30.おそばつくるよ!



 三人にわかりやすく矛盾のお話しをしたら、二人からは微妙な顔をされ一人からは異議を申立てられる始末。 いったいどうなってるんだろうね。

 それはそれとして、いまは16:00。 夕方とも呼べずお昼ともいえない時間帯なのだが、俺たちは四人なかよくTVをみていた。 内容はグルメ旅番組でミッドのおいしい料理屋を紹介しているみたいだ。

『このお店のおそばはミッドで一番おいしいと断言できるでしょう! それに作る主人も20代後半の天才イケメン主人! これはお客様が絶えることがないのも頷けます!』

 画面内では化粧気の強いリポーターが主人と蕎麦を交互にみながら何やら興奮している最中である。

「な〜にがミッドで一番だ。 蕎麦庵のおやっさんの蕎麦のほうが美味いに決まってんだろ」

「あそこはおいしいよね。 あそこのえび天大好き!」

「私はかきあげとか好きかな。 キャロとエリオにも食べさせたいんだけどな〜……」

 蕎麦庵とは俺たち三人が見つけた、蕎麦専門のお食事処だ。 蕎麦一筋30年のおやっさんが一から作る蕎麦は普段料理を作る俺でも惚れるほどの腕前で、何度か店にお邪魔して習いに行ったほどだ。

「そういえば、あそこの主人って私達と同じ日本出身なんだよね? なんかいまでも疑問に思っちゃうよ。 地球には魔法技術とかないのに……よくミッドに来れたよね」

「さあな〜。 俺たちだって全部知ってるわけじゃないからな。 俺たちが知らないだけで、おやっさんめちゃくちゃ凄い人かもしれないぞ?」

「う〜ん……もしかしたらなのは達の先輩なのかもしれないね」

 まぁ、おやっさんのことだからそれはないかもしれないけど。

 正座してるフェイトの膝の上に座っていたヴィヴィオが、俺の足をトントンと叩いてくる。 いちいち仕草が可愛い子だ。

「ヴィヴィオ、おそばたべたい!」

「え? このイケメン主人の蕎麦? 俺が気に入らないから此処には絶対いかないけど」

「ち〜が〜う〜!」

「単純にお蕎麦食べたいんじゃないかな? ヴィヴィオお蕎麦食べたことないだろうし」

 ヴィヴィオの頭を撫でながらフェイトが喋る。

 あぁ、なるほどね。 そういうことか。

「でも、蕎麦庵って定休日じゃなかった?」

「ふぇ……」

「あぁ! だ、大丈夫だよヴィヴィオ! なのはママがなんとかするから!」

 なのはが告げた残酷な答えにヴィヴィオは泣きそうになる。 それに慌てたなのははできもしない約束をすることに。 おいおい……定休日だっていっただろうが。

「あとはこの人がなんとかしてくれるから!」

「投げやりにもほどがあるだろっ!? 数秒前の約束どうしたっ!?」

「うぅ……やっぱ、ダメ?」

 ぐはっ!? 上目使いのなのはに思わず吐血する。 やはりというかなんというか、可愛い子がこういった仕草をすると効果抜群で死んでもいいとさえ思えてしまう。 それが惚れた相手ならなおさらだ。 なのはの場合、狙ってやってないから余計に刺激が……。 ちなみに狙ってやってるのがはやてだ。 あいつは自分が可愛いのをわかってやってるからタチが悪い。

