を終え、庭の掃き掃除をしながら考える。

 堂々巡りで考える。

 縁側では、霊夢がお茶を飲みながら、鬱陶しそうに文を見つめていた。

 なにやら文が霊夢に愚痴をこぼしているが……何を話しているんだ?

「いやー、どう思います? 霊夢さん。 妖怪の山の天狗たちはてんやわんやの大騒ぎですよ。 まあ、いきなり頂上付近に立派な神社が幻想入りしてきたのならだれでもビックリするとは思いますけど」

「ふ〜ん、妖怪の山も大変ね」

「あやや、なんだか興味なさそうですね」

「まったくないわね。 というか、なんで私が興味あること前提で話を進めているのよ。 妖怪の山は天狗の住処でしょ。 自分たちでなんとかしなさいよ」

「こりゃまた冷たいですね。 確かに私達で対処することではありますが、異変として処理されるかもしれませんよ?」

「そうなったら動いてあげるわよ」

 シッシと手で追い払う仕草をして、文から距離を取ろうとする。 ……そこまでして面倒ごとが嫌いなんだろうか。 けど実際、霊夢は縁側でのんびりとお茶飲んでるほうがいいかも。 なんというか、落ち着く。

 博麗霊夢。 幻想郷最強の一角と言われている人間。 人間にして、能力もち。 その能力と類稀なる霊力で弾幕勝負においては右に出るものはいないらしい。 博麗神社と呼ばれる神社で独り暮らしをしており、幻想郷の荒事(異変)を解決するのが役目らしい。

 俺はこの博麗霊夢という少女に命を助けられた。 幻想郷にきてすぐのときに、森で妖怪に襲われていた俺を助けてくれた。 いわゆる命の恩人である。 そして弾幕にかんしての師匠であり、俺を居候として神社に置いてくれている主、というわけだ。

 その腋を全開に出した、世にも珍しい巫女服と大きな赤いリボンが特徴的な女の子だ。

「それにしても、天狗って強いんだよな? なんせあの大きな山にいるんだし。 実質的には妖怪の山って天狗が中心なんだろ?」

「まぁ、それはそうですけどね。 彼方くんよりも強い人達が沢山いますよ。 そりゃもう、一発で倒されるくらいの妖怪たちが沢山いますね」

 い、いきたくねぇ……。 やっぱ妖怪の山って危険がいっぱいなんだな。

「その天狗たちでも敵わない相手なのか?」

「えぇ、なんせ神様らしいので。 それもかなり力のある神様なので……分が悪いですよ」

「へー……神様か……」

 幻想郷にきてから、俺の日常の一部に入っている神様という単語。 外の世界では、こんなに近くでこんなに近距離で話すこともできなかっただろうし、できるとは思わなかったけど……それでも、幻想郷では、そんな現実離れしたことが可能なのである。 神様と対話できるし、会話できるし、遊ぶことだった可能なのだ。 おかしい、とは思わないが、不思議だ、とは思ってしまう。 至って凡人の俺が、神様と話すことができるなんて……。

 神様との不思議について考えていると、文が唐突に何かを閃いたように手を叩く。

「そうだ! 彼方くん、行ってみますか!?」

「んなッ!?」

「え……? ……俺が?」

「そうですよ! まぁ、危険といえば危険ですし、妖怪の山に侵入するわけですから、それ相応のリスクはありますが……なかなかにいい記事が書けると思いますよ?」

 ……それって俺が行ったときのメリットがなくない……?

