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外伝B〜虚言と閻魔〜



 周りが緑一色の森の中で、不知火はどこかの妖怪によって綺麗に切られた丸太の上に胡坐を掻いて考える。

 此処に来て幾日が過ぎただろうか。 スキマ妖怪に匿われる形になってからというもの、なんともつまらない毎日がただ淡々と過ぎていくだけである。 せめて何か面白いことでもあればよいのだけど、スキマはスキマで忙しそうにしているし、その従者である九尾のほうもまたしかり。 まぁ……これは俺には関係ないからどうでもいいや。 倒れて世話することがないように祈るくらいだ。

 スキマ妖怪は此処に妖怪の楽園を作るらしく、それのために奮闘しているとかなんとか。 大層御苦労なことで。 いやはや、俺にはできないことなので素直に拍手を送りたいものだ。

「『鬼に挨拶しにいくのも悪くないかもしれないな』」

 依然はスキマに止められたが今日はいないだろう。 

 その足で鬼が住処としている妖怪の山と呼ばれる所へ歩を進めようとしているところに、上空から見知らぬ声が聞こえてきた。

「あ、発見っ! こんにちは、あなたが噂の妖怪ですか?」

 胸のふくらみは中々。 肩にかかるくらいの黒髪に、白いシャツを着て下には上空からは下着が丸見えになるスカートを履き、背中の漆黒の翼を大きく羽ばたかせながらその少女が降りてきた。 少女は降りてすぐに不知火の体を上から下に穴が開くほど見つめ、ため息を吐いた。

「はぁ……。 鬼を相手取ろうとしている妖怪がいるというから探しだして来てみれば、こんな人とは……。 ちょっと期待してきたのに」

「『人の体を舐めまわすように見つめた上にため息を吐かれるのは生まれてはじめてだよ』」

「あやや……これは失礼しました。 私は妖怪の山に住んでいます、鴉天狗の射命丸文と申します。 失礼ですが、お名前を聞かせてもらっても?」

「『名前なんてないよ。 呼びたければ不知火とでも呼んでくれ』」

「名前がないんですか?」

瞳をパチクリとさせながら射命丸が問う。

「『“名”とは縛り付けるためのものであり、その存在を確定させるものだ。 名を得ることでその存在は初めて“そこにいる。” だとするならば俺には必要ないし、欲しいと思ったこともない』」

「……なんだかよくわかりませんね。 アレですか? そういうこと言ってる俺カッケーみたいな?」

「『…………もうそれでいいよ。 さっさと消えろ、目障りだ』」

 手で虫を追い払うように、射命丸に向けて手を払う。 そんな行動を無視するように射命丸は不知火の隣へと腰を下ろした。

「まあまあ、ここで会ったのも何かの縁ですし。 色々とお話しましょうよ。 あ、私のことは親しみを込めて文と読んでくれても構いませんので」

「『弱い者には傲慢で、強い者には媚びへつらう天狗様が、俺のようなか弱い存在に対して親しみとは笑わせてくれるねぇ。 なにか企んでいるのかい』」

 挑発的な瞳で、隣に座る射命丸を目を向ける。

 その言葉を聞いた射命丸は、一瞬驚いたような顔をさせるが、すぐに先程のような笑みを消し、目を細め足を組みながら喋る。

「おやおや……。 折角この射命丸文が友達になってあげると言ってるのに、それを無下にする気かしら」

「『べつに頼んじゃいないよ。 それに友達なんていらない。 鬱陶しいだけだ。 友情ごっこなんて片腹痛いよ』」

 座っていた丸太からどき、背伸びをしながら森の中を再び歩こうとする。

「『興が冷めた。 鬼は今度の機会に行くとしよう』」

「おや? その程度の力で鬼を相手にしようとは……そちらのほうが片腹痛いのでは?」

 不知火が丸太からどき、足を進めたことで射命丸はそこそこ広い丸太を一人占めしながらクスクスと嘲笑しながら不知火を見送った。

      ☆

 射命丸と一方的に別れ、ぶらぶらと歩いて森を出る。 森を出てからどうしようかと数秒間考えたのち、不知火は花が咲いているほうへと歩みを進め、辿りついて呟く。

「『まいったね。 柄にもなく花が綺麗に咲き誇る場所に歩いてきてみれば、彼岸へと続く場所に出るとはね。 いや、今後のための下見にはいいかもしれないがな』」

「ほう、私がいるのにもかかわらずそのような言葉を述べるとは。 あなたは善行を積まねばなりませんね」

 後ろから聞こえてきたそんな声に不知火は振り向く。 緑髪を丁度肩の高さで切り揃え、頭にはけったいな帽子をかぶり、白い長そでのシャツの上に真ん中にボタンをつけて着脱可能な服を着て、手には棒を持っていた。

