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48.その炎 いまだ健在



 ここにきて、不知火彼方の本来の能力の発揮と、その異質な翼は、天狗たちだけではなく、この場にいる全員を驚かせるにいたった。 博麗霊夢はちょっと釈然としないものの、少しだけ誇らしそうに隣にいる射命丸文の肩をバンバンと叩き、まるで自分の子どもが何かを成し遂げたかのように嬉しそうに笑う。 射命丸文はその翼に茫然としたもののすぐに立ち直り、首からさげていたカメラを手に取り撮影をはじめた。 洩矢諏訪子はただ黙ったまま、まっすぐに彼方を見つめ、その隣にいる東風谷早苗は嬉しそうに涙をためながら、何度も何度も頷いていた。

 そして──不知火彼方の正面に立っている八坂神奈子は不敵に微笑んでいた。

「大したものじゃないか、彼方。 あくまで現実的なものを幻想へと昇華される。 貴様らしい考え方だ」

「神様に褒められるとは……これは嬉しい限りですね」

「だが──それによってなにが変わるというんだい?」

 その言葉とともに、八坂神奈子は御柱を放つ。 彼方へと一直線に向かう御柱は先ほどまでとは桁違いのスピードでその数も2桁となっていた。

「(あの翼が銃によるものだとするならば、御柱を壊し真正面から向かってくるだろう。 そこを叩けば──彼方は終わる)」

 そう狙いをつけ、自分も御柱を構える神奈子。 いまかいまかと待ち構える神奈子。 しかしいくらたっても御柱は壊れることなく、神奈子の見ている目の前で地上に触れ、深く刺さってしまった。

 どういうことだ?

 そう思った神奈子の後方で、誰かの声が聞こえてきた。

「いっつ……あんな急制動だと骨がイかれるわな……」

 神奈子が振り向き、後方の存在に御柱を突きつけたのと、後方の存在が神奈子の眼前に装飾銃を突きつけたのは同時だった。

 後方の存在──不知火彼方は汗を垂らしながら言う。

「人間、慣れないものはするもんじゃないですね。 完璧に骨が折れましたよ」
 
「ふっ……人間が急加速と急制動すればそうなることは目に見えているだろう」

「確かにそうですね……。 でも──これであなたの御柱対策はできましたよ」

「はっ……! 見縊られたものだな、彼方。 ──たかだか指で数えることができる本数を凌いだくらいで私の御柱を攻略したつもりか? ──いくら貴様が強くなろうとも、力の差は変わらない」

 ノーモーションから彼方の腹をめがけて突く神奈子。 それに合わせる形で彼方も自身の体を極限まで捻じり、ぎりぎりのところで回避する。

 依然として、二人の力量差は明白にして愕然とする差であった。

 だからとて、不知火彼方は諦めない。

 3mほど後方に加速して、なんとか間合いを取ることに成功する。

 そして翼のマスケットのうちの二つを神奈子へと標準を合わせ放つ。 マスケットから吐き出された弾丸の弾幕はまっすぐに八坂神奈子へと進み、当たる一歩手前で散弾した。

 回避行動をとり、横にズレていた神奈子は予想外の散弾に驚き御柱を目の前に出現させ防御行動をとる。 それが── 一つのターニングポイントになってしまった。

 仮にここで神奈子がその散弾を冷静に見極めることができれば、神奈子の力をもってすれば全て避けることなど容易かっただろう。 しかし神奈子はとっさに防御行動を構えてしまった。 正面に出現させたということは、言い換えるならばその出現させた部分に限り視界が見えなくなるというわけだ。 そして──その隙を逃すまで、いまの彼方も甘くはない。

 神奈子が出現させたのを確認し、急加速をかける彼方。

 そしてそれと同時に神奈子もすべての散弾を防御し終え御柱を戻す。

 神奈子が次にみた光景は、無人だった。

 本来ならば、彼方の姿が視界にはいるはず。

「──こっちですよ、神奈子さん」

 声が聞こえてきたのは、自分の下。 そこに目を向けた瞬間──急激に顎に痛みが走る。 浮く体。 それを見逃すことなく、彼方はカエルパンチの要領で蹴り出した足の逆側を振り上げ神奈子の頭頂部めがけて踵を落とす。 しかしそこまで現実は甘くなく、彼方の攻撃は空振りに終わる。 神奈子はその彼方の足を掴み空へと放り投げ、体を貫かんと細い槍状の御柱を投げつける。 速度を重視した御柱だ。 その速さ、天狗とも引けをとらない。

 投げつけられた御柱の槍を目の前に彼方は避けることを早々に諦め迎撃することにした。 翼を大きく広げ制動をかけ、自分の体を空中に固定し、装飾銃で迎撃する。 しかしその攻撃の威力と数、どちらも及ばず消すに至らない。 次に彼方はマスケットを3つ御柱に標準を合わせ3つの砲門で破壊を試みる。 3つの弾幕は一つに合わさり、大きな一つの弾幕となって御柱を壊す。

「うわ……!? っと、やっぱり空を慣れないや。 霊夢に今度教えてもらわないと……」

 なれない空中でなんとかバランスを取ろうとする彼方。

「そうだな、それと──視野を広げることもオススメしよう」

 ズブリと自分の中に異物が入り、それが突き抜ける感覚が腹を襲う。 ゆっくりゆっくりと腹を確認すると──そこには細い御柱に貫かれ、血を滲ませている自分の服がそこにはあった。