「あの……俺にとってメリットあるかな?」

「う〜ん……ないかもしれませんね」

「…………」

 妖怪って自由なんだな。 色々と。

 そう思っていると、霊夢が俺の服を掴んできた。 といっても、豪快に服を掴む感じじゃなくてちょこっと先をつまむ程度なんだけど、思わずそちらに目をやる。

「えっと……」

「……行ったら承知しないわよ」

「だ、大丈夫だって!? 流石にいかないよ! 俺だって天狗に殺されたくないし」

「……まぁ、それならいいけど」

 パッと霊夢が服を離したので、それを皮切りに一旦中止していた掃除を再開することにした。

              ☆

「にんじん、じゃがいも、大豆、きゅうり、っと。 こんなものかな?」

 もう少ししたらお昼を迎えるという時間帯。 俺は人里で足りない食材の買い出しにきていた。

「さて、帰るか」

 そう口に出して、カゴをもつ。

 例によって、人里の間でも妖怪の山の頂上付近に幻想入りしてきたという神社の報せは届いており、その話題で持ちきりになっていた。

 曰く、妖怪の山の天狗たちが敵わない存在らしい。

 文から神様だと聞いてはいるけども……いったい、どんな神様なんだろうか? 天狗たちが手も足も出ないのだから、よっぽど強いだろうと思うけど。

 天狗に勝つほどの神様

 文が無理だと投げるほどの神様

 きっとおそらく、その神様は戦いに優れているのだろう。

 脳裏にとある女の子が語っていた記憶が蘇る

 ──軍神

 たしか彼女はそう言っていたはず。

「ははっ……笑えない。 早苗ちゃんが此処にきたなんて、笑えないにもほどがある」

 でも──可能性がないわけじゃない。

 ついつい考えてしまう。 ありえない想像をしてしまう。 勘違いをしてしまう。

 もしかしたら、幻想入りしてきたのは彼女なのでは?

 そう考えてしまう。

 わかってる。 それはいくらなんでも都合が良すぎる。 それくらい……わかっている。

 それでも、自然と足は妖怪の山の方角を向いていた。 いまからその足で妖怪の山に行くかのように、まっすぐに歪みなく向いていた。

「なにを期待してるんだよ、俺。 早苗ちゃんが此処にいるわけないだろ。 早苗ちゃんは今頃授業を受けてるに違いない。 そうだ、数学を受けてる頃だよ」

 そう自分に言い聞かせる。 疑問を払拭させるように、無かったことに、何度も何度も頷きながら深呼吸して、博麗神社へ帰るために体を後ろに方向転換させる──

「う〜ん……たしか今頃は生物の授業だと思うよ、彼方ちゃん?」

「……え……?」

「だから、数学じゃなくて生物だと思いますよ?」

「……え……? 早苗……ちゃん?」

「はい? そうですが」

「……なんで……此処に……いるの?」

 訳がわからなかった。 自分の眼球が汚れたのかと思った。 悪戯妖精に何かされたのかと思った。 鈴仙に幻覚を魅せられているのかと思った。 脳がおかしくなったのかと思った。 白昼夢でも見てるのかと思った。 妄想かと思った。

 けれども、彼女はそこに佇んでいた。 笑顔で、変わらない笑顔で、何事にも変え難い笑顔で、買い物袋を持ちながら、当たり前のように佇んでいた。

 そして俺の質問にクエスチョンマークを浮かべ──合点がいったように手を叩き、笑いながらこう答えた。

「奇跡──起こしちゃいました!」

 それは、外の世界でずっと見ていた笑顔だった。 そして、この世界でずっと見たかった笑顔だった。

          ☆

 東風谷早苗。 幼馴染であり、自分の目標を作ってくれた人。 家系は少し特殊でありながらも、学校生活にはなんの支障もきたしてなかった子。 長い緑髪に、カエルとヘビのアクセサリーが特徴的な現代っ子でありながら、かなりのしっかり者。

 そして、幻想郷にきてからずっと会いたかった人。

 そんな彼女が、俺の横で瞳を輝かせながら甘味を頬張る姿を──まさか幻想郷でみることになろうとは。

「ん? どうしたの彼方ちゃん? 食べたいの?」

「へ? い、いや……そんなわけじゃないけど」

 早苗ちゃんの食べる姿を横目で見ていたら気付かれてしまった。 しかもそれだけじゃなく──

「はい、あーん」

「さ、早苗ちゃん……。 そのー……食べかけだから、間接キスになるっていうか……なんというか……」

「あっ……!? ご、ごめんね彼方ちゃん!? そ、そういう意図とか全くないというか……いやちょっとはあったかな〜、なんてこともあるけど、いやでもほんと違うから!? え〜っと、え〜っと……」

