A's33.ツーカーの仲2
「公務員のくせに市民様を殴るんじゃねーっよパーンチッ!」
「市民のくせに毎度毎度問題起こすなキック!」
「黙れ男爵イモッ!」
「黙れ童貞ッ!」
「……それ傷つくわ」
「……すまん」
ピタリと攻防の嵐が止む。顔を伏せて涙を隠すひょっとこをおっさんが慰める。肩に手を置いて優しく叩く。
そしてひょっとこはおっさんの顔面を思いっきり殴る。
「ふっ、もうバカ二人に言われ慣れているから、これくらいじゃ傷つかんよ」
「やっぱお前のこと嫌いだ」
「お互い様だな」
舌を出して挑発するひょっとこと、血が混じった唾を吐きながら首を鳴らすおっさん。
「真裸万象の力、いまここで見せてやろう」
「まてひょっとこ。そのままでは公然猥褻罪でお前を逮捕するぞ」
「表現の自由を侵害するつもりか?」
「部屋でやれ」
「俺の性的エネルギーが部屋一個程度に収まると思うなよ?」
「高町教導官たちが泣くぞ」
「そんなことはない。むしろ見捨てられる」
それならなおさらやるなよ。とは突っ込まないおっさん。むしろ疲れてきたのか突っ込みを放棄している節もある。
ふとそこにアイスクリーム片手にこっちをひたすら無視した歩行速度で通り過ぎようとしていた人物が目に入った。
バニラアイスをコーンの上にのっけて、それを頭に乗せた小さなデバイスとともに食べる少女。おっさんが知る中で、一番の良識人。
「おいひょっとこ。お前の後ろに知り合いがいるぞ」
「ん?誰だ……おぉ!俺の玩具!ロヴィータちゃんではないか!」
『うわ、ヴィータちゃん。ぺろぺろさんに気づかれましたよ』
『他人のフリ他人のフリ』
素知らぬ顔で一切立ち止まることなく通り過ぎようとするヴィータとリィン。ひょっとこが振り返ると二人は視界から消えるように人垣の中は消えていく。しかしそれを見送るほどひょっとこは愚かではない。
「ロヴィータちゃんまって!俺に愛を!この裸に愛を!」
真裸万象となったひょっとこは人垣を掻き分けてヴィータを追いかける。ヴィータは手に持っていたバニラアイスを投げつけつつ全速力で逃走を図る。
それを逃がすほど真裸万象の能力は下ではない。地を這うような移動方法で人の間をすり抜けていくと、必死に走るヴィータの足をおもむろに掴む。
「離さないぞぉ……僕のロヴィータちゃん」
足を舐めながら愛しそうにつぶやく真裸万象。
当たり前だが再逮捕された。
☆
「僕は無実です」
「死刑に決まってんだろ」
椅子に座りヒモで雁字搦めにされた真裸万象は無実を訴えた。しかしそれはすぐに却下された。
そばにはゴミをみるような目つきで真裸万象をみるヴィータとリィン。ヴィータの迎えにきたシャマルは顛末を聞かされたあと、同情する瞳をむけていた。
「現代医学、魔術を用いても彼の完治は無理でしょう」
「あいつ解体しようぜ。社会の悪だぞ、あれ。幼女にあだなす悪党だぞ」
「違う、スキンシップだ」
「あたしじゃなけりゃ社会復帰できねえよあのスキンシップ」
呆れた口調をみせるヴィータ。それに照れ笑いを浮かべる真裸万象。
「えへへ、嬉しいな」
「殺すぞボケ」
容赦なく顔面を踏み抜くヴィータ。
「これは保護者召喚だな」
やれやれとため息をついて保護者の元に電話をかけるおっさん。それをみながらリィンはヴィータの肩から真裸万象の肩へと移った。
「やれやれです。天使なヴィヴィオちゃんやなのはさんがいるというのに、ぺろぺろさんは社会のゴミ。まぁヴィヴィオちゃんとなのはさんとフェイトさんという完璧すぎる布陣に大きな−をいれたという点ではいいですけどね」
「お前がロヴィータから俺に移った理由は近場で悪口をいうためか」
「それいがいになにがあるというんですか」
バニラアイスのおわびにというはからいでおっさんからもらったアイスキャンディを舐めるリィン。
「だいたいリィンはぺろぺろさんのこと嫌いですし」
「ツンデレめ」
「デレたこと一度もありませんが」
「ツンツンめ」
「そもそもぺろぺろさんと関わりたくもないです」
やれやれと頭をふるリィンは、可愛らしく浮遊してヴィータの肩に戻る。