「はじめまして、こんにちは。 私の名前は四季映姫といいます」

「『これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。 その持っている棒は悔悟棒かい? だとしたら、地獄の閻魔様が何故こんなところに?』」

「ええ、丁度時間ができましたので気分転換に散歩でもしようとしたときに、あなたを見つけましてね」

「『それはそれは。 閻魔様の瞳の中へ俺の姿が映るなんて光栄なことこの上ない。 しかしながら生憎俺は多忙の身、ゆえにここでお別れすることとなります。 それでは閻魔様。 またこの地に赴くことがありましたら、是非ともゆっくりと、じっくりと、貴女の素晴らしい考えをお聞かせ願います。 それでは、ご機嫌よ』」

 大仰に盛大に、左手を腹の所にくるように置き、うやうやしく頭を下げてその場を後にしようとする。 

「まちなさい。 ここで会ったのも何かの縁です。 少しだけお話いたしましょう」

 閻魔は不知火を止め、笑いかける。

「大丈夫です。 そこまで時間は取らせません」

「『断る……と言ったら?』」

「私の前で、そのようなことが言えるのですか?」

 沈黙が場を支配する。 

 折れたのは不知火のほうだった。 ため息を吐きながら、閻魔を真正面に見つめる。

「『閻魔相手にそんなことできるはずがないさ』」

「ふふ……。 それは褒め言葉として受け取っていいのですかね」

「『どーぞ、ご自由に』」

 不知火がニヤリと笑う。 だがしかし、そんな彼の顔は一瞬にして掻き消えることになった。

「では、早速質問をします。 ────あなたは本当に存在しているのですか?」

「『……不躾な質問だねぇ。 質問の答えなら一応“ハイ”と答えておくよ』」

「一応ですか。 正確に確定的に確実に的確に、あなたは答えることができないと」

 まるで死者を裁くかのごとく閻魔の瞳が不知火を捕えて離さない。 そして閻魔も離すつもりなどない。

「『棘のある言い方だね』」

「私はこういう言い方しかできないので。 まぁ、確かにあなたが不明瞭な回答をするのもわかります。 なぜならあなたは、地に足をつけないふよふよとした存在だから。 消えたかと思えば現れ、現れたと思えば消える。 あなたはそういう存在。 不知火────確かにあなたに相応しいですね。 手を伸ばせば伸ばすだけ不知火の玉は遠くへ行き、その手を戻せばまた戻ってくる。 誰も触れることができず、ただただ見ていることしかできない」

「『「ゆえに貴方の本心に触れることもできない。」そう言いたいのかい?』」

 言ってから不知火は、後ろを振り向き肩をすくめた。

「『とんだお節介さんだな。 スキマ妖怪様よりお節介さんだ。 ああ、涙が出てくるぜ』」

 出てもいないのに、手で顔を覆うようにして涙をみせないように演技をする。 

「『流石閻魔様だ。 どこぞの鴉天狗より胸を抉ってくる攻撃をお持ちだこと。 ああ、痛い。 痛いねえ』」

「あなたも大したものですね。 その役者っぷりには脱帽ものです。 嘘を嘘で塗り固め、近づく者全てを遠ざけ、弱者という立場に甘えるあなたは大変素晴らしくもあり、醜くもあります」

 閻魔は歯に衣着せない物言いで、不知火を追い詰めていく。 そこに私情が挟むことなど一切ない。 それが彼女であり、それが地獄の裁判官なのだ。 彼女には『白黒はっきりつける程度の能力』がある。 その能力を用いれば彼の本心を知ることができたかもしれない。 しかし彼女はそれをすることがなかった。 無意識に思ってしまった。 そんなことしたくないと。 

「『くだらない』」

 吐き捨てるように不知火は言った。 それは誰がどうみても負け犬の遠吠えにしか聞こえなかったが、純粋に無垢にそう思った。

「負け犬の遠吠えみたいですね」

「『負け犬で結構だよ。 そんなもの言われなくてもわかってるよ。 負け犬で醜く、泥臭く、地べたを這いずりまわりながら生きていくのが俺なのさ』」

 そしてこの場から歩きだす。 もう喋ることなどないかのように。 これ以上、四季映姫と喋りたくないかのように。 四季映姫のそれを止めることなどせず、黙って見送ろうとする。 が、ふと気がついたかのように、不知火に声をかけた。 既に歩き始めていた不知火は振り返ることなどせず、ただ止まるだけである。

「貴方の進む先に、一筋の光があらんことを願います」

 それは四季映姫の本音であった。 私情を挟むことなく淡々と話してきた最後に、彼へと送る閻魔なりのプレゼント。 そのプレゼントは不知火に届いたのかどうかは分からないが、誰に話すでもなく、しかし閻魔にも聞こえる声量で話す。