「う、うん! お、俺わかってるから! ちゃ、ちゃんとわかってるから!? お、落ち着いて早苗ちゃん!?」

 早苗ちゃんがワタワタと慌てたので、すぐ横においていたお茶の湯飲みが倒れそうになる。気付いた俺はすかさず湯飲みに手を伸ばし湯飲みを掴んだのだが──

「「あっ……」」

 早苗ちゃんも気付いていたらしく、俺よりも若干反応が早かった早苗ちゃんの手をガッシリと掴んでしまった。 指先が触れ合うとかじゃなく、手と手を握りしめる、と表現したほうがいいだろう。

「そ、その、すみません!?」

「い、いえいえ、私のほうも空気が読めなくてごめんなさい!?」

「いや、早苗ちゃんは正しいよ、うん!」

『クスクス、若いね〜』

『あれって博麗神社に居候中の男の子じゃないの? あらあら、すみにおけないわね〜』

「「──ッ!?」」

「と、とにかくここから出ようか!? 早苗ちゃん!」

「そ、そうだね! 彼方ちゃん!」

 二人して顔を伏せながら代金を払い、いそいそと脱兎のごとく逃げ出したのだった。

          ☆

「こ、ここまでくれば……だ、大丈夫だと思うけど……」

 はぁはぁと息を切らせながら、妖怪の山に入る一歩手前でしゃがみ込む。 ここから先は妖怪の山、天狗の領地、俺みたいな人間が生きて帰れるとは思えないし、山には入らないほうがいいと思う。

「あはは……。 久しぶりに全速力で走ったから、ちょっとだけ疲れちゃいました」

 ふぅ、と、服というか巫女装束(?)をパタパタとさせ内側に風をいれながらほほ笑む早苗ちゃん。 思わずこちらも笑ってしまう。

「それにしても、どうして早苗ちゃんは此処にきたの?」

「それを言うのはこちらですよ? どうして彼方ちゃんがこんなところにいるんですか?」

「え〜っと……その……怒らない?」

「既に怒ってますので、大丈夫ですよ」

「うぐッ……!? え、え〜っと……早苗ちゃんの注意を無視した結果、此処に迷い込むこととなりました」

「彼方ちゃんの頭はどうなってるんですか? 大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい」

「まったく……。 でも──こうしてまた会えてよかったです」

 呆れながらも、優しく笑ってくれる彼女。 だから俺も笑いながら答える。

「うん。 俺も、早苗ちゃんに会えてよかったよ」

 きっと、早苗ちゃんがいま言ったセリフは、本来なら俺が先に言うべきセリフなんだろう。 だって、ずっと早苗ちゃんと会いたかったのは俺なんだから。 会おうと思えば、すぐに会うことができたのに、俺はそれをしなかった。 できなかった。 いや、やっぱりこの場合は、“しなかった”にはいるのかな? とにかく、また早苗ちゃんに会うことができた、喋ることができた。 それだけで、嬉しく思う。

「ところで彼方ちゃん。 “頭”という単語が出てきたのでいいますが、その髪の毛どうしたんですか?」

「へ? 髪の毛?」

「ええ。 ほら、この白髪ですよ」

 そういって一歩近づいて、俺の髪を一つまみする。

「あー……その白髪ね。 ちょっと俺もよくわからない。 いきなり増えだしたんだよね」

「もしかして不良にでもなるつもりですか? そんなこと絶対に許しませんからね?」

「いや、ならないから大丈夫だよ……」

 幻想郷には不良よりも恐ろしい人達がいるからね。 なんか、そんな不良とかのレベルじゃない人達が大勢いるからね。 あと単純に不良はちょっと……。

「あぁ、あと彼方ちゃん。 さっきの、え〜っと……博麗神社でしたっけ? そこで居候しているという件について軽く尋問が、もとい軽く質問があります」

「ちょっとまって、いま尋問って言ったよね? 早苗ちゃん尋問っていったよね?」

「気のせいです。 では、家に帰る道中で洗いざらい話してもらいますよ? 彼方ちゃんが此処にきてからの生活を」

 そういって買い物袋を持ち直す早苗ちゃん。

 やっぱり勝てないな、と思いながらも、どこか懐かしい、そんな気分に浸りながら俺も自分の買い物カゴを持ち直した。

「って、早苗ちゃんの家ってどこなの?」

「へ? ここの山を登った所ですけど」

 早苗ちゃんの指さす方向には妖怪の山。

 ……おいおい嘘だろ? まさか……早苗ちゃんが、文のいっていた神様なのか……?




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