「まぁ、おやっさんに電話して材料だけわけてもらえば、あとは家で作れるだろ。 簡単なものしかできないし、おやっさんの足元にも及ばない出来にはなるけどさ」

「うんうん! それでもいいよ! ね、ヴィヴィオ!」

「うん!」

 なのはとヴィヴィオが二人してはしゃぐ。 それをフェイトと見ながら、肩をすくめたあと携帯でおやっさんの番号にコールした。



           ☆



「いや、ほんとすんません。 定休日なのにお邪魔しちゃって」

「まったくだよ、バカ男が。 こちとら新しい蕎麦を作るのに忙しいんだぞ。 ほら、何人分だ?」

「え〜っと」

「いまなら20人特価で安くできるが?」

「……足元みやがって。 おいくら?」

 おやっさんは手をパーの形にして前に出す。 しかたなく持ってきた金額を手のひらに置くことに。

「足りないぞ」

「出世払い」

「お前、死んでも職につかないだろうが」

 足りない金額はおっさんに請求させることにした。

 蕎麦庵から大通りに移った俺は、大量の荷物を眺めながらどうしようかと頭をひねった。

「それにしても、20人分は重いぞ。 流石の俺でも持てない……」

 魔法でも使えれば楽なんだろうけど……いかんせん魔法を使えない身なので頼ることはできない。

 俺が材料をみながら、どうしようかと悩んでいると奇跡的かつ偶然的に警官ルックスのおっさんが、見回りしながら歩いていた。 おっさん、家に請求書くるけど頑張って! しかしこれは素直に嬉しい。 おっさんの超人的パワーなら20人分くらい軽くもてるはず……!

「あ〜! こんなところでミッドの一市民が困ってるぞ〜!?」

 おっさん、こちらを振り向き俺の姿を確認して見回りに戻る。

「うわ〜! 20人分の蕎麦の材料を抱え家に帰るなんて無理だよー! だれか助けてくれないかなー?」

 おっさん、シカトしてタバコに火を点ける。

「こんな|幼気《いたいけ》で可愛い男が困ってるんだけどな〜? 誰か助けてくれないかなー?」

 おっさん、笑いながらこちらを指さす。

 プチンッ──

「学校で制服プレイが大好きな局員とっととこいやボケ!」

「まったく、都合のいいときだけ市民を名乗りおって」

「これぞほんとのご都合主義というやつさ」

「黙れ、ゴミ」

 瞬歩できたとしか思えないが、俺が言葉を放った瞬間にはおっさんが傍にいて、やれやれ……と頭を抱えていた。 ところでさ、いまためらいなく俺のことゴミっていったよな?

「それで、どうしたんだ。 かなりの大荷物じゃないか」

「うちの姫が蕎麦をご所望だからさ、たったいま材料買ってきたんだよ」

「それにしても多くないか? かなりの量あるぞ?」

「ついに子どもができたんだ。 可愛い子どもたちが」

「逮捕する」

「いやああああああ! おっさんが俺の胸を愛撫してるうううううう!」

「どう考えても手を握ってるだろ!?」

 いや、それも聞きようによってはイケナイ場面になっちゃうんだけどな。

 ──閑話休題──

「んじゃ、運んでくれ。 俺はポケットに手を突っ込んで家まで歩くから」

「お前ももたんか、バカもん。 まったく……やはりお前は変わらんかったな」

「やっぱ俺には、これが合ってるからさ。 良い大人はなのはとフェイトに任せることにしたんだ」

「お前が良い大人になってくれればミッドも平和になったんだがな」

「とか言っちゃって、本当はおっさんには分かってたんだろ?」

 俺がこの答えを出すことが。

 おっさんは何も言わず、肩をすくめるだけにとどめた。

「まぁ、それはそれとして。 おっさんも食ってかね? 20人分もあるからさ、人呼ばないと食べきらないんだよ」

 俺となのはとフェイトとヴィヴィオ。 ヴィヴィオが一人分食べれるとは思えないしな〜……。 あ、スカさんとかはやてとか呼ぼうかな。 嬢ちゃんとスバルも、なのはを通して呼んでみよう。 フェイトもエリオとキャロに食べさせたいとかいってたし。 腕は違うけど、材料は一緒だからなんとかなるだろう。

 ここまで考えて、おっさんには家族があることを思い出す。 帰ったら奥さんと娘さんとイチャイチャしながら夕食食べるんだから、俺が誘っちゃダメじゃん。 いまの誘いなしの方向にもっていかないと。

「あー、悪い。 おっさん家族で夕ご飯食べるよな。 やっぱいまの誘い──」

「なぁ、ひょっとこ。 嫁さんと娘が俺を置いて旅行に行ったんだけどよ……。 どっかに独りで食べなくて済むところ知らないか……?」

「──いまの誘い、ありの方向で」

 おっさんがどんどん惨めになっている気がしないでもない。




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