リィンと同じくアイスキャンディを舐めていたヴィータ、ふと疑問に思い真裸万象に声をかける。
「そういやお前がなのは達の休日に此処にいるって珍しいな。いつもは平日だろ?」
「それに加えてヴィヴィオちゃんがきてからはずっとヴィヴィオちゃんといますから、ここにやっかいになる頻度も減っていたはずですのに」
ヴィータの後にシャマルが続ける。
「まぁそうなんだけどな。ちょっと回覧板を隣に渡しに行ったら、あれよあれよというまに捕まって」
「お前は天才か」
「ほんでなのはに引き取りにきてもらおうと電話かけたんだが、一向に現れなくてね。そこにロヴィータちゃんがきてくれたからちょっと遊ぼうと」
「べつにお前に会いにきたわけじゃねえけどな。それにしても珍しいな。なんだかんだいいつつ10分くらいでいつも引き取りにきてくれるだろうに」
「ひょっとこさんに嫌気がさしたんじゃないですかー」
「はっは、なにをいってるんだロリデバイス。俺となのはの仲がこれしきのことで──」
「ひょっとこ。なのは教導官が引き取りを拒否した」
あまりのショックに服が弾けとんだのはいうまでもなかった。
☆
そろそろパン作りも終盤、俊くんはまだまだ帰らないけどほんとなにしてるのかな?せっかく翠屋の制服でまっているのに。
「俊くんおそいにゃー。ちょっと心配になってきたにゃー」
「うーん、なにかに巻き込まれたとか?」
「むしろ誰を巻き込んだかもしれないにゃ。というかフェイトにゃん。フェイトにゃんも語尾をにゃんにするにゃん」
「私どっちかというと犬だから」
「わけがわからないにゃん!?」
にゃんパンチをくりだすにゃのはの頭を撫でるフェイト。隣にはヴィヴィオがあまったパン生地でなにか動物をつくっていた。
「ヴィヴィオそれなーに?」
「これはガーくん!かわいいでしょ?」
「かわいいねー。ヴィヴィオ上手だよー」
「えへへー」
アヒルと思い込んでみればアヒルに見えなくもないパン生地を作るヴィヴィオ。その笑顔が眩しくて、ついつい頭を撫でてしまう。ヴィヴィオは嬉しそうに目を細める。
「そろそろパンを焼こうか。焼いてる間に俊が帰ってくるかもしれないし」
「そうだね。きっと俊くんのことだからニオイに誘われて帰ってくるよ」
「じゃぁヴィヴィオ。そのパンもせっかくだから焼こうか」
「はーい!」
元気よく手をあげるヴィヴィオ。
「ペキンダックだにゃん……」
恐ろしいことを呟くにゃのは。
とうのガーくんは何かを察知し、フェイトの後ろに隠れてしまった。
「それじゃ私となのはが作ったパンと、ヴィヴィオが作ったガーくんパンを焼いていくよ」
「おー!」
わくわくした様子でオーブンに入っていくパンを見守るヴィヴィオ。丁度そのタイミングで電話が鳴る。
「あ、わたしがでるよ」
「ありがとう」
しゅたっと手をあげたなのはは廊下に出て、鳴りやまない受話器をとって応答する。
「はい、高町です。あ、いつもお世話になってます。はい、俊くんですか?え?そっちにいる?……あぁ、なるほど」
電話の相手は俊を確保しているおっさん。なのははおっさんの説明を受けたのち、げんなりした表情にかわっていった。
「いつもいつも本当にすいません!あれにはちゃんと言い聞かせてはいるんですけど、持病がひどくって!……はぁ。ヴィヴィオがきてから少しはマシになったと思ったのですが。反動が一気に爆発したんですかね。えぇはい。わかりました、引き取りにいきますね」
と、そこまで言ってからなのははようやく気がつく。自分が翠屋の制服をきていることに。そして思った。もう少し反省をさせるべきではないか、と。
「あのすいません。もう少し反省させるという意味で引き取り拒否でお願いします。パンが焼き上がる頃に迎えにいきますので」
パン>幼馴染の図式を崩さないなのは。電話口ではパンに負ける幼馴染のことを不憫におもっているおっさんの顔が目に浮かぶ。
「あ、それと俊くんには反省したのなら、しっかりと言われたことを守りなさいとお伝えください。はい、いつもすいません。お手数かけます。はい、それでは失礼しまーす」