「『そういった言葉は嫌いなんだけどな……。 閻魔様のありがたいお言葉だし貰っておくよ』」

 そんな台詞を吐いて、今度こそ来た道を戻っていった。

        ☆

 不知火が去った後、映姫はため息をついた。

「おや? めずらしいですね、映姫さまがこんな場所に来られるなんて。 仕事のほうが大丈夫なんですか?」

 ふいに後ろからかけられた声に、映姫は先程とはベクトルの違うため息が自然と漏れた。 

 大きな鎌を肩に担ぎ、真っ赤な髪を両サイドの高い位置で可愛らしく結び、ワンピースのような形の白と青の綺麗なコントラストの服。 そして腰のあたりに銭を結びつけたベルトのようなものを巻いている、四季映姫の部下にあたる小野塚小町が陽気な声を出しながら頭にクエッションマークを浮かべてやってきた。

「そういうあなたはいつもどおりですね。 はじめは真面目で優秀な部下だと思っていたのですが」

「う゛っ……。 あ、アタイは自分のペースで頑張っているというか、なんというか……」

「はぁ……」

 いつもはこの悔悟棒で叩くところであるが、いまはなんとんなくそんな気分にはなれず、やはりため息をすることだけで終わった。

 咄嗟に頭を両手でガードしていた小町としては、そんな上司の態度をみて首をひねった。

「どうしたんですか、映姫さま? いつも叩いてくるのに今日もなにもしないなんて。 仕事のしすぎでおかしくなりました───きゃんっ!?」

 言葉にしなければいいものを、小町は疑問に思ったことをそのまま口に出し、その結果として映姫の悔悟棒の餌食となった。 それにしてもなかなか可愛らしい声をだすものだ。

「上司に対しての口の訊きかたがなってませんよ。 ……小町。 あなたは嘘をつくときにどのような感情を抱きますか?」

 映姫はしゃがみこみ自分の下に咲いていた彼岸花を愛でながら小町に問う。

「え〜っと……いきなり唐突な質問ですね。 う〜ん……嘘ですか。 アタイは嘘をつくことが少ないのですし、嘘をつくとしてもちょっとした冗談程度なので、なんとも。 強いていうなら引っ掛かってくれればいいなと思うくらいですね。 して、それがどうしたのですか?」

「いえ、参考までに聞いただけです。 ありがとうございます」

 いまいちはっきりとしない上司の行動、言動に部下の小町はますます意味が分からなくなるばかりであった。

▽    ▽    ▽    ▽

「あ、負け犬さんではありませんか。 こんな所で会うなんて偶然ですね」

「『俺はいまだに丸太にいることで驚きを隠せないよ』」

 帰り道、あの鴉天狗がいまだに丸太に座っていた。 

 射命丸はニタニタ顔を隠そうともせずに、丸太から降り不知火へと顔を近づける。

「負け犬でもいい。 なんてやっぱりカッコつけ野郎なんですね」

「『人の説教される様を見るなんて、中々愉快な趣味をお持ちだな』」

 自分の周囲をぐるぐると回る射命丸に少しだけ鬱陶しく思いながらも、別段なにかするわけじゃなく帰り道を歩いていく。 そろそろ帰らないとスキマ様がご立腹で何をするかわからない。

「私ですね、あなたに大変興味を持ちました。 天狗の中にもここまでの逸材はいません」

 ですので────私、あなたを観察しよう思います。

 そう心の中で宣言する。 

 この地についたのはここ最近であるが、妖怪の山には鬼がいるし、天狗仲間は内のことばかりに目を向けているので、まだまだ若く好奇心旺盛な射命丸文には不知火は丁度いい、暇つぶしになったのだ。 友人である河童の川城にとりはこういうことに消極的なので自分一人になるがそれはしょうがない。

「『嬉しいねぇ、こんな美少女に興味をもってもらえるなんて。 もうすこし胸が膨らんでから出直してきな』」

「それはどういう意味かしら? 自慢じゃないけど、結構なプロポーションだと思うのだけどね」

「『そういう奴に限ってたいしたことないんだよ。 ブスが自らのことを美少女と勘違いするようにな。 分かったらとっとと自分の巣へ帰ることだな。 |鴉ちゃん。《しゃめいまる》』」

 訂正、この嫌みったらしい男の恥ずかしいところを集めて、泣いて懇願させ、射命丸文様、私が悪かったです。 どうかバラさないでください。 ごめんなさい。 と言わせよう。 

 好奇心は一瞬にして憤怒にかわり、射命丸文は後ろで小さく拳を握りしめながら仮面の笑顔を張りつかせ不知火の隣を歩くのであった。




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