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28.背中で語れ



『現実は小説よりもいつだって刺激的だ』

 ミッド市内の大きな一軒家の外でたったいま19歳男性の人としての尊厳が失われつつあった。

「やばいってやばいって! もうすぐそこまできてるぞ、尿意っ!? ヴィヴィオが間に合わなかったならまだわかるが、俺が間に合わないって洒落になんねえぞっ!?」

 足を気持ち悪いほどにくねらせながらひょっとこは叫ぶ

「だれかーーー! 誰か返事してくれーーーー!」

 10秒たってから小さい足音が聞こえたかと思うと、玄関から俺が徹夜で作った不思議の国のア○ス風衣装を身に纏ったヴィヴィオがチュッパチャップスを口にくわえたままでてきた。

「う〜? どしたの、おにいさん?」

「おぉヴィヴィオ! とりあえずチュッパチャップス食いながら走るなよ、危ないからな。 まぁ、それはおいといて──いますぐウーノさん呼んできてくれ!」

 この手錠を解除できるとしたら、それはもうウーノさんくらいしか残ってない。 ヴィヴィオがなのはやフェイト並みに強ければ話は別だがそんなことありえないわけで、必然的にウーノさんになるわけで……でも俺は信じてる。 ウーノさんは良心の塊だ。 きっと俺を助けてくれるに違いない!

「あ、すいませんひょっとこさん。 ドクターから電話がありまして……なんでも『過去に戻るマシン作り続けるのも嫌だからメダ○ット作ろうと思うんだ。 ちょっと手伝ってくれないかね?』とのことなんで、すいませんがここらへんで失礼します。 引き続き、ヴィヴィオのことをよろしくお願いしますね」

「まって良心の塊さん!? 俺のメタビーもメダフォース発射寸前なんですけどっ! というか、暴発寸前なんですけど!」

 冗談じゃないっ! いまこの機会を逃したら、大変なことになるぞ。 メダフォースでここらいったいアンモニアでマカダミアなことになるぞっ!

「すいません……がんばってください!」

「まってええええええええええええ!」

 俺の叫びもむなしく、ウーノさんは帰って行った。 あとに残るは隣で座りながら行儀よくチュッパチャップス(プリン味)を舐めているヴィヴィオと、制御棒の制御をしている俺だけである。 とうとう俺はヴィヴィオの前で人としての尊厳とかなんとかを失うらしい。

「……いや、まてよ? ヴィヴィオにピッキング道具を持ってきてもらえば、まだ勝機はあるかもしれない。 ヴィヴィオ! 俺の部屋からピッキングの道具を取ってきてくれ! あ、ついでにそのチュッパチャプスは置いてけ! 転んだら大変なことになるからな!」

「うん、わかった!」

 ヴィヴィオは立ち上がりながら、俺の口にチャッパチャプスをねじ込む。 いや、そこに置かなくてもいいと思うけどさ。

 ヴィヴィオなりのダッシュで玄関に戻る途中──

 ガッ!

 案の定というか、お約束というか、ヴィヴィオは進路上にあった石に躓いてこけてしまった。

「な、泣くなヴィヴィオっ!? お前は強い子だ! こんなことで泣いちゃダメだ! ……でもいたいの? んじゃ、もう泣いちゃえ! おにいさんも一分後には漏らして泣いてると思うから!」

 だんだん思考がマヒしてくる。 もうなにもかもがどうでもよくなり……背徳感とある種の興奮で頭の中がぐるぐると、世界がぐるぐると回っているような錯覚に陥る。

 すべてをぶちまけて楽になろう──そう思ったとき、呆れと怒りがミックスされた女性の声が耳に届いた。

「なに……してるのかな、このバカは?」

「ヴィヴィオ。 泣いちゃダメ。 傷もそんなに痛いほどじゃないんだから、大丈夫だよ」

 一人は俺の目の前で腕を組みながら仁王立ちで立っている高町なのは。 そしてもう一人は泣いてるヴィヴィオを抱き上げてあやしているフェイト・T・ハラオウンである。

 勝利の女神はいまだほほ笑んでいた。

 絶望的な状況にもかかわらず、自然に息子の波状攻撃を止めることに成功する。 このメダフォース、放つ場所はここではないのだ……!

「助けてくれなのは!? もうすごくまずい状況なんだっ! 俺のメタビーからメダフォースが発射されようとしている寸前なんだよ! お前も嫌だよな、幼馴染が漏らしたところをみるなんて!?」

 それまでジト目で“なにしてんだ、このバカ”みたいな眼差しでみていたなのはが『漏らす』という単語を聞いて合点がいった様子で俺のことをみてきた。 どうでもいいので早く助けてください!