ガチャンと受話器を置いたなのはは、にゃのはへと戻りフェイトの元に帰っていく。
「ただいにゃー。俊くんね、さっきから捕まっていたみたいにゃの」
「ツーカーの仲とはいったい」
「男女の違いにゃのかな」
きっとなのはが俊の言葉を聞き間違いしただけだと思うよ、とは言わないフェイト。キッチンからは離れ、ソファーでヴィヴィオを抱っこしながらファッション雑誌を広げているフェイトの横になのはも座る。ちなみにヴィヴィオは録画していた深夜アニメをきらきらとした瞳で視聴していた。
「あ、このお洋服かわいい。……でもちょっと甘ロリを意識しすぎてる感じかな」
「なのはには似合うと思うけど」
「えー、そうかな?わたしももう19歳だよ?甘ロリはちょっときつくないかな?」
「んー?でもまだ19歳でしょ?成人してないし問題ないよ。(甘ロリっぽいコスプレなんて慣れているレベルでしてるし)」
「ほんと?それじゃぁちょっと甘ロリも攻略していこうかなぁ」
甘ロリに興味をもったのか、調べ始めるなのは。
高町ハラオウン家は平和に時間が過ぎていくのであった。
☆
一方の交番組は──
「私は醜い男です。ヴィータ様のような綺麗で素敵な子を追いかけまわすような変態です。……あの、もういいですか?」
「誰が止めていいといった。ほら早く次の言葉を復唱しろ。ヴィータ様は天使でかわいくて有能な女の子です。対して僕はミジンコよりも役に立たない存在です」
「ヴィータ様はロリなくせして黒下着をはいちゃうおませな女の子です。でも仕事のときはウサギパンツやイチゴパンツをはいてきます。彼女にとってはこれで勝負下着なのだろうか?対して僕はたまに下着を履き忘れたまま六課に遊びにいく。そんな僕はミジンコよりも役に立たない存在です」
「お前があたしに喧嘩を売りたいことだけは伝わったよ」
全裸万象はヴィータで遊んでいた。すでにリィンはおやすみモードにはいったのかシャマルのポケットですやすやと寝息をたてていた。
「とりあえずお前は反省文を書け。それ書いたらもう帰っていいから」
「え?マジで!?帰っていいの!?」
「いつまでも居座られたら邪魔だ。俺はそこまで暇じゃないし。ただし服を着ろよ」
「靴下はけば問題ないよね?」
「変態度が上がるだけじゃねえか。どっちにしろ猥褻物陳列罪でアウトだよ」
「難儀な世の中になったもんだ」
「世の中もお前さえいなければ世界は平和だったのにと嘆いているころだろうよ」
渡された紙にすらすらと反省文を書いていく猥褻物陳列罪。それを隣でみるヴィータ。
「お前まともな文章書けるのか」
「小中高と反省文を書かされ続けた俺は息をするかのごとく反省文を完成させることができるからな」
「誠意の欠片もないのな」
「誠意があったらまず反省文なんて書かないし」
それもそうか。納得してしまうヴィータ。
「もう10月だな」
ふと、本当に唐突にヴィータはそう呟いた。
既に暑いから寒いに移行する期間となった。六課設立から半年が過ぎ去ってしまったのだ。
「まだ10月ともいえるがな。この半年間、色々とあったなぁ」
「あたしは忙しすぎて疲れたな。とくに最初とかな。新人は手がかかるし、遊びにくるお前はもっと手がかかるし。ヴィヴィオはかわいいけどどこか不安になるし」
「あぁ、もうヴィヴィオを預かってそんなに経つのか」
2枚目を書き終えて、ラストページに文字を埋めていく全裸万象。
「ヴィヴィオの小学校とか決めてるのか?」
「ヴィヴィオの希望で俺らの母校になったよ。まぁ勝手知ったるなんとやらだし、なにかと都合がつくからよかったかも。それに翠屋には桃子さんと士郎さんもいるし、あそこで手伝いする気満々だしな」
「それじゃ家は明け渡すのか?」
「そこはまだ検討中かな。借りてくれたリンディさんや大人組と相談したいし」
半分まで字を埋めた全裸。
「お前らがミッドからいなくなるならティアやスバルは追いかけてくるかもしれないな」
「ありそうだから困る。あいつらなのは狂にもほどがあるからな」
「まぁ命の恩人みたいなもんだからな。あいつらの気持ちもちょっとはわかる気がするよ。まぁあいつらはキモイがな」