 細い御柱というところが、八坂神奈子の温情だろうか。

「……まいったな……ちょっと強すぎじゃないですか、神奈子さん……」

「いや、私をここまで追い詰めたんだ。 素直に拍手を送るよ、彼方」

 御柱を引き抜きながら神奈子はこういった。

 ──よく戦ったよ、お疲れさま

           ☆

「賭けは僕の勝ちのようだね、スキマ妖怪さん」

 二人の対決の行く末をみていた新宮が隣にいる紫に声をかける。

「あら、まだ終わりじゃありませんわよ。 まだ彼は戦えますわ」

 新宮の言葉に紫が反論するのだが、新宮は肩をすくめるだけにとどめた。

「たしかに、彼はまだまだ戦える状態だけど意識が朦朧としている。 そうだな……ざっと3分はかかりそうだね、意識回復には。 八坂神奈子がそれを見逃すと思うかい? それを許すと思うかい? そんなバカな真似、絶対にしないだろうさ。 相手は戦いのプロだ──所詮、不知火彼方に勝ち目なんてはなから存在しないんだよ」

 新宮は意地悪い笑みを浮かべながら、両手を大きく広げながらいう。

「強大な敵と戦う直前に大きな力が入ったら勝ちフラグとでも思ったのかい? 挫折から復活したらそいつは強くなって一度負けた相手を倒せることになるのかい? ヒロインから力をもらったらそれで敵を圧倒することができるのかい? おいおい勘弁してくれよ。 そんなご都合主義、起こるはずもねえし、起こさせる気もねえよ。 所詮、不知火彼方は不知火彼方なのさ。 主人公じゃなく主役なんだよ。 確かに主人公は最終的には勝つ存在だよ、不条理な存在さ。 けどね──主役は負けるときもあるんだぜ」

 声高らかに笑う新宮。

 そんな新宮を横目に紫は心の中で思う。

 いったい、この人物はなにを考えているのだろうか?

 と。

「いったい、なにを考えているのか? だって?」

「……相変わらず……心の中をよむのがお上手なんですね……」

 いきなりの新宮の振りに冷や汗を流しながらも、冷静なそぶりで返す紫。

 そんな紫の言葉に新宮は返答せず、淡々と語っていく。

 言ったよね、キミには。 そう前置きして新宮は語る。

「幸福な終わり方も不幸な終わり方も、そのどちらも僕は興味ないんだよ。 僕はね、真実を見たいんだ。 僕は自分が犯した過ちを消したいんだ。 この物語の元凶は僕だから。 僕が情などというくだらないものに流されてさえいなければ、この物語は起こりえなかった。 けどね、僕自らは手を出すことはできない。 禁忌は二回も犯せないのさ。 だからこそ、僕は彼を使うよ。 そのことによって、どんな罵詈雑言を吐かれても、どんな陰口を叩かれても──僕はこの物語を終わらせる」

 だから、そういいながら新宮は“男”をみた。 まるで旧友に会ったかのように笑いながら、

「──キミにも手伝ってもらうよ。 この戦いでの僕の狙いはただ一つ、キミを舞台に上がらせることさ。 そのために、僕は彼方クンの壁を壊したのだから」

 新宮の見つめる先には、異質で異様で希薄で奇妙な存在が立っていた。

               ☆

 射命丸文には、いまこの場にいることが、この場で起きている現象が信じられなかった。 いつも飄々とし、いつも余裕な態度を崩すことのない烏天狗の姿などもはやここにはいなかった。 いるのは、ただただ一点だけを見つめ、自分の目がおかしくなったのかと疑っている烏天狗の姿であった。 しかしそれはそうだろう。 それは当たり前といえるだろう。

 なんせ──この場に本来いるはずのない存在が目の前に立っていたのだから。

 病んだ瞳に希薄な雰囲気、黒い髪の一点に赤い髪を混じらせた男。 妖怪最弱でありながら、誰よりも勝利を求めた存在。 そして自分をおいて逝ってしまった存在。

「『お守りだけでは飽き足らず、死人にムチ打ち付けて起こすとは……神というのは迷惑な存在だ。 勝手に呼び、勝手に起こす。 殺したくなってくる』」

 想い神とともに消滅した──不知火がそこにはいた。

「『それにしてもやってくれるな、あの野郎。 俺をわざわざ起こすためだけにコイツの壁を壊したということか。 ついつい反抗したくなるね』」

 不知火はそういいながら、なんともめんどくさそうに頭を振った。 めんどくさい……というよりも起き抜けに頭を振ったようにも見える。

 そんな中、正面で怪訝そうに眉根を寄せていた八坂神奈子が不知火に話しかけた。

「私の目がどうかしているのだろうか……。 たしか私は彼方を貫き、彼方はそのまま真っ逆さまに地上に落ちたはずだが。 それを確認しに地上に降りてみれば、彼方に体だけそっくりな見知らぬ男が立っている」

 その神奈子の疑問の声はもっともであった。 この場にいる全員の心情を代弁したようなものだ。 しかしそんな神奈子の疑問を男は鼻で笑いながら答えた。

「『幻想郷では、そういったことも起こるということさ。 あまり話すのは得意じゃない。 それに、いきなり叩き起こされたんだ。 神の一匹でも殺さないと割に合わない』」

 そういって不知火は左手をかざし炎の刃を作る。

「『揺らめく幻影の火と目を合わせた──自分を恨むことだな』」




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