「べつに〜? わたしは小さい頃、誰かさんに見られたしね〜。 あの時はと〜〜〜〜〜っても、恥ずかしかったけど。 ……誰かさんは笑ってたよね〜〜〜?」

 あ、勝利の女神が俺に中指立ててる。

「だ、誰だ!? 俺の可愛いなのはを笑うなんて!」

「いや、勝手に恋人みたいな感じにするのやめてくれる? まあ、それはそれとして……あのときはわたしも誰かさんも5歳だったよね。 でもいまは19歳。 この差はかなり大きいとおもうんだよな〜」

 なのはは俺の周辺をくるくると回りながら、ドSじみた顔で俺のほうをみる。 こいつ……絶対楽しんでやがるなっ……!

「く……! なにが望みなんだ!? 謝罪か!? それなら既にしたはずだろ!?」

「え〜? べつにわたしは、“君”とは一言もいってないんだけどな〜。 まぁ、勝手に謝罪したければどうぞ? それでね、わたしちょっとだけ今日は失敗しちゃったの」

「失敗なんて誰にでもあるさっ! 俺なんて人生が失敗続きだからな!」

「うんうん、やっぱり失敗は誰にでもあるよね? それじゃ、ほんの些細な失敗なんだけど……それで被害が被ったとしても怒らないよね?」

「うんうん! 絶対に怒らないから! 俺がなのはを怒るわけないだろっ!? だから、早く手錠を解除してください!」

「……ほんとうに怒らない?」

「本当に怒らないってば!」

「それじゃ──」

 なのはは指を一つ鳴らす。 すると、手錠は簡単にその役目を終えたかのように軽く爆発して消えてしまった。 ちょっとだけ、なのはがカッコイイと思った。

 なにはともあれ、手錠を解除してもらった俺はトイレに向かって全力ダッシュ。 無事にメダフォースを発射し、身も心も爽やかになってなのはたちがいるリビングへと向かうのであった。



           ☆



「桃子さんと……リンディさんに……バレた……だとっ!?」

「うん。 おかあさん凄かったんだよ。 すぐになのはから情報聞きだしたの」

「うちだって負けないよっ! なのはより数分くらい早く聞き出したんだから!」

「いや、おかあさんのほうが──」

「落ち着け二人とも! いまは俺の命のほうが優先だろ!?」

「「別段どうでもいいかな」」

 なんというコンビネーション。 鮮やかすぎて涙が出てくるぜ。

「まぁ、ぶっちゃけ桃子さんのほうはきっちり話をすればわかってくれるはずなんだ。 問題は……リンディさんだよ」

「そういえばリンディさんにはかなり嫌われてるよね」

「16歳のとき、俺とリンディさんの仲をどうにかしようと考えて、クロノが色々と頑張ってくれたんだけどな……俺がリンディさんの顔面にお茶をかけてしまって最悪の関係になってしまった」

「あの後大変だったんだよ? 反省してるの?」

「うん。 まさかあんなところにコードがあるとは思わなかったよ。 家中掃除したのに……」

 嫌な思い出でも蘇ってきたのか、苦虫を10ほど噛んだような顔をするひょっとこ。

「それより、どうするの? このままじゃ死んじゃうよ?」

「う〜む……ここまでくると、いっそのこと諦めの境地に達してきた。 もうでたとこ勝負でいいや。 いまはそれよりも重大なことがあるんだから」

「「重大なこと?」」

「うん。 俺さ、まともな大人になってみようと思うんだ」

 真剣なまなざしで、なのはとフェイトをみる。 二人はそんな俺の様子をみて──

「フェイトちゃん。 頭の病院の電話番号ってわかる?」

「ちょっとまって。 いますぐ調べるから」

 とても失礼な行動をとりはじめた。

「いやいやいや、ちょっとまてよ。 なに? そんなに俺の発言っておかしいの?」

「おかしいどころじゃないよ。 もしかして別人?」

 タウンページを取りにいったフェイトを見送ってから、なのはが俺に懐疑な視線を向けてきた。 大変遺憾におもいます。

「いや、俺だってな、ちゃんと考えたんだよ? ヴィヴィオのために良い大人になろうってさ。 それでこうやって答えを出したわけよ」

 そりゃあ、俺は犯罪者ですよ? キチガイですよ? まったく良い大人とか良い犯罪者とかなれるかどうかわからないけど、それでも俺なりに考えたわけで。

 ……あれ? よく考えてみれば、俺みたいな奴が良い大人とか無理じゃね?

「あのねぇ……良い大人になろうと思ってなれるんだったら苦労しないよ。 そもそもだよ? 君は息を吸うように迷惑行為をしてくる人物でしょ? それが良い大人になんてなれるわけないじゃん」

「……それは一理あるかも」

 いや、一理どころじゃなく百理はあるかもしれん。

 そもそも、よくよく考えてみれば……俺がいま述べた言葉って一般人が述べるような言葉じゃないか?

 俺みたいな奴が述べる言葉じゃないよな?

 俺みたいな奴はもっと……ろくでもないようなことをするよな。

 例えば日常的な覗き、盗撮。 セクハラ発言にパイタッチ。 うん、ざっと考えてみてもこんなところだ。 さてさて、こんなことをしている奴が良い大人を演じる……?