丁度いいタイミングで文字を埋め尽くす。かたんとペンをテーブルに置き、紙をおっさんに渡す。
「ほい、反省文。そろそろなのは達が恋しくなってきたから帰るわ」
「おう帰れ。あともうくんな。仕事がはかどらないから」
「失礼だな。まるで俺が邪魔してるみたいな言い方すんなよ」
「100%お前は邪魔しかしてねえよ」
やれやれと頭をふってバカにする全裸。おっさんの拳を軽くいなしながら、台所で局部にサランラップを巻きつける。
「まてまて!?お前それで帰るつもりか!?」
「ん?なにか問題でも?ちゃんと猥褻物は隠してるぞ?」
「隠しきれてねえよ!?サランラップのせいでより強調されてるじゃねえか!?」
「勃起するとすんげぇ痛いんだよな、これ」
股をさすりながら痛みを訴えるサランラップ。
「たまにお前は世界意思すら超越した存在だと錯覚するときがある」
「照れるからやめろよ」
「褒めてねえよ」
ズボンとシャツを渡すおっさん。サランラップはそれを受け取り着替える。
「あ、ちょっとサランラップを外すときの快感がたまらん……」
あえぐ全裸をスルーしてそれぞれは帰り支度を始める。ヴィータは寝ているリィンを自分のポケットにいれて、シャマルは携帯ではやてに連絡をいれる。
おっさんは書類仕事に戻り、ひょっとこは全裸からランクアップ。
「さーてそれじゃ帰るか。おっさん暇つぶしになったぜ、サンキュー」
「もうくんなよ。今度きたら殺すからな」
「ロヴィータちゃんもまたね!」
「さわんなハゲ」
抱きつこうとするひょっとこにヴィータは拳を叩き込む。鼻血を出しながらもひょっとこはリィンを抱きしめようとするが、リィンは血が流れている鼻に掌底を叩き込む。涙を流しながらシャマルに抱きつくひょっとこ。シャマルは苦笑いをしながらも頭を優しく撫でる。
「ロリ怖いよぉ……ふぇぇ……」
鼻血をティッシュでガードするひょっとこに、ロリ二人組は飽きれた視線を送った。
☆
自宅から香ばしいにおいがする。鼻腔を甘い香りが満たす。
その匂いに釣られるように玄関の扉をあけると、魔法少女のコスチュームに身を包んだヴィヴィオと、恥ずかしそうにスカートの裾を抑えるフェイトの姿。ヴィヴィオはすぐにこちらに気づいたようで、満面の笑みを浮かべてこちらに走ってきた。
「パパだ!パパおかえりー!」
「ただいまー。ヴィヴィオいたい、ステッキがパパの顔面にめり込んでる」
「えへへー」
ステッキは振り回すのじゃないぞ。そう言いたい俊だったが、ヴィヴィオの楽しそうな笑顔をみているとそう咎める気力も失せてしまった。
それよりも、気になっていたフェイトに視線を向ける。
ツインテールにサイズがあってなさそうなパッツンパッツンのきわどいコスチュームをしているフェイト。フェイトはさきほどから固まったように動かないでいる。
「なぁフェイト──」
「ち、ちがうのこれは!えっと、えっと、ヴィヴィオとおままごとしていたらいつの間にかこんなコスプレをすることに──」
「ムチムチしててすごくエロイ」
「いやぁああああああああああッ!!」
顔を覆いながら逃げるように二階に駆け上がるフェイト。すごく可愛かったのに……そうショックをうける。
「あ、俊くんだ。おかえりー。パンあるよ?食べる?」
「おう食べる食べる。というかなのは、何故迎えにきてくれなかった」
「だってパン作ってたし」
「俺とパンのどっちが大切なの?」
「あの一瞬はパンだったね」
パンに完全敗北した俊であった。
なのはは自分が食べていたココアパンをちぎり俊の口元に運ぶ。もぐもぐとハムスターのようにそれを食べる俊。
「うまい」
「でしょ?ヴィヴィオとフェイトちゃんと一緒に作ったんだー」
ヴィヴィオを抱っこしながらなのはとリビングに向かう俊。なのはのパン作りを話を聞きながら、自分も参加したかったと嘆く。
「女の子だけの女子会だったからね。俊くんは参加不可能だよ。俊くんのほうは何してたの?」
「おっさんと遊んできた。あとロヴィータちゃんを追いかけたりして遊んだ」
「また謝りの電話をかけなきゃダメなんだね……」
思わずため息がこぼれてきたなのはであった。