 何度も何度もイメージする。 想像する。

 良い大人を演じてる俺。 仕事をして、ヴィヴィオを養って休日には四人で遊びにいく俺。

 うん。 実に良い大人だ。 “世間一般的な”良い大人だよな。

 ……これって俺的には苦痛じゃないか? セクハラもできない、なのはやフェイトとイチャイチャもできない。 仕事という檻に囲まれて好き勝手にできやしない。 そんなこと、俺に耐えられるか?

 答えはNoだ。 そんなことできないのは、俺が一番わかっている。

 おっさんが言うように俺は犯罪者。 そんな“世間一般的な”ことなんてできない。

 じゃぁ……どうすればいい?

「そもそも、君が良い大人になるなんて天地がひっくり返っても無駄だよ。 できっこないよ」

 そうそう……俺が良い大人なんて天地がひっくり返っても……。 ん? ひっくり返す?

 そのとき、俺の頭の中で一つの考えが浮かんでくる。

 そうだ。 俺は何を勘違いしていたんだ? 俺みたいな奴が良い大人を“演じる”なんて土台無理な話だったんだよ。 俺のような男にはもっとふさわしい役職があるだろ。 もっとふさわしい席があるだろ。

 俺は目の前にいるなのはの肩を思いっきり掴んだ。 なのははそれに驚いているがいまの俺にはそんなこと関係ない!

「なのは! 俺、ヴィヴィオの反面教師になるよ!」

「……へ?」

 そうだ! そうだよ! 俺が良い大人なんてできるわけないだろ!? 俺にふさわしいのは悪い大人だよ! だって俺は息を吸うように迷惑行為を行う人間なんだぜ!? これ以上、ふさわしい奴なんて次元世界中探してもいないぞ!

「良い大人を演じるんじゃない! 悪い大人を演じるんじゃない! いつも通りに行動して、そんな俺のいつも通りをヴィヴィオに見てもらうんだ! なのはは言ったよな? 俺は息を吸うように迷惑行為をする男だって? だったら、それを実際にやればいいんだよ! 良い大人じゃなくて、ミッドで一番の迷惑野郎を思う存分みせつけてやればいいんだよ!」

 これはいわば発想の逆転だ。 成○堂龍一もビックリだよ!

 いい大人なんかになれはしないけど、悪い大人なら演じるまでもない! だって、それが通常時の俺なんだから!

「あーっはっはっはっはっは! あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」

「ど、どうしたの……いきなり笑ったりして……!?」

「これが笑わずにいられるかっ!? 俺は肝心なことを忘れていたんだよ! 俺がヴィヴィオを良い方向に導くっ!? はっ! バカも休み休み言えってもんだろ! 俺の近くには、こんなにも立派な人間がいるんだぜ、それに二人も! 管理局に勤めて、人々の平和を守る、そんな立派で愛嬌のある主人公気質な奴が二人もいるんだ! 俺はなにか勘違いしてたよ! 俺がヴィヴィオを良い方向に導くんじゃない! なのはとフェイトが良い方向に導くんだ! 俺はいつも通りに生活するだけでいい! それだけでヴィヴィオは立派になっていくんだからな!」

 おっさんは言った。

 『子どもは親の背中をみて育つ』と。 それはなにも良いところばかり魅せるのではないのではないか?

 逆に悪いところをみせれば魅せるだけ、子は『こうはなりたくない』そう思って自分とは違う方向を歩むのではないだろうか? 仮にヴィヴィオがそうだとしたのなら……ヴィヴィオは俺の背中をみて『こうはなりたくない』と思い、自然になのはとフェイトの道を歩んでいく。

 俺が惚れた人達の方向へまっすぐに歩いていく。

 何も心配なんてしない。 だって、その両側にはなのはとフェイトがいるんだから。

「主人公なんてやめだやめだ!! そんなちっちゃえ器に俺が収まるわけないだろ! 俺は誰の息子だ!? あの世界中を爆笑の渦に巻き込む、|上矢《かみや》 |一《はじめ》の息子だろ!? ろくでもねえ男の息子だろ!? このろくでなさはDNAにまで染みついて離れねえだ! だったら、俺だってろくでなく生きようじゃなねえか、ヴィヴィオに見せつけようじゃねえか! 下種を見せつけようじゃねえか! 俺がちょっとだけ真面目になればシリアスになるんだからよ!」

 俺の中で何かが吹っ切れる。 葛藤とか、責任とかそんなすべてものが泡と消える。

 俺はただただ笑い転げる。

 なのはがオロオロするのを尻目に笑い転げる。

 何事かとフェイトとヴィヴィオが来るのを見ながら笑い転げる。

 そして一緒になってヴィヴィオも笑い転げる。

 ──これは 俺こと、ひょっとこが 悲劇 深刻劇 哀話 悲話 悲運 不幸 などなどを無かったことにしてお送りする 非日常が日常的な 喜劇 気楽 喜話 幸運 幸福 な物語である。




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